- Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122049345
感想・レビュー・書評
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全く知識なく手に取った「シナン」。
オスマントルコの宗教建築家の話。
実在の人物でありながら物語仕立てになっているので、入口としてはとても入りやすい。
上巻では、シナンはまだまだ建築家として活躍はないが独特な考え方や人柄がクローズアップされ主に来歴と人ととなりが描かれている。
絶版本フェアで見つけた本だったが、大当たり、詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『いのちの木のあるところ』からの派生読み。
イスラム建築がちょっと気になったので。
小説といいつつ、はじめから作者が
史実に虚実を混ぜて書きますからね〜的に
前振りをしてくれていて。
いちおう主役はシナンだけど
当時のオスマントルコをめぐる世界情勢に
比重がかかったりもする。
そもそも実在の宮廷建築家である
ミマール・シナンが最高傑作を作ったのは
87歳の頃だっていうんだから!
これは、そこにいたるまでの一代記です。
偶像崇拝の禁じられているイスラムで
完璧な建造物に神を見出そうとしたシナン。
なにか美しいもの、偉大なものを見た時
確かに人ならざるものの手を感じることは
あるんじゃないかと思います。 -
奇しくも、先日読んだ塩野七生の『小説 イタリア・ルネサンス』と同時代。
塩野七海の方は、ヴェネツィア視点の話で、こちらはオスマン視点で面白かった。
スレイマンが、イブラヒムが、ミケランジェロにアルヴィーゼが!もう、奇跡の時代。
世の理について何か一本通っている話。 -
「仕事をしなさい、シナン。その仕事が君を救ってくれるだろう」
文中で1度、ラスト近くでもう1度繰り返されるこのミケランジェロ(!)の言葉はあるいは作者のメッセージなのかもしれない。私はこの本を読むまでイスラムやムスク、トルコに興味なんてなかった。でも今、シナンの建てた美しい建造物をいつか見たいと思う。 -
シナンより周りの人達の人間関係や利害関係などが、物語で感じられて面白かった。シナンから見た時代絵巻な感じ。
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オスマン帝国の最盛期にモスクを次々と建設したシナンの一生。長生き、遅咲きの人なので、上巻ではモスクは作らない。当時のオスマン帝国内外の状況を想像できるのが楽しい。西にはハンガリー、ハプスブルク、異教の国ながら深い関係にあるヴェネティア。一方で東にはしぶとい強敵サファヴィー朝ペルシャ。シナンやハサン(この人は創作?)、スレイマン大帝の腹心の部下イブラヒムと主要人物はみんなイスラムに改宗した元キリスト教徒。オスマン帝国の強さと危うさがうかがえる。改行を多用した文章がブログ小説っぽい。
シナン
スレイマニエ・モスク
ミマール・シナン作
ブルーモスク。シナンの代表的建築。
セミリエ・モスク
ミマール・シナン作
イスタンブール征服後、ついにアヤ・ソフィアを凌駕するモスクを建設することができた、という建築史的にも重要なモスク。老境のシナンの最後の建築。エディルネで土地の選定からこだわった。祭壇にチューリップが刻まれている。
ファティフ・モスク
アティク・シナン作
イスタンブール征服を記念して建設。しかしアヤ・ソフィアよりも小さかったため、設計者は両手を切り落とされたという。
京都の大寺院のようにモスクがぼこぼことあって、見分けがつかなくなりそうなところを、建築史的な文脈を挿入することで解像度があがる。
カイセリのエンジェス山
富士山のような形。
シナンはカイセリ近郊の村で育ち、スレイマニエ・ジャーミーはエンジェス山を見立ててデザインしたのかもしれない。
メフメト2世
コンスタンティノープルを攻略
その他もいろいろ攻略「征服者」
バヤジット2世
息子セリムに毒殺された説がある
あんまり戦に強くなかった
セリム1世
兄弟も息子も殺しまくったスルタン「冷酷者」
在位8年で領土3倍
それでいて教養人でもあった
「わが帝国の臣民三分の一の最大の福利のために、残りの三分の二を殺すことは許されぬであろうか」p138
これを罪と罰みたいなナイーブな青年じゃなくて帝国のボスが言うんだから
東方に目を向けたのは画期的
イラン遠征(vsサファヴィー朝)とエジプト遠征(vsマムルーク帝国)で領土拡大
スレイマン2世
セリムの息子の生き残り
シナンと同世代のスルタン
オスマン帝国の繁栄期
ベオグラード奪取とロードス島撃破で信頼を勝ち得る。
ウィーン包囲(第一次)でヨーロッパに大打撃。ハンガリーに傀儡政権を立てる。モハチの戦い。このころイブラヒムが大活躍。
よくある第二次ウィーン包囲はここから150年もあとのこと。
イブラヒム
ギリシャ生まれの元奴隷。
才能を買われて王宮へ。有能っぷりにあっという間にナンバー2になる。
王妃と対立して処刑される。殺したスレイマン大帝も嘆いたという。
イスラムに改宗したが内心はキリスト教徒のまま、という設定。
ロクセラーナ
スレイマンの王妃
スラブ人の奴隷だったか、寵愛を受けてハーレムへ。
オスマンの慣習を破ってスルタンの正妻となる。しかも奴隷という身分から。
政治的にも暗躍。兄弟殺しの伝統から「自分の命を守るため」という側面もあったのかもしれない。 -
建築があってよかった。
それを一番に思った。
100年を生きた生涯に、477の建造物を手掛けた。それもその大半は、オスマントルコの主席建築家となった50歳以降の仕事だ。聖ソフィアを知り、出会い、そして生きるところを定めた。志はひとつも変わらない。足並みは緩まない。自分の心に従い、そのままに生きた。スレイマンという時代の烈しいうねりの中に、それでも、揺るがず、静かに、ただ自分の見定めたものに向かって歩き続けた。そういう一生に見えた。
感動する。
取り立てて、シナンに起こったことは、いずれも静かに過ぎ去っていったことのようなのに、その行き着いた先を読み終えて、涙がつたった。それは温かい涙で、自分というものがすこし綺麗になれたような、すごく清々とした涙だ。
建築を知ったから、知っているから、というものあるし、そうでないからだとも思う。建築があるだけで、世界は変わった。ぼくは変われなくても、見えるものが変わったのだ。
町を歩いているだけで、いい。
いくらでも、終わりなく、歩けると思う。
いつまでも、死ぬまで、同じように歩けると分かる。
楽しい。そんな簡単な言葉が、はじめて、ここにあるみたいに。
建築を知って、だからこそ、土木という下地がある自分が、また面白くて、大切で、かけがえがない。
生きるということが、楽しい。
その一言で、すべてが置き換えられるくらいに、建築という世界に踏み込めたことは、特別なことだ。
シナンの建築に触れるために、いつかトルコに行こうと、行きたいと思いつく。
こんな楽しいことがあるなんて。
別に行けなくても、変わらないんだ。
物語とは、こうあってほしいよ。
「建築の中には、全てがあるということだ」
「ああ、優れた建築家は、あらゆることについて、精通していなければならない。数学のことも。石のことも。彫刻のことも。絵のことも。そして、人のことにもだ・・・」
「建築が、全ての芸術を統べるのだと言ってもいい。きみが、幾らかでも建築のことにたずさわっている人間なら、それはわかるだろう」
「仕事をしなさい」
「それ以外に答を得る方法はないよ。人に問わずに、仕事に問うことだ。自分の手に問うことだ。仕事をしなさい」 -
スレイマン大帝の頃のオスマントルコの建築者の話。
物語として分かりやすく、時代背景をつかみやすい。
シナンのような経緯でオスマントルコに仕えた人々のことも
ふと垣間見える。 -
3.7
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2018.4.1(日)¥250(-2割引き)+税。
2018.12.5(水)。