ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相 (中公新書 2629)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026293

作品紹介・あらすじ

2017年8月25日、武装グループがミャンマー、ラカイン州の警察・軍関連施設を襲撃した。これに対し国軍は、ロヒンギャ集落で大規模な掃討作戦を実施。人々は暴力を逃れるため、隣国バングラデシュへと避難し、半年という短期間に難民は70万人にのぼった。事件から3年が経過したが、帰還は進んでいない。本書は、アジア最大の人道問題の全貌を、歴史的背景やミャンマーをめぐる国内・国際政治から読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 大変難しい問題だ。
    ロヒンギャとはミャンマーのバングラデシュ側にいる少数のムスリム。
    宗教、歴史、国籍等多くのファクターが絡み合って、問題を複雑化している。
    最後に日本の出来ることとして5つあげているが、たしかにやるべきだと思うがその反面他国に日本1国がそこまで立ち入る権利があるのかと悩む。国際機関が規律を曲げて介入するのが一番だと思うが、その際、差別は差別を生み、暴力は暴力を引き起こすことは教訓として覚えておいてほしい。

  • アウンサンスーチーさんの言動、豹変かと思ったが、元々、ロヒンギャは、守るべき「国民」の範疇に入ってなかったのか。
    国の成り立ちから関係する根幹の問題のようで、おそらくだが、マジョリティ、あるいは、ロヒンギャを抑圧しながらも抑圧されて来た層にとっては、何が問題やねん、という話でもあるのではないか。

    外から綺麗事言うのは簡単。

    とはいえ、当事者にとっては綺麗事ですらない。
    要は、馬鹿みたいに簡単にルール決めて万事幸せになるような世界ではないと言うことだ。

    それだけはわかった。

    この本の後、またスーチーさんを取り巻く環境も変わっている。
    ただ、最終章にあるような、今日本が何をできるか的な主張は、少なくともこの本には不要だったような気がする。

    でも、他山の石ではないが、日本で起こされそうとしていることに、考えを至すのは必要かもしれない。

  • ロヒンギャ迫害、難民がどのような歴史的背景から生じてきたのかということが詳細に描かれている本である。
     単なる事件の説明だけではなく、人々の移動、日本の敗戦からの国土の建設、など様々な理由が改訂ある。

  • ミャンマー西部に住むイスラーム系民族のひとつであるロヒンギャを巡る2017年の国軍による掃討作戦以降の大量の難民の発生等の一連の危機について、危機がどうして起きたのか、その余波が世界にどう広がっているのかといった点を、歴史的背景の考察も踏まえながら検討し、将来に向けての展望と日本が果たすべき役割についても考察。
    ロヒンギャ危機はもちろんのこと、2021年2月に発生した国軍のクーデターに至る歴史的背景等についても理解が深まった。
    民主化にもかかわらずロヒンギャ危機が発生したのではなく、民主化したからこそロヒンギャ危機が発生したとの指摘が印象深かった。
    アウンサンスーチー氏がロヒンギャ危機に際して受け身のリーダーシップに甘んじていたことについて、国軍との関係悪化の回避を優先していたとの分析も、国軍のクーデターが起きてしまった今から思えば、非常に納得のいくものである。当時、NLD関係者と話をした著者は、彼らが国軍との関係に非常に神経をとがらせ、常に最悪の事態(クーデター)まで想定していることを実感していたということが述べられているが、残念ながらその懸念は現実のものとなってしまったわけである。
    ロヒンギャ危機について日本が果たすべき役割についての指摘も、まさに現在、国軍のクーデターに対して日本が果たすべき役割にも通じるところがあり、非常に示唆的であると感じた。欧米の理想主義一辺倒で果たしてミャンマーの現実を動かせるのかどうかというところであろう。著者のいうように、理想主義と現実主義のバランスが問われているのだと思う。また、過去の歴史的背景を踏まえても、ミャンマーの行く末について中国が大きな鍵を握っているのだと思われる。
    本書の最後に触れられている、自然権としての人権という理想と、国家あってこその人権という現実との間のジレンマとしてハンナ・アーレントが提示した「人権のアポリア」という概念は、まさにミャンマーの問題に当てはまるものであり、本当に難問だと感じた。

  • 「ロヒンギャ危機」中西嘉宏著、中公新書、2021.01.25
    252p ¥968 C1231 (2021.05.23読了)(2021.05.17借入)
    副題「「民族浄化」の真相」
    ミャンマーの歴史に触れながらロヒンギャの問題を教えてくれるので、わかりやすいと思います。ビルマの歴史を知りたければ、下記の本がよさそうです。
    「物語 ビルマの歴史 - 王朝時代から現代まで」根本敬著 (中公新書)
    ミャンマーの西側の海岸は、ラカイン州と呼ばれている。ラカイン州の西側はバングラデシュに接している。陸続きなので行き来ができる。従って、この辺りには、バングラデシュと同じ民族が住んでいる。
    ミャンマー政府は、この地域に住んでいる人たちは、バングラデシュからの不法入国者だとみなしミャンマー国籍を与えていない。生活は貧しく、教育も受けられず、文字も読めない。ミャンマーは、仏教徒の国といっているのに対し、彼らは、イスラム教徒です。
    タリバンや、イスラミックステートの人たちと同様のイスラム原理主義者がこの地区に入り込み、この地域の人たちを先導して、ミャンマーの国境警備警察を襲撃した。
    これに対して、ミャンマー国軍が、反撃を加えた結果、多くの難民がバングラデシュに逃れた。その数は、70万人といわれます。
    ロヒンギャの難民たちは、ミャンマー国籍を約束されない状態では、帰還する気にはなれないでしょうし、ミャンマー政府もイスラム教徒を国民として受け入れるのは、難しいのでしょう。野次馬としての意見としては、ロヒンギャの難民たちが元住んでいた地域をバングラデシュに割譲して手放してしまうのがいいのではないかと思います。
    国境を移すというのは、ミャンマー政府の方で言い出さない限り難しいでしょうし、バングラデシュの方でも国際的な援助が約束されないと受け入れがたいことだとは思います。

    【目次】
    はしがき
    序章 難民危機の発生
    第1章 国民の他者―ラカインのムスリムはなぜ無国籍になったのか
    第2章 国家による排除―軍事政権下の弾圧と難民流出
    第3章 民主化の罠―自由がもたらした宗教対立
    第4章 襲撃と掃討作戦―いったい何が起きたのか
    第5章 ジェノサイド疑惑の国際政治―ミャンマー包囲網の形成とその限界
    終章 危機の行方、日本の役割
    あとがき
    主要参考文献
    関連年表

    ☆関連図書(既読)
    「ビルマの竪琴」竹山道雄著、新潮文庫、1959.04.15
    「ビルマ敗戦行記」荒木進著、岩波新書、1982.07.20
    「アウン・サン・スーチー 囚われの孔雀」三上義一著、講談社、1991.12.10
    「ビルマ 「発展」のなかの人びと」田辺寿夫著、岩波新書、1996.05.20
    「ビルマからの手紙」アウンサンスーチー著・土佐桂子訳、毎日新聞社、1996.12.25
    「新ビルマからの手紙」アウンサンスーチー著・土佐桂子・永井浩訳、毎日新聞社、2012.03.20
    「秘密のミャンマー」椎名誠著、小学館、2003.09.01
    「ミャンマーの柳生一族」高野秀行著、集英社文庫、2006.03.25
    「ミャンマー」乃南アサ著、文芸春秋、2008.06.15
    「ミャンマー経済で儲ける5つの真実」小原祥嵩著、幻冬舎新書、2013.09.30
    (アマゾンより)
    2017年8月25日、武装グループがミャンマー、ラカイン州の警察・軍関連施設を襲撃した。これに対し国軍は、ロヒンギャ集落で大規模な掃討作戦を実施。人々は暴力を逃れるため、隣国バングラデシュへと避難し、半年という短期間に難民は70万人にのぼった。事件から3年が経過したが、帰還は進んでいない。本書は、アジア最大の人道問題の全貌を、歴史的背景やミャンマーをめぐる国内・国際政治から読み解く。

  • ミャンマーの軍事政権が倒れてたとき、民主化されてよかったとか単純に考えていたけど、その後のロヒンギャ問題とか今回の、クーデターとかみるにつけそんな単純な話ではないとわかる
    歴史的な経緯含めて理解しないとだめだと改めてわからせてくれる本であった
    多民族国家であること、植民地時代や日本の影響などよくまとまっていた
    多数決の論理こそが多数派の少数の排斥として働き、多くの民主化が頓挫している

    それだけにp228にあるような画一的なジェノサイドとして一方的に糾弾する欧米の姿勢だけではかえって追い詰めてクーデターを誘発するのだろ思う

    民主化して、経済的に発展してもそれだけでは安定した社会は実現できない
    スーチーという世界的なアイコンをもってしても簡単には社会は変わらない
    さらにいえば国家というのは統一への挑戦となれば、経済的な恩恵をあきらめて、世界を敵に回しても譲らないことがままあるとわかる

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/787259

  • 19世紀、ビルマが英領インドの一部として植民化が進む中で、バングラデシュと国境を接するラカイン州は(特に北部で)仏教徒のラカイン人とムスリムから構成される複合社会となった。
    戦後のミャンマー独立に際し、植民地政府は州のムスリムをまとめてロヒンギャという名称を与えた。さらに80年代に入り、軍事政権は国籍法を改正。ロヒンギャは土着民族から外されてしまう。
    2011年に民政移管がなされる。いくつか理由はあるが、アメリカが関わっているというのが面白い。軍事政権への制裁が一向に成果をあげない中、中国の台頭を抑えるために民政移管の支援に舵を切ったのである。
    だが、この民主化がムスリムと仏教徒の間で紛争を生む。運動や動員が容易になり、自由な言論空間が生まれることが、かえって対立を促進することになる。2017年、海外のロヒンギャ・コミュニティに由来する武装集団が国境警察や国軍を襲撃、そして国軍の掃討へと続いていく。

  • ロヒンギャ危機=ミャンマー軍政vs.ロヒンギャという構図で語られがちだけれども、実際には複雑である。
    本書はロヒンギャ危機の視座を与えてくれる有益な作品。

    ミャンマー国軍、ミャンマー人、ラカイン人、ロヒンギャという様々なアクターがそれぞれに不信感を抱えながら、歴史的に対立してきたという構図がある。

    善悪二元論で世の中を語るのは難しい。

  • 中央公論「目利き49人が選ぶ2021年の私のオススメ選書」掲載20224 評者:岡本隆司(京都府立大学教授,文学)、土居丈朗(慶應大学経済学部教授,財政学,公共経済)、牧原出(東大先端科学技術研究センター教授,行政学,政治学)、待鳥聡史(京都大学法学研究科公共政策大学院教授,政治学者,アメリカ政治)

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著者プロフィール

中西嘉宏

1977年、兵庫県生まれ。京都大学より博士(地域研究)を取得。日本貿易振興機構・アジア経済研究所等での勤務を経て、2013年より京都大学東南アジア研究所・准教授、2017年から東南アジア地域研究研究所(組織統合により改称)・准教授。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際研究大学院・客員研究員、ヤンゴン大学国際関係学科・客員教授などを歴任。

「2021年 『ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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