お酒の経済学-日本酒のグローバル化からサワーの躍進まで (中公新書 2599)
- 中央公論新社 (2020年7月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121025999
作品紹介・あらすじ
日本のお酒をめぐる環境が激変している。日本酒からビール、焼酎と主役が入れ替わりつつ一貫して消費が伸びてきたが、1990年代半ばをピークに減少に転じた。その後はデフレ下で新ジャンルやサワーが躍進する一方、クラフトビールや純米大吟醸なども人気を集める。また、日本酒やウイスキーは海外から高く評価され、輸出が急増している。日本の酒類が抱える課題とは、可能性とは。経済学と経営学の最新の研究成果を踏まえて読み解く。
感想・レビュー・書評
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お酒の経済学。大学で経済系を専攻し、そしてお酒が好きな自分にとっては、なんとも気になるタイトルである。
内容については、予想していたよりも平易。経済学と言いつつも、大部分は日本のお酒についての解説。国内の酒事情について、その辿ってきた歴史と現状、そして未来と海外展開について述べられる。
「規模の経済」や「代替財と消費財」など、いくつかの経済学的なワードが出てくるものの、きちんと解説があるので初学者でも問題なく読めると思う。
「日本酒、ビール、ウィスキー、焼酎、RTD」と大きなカテゴリで分けて解説されるので、全体像が把握しやすい。(RTDとはサワーやチューハイのこと)
何よりも、筆者のお酒愛が伝わってくるようで、読んでいて気分が良かった。
総括としては、お酒について体系的に扱った貴重な1冊。酒好きの読書家の必読書と言えるかもしれない。
(書評ブログの方も宜しくお願いします)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E9%85%92%E5%A5%BD%E3%81%8D%E3%81%AE%E8%AA%AD%E6%9B%B8%E5%AE%B6%E3%81%AE%E5%BF%85%E8%AA%AD%E6%9B%B8_%E3%81%8A%E9%85%92%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6_%E9%83%BD%E7%95%99_%E5%BA%B7詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『日本酒や本格焼酎に関しては...新規参入を目指すものは、廃業を考えている蔵元を買収するか、既存蔵元へ製造委託するしか方法がない』
『上川大雪酒造は、製造を休止していた三重県の蔵を承継し、製造場の移転申請が許可されて2017年に醸造を開始した...』
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/pr/220244
一橋大学の名誉教授である著者。身近なお酒を話題に各酒類における現状の分析から、将来における著者の予測について。
経済の専門用語が平易な表現に変えて有り、文章も読みやすく非常に分かりやすい。
また、各酒類の詳しい製法が図にまとめられており、著者の酒好きが目に浮かぶ。 -
日本のお酒市場を経済学、経営学の視点から分析した本。
経済系の知識に乏しいことと、酒の銘柄とか全く分からないのが重なって、全然ピンとこない箇所もあったが、企業戦略や成長過程、差別化などは興味深かった。最近は全然お酒飲まないけど、、
本書に言及されていた通り、若者の飲酒率が下がりつつあるとのことなので、今後の企業戦略に注目したらもっと面白いのかもしれない。 -
不安によりヤケ酒がススム
ってな事で、都留康(つるつよし)の『お酒の経済学 日本酒のグローバル化からサワーの躍進まで』
日本酒、ビール、ウイスキー、焼酎、RTD等の国産のお酒の経済学
ワインは載って無かったな……
普段は日本酒しか興味無かったけど、他のお酒の事も書いてあり中々面白い
それぞれのお酒の造り方や特徴、データで見る出荷量や税収、国内に留まらずと言うか、国内だけの販売では先行き不安により海外展開の歴史等。
それぞれのお酒によって税率が違ったり新規参入の法制度や免許制の違いにより参入出来たり出来なかったり等々
人口が減ってく中で更にお酒を呑まない人も増えてく状況に不安になっとります。
美味しいお酒が呑める事に感謝しないといけないなぁと酒蔵さん、居酒屋さん、酒屋さんに改めてありがとうと言いたいです
身体とサイフが元気な内は頑張って呑んで応援しないとね(笑)
2020年58冊目 -
日本酒、ビール、ウイスキー、焼酎の動向と特徴までを経済学・経営学から解説
お酒の製造や経済用語などの専門的なことでも
わかりやすく書かれていて非常に読みやすい。
時代のキーとなった商品も例示されていて、
高度経済成長期からグローバル化までの
流れを勉強できてためになる。 -
■お酒のツマミに経済学はいかが?
今までに酒にまつわる本をいくつか読んできたが、例えばウイスキーについての本なら、歴史や蒸留法、蒸留所の成り立ち、ボトルごとの味の違いやこだわりなど、お酒そのものにまつわる書籍が多かった。
本書はそれらの概説書とは毛色が違い、「日本のお酒の生産から消費まで」を経済学と経営学の視点から読み解き、各種酒類(日本酒・ビール・ウイスキー・焼酎・RTD)の特徴や動向を分析し、今後どのような展開を迎えるのかを論じている。
中公新書にありがちな、いわゆるお堅い経済学書かなと思って読んでみたら、もう全然違った。これめちゃくちゃ面白い。
まず平易な文章で読み易いし、新書ということをちゃんと意識して各論ともコンパクトに簡潔にまとめてあるから、飽きずにスイスイ読める。
そして一番の驚きは、お酒を経済学で読み解くというより、むしろ経済学の基本的な理論や概念を「日本の酒市場」という極めて特異な分野に当てはめて分析していく「経済学の実践書」だったということ。
この本、経済学部生やこれから経済学を学びたい人たちに、教科書の副読本としてすげえオススメしたい。定番のマンキューやステイグリッツの教科書は基本理論や概念を押さえるのにとても良い本だけど、それらの本だけで身に付けた知識を現実に応用していくのは正直難しい。でもこの本ではそれを鮮やかにやってみせている。
■ 酒市場の最新研究
経済学の入門編には「需要と供給」や「インセンティブ」という超基本の考え方が大抵挙げられるが、本書の第一章でもこの2つの概念を使って、日本の高度経済成長期からバブル崩壊、失われた20年の間でいかに国内酒類消費の減少を辿ったかが説明されている。
また、差別化理論の1つである「戦略的ポジショニング」を切り口に、獺祭(だっさい)で有名な旭酒造と、灘や伏見の日本酒ナショナルブランドの違いを比較したり、「水平的差別化」「垂直的差別化」の考え方から新政酒造の伝統回帰・地域性重視の戦略を読み解いたり。
ビール市場のような「ガリバー型寡占」において、キリン・アサヒ・サントリー・サッポロの大手4社がどのようなイノベーションを起こしていったかも取り上げていて、「キリンラガー→アサヒスーパードライ→発泡酒→クラフトビール」へのシェア変遷についてはミクロ経済学やマーケティング論の理解に役立つ。
「情報の非対称性」からジャパニーズウイスキーの表示法の是正を唱えたり、「規模の経済」を用いて黒霧島やいいちこに代表される大手焼酎メーカーの巨大化を説明したり。
その他、アルコール依存という「外部不経済」を是正するための「ピグー税(酒税の一本化)」や、鬼ごろしに代表される紙パック日本酒という「コモディティ化」による「同質化の罠」などなど。
みんなが大好きな「酒」という嗜好品を題材に、至るところで基本的な経済学理論が興味深く繰り広げられる。
酒好き同士なら盛り上がりそうな小ネタもちゃんと押さえているのがニクい。
ビール業界は酒税が高いけど免許取得は容易だから新規参入障壁が低く、一方で日本酒や本格焼酎業界は「需要調整要件」によって新規参入は事実上不可能だなんて全然知らなかった。
「若者の酒離れ」も経済学的に見れば、そもそも回帰分析するための異時点データが不足していて、健康志向要因なのか所得要因なのかもわからないから、この論争は決着が付かないみたい。
■おわりに
新書のコンパクトさゆえに、言葉の定義の曖昧さやデータ不足も指摘されるが、酒好きならそれを差し引いても充分楽しめると思う。
ちなみに俺はウイスキーを飲みながら読んだせいもあってか、スティーヴン・レヴィットの『ヤバイ経済学』とか『クルーグマン教授の経済学入門』くらいの満足感があった。
何がすごいって、おそらく著者はそんな実践書を目指して執筆したんじゃないということ。
あとがきにもあるが、ただただ昔から大好きなお酒にまつわる話をいつか語りたいと思っていて、もうすぐ還暦を迎えるし、長年専門で研究してきた労働・組織経済学の理論を使ってちょこっと夢を叶えてみようかという些細にして野心的な動機だったみたい。
素晴らしい。酒呑みはそうでなくちゃ。 -
様々なお酒の現代史やとりまく状況と、今後の方向性の一つがよくわかる本。大変勉強になりました。
今後の日本の内需を考えると輸出に向かうのは必然である中、「國酒」とも言える日本酒と焼酎に新規免許が下ろされない状況には改めて強烈な違和感と問題意識を持った。
そして輸出の柱として並ぶウイスキーの表示がここまでザルとは知らず、かなりの衝撃。いいのかコレで本当に。規制業種、どうしてもスピード感にかけるけど、これではより一層世界に取り残されてしまうのではと心配になってしまった。 -
日本における酒類の概説書。この手の話は意外と法制度が面白い。日本の酒税は品目制のため同じアルコール度数でもビールが明らかに高いことは知っていたが、日本酒と焼酎については新規参入が消費量が減っている段階では認可されないというルールがあるらしく、これが新しい蔵が参入するのを避けているようだった。社会階層との関連も興味深く、焼酎は昔は所得の低階層の人が飲む傾向にあったが、徐々に高級酒化してきたらしい。
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日本酒、焼酎、ビール、ウィスキーの日本における経済的歴史がコンパクトにまとめられている。アルコールあたりの課税額はまだ乖離があり、ビールは高くなっている。輸出は、ウィスキイート日本酒が増えているが、フレッシュさを売りにするビールは現地生産がメインとなり、輸出は近隣諸国にしかされていない。焼酎は、輸出額は限定的で、世界的にも稀な食中に飲む蒸留酒というのを訴求できていない。日本酒、焼酎の規制緩和は進んでいないが、政策当局はクラフトビールの勃興を見て必要性は感じているとしている。
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ビール、日本酒、ウイスキー、焼酎の売上の推移やその背景について細かく説明がある。倍半分ところではない増減があるが、それらは理論的に説明できうる(「製品ライフサイクル」)というのが驚いた。
今後の発展のための低減にもページが割かれている。酒税や免許が複雑すぎて、業界の発展の妨げになっている面が大きいのではないかというのは頷ける。ただ、それを解消した場合に淘汰も進むだろうことは、検討が必要だと思う。発展を目指す小規模酒蔵の設備的な補助など。
本書を読んで、しらなかったことが結構あった。
「酒税法は、モルト原酒やグレーン原酒の原産地表示を義務づけていない。だから日本で貯蔵しブレンドすれば、それは「日本製品」になる」とか、「米国でサントリーが成功した理由」「日本酒と焼酎に新規参入は事実上不可能」など。
それぞれの酒の製法も復習になった。何度か他書で読んでいるものの、覚えきれない。