マスメディアとは何か-「影響力」の正体 (中公新書 2706)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121027061

作品紹介・あらすじ

「マスコミを信じるな」。ネットの浸透に伴い、高まるマスメディア不信。長く独占的地位にあった新聞、ラジオ、テレビに、近年は不要論まで語られる。社会にとって、マスメディアとはどのような存在なのか。そもそも、「世論を動かすほどの大きな影響力を持つ」というイメージは真実なのか。長年の研究成果をふまえ、問題視される偏向報道、世論操作などの実態を科学的に検証し、SNS時代のメディアのあり方を問いなおす

感想・レビュー・書評

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  • 認知的不協和は不快であり、情報などの選択的接触に繋がるというのは、自分でも確かに自覚があり、自己反省的に読んだ。また、娯楽志向と政治知識のトレードオフというのは、自分の直観にも一致し、やはりそうかと思った。
    著者はマスメディアv.s.インターネットという対立構造にもとづいてメディアを語ることを危険視し、そこから脱却すべきだと述べている。固定観念というものは変えるのが難しいが、このような呼びかけがもっと広まれば、効果が期待できるのだろうか。私には判然としない。
    マスメディアは、人々の現実認識を構成しているという主張には共感した。マスメディアは、家族や友人、同僚と何を話すのか、一部ではあるが決めている(話題を与えている)のだ。

  • 最後の章だけでも読む価値のある一冊。
    メディアを勉強したいときの入口としてふさわしい。

  •  マスメディアが人々に与える影響について。学術的研究がベースで歯ごたえがあるが、新書でありまだ読みやすい。
     本書に出てくる選択的接触、認知的不協和、デファクト選択性、第三者効果、敵対的メディア認知、議題設定理論、フレーミングにプライミングといった用語自体は初見だが、内容を知ると、自分がこれまで社会とメディアについて漠然と感じていたことが言語化されたような気がする。
     マスメディア効果は、人々の意見を変えさせる説得効果よりも、元々持つ意見の強化というのがその中心。しかしその効果を(敵対的に)過大視する言説は広く流布。ただし、マスメディアは伝える情報の選択により人々の現実認識を構成。一方、インターネット経由では個々人が見たい情報だけが届けられる。このことには弊害があるため、ネット事業者は見たい情報だけでなく見るべき情報も届けるようになっている。
     そして著者は、人々のステレオタイプによって不当に貶められているが、やはりマスメディアは社会にとって必要な存在だと結論づける。

  • インターネットが身近な時代にマスメディアの立場とは?

    マスメディアが私たちの生き方に影響を与えていることを否定する人はいないだろう。また、インターネットの攻勢によってマスメディアの影響力が小さくなってきたと考えている人もいるだろう。ある人は誰もが自由に発信できるインターネットがあれば一定の立場からの情報しか提供しないマスメディアは不要だと考えているかもしれない。

    これは「なんとなく」持っているマスメディアへのステレオタイプを解きほぐしてインターネット時代のマスメディアの捉え方についてまとめられた本である。現代までのメディアに関する研究を紹介しながら「マスメディアが人の行動にどのように影響するのか」の研究の歴史を追う構成になっている。

    専門用語もあり数多くの研究が次々と紹介されるため読み進めるのは決して簡単ではないが、ところどころに議論のまとめがあるので脱落することはなかった。特に第5章や第6章では、それまでのマスメディア研究の蓄積をインターネットの研究にどのように活かしていくかについても述べられており、今後の研究に興味がわいた。

    見たいものを見られるインターネットだから、あえて観るべきものを提供する必要がある、それが社会的にも益になることである、という著者の指摘は重要だと思った。ここに広く多くの人へ同じ情報を届けるマスメディアの存在意義がある。

  • ダメだこりゃ。
    著者は「中の人」なので、メディアは善意で無力という自己イメージを補強したい動機が垣間見える。しきりにメディア効果の過大視を戒めるが、メディアの効果を過小評価することは過大視以上に危険である。特に著者のように無自覚な場合は。
    いくらメディアの力を否定しようとしてもコロナ禍の報道で誰もが嫌というほどその力を実感しただろう。古くは日露戦争後の日比谷焼き討ち、米騒動、太平洋戦争開戦。いずれも新聞、ラジオの論調が世論の形成に大きな役割を果たしたことは常識である。これを否定しようとする試みはヤバい。

    メディアの力を過小評価したい著者の論拠はエリー調査とディケーター調査である。これには以下の問題がある。
    エリー調査
    メディアの論調は投票先を決定しないというが、アメリカのような二大政党制が根付いている国では投票先の選好は半ば確立している。何しろ選択肢が2つしかない。アメリカという特殊な国の、選挙という特殊な意思決定を以てメディアの力全般を語るのは研究者としての見識を欠いている。
    ディケーター調査
    この調査で「マスメディア」とされているのは広告である。フェスティンガー実験も公共広告であった。どこの世界にCMに心動かされて直接購買行動に走る人がいるのか。本書で問題にしているのは広告ではなく報道である。全く別の議論だ。逆説的にそれでも世界中でメディアを使った広告が溢れているのは、潜在的に広告には「力」があるからである。これも否定しようのない事実だ。

    更にメディア偏向について、最もターゲットの多い層にアプローチするのに偏向報道は損だと言うが、どのメディアも中立だと他社との差別化ができないから、ある程度「色」をつけて記事を書くことは理に適っている。顧客のターゲティングと商品のポジショニングはマーケティングの基本のキである。人数が多い層に向けて商売するのが得、という発想はあまりにも幼稚だ。許認可業種である放送は別にして、新聞各社に特有の色があることは常識なのに、何故これを否定しようとするのか全く理解できない。

    最後にインターネットに言及しているが、インターネットはマスメディアではない。1対多の一方向伝達であるマスメディアと対照的に、多対多の双方向通信がその本質である。だから同列に比較論考すること自体がナンセンスである。見た目は似ているが機能も役割も異なるものだ。

    現在インターネットやSNSの普及でマスコミを信じない人が増加していると言うが、これはクリティカルシンキングをする人が増えていることを意味し、むしろ望ましい状況である。

    結局マスコミに対する人々の本質的な不満は以下の3点であるように思われる。
    1)不必要に不安を煽る。
    2)物事を過度に単純化するために世論形成を極端化する。
    3)権威を傘に着た啓蒙主義(上から目線)と、その裏面のご都合主義
    そして重要なことはこれらがマスコミ各社の利益目当てであることが見え透いてしまっていることである。
    放送局も新聞社も出版社も営利企業であるから、センセーショナルで分かりやすい記事をたくさん売りたい、スポンサーに不利な報道はしたくないという動機は当然である。そうであれば「不偏不党」「第4の権力」「社会の木鐸」などのタテマエを脇に置き、社説で偉そうなご高説を垂れ流す前に「そうは言ってもイチ民間企業でございます」と素直に認めることから始めてはどうかと思う。

    インターネットがあればマスメディアは不要かと言われればNOだ。情報の一元的な収集、選別、事実関係の検証、重要度の提示、などマスメディアでしかできないことがある。だからこそ健全なあり方を期待したいのだが、残念ながら期待に応えているとは言い難い。

  • マスメディアとはどのような存在なのか。世論を動かすほどの大きな影響力をもつというイメージは真実なのか。長年の研究成果を踏まえ、偏向報道、世論操作などの実態を科学的に検証し、SNS時代のメディアのあり方を問う。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40288748

  • 【請求記号:361 イ】

  • マスメディアとバイアスの関係の一つとしてとてもクリアになりました。

  • メディアほ影響力が多面的に評価されており、同時に人の属性毎の影響力も描かれており学びになった

  •  マスメディアにまつわる研究史を辿りながら数々の知見を整頓、再検証し、現代にはびこる「マスメディアへのステレオタイプな理解」を解体することが目指されている。過度に貶められてきたマスメディアに対する擁護の書ともいえる。
     通常の文脈ではマスメディアに対置され、対立構造で語られがちなインターネットもまた、ともにメディア効果論という同一の領域内で扱いうる(あるいは扱われるべき)ものとして、一章を割いて検討の対象とされている。
     メディア環境と民主主義の相関についての掘り下げ、現代のメディア環境においてマスメディアが改めて担うべき役割の提唱など、単なる教科書的記述に留まらない射程を持っている。

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著者プロフィール

稲増一憲
1981(昭和56)年東京都生まれ. 東京大学文学部卒業. 同大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学. 博士(社会心理学). 武蔵大学社会学部助教, 関西学院大学社会学部准教授を経て, 2018年より同大学社会学部教授. 単著に『政治を語るフレーム』(東京大学出版会, 2015), 共著に『新版アクセス日本政治論』(平野浩・河野勝編, 日本経済評論社, 2011), 『政治のリアリティと社会心理』(池田謙一編, 木鐸社, 2007)などがある.

「2022年 『マスメディアとは何か 「影響力」の正体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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