五・一五事件-海軍青年将校たちの「昭和維新」 (中公新書 (2587))

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025876

作品紹介・あらすじ

ロンドン海軍軍縮条約をきっかけに、政党政治を憂えた海軍青年将校、民間右翼らが起こした五・一五事件。首相暗殺、内大臣邸・警視庁を襲撃、変電所爆破による「帝都暗黒化」も目論んだ。本書は、大川周明、北一輝、橘孝三郎、井上日召ら国家主義者と結合した青年将校らが、天皇親政の「昭和維新」を唱え、兇行に走った軌跡を描く。事件後、政党内閣は崩壊し軍部が台頭。実行犯の減刑嘆願に国民は熱狂する。昭和戦前の最大の分岐点。

感想・レビュー・書評

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  • 2.26事件にならんで著名な5.15事件。が、2.26関連本が山ほどあるのに対し、こちらはそうでもない。本書はその欠落を埋めるもの。筆者は日本史の研究者だが、ノンフィクション的な筆致も随所に採用されていて、読み応えがある。第1章で事件当日の動きを詳細に描いたのち、事件前→事件後に進む構成も面白い。関連して発生した血盟団事件についても触れられている。

    興味深いのは、関係者が出獄後もかなり「活躍」していたことだった。この点は、首謀者の大半が処刑された2.26との大きな違いだろうか。戦時期に東條倒閣工作に関与したり、戦後も密輸をしたり、選挙に出たりといった具合であるが、吉田、中曽根、細川など歴代内閣の指南役にまでなった人物もいたことには、日本政治の闇が垣間見えて、寒気を覚えた。

  • 血盟団事件の時も感じたが、行動力のある馬鹿ほど恐ろしいものはない。警視庁での乱闘計画(不発)等はよくできたコント、今舞台で実演すれば間違いなく爆笑ものである。
    民間の狂信者であった血盟団はともかく、軍人としてのエリート教育を受けたはずの五一五の連中が、何故これほど杜撰極まりない計画で国を左右できると考えたのか、本書を読んでもまだ理解できない。

  •  三月事件、満州事変、十月事件、血盟団事件、そして五・一五事件、更には後のニ・ニ六事件までが、大川周明や藤井斉、西田税らを通じて糸で繫がっているようだ。また五・一五事件の本質は、当初は陸軍内の国家改造運動とも連携した大規模なクーデターを目指したが、陸軍側と訣別して集団テロ、捨て石になったとする。
     事件による政党政治終焉について。著者は、森恪は単に政治政治を見限っていたとの見解を取らず、「政軍」結合を図っていたとする。一方、結果的に斎藤実内閣誕生の決定打となったのは、軍部の暴走への危機感と政党政治への不信感を共に持っていた天皇の意向だという見方だ。その上、斎藤内閣は条約派の海軍軍人を中核とする現状維持派の政権。政党政治がここで終わったのは確かだが、この時点を持って決定的な結節点というのは当たらないかもしれない。
     事件の関係者たちがなぜあれほど軽い刑だったのかは以前から不思議に思っていた。本書では大衆の同情(これ自体にも陸軍のメディア対策があり)のほかに、艦隊派(本書では「条約反対派」)の反撃を挙げ、大角人事にも関連付ける。ニ・ニ六事件での重い刑との違いは、テロかクーデターかという規模の違いのほか、条約派対艦隊派、統制派対皇道派という軍内部の争いと勝利した方、という要因もあるのだろうか。
     現代の感覚でどうしても理解できないのが、1930年前後には非合法手段による国家改造思想が軍にも民間にも結構な広がりを見せていたことだ。大衆の同情心もそうだ。それから30年後の1960年前後を考えると、東京五輪が決まり新幹線が着工された高度経済成長期。五・一五事件の参加者の世代は50代でまだ社会の現役だったろうに、非合法手段なんて雰囲気は社会の中にはなかっただろう。実は、三無事件や更に時代を下って三島事件のように、その根は社会の中にあったということだろうか。それとも、両事件がごく一部の際物扱いにしかなっていないこと自体が、30年間の社会の変化を示しているのだろうか。

  • 五一五事件が、以後の日本に重大な影響を与えたにも関わらず、わかりにくい、二二六に比べて被告達の刑が軽い等、謎な事件だが、当時の政党政治の行き詰まり感が強く、それが事件の深刻さを恰も軽減してしまっているように感じた。

  • 内容の濃い1冊で1度で理解するのは難しかったです。日本が戦争に突入していく過程としてこの事件は習うものの、本書を読むと大正から続く流れであることがよく分かります。

  • 五・一五事件。青年軍人たちが首相官邸へ突入。「話せばわかる」と冷静に説得を試みる犬養毅首相を銃殺。この事件を発端に日本は政党政治が終わり、軍部主導政権のこと、戦争へ突っ走る。

    青年軍人たちによる現役首相の殺害という大事件の割には歴史的注目度が低い気がしていたのだが、本書を読んで、その理由がなんとなくわかった。それは本事件があまりにずさんで計画性がなく、首謀者のバックボーンに深みがないからだろう。

    過激青年たちの若気の至りにすぎない事件だが、問題はこの事件を軍部がうまく利用してしまったことだ。事件をきっかけに軍部は政党政治がいかに醜悪で金権的であるかを積極的にアピール。犬飼首相をテロに倒れた不幸な英雄ではなく、殺られるべく殺られてしまったという世論にしてしまった。犯行者たちは同情され、一人も死刑にならなかった。それどころか、出獄後に政治活動をする者もいた。

    こうした軍部の暗躍の結果、軍人が首相の地位を独占することになる。

  • 2021.12.30~2022.02.09

    何をしたかったのか。学校の日本史ではわからない裏側が見えた気がした。
    当時の状況から考えて、行動を起こさなければならない、とういう考えを、若者が抱いたのは理解しよう。だが、暴力で解決することには、共感できない。ましてや、それを擁護するなんてあり得ない。署名運動や自決なんて・・・ 

    もしかすると、もっと深くその時代のことを学べば、違う考えを持つのかもしれないが、今の私には、こんな感想しか持てなかった。

  • 自分自身、教科書で読んで、五・一五事件は犬養毅が暗殺されて政党政治が終わりました、程度の知識。

    だが当然の話で、それだけの出来事ではない。
    ・なぜ海軍青年将校たちは事件を起こしたのか
    ・なぜ五・一五事件は政党政治を終わらせたのか
    ・なぜ国民の多くが青年将校に同情し、減刑を嘆願したのか
    といった点に注目して解説している本。

    あくまで、五・一五事件は、政党政治を終わらせるきっかけの一つとなったが、直接的な原因ではない。
    ※テロが有効であったと感じさせないためには「憲政の常道」にしたがって政党政治を続けるのが合理的。
    党利党略に振り回される政党政治の状況や、元老・天皇の思惑が絡んでいた。

    また、政党政治が終わったことをきっかけとして、国の機関どうしの対立がより大きなものになってしまったことも興味深い。

    当時の天皇の在り方についても、懐かしいが、過去、受験で勉強した通りだと再確認できた。
    天皇はあくまで、国会・軍部etcの各機関の決定を承認する。天皇の「聖断」は避けるように動いていた。
    こんな調整ゴト、胃に穴が開きそうだな・・・。

  • 西田は当時30歳。その胆力は鬼神の域に達している。辛うじて一命は取り留めた。4年後の昭和11年(1936年)に二・二六事件が起こり、西田は北と共に首魁として翌年、死刑を執行された。二人をもってしても青年将校の動きを止めることはできなかった。
    https://sessendo.blogspot.com/2021/12/blog-post_0.html

  •  正直な話、この事件を起こすことによって、何をどうしたかったのかという点が、よく分からなかった。(本書の説明の仕方ゆえということでなく)事件を起こした人物達の発想が。

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著者プロフィール

小山俊樹

1976(昭和51)年広島県生まれ.99年京都大学文学部(日本史学専攻)卒.2007年京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了 .博士(人間・環境学).立命館大学文学部講師などを経て,10年帝京大学文学部史学科講師.准教授を経て,17年より帝京大学文学部史学科教授.専攻・日本近現代史.著書『憲政常道と政党政治――近代日本二大政党制の構想と挫折』(思文閣,2012年)『評伝 森恪――日中対立の焦点』(ウエッジ,2017年)共著『昭和史講義1~3』(ちくま新書,2015~17年)『大学でまなぶ日本の歴史』(吉川弘文館,2016年)『日本政治史の中のリーダーたち―― 明治維新から敗戦後の秩序変容まで』(京都大学学術出版会,2018年)他多数

「2020年 『五・一五事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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