宰相吉田茂 (中公クラシックス J 31)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121600936

感想・レビュー・書評

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  • 高坂正堯 「宰相 吉田茂」

    戦争で負けた後に 経済で勝った 吉田茂の政治姿勢、外交手腕、戦後復興の在り方を論述した本。

    吉田茂の民主主義の考え方〜世論とナショナリズムを拒否し、民主主義を 政治のルールと考え そのルールを守る〜が 戦後復興を進めた とする論調

    著者の言葉「これから 我々が生きていくのは、ナショナリズム と インターナショナリズム と 個人主義の絡み合った複雑な世界」は現在にも通じる至言


    吉田茂の凄さは 「 戦争で負けても 外交で勝った」外交手腕
    *外交とは 条約の権力を活用して 国家利益を追求するゲーム
    *軍事力は 肯定も否定もせず、二次的な地位しか与えない
    *経済的な力と国家的利益の立場で国際政治を考えていた
    *国際関係において最も重要なのは その国が富み栄えていること
    *日本は経済関係の網の目を張り巡らすことが立国の基本〜国際政治において軍事力は二次的


  • 「真実の教養とは、それまでの生活で得たものに自信を持つが故に、新しい状況などには驚かず、『新知識』に劣等感を持たず、堂々と自己の生き方を貫く能力に他ならないのである」(264頁)

    返却期限が迫っていなければ、もう一周読みたかった。そうすればもっと理解できただろうなぁ、と思う。

  • 吉田茂にとって、米ソの協調が破れ、対立関係が発生したことは、その両者の間に介在する日本の価値が増大したことを意味した。それは敗戦国日本にとって乗ずべき機会であった。(p.54)

    現実に可能か不可能かを一応離れて理想を探求し、発言するという知識人の倫理と激突することになった。
    それは悲劇であった。しかし、この二つの倫理のあるべき関係は、つねに衝突しながらたかめ合って行くものなのだ。(p.56)

    吉田は完全非武装論と憲法改正論の両方からの攻撃に耐え、論理的には曖昧な立場を断固として貫くことによって、経済中心主義というユニークな生き方を根付かせたのである。(中略)国民の多くは、日々の生活を維持する努力から、彼らの戦後を作って行った。そして、大きく変化した国際政治は、戦前の夢をいかにもこっけいに見せたから、彼らは日本の未来を経済復興に、そして貿易に求めたのである。(p.71-72)

    国民は政治家を評価するに当って、いちいちその政策を専門的に分析したりなどはしない。多くの場合、制作はあまりにも専門的で、そしてあまりにも難しい。だから国民は彼の感覚に頼る。それはきわめて基本的な美徳を政治家が持っているかどうか、ということから判断するのである。そしてその政治家がまじめであるのかどうかは、その評価においてきわめて重要な項目なのである。(p.140)

    (池田勇人は)時刻の防衛をかなりの程度まで他国に依存するという体制でよいのか、という問題には答えられないままであった。そして、この防衛の問題は、国内体制の問題、すなわち日本には危機に対処するだけの権力構造が存在するかという問題と、不可分の関係にあった。対外的な危機に対処する能力はそのまま国内の問題を解決し、危機を切り抜ける力だからである。(p.147)

    公共部門における優先順位の決定は価値判断と切り離すことはできない。たとえば、教育をいかにするか、研究体制をいかにするかということは、日本の将来を決する重要な問題であるが、その問題は価値の問題と不可分に結びついている。(p.213)

    おびただしい量の涙が流され、得体の知れぬ不安と怒りがかき立てられるのに、それとはまったく不釣合に、結果らしい結果は得られない。それは日本の新聞の基本的な特徴である。そして、人々が漠然と感じている新聞への不安の根源はここにあるのだ。(p.227)

    彼は国際政治において、経済のつながりの持つ意味をきわめて重視した。彼は、一国の外交は軍事力によって自国の利益を守ったり、自己の意思を他国に押しつけたりすることではなく、経済の相互利益の網の目を作り上げ、それを操作することによって、時刻の利益を守ることにあるという認識を持っていた。彼は「外交と金融とはその性質を同じうする。いずれもクレディット(信用)を基礎とする」という言葉が好きだった。(中略)経済を重要視する外交は、経済以外の分野に対する認識をともなって初めて成立するのである。(p.253,259)

    今後ナショナリズムに精神的な価値を与えないことこそ、われわれのもっとも必要とすることなのである。いったんナショナリズムを崇高化すれば、それは絶対のものとなり、それ自身が目的となり、したがって妥協不可能なものとなってしまう。それにもかかわらず、ナショナリズムがその根底に非合理的なものを持っていることは否定しえないのである。(p.261)

    人間とは簡単に変るものではない。実は社会だってそんなに変るものではないのだ。「先日、イリア・エェレンブルグというロシアの文学者が、第一次世界大戦中に書いたという詩を読んだ所が、それには、戦争中のことを後世のものは、人々が砲声と弾丸の雨に怯えて位生活をしていたと思うだろうが、戦争中にもやはり花が咲き、人々はそれを見て喜びを覚えたのだ、というような意味のことが書いてあった。歴史上の大事件と言ったものは、皆そういうものではないだろうか(『改造』昭和25年1月号)」(p.266)

  • 吉田茂論のみかと思いきや、
    吉田以後についても取り上げていた。

    また、一緒に収録されている「妥協的諸提案」も興味深い。
    前からメディア報道に対して抱いていた違和感を
    上手く代弁してもらった気がする。
    ネットの出現で世論の形成がどう変わっているのやら。

    この手の本を読み始める前は、
    吉田茂については講和と安保の人というイメージしか無かった。
    本書により、彼がいかに類稀な外交能力を持っていたことが分かり、
    その能力を戦後直下の状況でどう発揮したかが分かる。
    特にGHQとの駆け引き、折衝にそれを見ることができるだろう。

    そしてその能力と性格故に、復興を始めた時期の日本の政治には
    いかに適さなかったのかが分かる。

  • バランスのとれた吉田茂評。今読んでも鋭い洞察(特に、妥協的諸提案)がちりばめられた一冊。大きなシンボルに頼るのではない、実務的な政治を理想とした筆者の考えに共感。

  • 新書で1500円もするなんて・・・!
    とレジでびっくりしましたが、読み進めていくうちにその価値がある一冊だと感じました。

    本書の主題である「吉田茂」は、日本の現代史を語る上でさけては通れません。なぜなら彼が残した遺産は、今なお日本外交に影響を及ぼしているからです。それが一体何であるかは、是非よんで確認してみてください。

  • 現在の日本を取り巻く国際政治が、突然わき起こったことではなく、過去からの積み重ねであることを、具体的事例で読むことができる。

  •  戦後の日本を牽引した吉田茂に対する高坂正堯先生の論文ですが,扱っているテーマは高坂先生が「あとがき」で書いていらっしゃるように主に2つです。一つは終戦直後の日本を牽引した「吉田茂」に対する論評と戦後の日本の政治の評価,もう一つは「世論と政治の関係」です。
     吉田茂に対しては,「吉田茂は偉大な政治家であった。」とし,戦後直後の日本を取り巻く環境から,吉田茂の取った政策を現実主義的な観点から高く評価されています。他の高坂先生の作品でもそうですが,塩野七生さんとの共通点も多く見られます。特に,現実に根ざした認識や外交に対する姿勢などは,塩野さんとほとんど共通しているといってもいいのではないでしょうか。

     もう一つのテーマである「世論と政治の関係」では,「現在の日本においては,政治と世論の間の有機的な連関が欠けている」ことが一貫して主張とされています。3つ目の論文の「妥協的諸提案」で世論とマスコミのあり方が取り上げられていますが,当時と現在とでは,扱う問題の内容や,マスコミのあり方が変わっているとはいえ,共通しているところも多くあり,40年近く経っても,日本ではこのテーマに関する状況は大きく変わっていないのではないかと考えられるのではないでしょうか。

     日本が直面する課題に対する政治の現状を考えるとき,終戦直後の困難な時期を乗り切った政治家である吉田茂に対する論評と日本の世論と政治の関係を扱ったこの作品が示唆する内容は,まだまだその現代的価値やその意義を失っていないと考えます。

  • 戦後における政治家としての矜持。
    主張が単純・明快であり、初志貫徹であること。
    自分が政治家に求めるものを兼ね備えている・・とそんな単純なものではないかもしれないが、今の政党、官僚に「個としての責任・矜持」を感じられないことの裏返しかもしれない。
    2012年9月のNHKドラマ(渡辺謙さん主演)も待ち遠しい。

  • 戦争で負けて外交に勝った。
    吉田は国際政治について確固たる哲学を持ち、その哲学が指し示す地位を日本に与えようとした。
    吉田は日本とドイツの国家関係を作るためには借款が一番よいと理解していた。国家関係を維持していくには借款がよい。
    日本を復興させるものは教育以外にはない。自分たちは戦争によって国家を荒廃させ、何も子孫に与えるものを持っていなかったが、せめて立派な教育だけはしてやりたいという気持ちを持っていた。
    吉田の葉巻と白足袋姿の贅沢さは、国民の当時の生活とかけ離れていたが、しかし国民はひそかにこ気味よく思っていた。配線によって打ちひしがれていた日本の栄光となごりを見出した。彼が強い信念を持ち、変動する時代の中で筋を通してきた自分つであることを感じ取り、そうした人物を必要としていると判断した。

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