- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122000537
感想・レビュー・書評
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棟方志功のインパクトある版画絵とカタカナ混じりの文章、正直言ってかなりとっつきにくい作品だと思っていた。だけど、読みはじめてみれば、他人の日記を覗き見してるような、なんだかイケナイコトをしているような気分になって、すいすい読めた。
題材として官能的なものとかは正直私は好きじゃないんだけど、谷崎の美しい文章だと読めてしまうんだよねー。不思議。これが絶対的な文章力の高さの為せるわざなのか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
性生活にお互い不満を持つ熟年夫婦。ふたりは自分の日記をわざと相手に読ませるように仕向けて刺激しあう。「被虐」と「魔性の女」を追い求めた谷崎文学の到達点。
同じように日記の体裁をとっているものの、『瘋癲老人日記』は老人ひとりの日記であるのに対し、『鍵』は夫婦ふたりの日記なので、視点の違いや心理的な駆け引きがありスリリングで面白い。 -
これは、ミステリー?困った瘋癲老人が瘋癲になる前の日記かと思って読んだのだけれど、ものすごいどろどろ。こんなどろどろの話は湊かなえ氏でも書けないだろうな。
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谷崎文学の集大成という感じの作品。先に読んだ『瘋癲老人日記』でも健在であった「変態性」は本作でも顕著であるし、また谷崎は初期に探偵小説の傑作を多く著したことでも知られているが、基本的に日記の記述のみで物語が展開する本作は、いったい記述の内容は本当に正しいのか、夫や妻は本当に互いの日記を読んでいないのかという気持にさせられ、ヘタな推理小説よりもよほどミステリイである。木村も含めた登場人物たちが三者三様に性に溺れてゆく様子ももちろん秀逸なのだが、やはり推理小説好きとしてはこの形式の部分がもっとも気になった。個人的な生涯のベスト・ランキングに入るほど好きな小説に、夢野久作『瓶詰の地獄』という短篇があるのだが、同作は書翰体小説で、素直に順番どおりに読んでゆくと内容の辻褄が合わなくなってしまう。本作も記述のいったいどの部分が真実なのだろうかという点で、同作を想起させられた。
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人の美なんてものは所詮幻想にすぎない
一皮剥けばグロテスクな内容物がとぐろを巻いているのである
谷崎潤一郎の場合、その結婚生活などを通じ
あえて内容物を抉り出すことに情熱を向けた時期もあった
しかしある時期から
…おそらく、芥川龍之介が死んだあたりから
むしろそういった美の危うさを
ギリギリの線でいかに保つかといったところに
執着を見せるようになった
そう考えてみると
「細雪」のラストが、雪子の腹痛で締めくくられた理由も
なんとなく見えてくるのだった
一方で谷崎は
美を冒涜したい欲望とともに
報いとして天罰を受けたいというマゾヒスティックな欲望も
ずっと抱えていた
人の美を信じたいがゆえ、試しを与えずにはいられない
そこで、読まれることを前提にした日記という形式を用い
他者をコントロールしようとする己の傲慢さを包み隠しながら
結果的に、女のグロテスクな内面すらもひとつの美へと昇華していった
それがこの「鍵」という作品である -
谷崎氏の官能的な世界はなんかカラッとしていて明るい気がするんだよね。終わり方はそう来たか。
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夫婦の秘密の交換日記
構成が緻密に計算されていてすごい。 -
重松清氏はきっとこんな官能小説を書きたかったんだろうなぁ。
私が言うのも烏滸がましいですが、文章の質感が違いました。大谷崎たる所以。 -
またすごい本を読んでしまった。
私が読んだこれまでの谷崎作品とは、ちと趣が異なった。
最後が大どんでん返しで、ミステリーの様だった。
そして、最初は他の本と比較したあけすけになりそうな気配の出だしに驚いたが、やはり生々しくない。
棟方志功の板書も美しい。
私も旧式の堅い育てられ方をしているので、奥さんの気持ちがわかる。でも、不倫まではしてほしくなかった。。。
私は蛇にピ○スなどといった、話題性だけを狙ったかのような下世話な本は読むのも嫌なほどの潔癖症である。それが、なぜか谷崎作品になると、どんな際どいテーマも夢中になって読めてしまう、なぜだろう。
初期の東京時代に発禁をくらった本については、飄風など伏字があるらしく、その頃の本だと私にはダメだったかもしれないし、発禁を通して、今の私も読めるようなスタイルになったのかもしれないと思ったりする。
現に、読む気もまったくなかったが、谷崎さんの刺青を何十年も経ってから恐れ多くもコピーしたような作品を眺めて、谷崎さんの偉大さを感じたいという意地悪な気が起こり、本屋に向かった。
最初の書きだしの数行を見て、最近の本にありがちなキャッチーとされているであろう会話式、聞いたことない刺激的な単語を羅列しており、想像を超えることなさにげんなりして、谷崎贔屓の私は満足して、本屋を去った。 -
2014今年からレビュー書いてみます。読みながらずっと、卒論のテーマだった「オセロー」を読んでいた頃の気持ちを思い出していた。「僕はお嬢さんのイヤゴー的な性格を知っているので」という一文を読んでうふふふと思った。旧友再会だ。『嫉妬』は、10年経っても私の中で最も好きなテーマのひとつ。