リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025227

作品紹介・あらすじ

アメリカ社会、とりわけ若い世代で広がりつつあるリバタリアニズム(自由至上主義)。公権力を極限まで排除し自由の極大化をめざす立場だが、人工妊娠中絶や同性婚に賛成するなど、「保守」や「共和党」とは必ずしも同一ではないため、日本人には理解しにくい面がある。「自由の国」アメリカで、「自由」を突き詰めることによって、国家が果たすべき最低限の役割とは何かが問い直されている現状を浮き彫りにする。

感想・レビュー・書評

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  • 自由至上主義者はマリファナを吸いすぎで頭がおかしくなった連中なのか。自由市場、最小国家、社会的寛容を重んじ経済的には保守、社会的にはリベラル。連邦政府への懐疑心が強く国防、司法、治安のみを政府の役割とする夜警国家論も。弱者を切り捨てる市場万能主義と批判も共和、民主にも共感できない米国若い世代が増加中。中南米では急速に浸透中、東欧では対極の権威主義が増殖中。

  • この本を読んでいると、国家の干渉という点では、自分はリバタリアニズムの影響を大きく受けているなあと感じる。

    リベラル、保守どちらにもない視点がリバタリアニズムにはある。そしてリバタリアニズムといっても相当幅があるのが面白かった。

    「人種差別は最も下等で下品な原始的集合主義」という立場をとりながら、政治による是正措置には否定的など、独特なロジックがあるのは興味深い。

  • 米リバタリアン党を創設した、デヴィッド・ノーランは、リバタリアニズムの位置づけを、個人と経済的自由をともに重視する政治的立場と位置付けています。個人の自由を軽視し、経済的自由を重視するのが保守、個人の自由を重視し、経済的自由を軽視するのがリベラル、とのことです。

    このノーランチャートは、アメリカの2大政党である共和党(保守)と民主党(リベラル)、そして最近注目されているリバタリアンの政治的位置関係を良く説明してくれています。固定した身分社会や巨大な政府による統治の両方を拒むという点においては、いずれも共通とのことです。

    リバタリアニズムに多大な影響を与えている思想として、作家アイン・ランドの、「肩をすくめるアトラス」という小説が紹介されています。合理的利己主義を称揚し、公共善や利他主義を否定、集団的思想を拒否し個人の主体的実存を貫いたと、その人物像が語られていますが、元々はロシア出身。個人主義への傾倒は、ロシア革命後の全体主義に対する反発から生まれたのでしょうか。いずれにせよ、グリーンスパンや、トランプ大統領など愛読者が多いようです。

    個人の才能や努力による自己実現を重視し、その自由を阻害する要因を排除、否定するのがリバタリアンと理解しました。著名な経済学者であるミルトン・フリードマンの孫が、シーステッドという洋上自由都市を提唱しているエピソードを興味深く読みました。

  • リバタリアニズムというのは、個人の自由を最大限尊重して、政府の介入を最小限にする、という思想のようです。
    著者は、アメリカのリバタリアニズムのNPOや財団、中国の財団に取材しています。

    リバタリアニズムという思想そのものよりも、アメリカのNPOや財団が多くの寄付金を集めて、かなりの資金力があることが印象に残りました。

  • リバタリアニズム思想に深く切り込むというよりは、全体的に近年の動きや事例を多く挙げていく形式。
    リバタリアニズムの理論や哲学的考察についての厚い内容を期待していた自分にとっては、イメージしていた内容と少し違ったので後半は読み飛ばす形になった。海外ではこういう動きがあるんだ、ふーんってなりたい人向きの本だと思う。
    日本に思想の選択肢を増やした方がいい、というのは大賛成。

  • リバタリアニズムとはどういう思想であるかということについては、自由市場、最小国家、社会的寛容を重んじる思想であるという最低限の説明に留められ、代わりにこのような思想を持った人たちが、実際どのようにしてそれを実現しようとしているのかが活写されています。

    特に第1章では、1大学院生が世界中のリバタリアンに対し、特定の州に移り住もうとオンラインで呼びかけることでその政治的意思を反映させようする「フリーステートプロジェクト」や、クラウドファンディングで資金を募り、公海上に人工島を設営することで人類を政治家から解放しようとする「シーステッド構想」など、机上の空論に留まらない自由を目指した活動がアメリカで行われていることが書かれており、大変刺激を受けました。さすが自由の国アメリカ。

    著者はあとがきにて、本著ではリバタリアニズムという思想の喧伝というよりも、「アメリカのリバタリアンの草の根の営為を通して、世界•現実•人生を意味付ける際の思考の選択肢を提供」することを狙いとしたと述べており、その点では第一章を読むだけでも価値はあると思いました。

    本著からはリバタリアニズム入門という性格はあまり感じられないものの、「自由はどこまで可能か」(講談社現代新書/森村進 著)では自らをリバタリアンと宣言する著者による、リバタリアニズムという思想のもつ射程が哲学的に議論されており、実際に足を使ったルポ的な性格をもつ本著と相補的な位置にあると感じました。
    両者を併せて読むとより理解が深まると思いました。

  • 日本でも流行りそう
    だし、増えて欲しい

  • 佐久間氏の『Weの市民革命』と並行して面白く読んだ.

    オバマにもトランプにも共感しない若い世代==ミレニアム世代は,アメリカ社会において経済的にも政治的にも文化的にも非常に大きな影響力を持つ存在なわけですが,かれらを自由主義(リバタリアニズム)ということばで括って一枚岩のように論じられるかというと,そうではなく多様な価値観の中で通底する考え方が,リバタリアンという存在の輪郭を太い鉛筆で描いているということがわかる.

    その「通底する考え方」はp.115にある以下の一節要約されていると思う.

    「貧困や弱者への支援を含め、私たちは往々にして現実社会における「影」や「負」への対応を政府に丸投げしてはいないか。そして、政府を批判することで私たち自身の「他者」への「責務」から逃れ、自らを道義的高みに置こうとしてはいないか。他者への想像力を取り戻すうえでも、政府の役割や権限について根本的な再考を促すリバタリアンの試みには価値がある」

    ブクログの他の人の書評をみてると,本書は学術的でないとか印象論的だとかいった雑感が多くてなんだかなあと,著者とおなじく東海岸の大学(院)で青春時代を過ごし,いろんな国から異なるバックグラウンドを持つ者が文字通り集まり形成されているアメリカ文化を肌で感じ生活した経験者としては思った.

  • アメリカ社会、とりわけ若い世代に広がりつつある「リバタリアニズム」(自由至上主義:政府の力を極限まで排除し、自由の最大化を目指す)について紹介した書籍。

    ーーーー✂ーーーー
    ・自由市場・最小国家・社会的寛容を重んじる人々を「リバタリアン」(自由至上主義者)という。
    彼らは、ある面では保守、ある面ではリベラルである。例えば、移民や人工妊娠中絶などには寛容(リベラル)であり、銃規制や公的医療保険制度には反対(保守)の立場をとる。

    ・近年、若者の間でリバタリアン志向が高まっていることを示唆する報告が増えつつある。
    2017年に18~34歳の若者を対象に行われた調査では、71%が二大政党(共和党、民主党)に幻滅しており、本格的な第三政党が必要だと回答した。

    ・リバタリアニズムが広まった背景には、インターネットの登場がある。
    例えば、Airbnb、Uber などのサービスは政府の法規制によって守られるのではなく、インターネットを通した利用者間の評価を基に自生的に成立する。ブロックチェーンも然り。
    こうした技術の進展が、政府とは無縁のリバタリアン的世界を広げている。

    ・リバタリアンの内実は様々。
    例えば「政府の関与の度合い」については、次のように立場が分かれる。
    └無政府資本主義
    政府の存在を認めず、警察や裁判所などあらゆるサービスの民営化を唱える。
    └最小国家主義
    政府の役割は、国防・司法・治安に限定されるとする。無政府資本主義者よりは穏健な立場。
    └古典的自由主義
    「大きな政府」を否定しつつも、政府の役割にはより肯定的。最も穏健で中道に近い立場。

    ・リバタリアンには立場の違いを超えた共通点がある。
    それは「相手(ないし自分)の自由を侵害しない限り、自己(ないし他者)の自由は認められる」とする、相互不可侵の関係性。

  • 著者のリバタリアニズムについての雑誌への寄稿が興味深い内容だったため、こちらの本も購入。しかし、誰々はリバタリアンでこういう思想を持っている、リバタリアニズムの組織にはこういうものがあるというのが延々書かれており、この分野を専門に調べている人間でなければ特に面白いとは思えないだろう。リバタリアンと言っても個々の政策への考え方は色々あるということは伝わった。

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著者プロフィール

渡辺靖

慶應義塾大学SFC教授。1967年(昭和42年)、札幌市に生まれる。97年ハーバード大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。オクスフォード大学シニア・アソシエート、ケンブリッジ大学フェローなどを経て、99年より慶應義塾大学SFC助教授、2005年より現職。専攻、アメリカ研究、文化政策論。2004年度日本学士院学術奨励賞受賞。著書に『アフター・アメリカ』(サントリー学芸賞・アメリカ学会清水博賞受賞)、『アメリカン・コミュニティ』『アメリカン・センター』『アメリカン・デモクラシーの逆説』『文化と外交』『アメリカのジレンマ』『沈まぬアメリカ』『〈文化〉を捉え直す』など。

「2020年 『白人ナショナリズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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