古代中国の24時間-秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書 2669)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026699

作品紹介・あらすじ

始皇帝、項羽と劉邦、武帝ら英雄が活躍した中国の秦漢時代。今から二千年前の人々は毎日朝から晩まで、どんな日常生活を送っていたのだろう? 気鋭の中国史家が史料を読み込み、考古学も参照しながら、服装、食事から宴会、セックス、子育ての様子までその実像を丸裸に。口臭にうるさく、女性たちはイケメンに熱狂し、酒に溺れ、貪欲に性を愉しみ……驚きに満ちながら、現代の我々とも通じる古代人の姿を知れば、歴史がますます愉しくなる。

感想・レビュー・書評

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  • 大変興味深い本であった。著者も述べているように、類例のない歴史書である。中国秦漢時代の無名の民を対象にして、衣食住ほか全ての日常生活を1日24時間に沿って叙述した本は、西洋ローマ帝国に関しては類書はあるが、中国歴史書には無いという。

    私自身の問題意識から言えば、日本の弥生時代後期の人々が中国に旅したならばどのような衝撃を覚えるのか?という事を想像させるものであった。つまり、57年に奴国の使者が洛陽に赴いて後漢の初代皇帝である光武帝から印綬を授けられた時(倭奴国王印)。また、107年の帥升らが160人の奴隷を安帝に献上した時。そして、239年、卑弥呼が魏に朝貢して「親魏倭王」が刻まれた金印と銅鏡を授かった時。その時の彼らの驚きをありありと想像する。私自身も、知識としては知っていたにせよ、竪穴式住居に住んでいない「平民」が、本当にいたのかなかなか信じられなかったし、数万の官吏(サラリーマン?)が存在し、貨幣で物買いしている姿、夕方から居酒屋みたいな所で飲み食いしている姿は簡単に頭に入ってこない。それって日本の江戸時代の姿じゃないか。

    以下、私の備忘録である。

    ・前漢時代に既に水時計(漏刻)によって、太鼓によって朝を告げ、夜を告げる役人がいた。
    ・4月頃、洛陽では午前5時15分日の出なので、鶏の鳴く「鶏未鳴」「鶏鳴」は午前3時15分となる。儒学思想では、子はこの時より起き始めなければならない。
    ・歯ブラシはまだない。歯木や楊枝も無く、起床時と食後に口をすすぐのみ。虫歯はあったが、アワ食のせいか、あまり居なかった。口臭予防の薬はあった。
    ・後漢の農民の服装は、一張羅の麻の長着、冬は綿入れと袴と思われるが、明器像を見ると、着物に衿があり靴を履いている。ヒゲも剃っている。夏はふんどしを使い、肌脱ぎも多かったようだ。
    ・美人の基準。涼しげな目、白い歯、白い腕、細いウエスト、ツルツルの肌、なだらかで細い眉、赤い唇、細い指、足がまっすぐで、豊かな黒髪。それらをバランスよく備えていること。現代美人とほぼ同じ
    ・化粧はいろいろ商品化。鏡台も手鏡も下級官吏は持っていた。←そういう意味では鏡をあれほど有り難かった倭国は、電子機器を初めて見たアフリカ原住民と同じ様な反応を示していたのを、中国使者は冷ややかに見ていたような気がする。
    ・食事は朝と夕2回が普通。黄河流域の主食はアワ、上等ではキビ、オオムギ。煮てから蒸し粒のまま食べる。アワは粉食でも(ラーメン、すいとん)。長江以南では米(ジャポニカ)。青銅器や土器で蒸して食べる。この頃既にカマドがある。おそらく日本より200年は早いし、明器(ミニチュア土器)を見る限りでは、明治のカマドと遜色ない。貧民の多くはネギやニラを鶏卵と共にニラ玉にしていた。あとはスープが一般的。
    ・調味料として「醤」(豆、肉、魚に塩麹香辛料を加えて)がある。他に「鼓」(豆に塩を入れて発酵)などがある。前漢中期以降にニンニクもある。
    ・食器。庶民は木器、竹器、土器、瓦器を用い箸、スプーン、フォーク(後に廃れる)を使った。食事中は正座が一般的。室内ではクツを脱いでいた。
    ・中原地域の建物は四合院(中庭がある建て方)が一般的。防御機能と防砂機能があった。住居の壁は、版築、日干しレンガ、石積、焼成レンガ。版築が最もポピュラー。←柱を建て木造で土壁を作る日本とは、ここで大きな差が出る。
    ・村の大きさはおおよそ数十人から数百人。山奥には10戸ほどのムラがあったり、田畑のそばにポツンと一軒の四合院があり複数家族が暮らしている場合もある。
    ・イケメンとは、白い肌、瞳を輝かせ、美しい髭を持った男子をいう。ヨーロッパのブランドヘア、青い目、彫りの深い顔つきは肯定的に捉えられていない。ハゲや低身長、もしくは吃音などの障害があればよろしくなかった。
    ・市場は青空市場では無く、四壁に囲まれ、中央に警察署がある場所を作っている。せいぜい郷に一つしかない。←台湾や韓国の市場はこの方式がまだ残っている。
    ・華北の農業。雨水に頼る畑作。除草と間引きは全て手作業で大変だった。黄土は肥沃な土地では無く、常に耕作し施肥を続けて豊かな土壌に変えていった。
    ・南中国では特に多湿な地域では斜面を焼畑にしてイネを撒いた。
    ・家計を支えるもう一本の柱として綿織物業と桑栽培がある。(蚕の飼育は前漢には既に一般的)←日本はこの面で決定的に遅れたのではないか。
    ・牧畜は遊牧民のみの生業ではなかった。農業と兼業している者も多く存在していた。
    ・漢代に「胎産書」あり。男女の産み分け等非科学的記述もあるが、月経と受精の関係など科学的記述もある。
    ・夜空は人々にとって正しく異界であり、宇宙人がいると信じる者もいた。異界からの使者は青い衣をまとった子供、もしくは青い鳥であるとされることが多い。死者の魂は崑崙山を終着点とし、もしくはさらに天界へ向かう。崑崙山に西王母あり、青い鳥(もしくは3本足のカラス)を使役。太陽にはカラスが、月にはウサギとヒキガエルが住んでいるとみなされていた。当時でも批判はあったが、信じているものは多かった。260年に火星人と会ったという記録あり。

  • 古代やファンタジーの映画や小説を読んでいていつも疑問に思っていたことがある。現代のような衛生器具が揃った時代ではない頃は体臭や口臭がキツく、「百年の恋も冷めてしまう」状況ではなかったのではないかと。
    その答えを求めてこの本を読み出した。
    詳しくは本書を読んでいただきたいが、古代でもエチケットの意識はたしかにあったということ。案外2000年前でも現代と、あまり変わらない点も多かったらしい。

  • 古代中国で、人々がどう暮らしていたのか。
    膨大な資料から生活習慣に絞って集大成した十年がかりの労作。
    古代にタイムスリップして一日を過ごしてみたら?
    といった体裁でまとめられていて、ユーモアもあり、読みやすいです。

    秦や漢という大国がすでにあった頃、何百年にも及びますが、ほぼ紀元前という。
    ドラマでは現代感覚も加味してあるので、いや、ここまで豪勢じゃないでしょ、精巧じゃないでしょ?と思う面もあるけれど、既に多くの書物があり、法律があり、文化があったことも事実。
    で、日々の暮らしの実態は?

    皇帝は早朝に起き、えんえんと案件を審査する。
    朝起きたら口は漱ぐが、歯を磨くというところまではない。
    近年特定されたばかりの曹操の墓でわかったことでは、曹操はかなり歯が悪かったとか。
    ただ意外と虫歯がない人もいたようで、それは食事が現代と違い、虫歯ができにくい内容だったからだそうです。

    イケメンは採用されやすく、それというのも容姿は能力の内と考えられていたから。
    毛先を見せては生命力が吸い取られるという考えがあり、髪はまとめて小さなお団子にして留め、冠をかぶせるのが正装だった。
    名前を呼ぶのは君主か親ぐらいで、親しくない人が呼ぶのは非常に失礼に当たる。
    役職名か、字(あざな)で呼ぶのが普通だった、など。

    意外と現代に通じることも多く、生きる喜びは似たようなもの、同じ人間なのね~!と思いつつ、全く違う感覚もある。
    とても面白かったです☆

  • 古代中国、秦漢時代の人々の生活を一日24時間で再現する日常史。
    プロローグ-冒険の書を開く
    序章 古代中国を歩くまえに
    第1章 夜明けの風景  第2章 口をすすぎ、髪をととのえる
    第3章 身支度をととのえる  第4章 朝食をとる
    第5章 ムラや都市を歩く   第6章 役所にゆく
    第7章 市場で買い物を楽しむ 第8章 農作業の風景
    第9章 恋愛、結婚、そして子育て  第10章 宴会で酔っ払う
    第11章 歓楽街の悲喜こもごも
    第12章 身近な人びととのつながりとイザコザ
    第13章 寝る準備
    エピローグ-一日二四時間史への道
    注記・・・参考文献等、驚きの盛り沢山!
    約二千年前の古代中国での、人々の生活はどうだったのか?
    多くの文献史料と出土資料を活用し、一日24時間で再現する。
    24時間のそれぞれの時間帯での事柄を、タイムスリップした
    著者が、古代中国史の知識を駆使して、体験するという内容。
    夜明け前から寝るまでの、様々な仕事と営み。
    秦漢時代の様々な人々の生活を、衣食住から行動、身だしなみ、
    買い物、恋や結婚、子育て、家族問題、酔っ払いとトイレ、
    歓楽街と性愛等々、詳細に紐解かれています。
    虫歯や口臭、ハゲ、鬘。
    官吏や上流階級の女性のオシャレ願望。
    イケメンは出世の糸口であり、アイドルの如くの人気ぶり。
    二日酔いの悲喜こもごもや嫁姑の問題、離婚など、
    現代にも繋がるような事例もあるのが、面白い。
    しかし、職業や身分の違いや貧富の差での、衣食住の格差は、
    かなり大きい。奴隷の生活の悲惨さといったら・・・。
    あまりの情報量の多さに圧倒されつつも、知る愉しさに酔う。
    資料画像も、こんなものまで発掘されるのかと、驚くばかりです。

  • 長い歴史の記録がある中国。
    時間ごとの生活習慣や衣食住について知ることができる。
    容姿の良し悪しについても言い難いことまで書かれていてその辺りは今も昔も変わらないもののようだ。
    仕事の風景、夫婦の日揉め事や離婚、いつの時代も似たようなもの悩みがあったようだ。

  • これは苦労の集大成。
    いろいろな文献の中から
    当時の生活がわかる部分を集めてきて
    わたしたちにわかりやすいように
    ある1日として読み物にしてくれた。

    これがあればきっと、タイムスリップや
    転生ものが書けるぞ(たぶん)
    中華ファンタジーのいろいろな作品を
    思い浮かべながら楽しみました。

  • さあ、古代中国の世界にタイムスリップし、秦漢帝国を一日体験してみよう。ロールプレイングゲームの始まりだ!
    朝起きて身支度を整え朝食をとったら、職場、市場、もしくは畑へ向かおう。夕方からは宴会もしくは酒場で飲み、日が落ちる前に帰宅しよう。
    ...さて、君は未来から来た日本人だとバレずに、ぶじに一日を終えられただろうか?

    仕事、買い物、ファッション、トイレ、お風呂、マナー。本書で古代中国の予備知識を身に付けておけば、仮に、古代中国で生きていくことになっても安心だ。

    中公新書なのに読みやすい文体で、中国史に疎い読者も手に取りやすい(もちろん詳しい読者ならより楽しめるはず!)。

    古代中国の平凡な日常風景に溶け込めむという、楽しい読書体験だった。

    p180
    ヒエ・アワ・キビはコメに比べ、一般にタンパク質・脂質・カリウム・カルシウム・マグネシウム・リン・鉄・亜鉛・銅・マンガンが多く、意外と栄養豊富である。もちろん精白(玄穀の外側の糠層を削って調整する作業)の度合いによって栄養分は変わり、たとえば搗精歩合九〇%(一〇%削る)よりも、搗精歩合七〇%のほうが、栄養分は減るものの、そのぶんおいしい。

    p192
    たとえば戦国時代春(旧暦一〜三月)には材木を伐採することや、河川をせき止めることが禁じられ、夏(旧暦四〜六月)には野焼きや、幼獣・幼鳥の狩猟、さらには鳥獣の卵やある種の植物の採集が禁じられていた。じつは古代の国家も、自然環境保護やサステイナビリティに多少とも注意を払っていたのである。

  • 古代中国にタイムスリップしたという体で、当時の人々の24時間を体験するというもの。
    農民や商人、貴族や皇帝など、立場の違う人々が出てくるので完全とは言えないが、そもそも文献に残っている日常は少ないのでこれだけでも十分楽しめた。
    歴史的な出来事は残しても、当たり前の日常は記録に残さないだろうし。
    そういう意味では日記というのは後世においては貴重な文献になるのだな。

  • ともかくすごい。あっちこっちから引っ張ってきてこれだけみっちり再現してしまう。カンセキならでは。よく拾ってきたよなあ。漢代あたりが中心なんだが、読んでたら陶淵明がどんなに暮らしてたのかとかふわふわと気になってきた。悠然として東の垣根の下の菊をとるときの格好とか、彼は大金持ちの貴族で落魄してるんだから食べ物は問題なかったろうとか、四合院すでにあったのねとか。明器とか。見事なはりがたとか。

  • 秦漢時代にタイムスリップして1日24時間を体験するという設定で、当時の暮らしを描いていく。皇帝やその側近、官吏、有力者、庶民などなど登場する人々は様々だ。そうした人々のファッションや仕事、性愛、結婚や離婚、子育て、食事、飲酒、果てはトイレやハゲの話題まで「日常生活」が描かれている。日常に関する記述を様々な史料から見出した著者の多年にわたる研究の成果が平易で読みやすい文章や数々の図版で紹介される稀有な一冊。新書でありながら、しっかりと注記がされていて、典拠をたどれるのもありがたい。

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著者プロフィール

柿沼陽平

1980年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。University of Birminghamに留学。早稲田大学大学院文学研究科に進学し、2009年に博士(文学)学位取得。早稲田大学助教、帝京大学専任講師、同准教授などを経て、早稲田大学文学学術院教授・長江流域文化研究所所長。専門は中国古代史・経済史・貨幣史。2006年に小野梓記念学術賞、16年に櫻井徳太郎賞大賞、17年に冲永荘一学術文化奨励賞を受賞。著書に『中国古代貨幣経済史研究』(汲古書院、2011年)、『中国古代の貨幣』(吉川弘文館、2015年)、『劉備と諸葛亮』(文春新書、2018年)、『中国古代貨幣経済の持続と転換』(汲古書院、2018年)など。

「2021年 『古代中国の24時間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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