現代音楽史-闘争しつづける芸術のゆくえ (中公新書, 2630)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026309

作品紹介・あらすじ

長い歴史をもつ西洋音楽は、二十世紀に至って大きく転換した。シェーンベルクとストラヴィンスキー『春の祭典』に始まり、多くの作曲家が無調音楽、十二音技法、トーン・クラスター、偶然性の音楽……といったさまざまな技法・実験を繰り広げた。それ以前と異なる現代音楽の特徴として、政治や社会、思想、そして絵画など他の芸術分野との結びつきが強いことが挙げられる。音楽から二十世紀という時代を描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 私にとって「現代音楽」とは、奇妙な楽譜で演奏される前衛的なものや、1フレーズを延々と繰り返し演奏するミニマル的なもの、あるいは環境音楽的なもの等々のちょっとマニアックなものだったのだが、本書では現代音楽のルーツを1900年代初頭に求めていて、いわゆるクラシック形式のオーケストラ等で演奏されるタイプの音楽から、その歴史を紐解いている。

    そこから、私の思っていた現代音楽に至るまでの歴史や技法などを当時の社会情勢も交えながら、綿密ながらもコンパクトにまとめてあり、難解と思われがちな(実際難解だと思うが)現代音楽についての概要を手軽に知ることができる良い本だと感じた。

    なお、本の数行ではあるが、ビートルズの「Revolution 9」についても触れられているところなどは、著者のカバー範囲の広さが感じられ、本書の信頼性を上げているとも思った。

    一方で、ドイツの現代音楽の流れからはもう一歩踏み込んで、ごく初期のクラフトワークについてもコメントして欲しかったし、日本でも坂本龍一と土取利行の「ディサポイントメント・ハテルマ」についてもも取り上げて欲しかったな~とも思った次第。

  •  コロナ自粛の成果のひとつ。著者が懸案の現代音楽史を執筆しようと思い立ったのはアメリカの大学での研究員生活に待ったがかかった空白のおかげだと。
     これまでの類書では、調性の崩壊と十二音技法、さらにセリー音楽、それに対峙するアメリカ実験音楽、といった技法論で歴史を見て行く記述が多かったが、本書は社会の動きと創作をダイナミックに結びつけていくところが特徴。
     そうすると、新古典主義が、「新しい原料供給源」の発掘としての古典の発見や機械の普及といった社会現象と関連しているとともに、国家に奉仕するための新たで平易な音楽としてファシズム下の音楽ともなるなどという観点が出てくる。しかも、全体主義の例としてナチズム、ファシズムとともに、1930年代のニューディール期のアメリカを挙げる社会学者の学説を引用しているのも、常々、アメリカの伝統主義者と社会主義リアリズムの類似性を感じていたのでとても納得がいった。
     音楽史におけるもっとも重要な切断点は録音技術の発明などという指摘も慧眼である。
     戦後、徹底的なコントロールとしてのセリーとコントロールの排除としての偶然性の音楽が結果的に似たような音響になってしまうという逆説が、何ら逆説ではないという説明もいわれてみればその通り。社会に振り回された音楽が歴史と手を切ろうとしたのがこれらの音楽だが、結局、すぐに東西対立や「1968年という切断」で政治化していく。
     他方、クラシック音楽とそれ以外との差異を楽譜の存在とみるのも実に明晰。ジョン・ケージの『4分33秒』には「Tacet」と書かれているだけだが、楽譜があるのである。対して同じようなことをやっていたとしても、ジャズやロック系のインプロヴィゼーションでは楽譜なんて考えもしない。明らかな小の違い。
     執筆動機のひとつが類書があまりないということだ。松平頼暁『20.5世紀の音楽』とか思い浮かぶが、もはや「21.2世紀の音楽」の時代であった。そしてその21世紀の音楽だが、前衛的な音組織を使っていても、規則的でスピーディな拍の運びとか、表現が明快で「わかりやすい」傾向がみられ、これを著者はある種の「ポップ化」と述べている。これも実に実に腑に落ちた。それを「資本主義リアリズム」などと言いかえられると、ちょっとげんなりするが。
     ともあれ、目からウロコが何枚も落ちた一書であった。

  • ここで取り上げるのは、いわゆる「クラシック」とジャンル分けされる音楽。その20世紀以降(後期ロマン派以降)の作品、作家をあつかう。
    そもクラシックの現代って? 明確に答えるのが難しいけど、本書では楽譜で発表される作品と定義している。
    けど、これも今となっては苦しい定義だよなぁ。
    いずれにせよ、無調や12音技法、セリー音楽などを実験期間とし、これからどんな音楽が生まれてくるのか? びっくりしたいなぁ。

  • 【オンライン読書会開催!】
    読書会コミュニティ「猫町倶楽部」の課題作品です

    ■2022年4月16日(土)14:30 〜 18:00
    https://nekomachi-club.com/events/172077f1e058

  • 音楽をやっておらず、いわゆる邦楽しか聴かない自分にとっては音楽史の展開が概観できて楽しい。

  • 人名が多くてその意味では役に立つ。

  • 十二音技法やらセリー音楽みたいな現代音楽の理論って、説明されても、というか説明されればされるほど、なんでそんな規則を作る必要があるのか、ただの理屈のための理屈じゃないかって思ってました。
    その疑問が少しだけ解けました。調性(実はこれの理解がまだ十分ではないので、理解が「少し」に留まる)といういわば、音楽の文法を無理やり無効にすることで、習慣、文化、歴史といった「最広義の『手癖』」を排除する。これは、音楽が全体主義に侵食された時代を経た第2次世界大戦直後の創作者にとっては、「一種悲壮な切実さ」を持って生ずる衝動だったという説明は、かなり説得的だと思います。

  • ゲンダイオンガクな感じ。

  • シェーンベルク、ストラヴィンスキーに始まりジョン・ケージ、武満徹、バーンスタイン、そして二十一世紀へ。音楽家たちの闘争の軌跡

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著者プロフィール

東京藝術大学大学院博士課程修了。博士(音楽学)。主な著書に『リゲティ、ベリオ、ブーレーズ 前衛の終焉と現代音楽の未来』(音楽之友社)、『光の雅歌 西村朗の音楽』(春秋社、共著)、『孤独な射手の肖像 エドガー・ヴァレーズとその時代』(春秋社、第29回吉田秀和賞)、『ファンダメンタルな楽曲分析入門』(音楽之友社)、『音楽学への招待』(春秋社)など。国内外での学会発表のほか、音楽批評、演奏会・CDライナー解説の執筆、音楽祭の企画・監修、コンクールの審査員、オーケストラや演奏活動の公的助成審査などに幅広く従事。2008年から2009年にかけてハーヴァード大学客員研究員。近年は、国内学会はもとよりアメリカ、中国、オランダ、リトアニア、ジョージア(グルジア)、アイルランドなど多数の国際学会で研究発表を行なっている。現在桐朋学園大学教授。

「2023年 『トーキョー・シンコペーション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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