硫黄島-国策に翻弄された130年 (中公新書 2525)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025258

作品紹介・あらすじ

小笠原諸島の南端に位置する硫黄列島。このエリアには複雑な日本近代史が刻み込まれている。南方地域への進出を鼓吹する言説(南進論)の盛り上がりにより、農業入植地となり、日米の戦いでは凄惨な戦場となった。その後は軍事基地として利用され、島民たちは島で暮らせない状況が続いている。その知られざる軌跡を位置づける試み。

感想・レビュー・書評

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  • 硫黄・小笠原諸島や、ミクロネシアなどの南洋諸島の観点から見たら、戦後のサンフランシスコ講和条約や冷戦の米ソのレジームがクリアに理解できるようになった。

    日本本土の戦後復興と、軍事的最前線におかれた朝鮮半島や台湾、軍事利用下に置かれ住民が基地被害や強制移住または核実験による被曝を強いられたミクロネシア、軍事占領下に置かれ住民が基地被害や強制移住を強いられた沖縄・小笠原・硫黄列島が相互に連関しつつ展開していた。

  • 2019年1月読了。
    戦前は一攫千金を夢見て流れ着いた者、島内企業の労働者として働いた者、戦中は本土防衛の前衛基地としての島において戦いに参加した者、硫黄列島との関わり方には諸相があるが、戦後は一転して一般島民の帰島が許されず、今以て容易に出入りできない状態が続いている。
    本土の復興の影で、在沖米軍、硫黄列島、北方領土といった「辺境」においては、住むことはおろか立ち入ることもままならない状態になっている。
    「平和な本土」に住まう者はそこをどのように見るか、「自分が生まれた場所に入ることができなくなったらどう思うか」、こんなことを考える一冊だった。

  • ふむ

  • 硫黄島、北方四島と違って日本の実効支配に戻ってるのに、旧島民が帰れない。

  • 映画を見て私も、わざわざ兵隊さんたちのために硫黄島に来てくれてたのか〜とか、日本先戻しといたの本当に正解だったよ!って思っていた。

    島で取れる食べ物もあったし元々住んでた住民もいた。神社もあったし学校もあった。

    その上激しい地上線の場として知られてはいない。

    住民が元からいなかったことにされている。これはいけない。歴史を学ぶ価値があるなと思うし、戦争は住んでいた住み続けたかった土地を奪った上、あとは勝手に生きろと責任取らないしいいことがひとつもない。

    住んでた住民がそのまま硫黄島で兵隊となってしまうの本当に悲しい。
    というか、硫黄島の兵隊さんがほぼ家族がいだという事実も悲しい。自分たちの家族を守れると必死だっただろうな…

    アメリカに島を囲まれ、一度も救援もなかったと知り生き残ったって死んでしまうじゃないかと。

    硫黄島についての事実を知れば知るほど、
    当時戦った人たちの気持ちを想像すると(しきれないけど)本当に悲しくなる。すごいなとも思う。

    もう少し硫黄島についても学校で学ばせるべきだと思う。

  •  硫黄列島島民の視点から見る通史。硫黄島のイメージを「地上戦」言説(「地上戦史観」)一辺倒から解放する、島民の視点から日本とアジア太平洋世界の近現代史を捉える、という著者の2つの目的がよく理解できた。
     19世紀末の領有宣言以降の半世紀、南進論の高まりの中で開発が始まり、硫黄採掘、日本と糖業、コカ栽培を含む農業と漁業、と主要産業は変わるが、人の生活があった。小作人と会社との闘いも。
     1944年からは軍事化が進み、島民は疎開か徴用(会社による「偽徴用」を含む)かを強制され、残った島民は地上戦を経験する。
     戦後、冷戦の中で米軍により島が秘密基地化されたことで、「日米合作」の責任により島民は故郷に帰還できない。施政権変換後も、核密約や日米共同基地化により故郷喪失が固定化される。強制疎開と米軍占領は共通するも基地が置かれなかった大東諸島との差異は明らかだ。
     小笠原諸島や大東諸島の記述。また文献又は著者の聞き取りによる島民の証言。これらが随所に挿入されるため、若干読みにくさも感じた。しかし一方で、前者では大きな見取り図の中で硫黄列島が理解でき、後者ではかつて存在した人の営みが一層現実的に感じられた。

  • 硫黄島がいまだに住民が帰れない島でいることがわかった。前著、群島の社会学の硫黄島に特化した本という感じか。映画についても論究がありバランス感覚のある良著である。

  • 硫黄島の地上戦についての書籍かと思ったが、それだけではなく硫黄島に先住していた人々を主たるテーマとしている。

    戦前から硫黄島にプランテーション経営がされており、会社(東京本社だが)まで存在していたこと。小作人含め1000人以上居住していた。島民たち地上戦前に本土へ強制疎開させられ、非常に苦しい生活を強いられており、帰島を望むも未だ叶っていない。

    このような事実を本書で初めて知った。硫黄島といえばどうしても地上戦に目がいきがちだが、その裏でこのように苦難にあえぐ人々がいることは忘れてならないと感じた。

  • 硫黄島にかつて住民がおり生活が営まれていた事を初めて知った。また西表島の炭鉱でもそうであるが島嶼という閉鎖空間の中で酷使され搾取され続けた人達が日本の近代化の中にあったことも教育の中で教えていくべきものであろう。

  • 南進の流れの中で入植が進んだ島は、戦火に巻き込まれ、戦後は島民の住めぬ地となった――。

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著者プロフィール

明治学院大学社会学部教授

「2018年 『帝国日本の移動と動員』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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