- Amazon.co.jp ・本 (636ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122054264
作品紹介・あらすじ
あの幸福な一家に何が起きたのか。『すばらしい新世界』の物語から数年後、恋人をつくった夫を置いて、幼い娘を連れた妻はヨーロッパへ渡り、共同生活を送りながら人生を模索する。かつて父をヒマラヤまで迎えに行った息子は、寮生活をしながら両親を想う。離れて暮らす家族がたどりつく場所は-。現代に生きる困難と、その果てにきざす光を描く長編小説。
感想・レビュー・書評
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前作からの森介の成長。明日子との恋。
なんだか、自分を省みるような、自分の子どもの成長を疑似体験したような、不思議な気持ち。
巻末の角田光代さんの解説がぴったり。私も一番、豪雪の停電のパートが印象に残った。
ちょうどそのあたりを読んでいる時に、トンガの海底火山噴火の影響で、津波警報が日本中を覆った。
久しぶりの緊張。津波と、豪雪と停電。
東日本大地震のころ、大雪の山形の自動車教習所にいて、丸一日ぐらい停電だったことを思い出した。寒さを凌ぐのは毛布にくるまるしかない。ろうそくの火の中で黙々と食べた教習の特典の米沢牛か何かのブランド牛(学生を釣るためのブランド牛だった)。自動ドアが、自動で開かない切なさ。翻って、電気が通った時の、自動ドアが自動で開くことの新鮮さと喜び。
この物語のどうこうはあまりなくて、池澤夏樹の本を読むと、作中のアユミがそうだったように、自分の中の色んな記憶が喚起される。と同時に、池澤の本を通じて、「こんなあり方や世界や考え方があるよ」と、知らない世界を旅しているような気持ちになる。コロナの世の中の気軽だけど貴重な移動手段。
そういう世界や考え方に触れた上で、時差もなく引き戻った現実で、私は今後の生き方や身の振り方に大いに迷う。途方に暮れる。
そしていつのまにか眠りこけ、何も変わらない明日がまた始まる。
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小説の枠組みがやっぱり前作と似ているような…。レイキとか性的快感を超えたスピリュアルな(表現が妥当ではないかもだけれど)セックスとか、やっぱりついていけないな…。
なんだかんだいって読むけれど、池澤さんは初期の作品が好きです。 -
ちょうどこの本を読む前に、白石一文の「この胸に深く突き刺さった矢を抜け」を読んでおり、それと比べてみて、この本の「小説らしい良さ」を感じた。この本の主人公である家族の冒険を描いたらしい一作目は読んでいないのだが、その知識がなくてもずいぶん面白く読めた。
強い絆で結ばれて信頼関係にあるはずの夫婦でも、こうやってどちらかが嵐に巻き込まれるみたいに恋をしてしまったりすることはあると思う。恋だけじゃない、抗えない力が働いて、どこかに行ってしまう感じは、よくわかる。そういう気持ちをコントロールすることもできるし、できないこともあるということも、たしかにそうだと思う。そういう人物の描き方が素晴らしく、妻であるアユミにも夫である林太郎にも、「そうだよねえ」と思ってしまった。
心の中の深い声を聞かないと、私たちは自分の人生を歩むことができない。軌道修正するときも、じっと、自分自身の深いところにある何かを見つめて、聞きとらないといけない。
アユミが幼少期のトラウマを受け止め方はありきたりなようにも感じたが、これが癒しのパターンとしては一般的であるので、仕方ないのかなと思う。
息子である森介の成長と初恋も美しく描かれていた。
そして、パーマカルチャーについては私も興味があって本を買ったくらいだし、家庭菜園もやっていたので(失敗だらけだったが)、土に触れることで生命を感じる、何かに導かれるような気がするという感覚はよくわかる。ヨーロッパのコミューンも早速ネットで検索してしまった。機会があったらぜひ行きたい。チャクラを開く性技もすごかったが、こういう体験ができることは現実にはまあないと思うので、小説の中で感心したりした。
それにしても、私が生活している欧州では、妻がこんな風に子供を連れて出奔するなど論外で(しかも国外)、夫は子供連れ去りで妻を訴えるレベルの話である。こんな風に妻が子供を連れて姿を消したらEU内でも指名手配だ。しかも、日本からビザなしでオランダ、フランス、スコットランドに滞在するのは違法である(たぶん観光ビザは3ヶ月)。シェンゲン条約内の欧州であれば、パスポートコントロールもなく移動は可能だが、駅とかでは警察にIDを見せろと言われることもある。なので、私だったら子供を連れていきなり国外に行くなんて絶対にしない。
そう言う意味でも、小説世界は純粋に主人公たちの人間としての成長を感じられていいものだなと思った。 -
素晴らしい新世界に続く物語。登場人物たちが非常に魅力的だったのでまたその世界観に浸れて率直に嬉しい。村上春樹であればきっかけとしての恋愛はなく、ある日前触れもなく女房が出て行った、という始まりになるだろうなと思った。前作は人と自然、今作は人と人にフォーカスした内容。扱う題材は微妙に違うがメッセージは似ているかな。ちょうど金、金といった価値観に縛られ気味だった今の時期に読むことができて幸運だった。
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「すばらしい新世界」に続いて二作目の池澤小説。美しい物語。平穏な人生など無いのかもしれないが、主人公家族の約一年間の様々な出来事をそれでも淡々と記し、普遍的な、ポスト資本主義へと繋がる何か…を描き出している。自分自身の人生を考えるにあたり、参考としたい生き方であった。
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小説としての出来は普通かもしれないが、自分にとっては小説というものを超えて様々なことへの示唆に満ちた作品。新たに知ること、もともと自分の中にぼんやりとあったもの、自分の周囲にあったが気がつかなかったもの。今読んだことは偶然か必然か。
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「すばらしい新世界」の続編。幸せだった家族は離散して母娘はヨーロッパで共同生活を、父は会社を辞め新たな人生を模索する。経済活動と農業・パーマカルチャーを通じて人生とは?家族とは?を捉え直す。著者特有の思索溢れる力作。読み応え充分。
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久しぶりに一気に読み終わった。
読みやすさと、登場人物それぞれに共感を覚えた。ヨーロッパ、アジア、日本と文化、国境を越える設定も私のスケール感とリンクする。
パートナーの意味、家族、自分の生きる道との兼ね合い、大事にしたいこと、農業、自然エネルギーの問題など、池澤らしいスケールと地平がよかった。
よい小説だと思う。
でも、光の指、とはなんだったのか、、読み終わってしばらくたっても、今でも考えているが。。 -
浮気を恋と言い換えても、実態は変わらない。理想の夫婦がこれにどう対応するのかが読みどころ。