浮世女房洒落日記 (中公文庫 き 37-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 176
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122055605

作品紹介・あらすじ

お江戸は神田の小間物屋、女房・お葛は二十七。お気楽亭主に愛想つかし、家計はいつも火の車。それでも風物たのしんで、美顔の探求余念なし。ひとの恋路にゃやきもきし、今日も泣いたり笑ったり。あっけらかんと可笑しくて、しみじみ愛しい、市井の女房が本音でつづる日々の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 木内昇さんの文章に気づくとぐっと引き込まれている。
    とても好みで続いて何作かを読む。
    本作は長屋の普通の商売人の女房お葛からみた市井の人々の日常が日記として綴られる。
    面白かった~! 思わず声にして笑ってしまう箇所も沢山。これだから本は止められない。

    江戸時代の街の人々の暮らしぶりが1年を通じて描かれ、そこには人々それぞれの思いや願い、そしてそれらが叶わぬ現実との折り合いのなかで時が過ぎていく。

    描かれる季節の変化も自然のみならず、そこに住まう人々の有り様や関わりにも移ろいと儚さが同居することが重ねられる。

    科学技術が今とは異なる遥か彼方の時代の人びとが何を考え、どう行動し、それをいかように消化して日々を重ねたのかがとても興味深い。

    当時の習慣等については細やかな説明が注釈として添えられているので一層興味が湧く。

    木内さんの文章は登場人物たちと書き手の距離が近すぎず離れすぎず、読み手に対しても「こう読まれたい。こう感じてほしい」という意図を感じずに物語が展開するのでとても心地よい。

    印象的だった文章の抜粋:
    P.261より
    この世に桃源郷はない。反対に真の苦界もない。楽しく生きるも不満に溺れるもその人次第。だから、他へ行きゃあなんかいいことあるかもしれないなんて言わないで今、目の前の暮らしをいかに楽しくするかって工夫をしたがずぅっと利口だ…ってことは重々わかっているのに、喧嘩したり、喚いたり、泣いたり、笑ったりの代わり映えしない毎日だ。おかしなもんだ、生きるってのは。でもさ、変わり映えしないことこそ、ほんとは一番すごいことなんじゃないの、一番強いことなんじゃあないの、って最近つくづく思うんだよ。
    ちょっと待ってよ、何書いてるんだろう。さっき宴会が終わって、帰ってきてから日記をつけてるもんだから、酔いが回ってます、お蔭でよくわからなくなってきた。そろそろお開き。私は寝ます。

    以上。
    「私は寝ます」がたまらなく良いなあ。
    世の中、分かりやすさを追い求め過ぎだよねえ。

  • 奇妙なもの音に目を覚ました場面から始まり、見慣れない箱が屋根裏に出現…という始まりだったから、何かオカルト的なオチがつくのかと思っていたら、
    『男もすなる日記というものを…』的な、前置きというか、設定の紹介だったようだ。

    時代設定は、文化文政から天保のあたり。
    一文は約25円に換算。
    どの年かは分からないけれど、一月一日から大晦日までの一年間を綴った、江戸時代の自営業(小間物屋)の主婦の日記形式になっている。

    木内さんの作品で、今まで自分が読んだものは、少し重いというか、渋いというか、ピカピカに仕上がったものにさっとひとはけ柿渋を塗って汚し塗装をしたような…そういう雰囲気の物が多かった。

    けれど、この「日記」は、ひじょうに軽妙洒脱。
    現代のよその主婦のブログを、特に大事件が書かれていなくても、「何を食べた」とか「子供が熱を出した」「スイーツ食べ過ぎて体重計が怖い」「ダンナがどうしょうも無い」というような日常を読むだけで面白い…
    そういう感じの本なのだ。

    そういう日常を、江戸っ子のポンポン威勢のいい話言葉さながらに、会話のやり取りも生き生きとつづっている。

    とても面白い。

    「わ~、江戸時代の主婦も、今といっしょだな~」
    などとつい思ってしまって、いや、これ本当は現代の作家が書いてるんだから、と現実に戻る。

    丁寧な脚注付きで、江戸の暮らしの年中行事や一年間が良くわかる。

  • 季節の移り変わりとともに生きていた江戸の風俗を知ることができて面白い。
    創作の日記だ(ろう)ってわかってはいるけど、江戸の暮らしいいなって思ってしまう。落語の世界に迷い込んだみたい。

  • 江戸時代の庶民の暮らしの様子が面白かった。
    自分の息子の勉強の出来が悪いから、将来医者になるしかない、とか、鮪が下等の魚で犬の餌か肥やし、人の食べ物じゃない、等々、現代のは真逆の価値観にビックリ!!
    でも、女性が美しくなりたいという願望は、昔も今も変わらないのよねぇ。

  • 江戸時代の小間物屋の奥さんの日記。
    登場人物が、個性豊かで楽しい。
    ほのぼのとしつつ、江戸時代の庶民の生活が知れて、充実の一冊。
    トラブルメーカーの旦那さんが最高。
    息子のやんちゃっぷりもいい笑

  • 神田の小間物屋のちゃきちゃきした女房・お葛さんの日記の体で、歳時記を読んでいるよう。
    解説で堀江敏幸さんが書いていらっしゃるように、お江戸八百八町で庶民が季節ごとに楽しみにしていた行事や風物が、それこそ、使うべき言葉をあらかじめリストアップして消しこみながら物語を綴ったように、満遍なく出てくる。(充実の註釈が、簡潔的確でいい!)それをこの物語のお決まりごととして楽しみつつ、いきいきとして
    魅力的な登場人物と共に暮らしている気になって、ちょっと元気になりました。
    そして、導入の、筆者が住んでいる古い洋館での出来ごと(あやかし…)がとても好き。

  • 江戸は神田で小さな小間物屋を営む女房が書いた一年の日記という体裁をとった小説です。
    本屋でちょっと立ち読みした時は、買おうか買うまいか一瞬悩んだのです。本当に日記と言った感じで、さしたる事も起き無さそうだし、名手・木内さんとは言え面白いのだろうかと。
    全くの杞憂でした。
    蓄えも無く将来に若干の不安あっても、江戸時代の庶民が一日一日をそれなりに楽しく過ごす様子が見事に描かれていて、全く飽きさせません。時代考証的に正しいのか私には判りませんが、本当に見て来た様に生き生きとしています。男性陣は落語のようだし、女性たちはしっかりしたたかで楽しい。
    いやぁ、上手いですね。

  • ものすごーーーくおもしろかった! すばらしい! 大好きだ。
    江戸時代の小間物屋さんの奥さんが書いた日記。
    まるで現代のブログみたい。日々の仕事と暮らし、子どものこと、お出かけ、おいしいもの、季節の行事、ご近所さんとのおしゃべり、そして夫とのけんかや愚痴。口調もブログ日記みたいで読みやすくて。おもしろくて楽しくて笑えて、そしてものすごく深い。
    平凡な日常を大事にして楽しく暮らそう、とかしみじみ思う。
    ああ、いつまでも読んでいたかった。続編とか出ないかなあ。
    それと、関西弁っていいなと思ってたけど、江戸弁もいいなあーと思った。

    • Pipo@ひねもす縁側さん
      木内さんの作品、まだ未読なんです。直木賞作品の『漂砂のうたう』が面白いと聞いていて、そのまま。niwatokoさんの感想で、あらためて読んで...
      木内さんの作品、まだ未読なんです。直木賞作品の『漂砂のうたう』が面白いと聞いていて、そのまま。niwatokoさんの感想で、あらためて読んでみたくなりました。表紙も可愛いし、こちらからにしようかな。

      私は関西弁ネイティブですが、江戸弁の歯切れのよさは大好きです。
      2011/12/18
    • niwatokoさん
      わたしも木内さんはこの作品をはじめて読みました。ほかの作品はけっこう難しそう?と思っているんですが、これは軽妙で楽しくて読みやすいです。江戸...
      わたしも木内さんはこの作品をはじめて読みました。ほかの作品はけっこう難しそう?と思っているんですが、これは軽妙で楽しくて読みやすいです。江戸弁って現代モノではあまりない気がしますが、この作品ではじめて、いいなあーと思いました。関西弁もそうですが、リズムがよくて。まねできないけどしたくなります。
      2011/12/19
  • 江戸時代(中期?)の小間物屋の女房が綴った日記という
    設定なのですが、登場人物の感覚や生活感がリアルで、
    最近書かれたブログを読んでいるような気持ちになりました。
    「もし200年前にブログがあったら」という感じです。

    ここに描かれている生活は、世間といえばほぼ町内、とりあえず
    暮らせるだけのお金、少ない家財……なのに、楽しげで豊かに
    暮らしていて、生活はその人の心がけなのだということを
    改めて思いました。

    一月から師走までの江戸の市井の生活描写は楽しく、登場人物も
    キャラが立っていて落語のような楽しい、読んで元気がでる本です。

  • 面白くて面白くてケタケタ笑いながら読んでしまった。正月から師走まで1年通して書かれた日記。作者は江戸で小間物屋をしているお葛さん。その亭主がとにかく笑える馬鹿。仕事に精を出さず、見栄っ張り、喧嘩っ早く、子供より子供。亭主の馬鹿っぷりに日記でツッコミをいれるお葛さん。言い回しや的確な指摘が最高に洒落ている。ツッコミながらも季節の行事や当時の風習が丁寧に書かれていて、まるで江戸にいるような気分を味わえる。亭主以外の登場人物も一筋縄じゃいかない人ばかり。だものツッコミも磨かれるわけだ。愉快で気分がいい1冊です!

    積ん読たくさんあるにもかかわらず、ちょっと寄り道。すっこーんとそしてからりと乾いた気持ちいい読後を求めて再読。お葛と旦那とその周りの人々とやっぱ好きだな。お葛さんが旦那にあきれつつもなんだかんだ日記で話題にしているってことは、お葛さんが思う程枯れてないと思うよ笑。旦那が湯屋で喧嘩して、お葛さん一度は怒髪天になるも、でもその原因に筋が通っていると分かった時の褒め言葉「えらいぞ、旦那。日頃の短慮が実を結んだね」こんなこと、普通言えない。お葛さん、嫌かもしれないが似た者夫婦だよ。たった1年の日記じゃ物足りない!

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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