失われた手仕事の思想 (中公文庫 し 41-1)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122050112

感想・レビュー・書評

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  • 手仕事に生きる職人たちを筆者が一人一人訪ね歩き、話を聞き書きしたものを纏めた文庫版です。僕は偶然本書を手にすることが出来ましたが、新しいものと古いものの間で揺れ動き続けるものを記録した貴重な一冊です。

    僕がこの本を読むきっかけとなったのはとある施設に用事があって、暇をもてあましていたときにそこに所蔵してあるライブラリーの中の一冊であったからでございます。ここに記されているのは野鍛冶、萱葺き、箕作り…といった連綿と続く手仕事の世界に生きる職人たちを筆者が訪ね歩き、彼等の話を聞き、まとめ、自らの考察を加えたものを文庫した一冊です。

    こういうことを言うのは自分でも口幅ったいことですが、職人のなりそこないで、ここに登場する彼等のようなきびしい職業観を持ち合わせていない男がこの文章を書くことは非常に躊躇を心のどこかで感じているわけですが、登場する職人たちの言葉は、非常に含蓄に富んだもので、そういうことを感じ取れるだけでも、自分が過ごした人生に無駄な箇所はないのかなと、自分で自分を慰めているのが現状でございます。

    竹細工を作る職人や、炭を焼く炭焼き、山から切り出された木を板にする木挽。彼等に脈々と伝わってきた「わざ」と「こころ」が現在の大量生産、大量消費の風潮によって、もはや風前の灯であると筆者は後半で説いております。職人の持つ技術はそれを使う消費者や、諸君が精魂こめて作った商品をを買い上げ、流通させる商人たちの厳しい『目』があったからこそであるという記述を読んで、あまりそういったものを求めていない自分に気づかされて、とても複雑なものを感じました。

    そして、厳しい徒弟制度をとおして培われる職業観や、仲間内での仁義や礼儀作法を通じて「人が育つ」という文化にも触れられており、こういうこともなくなりつつある、という記述もあり、これで育った人間は文字通り『一人前』になるのでしょうが、なかなかついていくのは大変であると、個人的には思っております。ここに記されているものは『失われていく』技術や人間たちへの『惜別の辞』であり、『挽歌』のようなものであると、読み終えた後にそういうことを感じ入った次第でありました。

  • 従弟制度とはなんだったのか、昔の師弟関係のこと、考え方、今の師弟関係のあり方、なぜ職人がそのような師弟関係を築いて仕事をしていたのか、どのような生活でどのような教わり方をしていたのか、なぜ職人はいなくなっていったのか、生き方、考え方、などなど
    後半の章が面白かった。
    社会が変わり、買い手の考え方も変わったから、作り手も存在できなくなってしまう。

    親方は先生ではない。教えるプロではない。
    ただ、現場を与え、仕事をする姿を見せる。
    職人としての生き方を見せる。
    教わる側次第で一人前にもなれるし、やめることもできる。やる気がない人を鼓舞する必要なんてない。学校の先生じゃないから。

    なんとなく詳しく知らない状態で、職人ってかっこいいよね、とか思っていたくらいのレベルの知識で読んだ本だったから、
    職人たちの考え方や在り方、どんな存在なのかを知ることができた。

  • 2017.4.22市立図書館
    日本各地の手仕事をなりわいとするひとを訪ね歩き、その仕事ぶりを聞き取っている。20世紀になるとっくの昔に失われた手仕事も少なくはないと思うが、工業化や海外製品などの影響から20世紀最後の30年ほどで消え行く手仕事のなんと多いことか。動植物も、言語も、みんなおなじだけれど、手仕事の技術のみならず材料採集の知恵、徒弟制度や流通の仕組み...ひとたび失われると復元・復活はむずかしいものなのだ。失われてしまう前に踏みとどまれればいいけれど、後継者は一朝一夕で育つものではなく、たとえ意欲のある後継者候補があっても十分な需要に恵まれず、刀剣のように芸術品としてなんとか生き延びるものもあるが、多くは坂道を転げ落ちるように失われていく…「鍛冶屋」の衰退がさまざまな分野の職人にとっての仕事に欠かせぬ道具の入手困難につながり、ひいては職人の手仕事全体が失われていくという連鎖がなによりせつない。
    取材が20世紀末(1990年代)、単行本になったのが2001年、そのあとがきの結びが「手仕事の時代は終わったのだ」、そして2008年の文庫化の時点ですでに登場した職人のうち十人以上が鬼籍に入るか職を離れてしまっているという現実がかなしい。

  • 「仕事=生き方」の時代は終わった。何を仕事とするかは、人生の中で複数ある選択肢の一つでしかない。人の仕事を機械がこなすことができるようになり、再利用を考える必要のなくなった大量生産の時代では、物を大切にする必要もなく、後先考えることも少なくなった。誰が何をしても変わらない。人はどんどん、入れ替え可能で刹那的な存在になっていく。そんな中で、人間の誇りや道徳は新しい局面を迎えるのか。知らぬ間に終わった旧時代の生き方。

  • 懐古、感傷、寂寥の強い香りに多少たじろぐ。

    効率化はされているし、消費第一の世の中ではあるが、大量生産の現場においてもそれでもいいものを作ろうと試行錯誤している職人がいないわけではないことを知っているので、この本に完全同意!とはならないけれど、それでも弟子の教育については思うところあった。

    100年後のものづくりはどんななんだろうなあ。

  • 高度経済成長期を抜けてきて、生活の中の大切な何かが、根っこのようなものがないような不安定な感じをもっている方、ぜひ読んでみてください。

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著者プロフィール

1947年秋田県角館町(現仙北市)生まれ。作家。東京理科大学理学部応用化学科卒業。アウトドア雑誌の編集に携わるかたわら執筆活動に入る。小説で芥川賞候補4回ノミネート。『木のいのち木のこころ』『失われた手仕事の思想』『手業に学べ』『大黒柱に刻まれた家族の百年』など、聞き書きによる著書を多く著す。2003年に絵本『なつのいけ』(絵・村上康成)で日本絵本賞大賞受賞。1950~60年頃の子どもたちの生活を描いた絵本『おじいちゃんの小さかったとき』(絵・松岡達英)がある。他に『正吉とやぎ』など。

「2022年 『少年時代 飛行機雲はるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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