日本共産党-「革命」を夢見た100年 (中公新書 2695)

著者 :
  • 中央公論新社
4.08
  • (29)
  • (25)
  • (15)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 417
感想 : 34
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026958

作品紹介・あらすじ

戦前から高度成長期にかけて多くの若者や知識人を惹きつけ、巨大な政治的磁場を作った日本共産党。東欧革命・ソ連崩壊などで深刻な打撃を受けたが、しぶとく生き残り、近年、野党共闘による政権交代を目標に据える。政権を担える事実上の社会民主主義政党になったのか、今なお暴力革命を狙っているのか。本書は、一貫して「革命」を目指しつつも大きく変化した百年の歴史を追い、国際比較と現状分析を交え同党の全貌を描く。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 自民党や公明党の分析で定評のある政治学者による日本共産党研究。国際比較と歴史研究を併用しつつ明らかにしたのが、1961年に確立された宮本顕治路線の独自性である。それは、ソ連・中国からの自立性の徹底的な追求や、時代状況に合わせた政策メニューの提供といった「柔軟性」を与えたと同時に、革命という最終目標や中央集権的な党内運営(民主集中制)の堅持という点では、「教条性」を併せ持つものであった。そして、この宮本路線が、現在も日本共産党の方向性を大きく規定している。

    事実、宮本路線の下、日本共産党は1960~70年代に大きく伸長する。中野重治らの除名といった組織分裂にも関わらず勢力を拡大していく過程を、本書は躍動的に描いている。そして、その後、停滞しつつも、ソ連崩壊や天安門事件にも耐えられるだけの力量が、日本共産党には備わっていた。これも、宮本路線の成果である。

    とはいえ、さすがの宮本路線も賞味期限切れでは、というのが、筆者の結論であり、本書の濃密な議論が、その説得力を支えている。本書の帯には「100年の軌跡」とあるが、日本共産党が本書のような議論にどう応えられるのかによって、そのこれからの軌跡は大きく変わってくるのではないだろうか。

  • 日本共産党の歴史を現在に至るまで解説した本。

    政治的スタンスに関係なく、現在の共産党に至るまでの道筋を詳述した本なので単純に面白い。

    【すごくざっくりのまとめ】
    戦前の結成当初は、当然のことながらかなり弾圧を受けました。
    戦後、民主化により合法性を獲得したが、ソ連崩壊などの情勢変化により政治的スタンスを変えていく。(天皇制の打倒→対米従属の打破。憲法の評価など)
    そして現在の姿に至る、ということ。

    【もう少し詳述】
    もう少し、日本共産党の特質について詳述すると。
    ①二段階革命論
     国民の多数の支持を得て国会で安定した過半数を占めることによって平和的に社会主義・共産主義に移行することを目指している。
     まず、民主主義革命を目指すが、何に対する革命か?というと、当初は天皇制だったが、戦後はアメリカ占領からの解放。現在は、日米安保条約や、大企業や資本からの解放へと移り変わっている。また、社会主義革命も、当初は民主主義革命から連続的に社会主義革命に至る道筋を描いていたが、現在はその連続性は綱領から削除されている。(ソ連崩壊によって、目指すべき社会主義の姿が不明瞭になっている。)
    ②民主集中制
     中央集権的な性格。
     確かに現在は、間口を広げてサポーター制度も取り入れているが、党運営に関することについては、中央で集中的に決めている。これは共産党独特の路線。(逆に言うと、これは近代政党にあるべき姿かという批判もある)
    ③自主独立路線
     当初は、ソ連・中国共産党とも関わりを持ち、資金援助なども受けていた。しかしながら、ソ連と中国の対立及び中国の急進化により、関係を断絶。日本国民の支持を得て大衆的な党組織を建設する必要が出てきて、自主独立路線に立った。

    そして、そうした特質を持つ中でも、党基盤の弱体化により、連合政権樹立に積極的な姿勢を見せている。ただ、そこには、自民公明のような綿密な連合政権を作り上げるには至らない、様々な課題が存在する。(外交安全保障へのスタンス・民主党系の支持基盤の連合からは敵視されている・共産党に議席的なメリットがない)

    【印象に残った感想的なもの】
    共産党は、綱領で政治的スタンスを定めているのだが、過去の綱領と、理論上は矛盾しないように政治的スタンスを定める必要が在るということ。例えば、共産主義を掲げているが、実際革命は実現不可能。そうした中で、どのように「共産主義革命」を掲げるのか。

    もう一つが、理想と現実のはざまに立たされているということ。共産党は、暫定政権樹立に注力しているが、そこで問題になるのが外交安全保障政策。日米安保の廃止と、国際情勢や国民の合意という条件つきながらの自衛隊の廃止を掲げている中、どう政権参加するのか。そこで、それらの主張を留保、凍結することを主張している。要するに、現状維持するが、改悪は認めないという立場である。しかし、それはリアリティを欠く。そうした落としどころを、どのように探っていくのか、という課題がある。

    【論点】
    また、この本の中では、筆者は、共産党の今後の路線の選択肢として、社会民主主義政党(現代資本主義を肯定する、少し右に寄った立場)あるいは民主社会主義政党(ニューレフトに支持されるような政策を持つ政党)を提案している。そうした選択肢もなきにしもあらずだろう。

    しかし、「日本共産党」というと、勝手なイメージをすると、最左翼というイメージがある。それで支持されている経緯もある中で、安易に「政党名」を捨て去るわけにはいかないだろう。逆に、右に寄った結果、さらに左に入り込まれる隙もあるのではないか。あるいは分裂の危険性もあるのではないか。

    また、前者を選ぶにしても、社会党・社民党がなぜ失敗したのかを学ぶ必要が在る。
    そうしなければ、二の舞になるし、立憲民主党とのすみわけも必要である。そうなると、後者の方が、「日本共産党」=最左翼としての位置を維持したまま、転換することが可能のように思える。ただ、そうなった場合に野党連合はどうするのか、という課題もあるだろう。

  •  立花隆『日本共産党の研究』を読んだのは随分前のことになるが、3.15や4.16における大量検挙、武装共産党から非常時共産党、そしてスパイリンチ事件と、戦前の共産党が弾圧により党としては壊滅していた史実は大体記憶に残っていた。

     本書は結党から100年になる共産党について、その歴史を辿りつつ、現在の活動状況や組織の現状を具体的に紹介するものである。
     戦後の共産党については、個人的には、1950年のコミンフォルム批判から所感派と国際派の分裂、対立、幹部の地下潜航、山村工作隊等による武装闘争、そして55年の六全協による武装闘争方針の放棄、この辺りまでが関心範囲であった。本書で一連の流れが掴めたし、ソ連、中国等の影響がいかに大きかったかも、良く分かった。

     「第3章 宮本路線と躍進の時代」以降の記述は、これまであまり類書もないのではないかと思われるし、信頼し得る資料やデータに基づく客観的な分析が行われており、大変勉強になった。当事者たる共産党の党史では不都合なことはあまり書かれないし、対立する者たちの記述はあまりにバイアスがかかっていそうなので、そうした意味からも本書は、政治学者の書いた一般書として貴重なものだと思う。

     共産党と言うと、“敵の出方論“や民主集中制が問題視されるが、著者は、最近に至る綱領・規約の改正の推移や内容を詳しく記述する。ソ連の崩壊等共産主義に対する逆風があっても、日本共産党の硬い態度がいかがなものかと思われたが、そうした環境の変化に一定程度対応しようとしていることなども、本書により知ることができた。

     また、本書では、共産党の野党共闘に対する考え方や実際のアプローチについてもかなりの分量が割かれている。(“民主連合政府“とか、懐かしい言葉だ。)
     最近の野党間の選挙協力に関する記述もあるが、小選挙区制などの選挙制度が非常に大きく議席数に影響してしまうし、共産党にとってはあまりメリットがないので、これは難しい問題だ。

     最後に、「弱体化する党組織とこれから」として、党員・機関紙の減少と高齢化、逼迫する党財政の現状がデータと共に紹介される。こうすれば良いという確かな道が見えている訳ではない。「共産党はどのような道を歩んでいくのか」との問いかけをもって、本書は終わる。

     

  • 勉強になった。よくいる反共学者でも御用学者でもない筆者の精緻な分析に学ぶところが多い。
    一貫して日本共産党を支持してきたが、金カネカネの世の中でここまで国民のために力を尽くしてきた人々に心からエールを送りたい。
    いろいろあっても歴史は前に進むものだと思えた。

  • 一貫して「革命」を目指しつつも大きく変化した日本共産党の100年の歴史を追い、国際比較と現状分析を交え、同党の全貌を描く。
    日本共産党の歴史が詳細かつ実証的に分析されており、日本共産党を理解するに当たって必読の書だといえる。
    日本共産党が時代ごとに大きく方針等を変えてきたということ、特に1955年以降、民族民主革命論に基づく平和革命路線と自主独立路線などを内容とする宮本路線が定着したということがよく理解できた。
    一部で言われているいまだに武力革命を目指しているとか、天皇制や自衛隊を完全否定しているというような日本共産党批判が的を射ていないということもよくわかった。
    一方で、いつの時代も、民主集中制により派閥(分派)の存在を許さないという方針は堅持されており、党内抗争、あるいは分立、粛清が常に起こっていたということも事実である。そこが日本共産党が人々になかなか受け入れられない最大のネックになっていると思う。
    著者の師である塩川伸明氏が共産主義(社会主義)について、「『負けたのは特定の社会主義にすぎない』という人は、往々にして、『社会主義Aは失敗したが、社会主義Bはまだ試されていない』という風に考えがちである。だが、それは社会主義の歴史を踏まえない見方である。1950年代半ばのスターリン批判以降、さまざまな国でさまざまな仕方でスターリン型社会主義からの脱却の試みが30年以上もの間続いてきたことを思えば、問題は、『社会主義Aも、社会主義Bも、社会主義Cも、社会主義Dも、社会主義Eも……失敗した後に、なおかつ社会主義Xの可能性を言えるか』という風にたてられねばならない。そして、これだけ挫折の例が繰り返されれば、もはや望みは一般的にないだろうと考えるのが帰納論理である」、また、「『真の(社会主義)』という言葉を使うのは慎重であった方がいい」と書いて(言って)いたことが紹介されているが、心に留め置くべき言説だと思われる。
    なお、日本共産党が部落解放同盟と敵対している背景など、もう少し詳しく知りたいと思う部分もあった。

  • 非常に読みごたえがあった。学者らしく、事実に基づいた筆致には感銘を受けた。ただ政治には感情も伴うので、完全な客観性はないと思う。世界の共産党が衰退している中で、したたかに生き悔いてきた日本共産党は原理的でありながら、時の情勢に応じた現実性もあったから生き延びてきたと思う。ただ現在の内部状況(大衆組織の弱体化や高齢化の事だが)を、どう生き延びるかは、これまでの経験だけでは乗り切れない。100年ということで様々な意見も出ているが、外部の意見も取り入れながら開かれた組織が生き延びると思う。公式100年史と並行して読むとより面白かった。

  • 昨年結党から100年を迎えた日本共産党100年の歴史。日本共産党に関しては立花隆『日本共産党の研究』(1978)が有名、かつ面白いことは言うまでもない。しかし、本書も負けず劣らず読み応えがあって面白かった。何よりも1980年代以降の分析が加わっている(アフガン侵攻、天安門事件、ソ連崩壊など)ので国際情勢が大きく変化していった1980年代以降、日本共産党が変わった部分、変わらない部分、両方含めてそのスタンスがよくわかる。

    著者は1968年生まれなので、自分より7つ年下だが大学に入った頃にキャンパスには「民青」の方たちが大勢いたのを目の当たりにしているなどという経験は共有している。本書には書かれていないが、ポスト志位の有力候補と言われる田村智子日本共産党中央委員会政策委員会責任者(政策委員長)は早稲田の後輩。いたいけな(?)彼女は学費スライド制導入反対運動を契機に民青の先輩に「勉強会」に誘われてその後日本共産党に入党したのだとか……。彼女が新入生のとき、私は4年生であったのと、早稲田では比較的セクトの影響力が弱かった政治経済学部との差があったのかなと思ったりもした(本書によると1980年代が民青の規模がもっとも大きかったとのこと)。

    著者は最後の「日本共産党はどこに向かうのか」で、今後取り得る二つの選択肢について予想している(pp.401-2)。私も社会民主主義的な方向よりも障害が少ない「民主的社会主義」(共産主義の看板を下ろさずにさまざまな反資本主義、反新自由主義、脱原発、ジェンダー平等、エコロジー、草の根民主主義などニューレフト的な要素を取り込みながら進む方向)に行くとは思うが、そうするとますます現実の政権を担う党にはなりにくうなるのだろうと思う。

    追記:2024/1/18、日本共産党の新委員長に田村智子氏が選出された。

  • 【請求記号:315 ナ】

  • Wikipediaより正確で、学術書より読みやすい。戦前の非合法な時代から、90年代以降の小選挙区制導入や党員高齢化の苦しい時代まで、現在の課題も踏まえて俯瞰した一冊。内容について志位委員長が批判したようだが、どこがおかしく問題なのかさっぱりわからん。

  • ふむ

全34件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一橋大学大学院社会学研究科教授。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程中途退学。博士(法学)(東京大学)。大阪市立大学法学部助教授、立教大学法学部教授などを経て、2011年より現職。専門は日本政治外交史、現代日本政治論。
著書に、『現代日本の政党デモクラシー』(岩波新書、2012年)、『自民党政治の変容』(NHKブックス、2014年)、『自民党──「一強」の実像』(中公新書、2017年)、『自公政権とは何か』(ちくま新書、2019年)、『日本共産党』(中公新書、2022年)など。

「2022年 『選択的夫婦別姓は、なぜ実現しないのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中北浩爾の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×