南極の氷に何が起きているか-気候変動と氷床の科学 (中公新書, 2672)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026729

作品紹介・あらすじ

温暖化がもたらした「地球最大の氷」の異変。大規模な氷床融解は現実に起きているのか。「氷の大陸」が水と化したとき、海面上昇が私たちの暮らしに与える影響は。現地調査と最先端科学から、謎多き南極のリアルに迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    結局のところ、南極の氷は融けているのか?温暖化で夏の気温が上がれば、逆に冬に雪がたくさん降るようになり、氷は増えるのではないか?
    地球温暖化をめぐる議論は、温暖化の影響は「小さい/大きい」といった説から、そもそも「温暖化している/寒冷化している」という根本の前提から食い違う説もあり、いまいち正しい方向が見えてこない。

    結論から言うと、地球は人間活動によって確実に温暖化している。そして、南極の氷が失われるスピードは増加している。ただし、「地球の気温が上昇しているから、その熱で氷が融けている」わけではない。そもそも南極は夏でも平均気温が0度を下回るため、多少暑くなっても氷が融け出していくわけではない。よくテレビで氷河が海に落下していく映像が流れているが、あれは「暖かくなって融けたから」とは微妙に違う理由がある。

    氷が減る理由は、氷の「流出」が増えているからだ。南極の氷床は、地面の上に雪が降り重なって、その重みで圧縮されて氷へと変化することで出来ている。雪は融けないため氷の重さはどんどん増していくのだが、そのうち自重を支えきれずに、川のように斜面を滑り落ちていく。それが南極大陸から周りの海へと落ちることで、海に淡水が流入し、海水面が上がる。南極最大の氷流出量を持つパインアイランド氷河が流れる速度は、1996~2007年の11年間で40パーセントも速くなっているという。
    また、棚氷の底面融解も進んでいる。棚氷とは、陸上の氷床が海に押し出され、陸上から連結して洋上にある氷のことを指す。棚氷は海に張り出しているため、表面は大気に、底面は海水に触れている。大気がマイナス数十度まで冷え込んでいる一方で、海水は液体なのでそれほど冷たくなることはなく、水と接する層で氷が融けている。温暖化によって海水の温度が上昇すれば、底面融解がどんどん進行していく、というわけだ。

    地球温暖化の影響を測るのは極めて難しい。南極大陸の氷の変化が詳細に判明し始めたのは、近年になって観測技術が発達したことで、氷内部と地中部分の精密なデータが取れるようになったのが一因である。ただし、これはあくまで「南極大陸の氷」という局地に対する影響が分かるようになっただけであり、地球全体にどのように連鎖していくかは、依然不明瞭である。南極の氷は気温上昇によって融けないとは言うが、「北極」は気温の影響をモロに受ける。ただし、北極は海上に浮かぶ氷のため、融けたとしても海面上昇に影響はない。一方で、ヒマラヤ山脈などにある山岳氷河が融けて海に流れ込めば、海面上昇が起こる。まだまだ未知数なところは多いが、「温暖化によって地球の氷は多大な影響を受けている」というのは間違いない。それを改めて学ぶことのできる一冊だった。

    ―――――――――――――――――――――――――――――
    【まとめ】
    1 南極の氷は減っている?増えている?
    2001年に出版された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3次評価報告書では、今後の気温上昇にともなって降雪量が増え、氷が増加して海水準の上昇を抑える可能性が記されている。しかし、それから20年後、2021年に公開されたIPCC第6次評価報告書では、南極で失われる水が主要因となって、21世紀末までに海水準が2メートル近く上昇する可能性も否定できない、という予測に改められた。
    これまでの研究が何か間違っていたのだろうか?
    そうではない。21世紀に入ってから南極を観測する技術が飛躍的に向上して、それまでわからないことが多かった氷床の研究に大きな進歩をもたらしたのである。実際この分野では、10年前の教科書は古くてとても使えない。
    最大の異変は、氷と海の境界で起きている。海によって融かされる水の量が増加し、海へと切り離される氷山の量が増えた結果、南極の氷が急速に減少していることが明らかになった。


    2 現在の氷河と氷床について
    南極に氷床が成長した最大の理由は、降って溜まる雪の量が、融けてなくなる量よりも多かったからだ。毎年の残雪がどんどん積み重なって、やがて雪が氷になる。雪が氷になるには数百年から数千年の時間が必要だ。氷が十分に厚くなれば、自らの重みでゆっくりと斜面に沿って流れ出し、標高の低い地域へと広がる。これが「氷河」である。
    標高が高い地域で溜まっていく雪は徐々に圧縮されて氷へと変化する。このように氷が形成される地域は、氷河の「涵養域」と呼ばれる。十分な厚さを持った氷は低い標高へゆっくりと流れ、氷が失われる「消耗域」まで何十年もかけて移動する。涵養域に溜まる雪の量と、消耗域で失われる氷の量がバランスしていれば、氷河の大きさは変化しない。言い換えれば、涵養域で溜まりすぎた水が消耗域に「流動」し、失われることで、氷河は気候に合わせた大きさを保っているのである。
    1年間に涵養域に溜まる雪の量(涵養量)から、消耗域で失われる水の量(消耗量)を引いた量を「質量収支」と呼ぶ。

    氷河のうち規模の大きなもので、現在の地球では南極とグリーンランドに存在するものが「氷床」である。
    南極氷床が抱える氷は2450万ギガトンであり、日本で年間に消費される生活水(13ギガトン)の200万年分だ。南極の氷が全て融けて海に流れ込めば、世界の海水面が53.8メートル上昇する。また、地球に存在する淡水の約70パーセントが氷として氷河・氷床に蓄えられており、地球の淡水は6割以上が氷床として南極に固定されている。

    実は、南極にはあまり雪が降らない。1年間に降る雪の量は水に換算して約180ミリメートル。砂漠並みに乾燥している気候である。雨が降らない理由は、低温の空気中に含まれる水分が少なく、かつ南極は安定した高気圧に覆われていることが多いからだ。
    一方で、夏には沿岸部で0度近くまで気温が上がるため、わずかに表面融解が起きる。しかしながら、この融解量は雪が積もる量に対して非常に小さく、氷床全体で見れば、融解は積雪のせいぜい3パーセントにすぎない。また融け水の多くは雪にしみ込んで再び凍りついてしまうため、ほとんど氷床から流れ出ることはない。つまり氷床の質量収支を考える上で、融解による消耗はほとんど影響がないのである。

    では南極氷床ではどのように氷が失われているのか。
    1つ目は「カービング」だ。これは棚氷(海に張り出した氷床)から氷山が分離する現象である。氷は標高に沿って内陸域から沿岸へと川のように移動し、場所によっては数キロメートル以上氷が移動している。
    2つ目は棚氷の底面融解だ。氷床の表面と接する大気がマイナス数十度まで冷え込んでいる一方で、海水は液体なのでそれほど冷たくなることはない。棚氷と海水が接する層で氷が融けているのだ。


    3 崩壊する棚氷、加速する氷河
    2019年にIPCCが公表した「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書」によれば、1992年から2016年までの24年間に、南極米床は2500ギガトンの氷を失っている。南極氷床全体の1万分の1だ。加えて、氷が失われる速度も近年加速しており、グリーンランド氷床は、その9倍の氷を抱える南極よりも消失スピードが早いことが分かっている。

    近年急速に氷が失われている理由はなにか。
    原因としてまず思いつくのは温暖化だ。特に南極半島では南半球で最も急激な温暖化が観測されており、20世紀後半には、10年間あたり0.3度に達する気温上昇が観測された。しかしながら、もともと気温の低い南極では、この程度の気温上昇で氷が融け始める地域は限られており、積雪量は対照的に過去100年の間に増えている。また広大な面積を抱える東南極では、過去数十年間に目立った気温変化は観測されていない。
    同じ極域でも、世界で最も温暖化が激しい北極とは対照的に、南極の温暖化傾向ははっきりしていないのだ。結論をいえば、気温上昇による表面融解は、南極における近年の氷床変動の直接的な要因ではない。

    氷が失われている原因は、氷の「流出」が増えているからだ。南極最大の氷流出量を持つパインアイランド氷河が流れる速度は、1996-2007年の11年間で40パーセントも速くなっている。ほか、西南極と南極半島のいくつもの氷河において、同じ傾向が報じられている。
    氷河の加速と同時に、氷河が流れ出した先にある棚氷が変動している。1992~1996年のあいだに水が15メートル薄くなり、接地線が5キロメートルも後退していたのだ。棚氷が薄く小さくなれば、内陸から押し寄せる氷水の流れを押しとどめる効果が減少する。棚氷に抑えられていた力が弱くなり、氷河の流動が加速する可能性がある。
    また、接地線の後退は、氷河の一部が大陸から離れて浮いてしまうことを意味する。それまで接触していた基盤から受ける摩擦が無くなり、支えを失ってより自由になった水は、やはり加速するだろう。

    南極半島の棚氷はすでに20世紀のうちから縮小傾向にあり、半島のあちこちで棚氷の面積が減少していた。ラーセンB棚氷の崩壊に先立つ1995年、そのすぐ北側に位置するラーセンA棚水が、数週間のうちに半分以上の面積を失った。これは人類が初めて目にした大規模な棚氷崩壊イベントであった。これに続いて発生したラーセンB棚氷の崩壊はそれ以上の規模で、人工衛星によって鮮明に捉えられた衝撃的な画像が世界を驚かせた。さらに2008年には、半島の反対側(西側)に張り出したウィルキンス棚氷でも大きな崩壊が起きている。ラーセンB棚氷が崩壊した後で、氷の速度が2~3倍に増加した。中には10倍近く加速した氷河もある。同時に氷の減少を示す標高低下が観測され、崩壊から1年の間に失われた氷は厚さ50メートルにも達している。

    棚氷は、海洋の温暖化と循環の変化によって、底面融解を起こしている。その結果、棚氷が薄くなって接地線が後退し、内陸の氷を押し留める力が弱くなっているのだ。


    4 南極の氷の変化がもたらすもの
    ●海水準上昇
    2004~2010年に生じた海水準上昇の約半分が、氷河、氷床の融解だ。しかし、実は南極氷床の影響は15パーセント程度しかなく、残り85パーセントを、グリーンランド氷床と山岳氷河が半分ずつ占めている。ヒマラヤ、アラスカ、パタゴニア、北極圏の各地などに分布する山岳氷河は、温暖化の影響を強く受けて急速に縮小している。またグリーンランド氷床も、21世紀に入って急激に氷を失っており、海水準への影響は南極水床の約3倍である。
    もし南極の氷が完全に融解すれば、海水準が50メートル上昇する。その場合は日本の国土の17パーセントが海に沈む。

    ●海洋大循環の停滞
    氷床からは常に淡水が流出しており、どこから、どれだけの淡水が海に入ってくるか、その加減が海水の性質を変えて海洋循環にインパクトを与える。海洋のベルトコンベアとも呼ばれるこの流れはゆっくりとしたもので、流れる速さは毎秒1センチメートル程度。ぐるっと地球をひと回りするのに、1000〜2000年という長い時間がかかる。
    海水の塩分は氷床から流れ込む淡水量によって変化し、塩分が薄まれば海水の密度が低くなって軽くなるため、海流が海底に沈み込みづらくなり、循環が弱まる。沈み込みが起きなければ、メキシコ湾流などの北上する表層の流れが滞って熱の輸送が止まり、大西洋の北部は急速に寒冷化する。


    5 これから何が起きるのか
    氷コアから南極の大気を復元すると、南極の気温は10万年ごとに最大10度上下していることがわかる。二酸化炭素濃度を調べると、気温が高いときには濃度が高く、低いときには濃度も下がっている。海水準は、温かいときに高くなっている。

    今後のシナリオは、研究グループが示したモデルによって幅がある。下記がその一例だ。
    ・気温の上昇によって降雪が増え、氷床の涵養量は増加する。
    ・カービングによる消耗は、1年スケールで上下にふらつきながらも、今後100年はゆっくりと減少傾向にある。降雪が増えて、流出する氷山が減る。
    ・氷の底面融解が加速する。1900年には年間約500ギガトンだった融解量は2000年までゆっくりと増加した後、今後100年間で5000ギガトンまで急増すると予測されている。
    ・結果、2100年の氷床質量は7.5ミリメートルマイナスとなり、現在の40倍近くまで跳ね上がる。
    ・温室効果ガスが今後も制限なしで排出される場合、21世紀末には海水準が84センチメートル、不確定幅を見込めば最大1.1メートル上がる。

    現在の空気に含まれる二酸化炭素の濃度は、過去200万年のあいだ記録されたことのない高い値を示している。気温は、6500年前に起きた温暖化イベントを超えており、今と同じぐらい気温の高い時期を探すには、12万5000年前までさかのぼる必要がある。北極海の氷は過去1000年にわたって例のないほど小さくなっており、氷河は過去2000年で最大のスピードで縮小している。

    実は、南極の氷の変動予測はだいぶ不確定要素が多い。氷床の涵養をつかさどる降雪量や棚氷を融かす海水温を正確に予測することは難しい。また、南極における観測はまだまだ不完全で、氷の流動、棚氷の底面融解、カービング、融け水による棚氷の崩壊、といった重要な物理プロセスが十分に解明されていない。さらに、氷床の底面地形や地殻熱流量など、モデルの基本条件となる情報がまだまだ不足している。
    しかしながら、温室効果ガスだけは、将来の気候変動を確実に左右するということがわかっている。現在の地球の二酸化炭素濃度が急増した時期が産業革命期にあたること、地球の寒冷化が阻害されたタイミングがちょうどその時期と合致し、自然周期ではないのが明らかであること。二酸化炭素濃度の変化そのものは予測しづらいが、人間の活動が地球の大気に多大な影響を与えているのは、疑いの余地がない。地球システムに対する科学的理解の向上と、人類活動に対する適切な将来構想が、将来の地球環境をコントロールする両輪となる。研究者のさらなる努力と、社会の行動が求められているのだ。

  • 南極の観測技術が飛躍的に向上した事で、温暖化の影響で、氷が融けて海水準が上がるという予測に変化した。この分野は10年前の教科書では古いのだという。昔より正確に予測ができるようになったという事は、つまり、それだけ脅威が現実味を帯びるという事でもある。本書には、海水準が上がった際の日本地図が載せられる。ドキリとしながら、読む。

    融ける量より降る量が多いから積み重なる。氷になり、それが十分に厚くなる事で自らの重みで流れ出す。氷の涵養と消耗のバランスによるのだという。考えてみれば当たり前の事かとも思うが、現象や影響をよくわかっていない。その点を、本書が明確に解説してくれる。南極の平均降水量は砂漠並み。ごく稀にやってくる低気圧が齎す降雪と、少量だが頻繁に降るダイヤモンドダストにより涵養される。棚氷は既に海水内部のものなので、それが融解しても海水準は変化しない。しかし、棚氷崩壊に続いて氷床から海への氷流出が増加する点が問題である。また、棚氷の底面融解による海水塩分の減少。これにより塩分が薄まれば、海水の密度が下がって沈み込みが弱まる。南極沿岸における海水の沈みこみが温暖化する大気の熱を海中へ運び、二酸化炭素の吸収も行っている。こうした海洋循環に影響が出れば、気温の上昇がする危険性がある。「陸上にある氷の海への流出」と「塩分が薄まる事での海洋循環の影響」のダブルパンチで、水面上昇が懸念される。

    更に細かく、信頼性を高めるような予測データの話。現在の気温を19世紀と比較すると、温室効果ガスの増加によって1.5度温暖化している。またその一方で、大気汚染によって空気中に微粒子が増え、太陽光が遮られるようになったため、気温が0.4度低下したこともわかっている。太陽活動や火山噴火といった自然要因の気温変化は±0.1度。差し引き1.1度が人間活動による気温上昇と言える。太陽光の遮断や太陽活動までシミュレーションした上で、尚、温暖化するというのだ。

    緻密ゆえ、不安が高まる。グリーンランド氷床と山岳氷河は21世紀の温暖化によって致命的な融解が予想されており、修正は困難。一方で、南極氷床は2100年まで融解量は比較的小さい。360ギガトンの水で海水面1mm上昇。南極からは、毎年100ギガトン程度の氷が減っています。ちなみに、日本で消費される生活水は年間約13ギガトン。

    正直、地球温暖化はエネルギー政策の陰謀論的な側面もあるのだろうと楽観視していた面もあるのだが、本書を読むと、深刻さが増す。勉強になり、不安にもなった。

  • まず冒頭驚いたのは、この地球上に存在する水の殆どが南極に氷として閉じ込められている事。

    日本人が一年間に使う水のおよそ200万年分もあるらしい。

    異常気象が言われて久しいが、筆者はイタズラにそれを煽ることもなく、どちらかというと淡々と、観測データに基づき今南極に起きていることを分析し記述している。分かりやすく書いてありその姿勢には好感が持てる。

    気の遠くなるような年月の中での気象循環が、残念ながら人間活動によって歪められているのはほぼ間違いないが、それを止める有効な手段が見出せないのが今の世界である。
    南極の氷にほんとに大きな異変が起きてからでは、その対策は全くの手遅れになるだろう。政治の世界と科学の世界が手を結び、なんとかせんといけないと再確認した。

  • 複雑系でいろいろな相互作用があり、単純に温暖化だから氷が溶けて。。。という単純なものではないようだ。しかし、種々の観測から人類の活動によりその変化は加速していることは確実である。科学的知見の蓄積に邁進する観測隊員に感謝。

  • 南極にある巨大な氷(正確には氷床)の事は、温暖化に絡んでニュースにも登場しますが、その実像はあまり知られていません。本書は南極の氷床を研究する筆者による分かり易い、かつ非常に内容に富んだ南極の氷床に関する新書です。
    南極に存在する巨大な氷を氷床と呼びますが、そのスケール感は想像以上に巨大です。1辺の長さ1㎞の立方体の水の重さが1ギガトン(1000000000トン!10憶トンですね)となるのですが、この単位を使うと日本全土で1年間に降る降水量が640ギガトン、日本全国で使用される生活用水の総量は13ギガトンとなります。南極氷床の総量は約2540万ギガトンで、日本全国の降水量の約4万年分、生活用水の約200万年分という途方もない量です。そして地球上にある氷(ヒマラヤ山脈などの山岳氷河なども含む)の約90%が南極に存在しています。この規模ですから、南極に存在する氷が全て溶けたら、海水面が世界全体で約50m!上昇するというのも理解できます。
    これ程まで巨大なスケール感であることを分かり易い例を挙げて紹介され、そして次に本書で触れられるのが温暖化、気候変動と南極氷床との関係です。南極では21世紀に入って平均して100ギガトンの氷が失われているそうです。100ギガトンというのが相当な量であるというのが先の例からもわかると思いますが、それでも南極の氷床全体から比較すると25万分の1です。これを”たった25万分の1”と捉えては非常に危険だという根拠が、本書後半で解説されています。詳細は本書をご覧いただきたいのですが、地球の気温が数度上昇しても南極の気温が氷の融点を超えることはなく、氷が融解する効果よりも温暖化した熱を海洋が取り込み、暖かくなった海洋にため込まれた熱によって南極の氷床が氷山となって流出する効果が非常に大きくなるとの事でした。
    温暖化、気候変動について非常に大きな影響力を持つ南極氷床について、読者の興味をうまく引き出している1冊だと思います。難解な理論や表現も少なく、大変読みやすい印象でした。

  • 温暖化がもたらす「地球最大の氷」の異変。氷床融解が海水準上昇に与える影響は。現地調査と最新科学から“氷の大陸”の実態に迫る。

  • SDGs|目標13 気候変動に具体的な対策を|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/769271

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 本書の口絵にある南極の図は見知ったものと全く異なり、驚いた。氷床と呼ばれる氷を取り払うと半島と島の連なりのようだ。それだけ膨大な氷が南極を形作っていることがわかる。
    本書はその氷床研究の最先端を追った本。氷床の仕組み、温暖化による氷床の異変、氷床の変化がもたらす地球環境への影響など、中身は確かに難しいが、図表が豊富で、研究手法の解説とともに順を追って進んでいけば、特段の知見がなくても読み進めることができた。科学出版賞受賞というのもうなずける。

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著者プロフィール

1969年愛知県生まれ. 博士(地球環境科学). 93年大阪大学基礎工学研究科修士課程修了. 93~97年, 信越化学工業で光通信用デバイスの研究開発に従事. 97年より2年間, 青年海外協力隊に参加し, ザンビア共和国の高等学校で理数科教員をつとめる. 2003年北海道大学地球環境科学研究科博士課程修了. スイス連邦工科大学研究員, 北海道大学低温科学研究所講師, 同准教授を経て, 17年より同教授. 南極や北極, パタゴニア等で大規模な氷床・氷河の調査を主導. 共著に『なぞの宝庫・南極大陸』(技術評論社, 2008), 『低温科学便覧』(丸善出版, 2015), 『低温環境の科学事典』(朝倉書店, 2016)など.

「2021年 『南極の氷に何が起きているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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