序の舞 (中公文庫 A 108-6)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (738ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122011847

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに骨太な本を読んだような気がする。いまどきの本ばかり読んでいると軽くて内容もある意味ではとても分かりやすいが、あまり「あぁ、本を読んだ」という感じにはならないが…今回は存分に本を読んだという感じがする。女流の画家としての松翆の一生、女として求め続けた幸福、そして子供。どれが手に入ってどれが手に入らなかったのではなく、ある意味では全てを手に入れたのだなという終わり方。どれをとっても流石は宮尾登美子である。結構な長編であったが読みづらいと一度も思うことなく、彼女の一生を鮮やかな絵巻で目の前に展開してもらったように思える。

  • 女流画家上村松園(作中では島村松翠)の一生を書いた作品。父をしらずして育ち、幼い頃から絵一筋を貫き、炎のように恋をし、男社会の中で謂われない中傷に苦しみ、それでも絵を描き続けた。
    特に後半は良く、分厚い本だが一気に読み通してしまった。きっと才能というのはその人の生き方そのものなんだろう。一途な女性の生き方に涙を浮かべて読んだ。

  • 偉人の生涯ものとなれば、駆け足でその一生をただ綴られていくだけのものが見られるけど、この本では時々の心の動きが細かく描かれ、京言葉のうっとりする柔らかさと容赦ない意地悪さがさらに情景を鮮明にしてくれている。

    実は私自身20代に一度この本を読んでいて、その時はこの波乱の人生に凄いなあという感想は持ったものの、現在それから40年近くを経て再読して、本の印象がガラリと変わった。

    作品を後世に残すほどの人でもまさしく産みの苦しみのほかに、生きることそれ自体の苦しみをいちいち経験し、得られるもの、失うものの中で普通人よりも高いハードルを乗り越えねばならないことが想像できた。

    凄い作家だ。

  • 上村松園の、清潔で格調高く上品な、
    この方にしか描けない美の世界を
    もっと深く知りたくて、手に取った。

    決して短くはない小説なのに、一気読み。
    女性が活躍することが難しく厳しい時代に
    ただひたすらに、良いもの、美しいものを
    完成させるべく突き進む人生。
    一流になるために、あらゆる努力をも
    惜しまないながらも、恋心に揺れ、
    苦しむ姿は生身の人間としても
    読みながら心揺さぶられた。

    とても良い小説を読んだ読後感に
    浸り、上村松園の作品を眺める。
    より一層、味わいが深くなった気がする。

  • 今まで日本画は興味なかったのですが、この本を読んで本物を見たい気持ちになりました。本人もさることながら母も尊敬できる人。子どもをあんなふうに育てられるだろうか。

  • 女性日本画家上村松園をモデルにした小説。
    読んだのはかなり昔ですが波乱の生涯に衝撃を受けた覚えが。
    上村松園の美人画を観る時はいつもその人生に思いを馳せています。

  • 友人に勧められて読みました。京都弁に慣れるまで2日を要しました。つうさんの1回目の妊娠は仕方ないとして、2回目は彼女も悪いです、男に肝心なことは任せてはいけませんね。上村松園が描いた枕絵があるなら見てみたいものです。日本の春画は他国より出来が良いですから。
    40ぐらいですべてを捨ててしまいたくなるような恋に落ちるのは、今も昔も割とあることで、女の真理をついています。

  • 子どもの頃の好奇心、学びたいという熱情が全体を流れる芯の強さにつながっているように思いました。作品を観るときの視点が広がるこのような作品はいつの時代もありがたいです。

  • 久々の再読。面白かったことは覚えていたのだが、10年ぶりくらいだったので読み返すと細かなところはすっかり忘れており、また新鮮な気持ちで楽しめた。

    京都のお茶屋さんで生まれ育った、女性で美人画を描いた日本画家である上村松園をモデルにした小説。主人公を始め、出てくる著名な画家などはそれぞれに本当の人物がいるから、フィクションというよりも、ノンフィクションのスキマを想像で埋めた作品だと思っている。
    本当のことを知ったような読後感がある。

    画家のリアルな私生活や感情が細かに描かれている。だからこそ、これを読んでから上村松園の絵を見るとまた、絵の情感がとてもよく伝わってくる。どんな専門家の絵の絶賛や技術的なことを言われても、素人としては、はあ…で終わるけれども、こんなに壮絶な人生で、こんなことがあって、そしてこの絵が描かれたのか、と知ると、真実かどうかはおいておいて、鳥肌が立つ。

    京都という土地で生まれ、人の裏表のある京都の粘っこい性質や、姿のうつくしい京都の女性文化の中で育っていく主人公の津也(=上村松園)。

    それを絵に写し取っていくのだが、ただのお絵描きではなく、自分の身を切るような恋愛や憎悪といった様々な感情を筆に浸すことになる。宮尾登美子さんがそういう人なのかもしれないが、特に、苦しいところを描くのがうまい。人が苦しみ抜いて、この世の地獄か、死んだ方がましだ、と死と生のうちをフラフラとさまよっている、まさに津也の描いた「焔」の作品のような情感にぐっと惹きつけられる。

    生きたっていいし、死んだっていいし、と思った時にちょっとしたことがあって、「ああ、また生き永らえてしまった…」というような(特に女性の)人生の、
    なんてことないようなささいな描写をするのがものすごくうまい。そこらへんは、津也の描く絵とも似ているように思った。

    上村松園の絵を見たけれど、ちょっとした縁側で人を待ったり、舞妓さんが仕舞支度をしたり、針の穴に糸を通そうとしたり、そういう日常の中にある動きを捉えた絵がばつぐんにすてきだと思った。

    品のある絵、という評価はあまりピンとこなかった。自分にその目がないからだと思うけれど。そこにいた人の気配が漂っている情感が、いいなあと思った。

    また、図書館で探してみたが、師の、竹内栖鳳の絵は(斑猫とか)あって、ああこれ美術の教科書でみた、と思った。しかし、鈴木松年の絵がないのが、こうして時がたってみると名実津也は師匠を越えたのかと、何かまた鳥肌が立つ気がする。しかしそうなっている松年の、意固地でどうしようもない感じも、たまらなく枯れ木の好きな人間としては胸にくる。やっぱ好きな作品だなあと再実感。ただ、700ページ越えは長くてなかなか読む機会を得るのが難しいのが諸刃の剣。

  • 美人絵で著名な上村松園の評伝小説である。幼い頃から絵に夢中な松園は、茶屋を商う母親の手一つで育てられ、画学校を卒業、女性蔑視の風潮のある画壇と戦い、その一角を担う一流画家となっていく。師との関係を持ち、未婚の母となり、40過ぎて結婚を夢見るも年下の恋人に振られ・・と、激動の人生である。一方で、彼女は、温かく力強く支える母親、同じく著名画家に育つ子(上村松篁)や画業に理解のある嫁・孫、そして何よりも、揺るぎない才能に恵まれて、非常に幸せな人であったのではないかと思う。それにしても、宮尾登美子は、裏千家を書いた「松風の家」でも思ったが、この手の小説がめちゃくちゃうまい。くだくだした文体に芸がある。厚いが一気読み。

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著者プロフィール

1926年高知県生まれ。『櫂』で太宰治賞、『寒椿』で女流文学賞、『一絃の琴』で直木賞、『序の舞』で吉川英治文学賞受賞。おもな著作に『陽暉楼』『錦』など。2014年没。

「2016年 『まるまる、フルーツ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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