サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026347

作品紹介・あらすじ

利用したことはなくても、誰もが見聞きはしたサラ金や消費者金融。しかし、私たちが知る業態は、日本経済のうねりの中で大きく変化して現在の姿となったものだ。素人高利貸から団地金融、そしてサラ金、消費者金融へ……。好景気や金融技術の発展で躍進するも、バブル崩壊や社会問題化に翻弄されていった業態について、家計やジェンダーなど多様な視点から読み解き、日本経済の知られざる一面を照らす。

感想・レビュー・書評

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  • 不肖、自慢ではないが20代の頃にがっつりアコムとモビット、銀行カードローンにリボ払いに質入を重用し、口座やカードを凍結されながらも辛々生き延びた体験を持つ私にとって実に思う所のある新書。
    オビの問いかけについて、私にとっては紛う事なく「セイフティネット」であったと断言出来る。返済遅れた時の電話は怖かったけど、基本電話が鳴らない私には電話が鳴る事がちょっぴりだけど嬉しかったしまあまあの延滞っぷりだったからそりゃ怒りますよね。あの時に伴走してくれたのは家族でも会社でもなく担当窓口のお兄さんでした。いや、向こうは仕事だから仕方なくかもしれませんが。その節は誠に申し訳ございませんでした…。

    内容としては(恐らく)他に類を見ない’日本サラ金史の総ざらい’と呼ぶにふさわしく、サラ金が「サラ金」として完成するまでの素人高利貸〜団地金融〜サラ金旭日期〜サラ金斜陽期〜日本の低成長とこれから、という各タームを日本社会史や家族史・政治史など実に多面から分析・研究した一冊。
    「年利七万三〇〇〇%」(p267)という俄には信じ難い事例にはため息しか出ません。アコムの「らららむじんくん」や武富士の「シンクロナイズド・ラブ」をBGMに女性達が激しく踊るCMやアイフルの「くぅちゃん」レイクの緑の恐竜などなど、2000年代一桁の頃はお茶の間ゴールデンタイムにサラ金が実に身近なものでした。特に武富士はバラエティ番組でパロディコントまで放送されてましたね。「ザ・センターマン」って懐かしい。道端に「車でお金」とかの看板も実に沢山ありました。

    という、妙なノスタルジーをくすぐりつつも真剣そのものにサラ金史をひらいた本書。ジャンルとしては大変ニッチかも知れないが実に読み応えある読書でした。

    お金は大事だよ〜。ル〜ルル〜。(これはAFLAC)


    1刷
    2023.5.22

  • 「新書大賞2022」の大賞に輝いたということで、読んでみました。

    源流は戦前の「顔見知りの間で行われる個人間金融」にあったとしています。

    この100年位の間に、石油危機やバブルがあり、
    サラ金は急成長した時期もあり、
    債務者を自殺に追い込んだり
    ティッシュペーパーを配ったり
    チャーミングなCMをテレビで流したり。
    さいごに武富士は法人格消滅、アコムとプロミスは
    銀行システムの内部に組み込まれました。

    そして今、個人間金融が「復活」
    1950年代までの日本のように、
    親戚や知人とのつながりの中で(インターネットを介してとか)
    資金を調達する傾向が強まった。
    たいへん興味深いです。

    またこの本は、サラ金業者の非人道性を告発・暴露するというより、
    その経済的・経営的な合理性を、
    あくまで内在的に理解しようと努めてきたそうです。
    サラ金が成長した歴史的な背景を、
    利用者とサラ金業者の双方の資料を突き合わせて書かれています。
    巻末の引用文献一覧を見ると、よくこれだけ調べたなあと感心。

    だからこれほど面白いものに仕上がったのですね。
    新書大賞おめでどうございます。

  •  この目の付け所にはやられた、読後の印象である。
     
     誰もが名前は知っているが、その実態は良く分からない、サラ金=消費者金融の誕生前後から今日に至るまでの歴史を、貸す企業の側、借りるサラリーマンや主婦の側、更にその成長を育んだ社会的背景に踏み込んで考察かなされる。

     本書で明らかにされるサラ金の発展時期とほぼ同時代を生きてきたので、TVから派手なCMがまたかというくらい流されていたり、駅前の一等地のビルにいくつもの会社の看板がかかっていたり、ティッシュ配りのティッシュを貰ったりした記憶が蘇ってきた。
     ただ、正直、サラ金については、金利の高さや取立ての酷薄さが喧伝されていて、いかがわしい業態という偏見から近付くものではないという思いがあったし、債務者も気の毒だが借りた責任もあるだろうにといった気持ちが、これまでであった。

     サラ金業界の栄枯盛衰を、まとまった形では初めて知ったが、貸倒れを防ぐために借り手の信用性を低コストで判断するための金融技術の創意と発展の過程、借りる側の家計とジェンダー問題、サラ金業界大手会社の資金調達の苦労と銀行等との関係、上限金利規制を巡る貸金業法改正に至るドラマ等々、興味深いテーマが満載である。

     かつての大手サラ金企業は銀行の傘下に組み込まれているが、現在、サラ金からも借りられない人間に対してSNSを使って個人間での貸借を呼び掛ける闇金融の問題が出てきている。果たしてこれからどうなっていくのだろうか。
     
     消費者金融を素材に日本社会を描き出した、お勧めの一冊である。

  • 1980年代、街を歩いていると必ず「サラ金」が目に止まりました。それは店であったり、看板であったり、吊り広告であったり。また、当時は大量の販促用ポケットティッシュが街頭で配られ、ポケットティッシュはそれだけで十分でした。
    サラ金は主に個人への少額の融資を行なってきました。戦前の素人高利貸から質屋、団地金融などを経て変化したサラ金は、経済成長や金融技術革新で躍進。そして、バブル崩壊後、多重債務者や苛烈な取り立てにより社会問題となってゆきます。

    本書は1世紀におよぶ「サラ金」の軌跡を追う力作。2021年新書大賞受賞の名に恥じない中公新書の大傑作です。
    「本書は、サラ金業者の非人道性を告発・暴露するというより、その経済的・経営的な合理性を、あくまでも内在的に理解しようと努めてきた。いかに強欲で異常に見えても、人間の経済的な営みである以上、その行動はある程度までは合理的に説明できるはずである。それが本書の基本的な立場だった」とあるように善悪の感情を切り離してサラ金を観察しています。

    サラ金の起源は戦前の「素人高利貸し」。金を貸すことが義侠心を誇ることであり、男らしさの具現化の時代でした。そして戦後になり、「アコムやプロミスなどのサラ金は、『家族の戦後体制』に寄り添いながら大きく成長した。『サラ金』という独特な消費者金融の呼称は、サラリーマンである夫とその妻という、家族とジェンダー(性差)の視点の重要性を示唆している」。
    妻から見たサラ金、サラリーマンである夫から見たサラ金、妻に金を貸すサラ金側の理屈、サラリーマンに金を貸すサラ金側の理屈、他社との競争、金利の低下、社会からの風当たり、貸倒や借り手の自己破産の増加、逆風の法改正の中で喘ぎながら、独特の金融技術で生き残りを図ってゆくサラ金の盛衰記は一篇の大河小説のようで読み応えがあります。

    本書は事実に対していちいち引用元を記しています。例えば「相談者は1人平均で10枚のカードを持ち(『朝日』1990年5月13日朝刊)」のように。また、引用文献一覧、略年表も充実していて、資料としての価値も高いと思います。
    著者の小島庸平さんは東大大学院経済学研究科准教授。40歳になるかならないかの年齢で、こんな真面目で面白い本が書けるということに驚きます。
    新書では珍しい一気読みできる本。これだけの本が1,078円で買えるなら買わない手はありません。

  • 1990年代前後の日本では、サラ金が元気だった。にぎやかな駅前ではサラ金会社の広告入りティッシュペーパーが配られ、無人契約機があちこちに設置され、テレビでは個性的なCMが放映されていた。やがて、アコムやプロミス、武富士などの大手は株式上場や経団連加入を果たす。

    その一方、過酷で暴力的な取立、「トイチ」という言葉が象徴する高金利など、負のイメージもついてまわる。本書によれば、返済に苦しむサラ金顧客の異常な自殺率が社会問題にもなったらしい。

    サラ金は良くも悪くも目立つ存在だった。サラリーマンという個人をターゲットにした金融ゆえに、小さな資本から始めることができ、個性的な経営者がアイデアと体力で自社を成長させていく。そして、少額な貸倒リスクを承知で、ひたすら顧客数と融資の拡大を目指す。2位じゃダメなのだ。そんな成長は、ITベンチャー企業によく似ている。

    こうして、サラ金業からも孫正義やビル・ゲイツのような偉人が登場し、社会的地位を高めていくと思われた。が、グレーゾーン金利の撤廃、過払金訴訟で利益は減少、銀行やクレジットカード会社などがサラ金市場の個人貸付に参入。そのうえ、小説やマンガの中では相変わらず悪役扱い。

    家族に内緒で現金を求めるサラリーマンや主婦への貸付からはじまったサラ金だが、その役目は終わりつつある。しかし、そのノウハウは闇金融や反社会組織で活かされていくのだろう。

  • 経済、ジェンダー、家計……話題の書『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』でサラ金の誕生から発展をたどる。| Pen Online
    https://www.pen-online.jp/news/culture/0401_book_sarakin_history/1

    サラ金の歴史|新書|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/shinsho/2021/02/102634.html

  • 興味ない分野だがお勧めで読んだ。が、読んで良かったとつくづく思う。単なるサラ金の説明に留まらず日本経済までに広い分野に及んでいて、来し方行く末に思いが行った。

  • 2022新書大賞の大賞受賞作。

    サラ金の発祥から現代の趨勢までが時系列網羅されており、わかりやすくかつ興味深い。

    高利貸しにおける「使い」や「走り」などの用語は、いわゆる使いっ走りの語源なのだろうか。

  • めちゃくちゃ面白かった。戦前から現代に到るまで、素人高利貸、質屋・月賦、団地金融サラ金、消費者金融と闇金ときて、消費者金融が銀行に組み込まれていくなか、ネットを利用した素人貸金が出てきている、という。

    戦後の日本では、家計は妻が握るが、自分で自由に使えないといったジェンダー的視点も面白かった。

    それにしても、こんなに面白い本が書けるなんて、著者の博識と文献と史料を手際よく配置して歴史叙述する技術に脱帽というか羨望を感じてしまう。

  • この新書、やさしい語り口でスルスル読めてしまいます。いや、スルスル読めるのはメチャ面白いから。軽妙かつ深遠かつ広汎…この時点ではベストセラーですが、100年後も残る歴史的名著になるのでは、と思いました。100年後「サラ金」という業態が歴史の中にしか存在しくなっても、です。それは,100年後も存在するであろう金融と家計の関係を社会史、ジェンダー、家族の変遷、経済と政治の流れ、テクノロジー、行動経済学、マーケティング、アンダーグラウンドの問題、メディア、あらゆる領域から語ろうとしている本書のスタンスが、研究というものの面白さを体現しているからです。農業経済学を学ぶ学生だった著者がいかにして「サラ金の歴史」という本にたどり着くのか、という「おわりに」に書かれている研究者としてのアンセムは彼のこれからの研究をも期待させます。運命と機会と好奇心と、そして努力、なんか自分も勉強したくなる超ポジティブな気分になりました。

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著者プロフィール

東京大学准教授

「2022年 『経済史・経営史研究 入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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