オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史 (中公新書 2518)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025180

作品紹介・あらすじ

イスラム世界の最果てで「信仰戦士(ガーズィー)」をまとめ上げた始祖オスマン。
アナトリアを統一した稲妻王バヤズィト1世。
ビザンツの帝都コンスタンティノポリスを征服し「征服の父」「二つの陸のハーカーン、二つの海のスルタン」を称したメフメト2世。
イスラム世界の世俗の最高権力者スルタンにして、預言者ムハンマドの正統後継者カリフとなったセリム1世。
西方世界から「壮麗王」と呼ばれ、オスマン帝国の黄金時代を築いたスレイマン1世。
大宰相ファーズルとともに帝国史上最大版図を達成したメフメト4世。
西洋文化をとりいれ、都市文化の爛熟を導いたアフメト3世。
芸術外交を推し進めたセリム3世、イェニチェリ軍団を廃止して郡司改革を行った「大王」マフムト2世。
「最後のスルタン」メフメト6世、「最後のカリフ」アブデュルメジド・エフェンディ――大帝国を彩る皇帝たちの光芒

感想・レビュー・書評

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  • 14世紀初頭から20世紀初頭にかけて、約600年の長きにわたり存続したオスマン帝国栄枯盛衰の歴史を綴った書。

    オスマン帝国は、600年間、常に領土を巡って周辺国と争い、国内に紛争の火種を抱えていて、その版図は刻々と変わっていったようだ。まるで、日本の戦国時代が600年間続いたような感じ。読んでいてちょっとウンザリだった。戦費もかさんだろうしなあ。トルコ人は、元々はモンゴル高原起源の遊牧民だったというから、そういう先祖のDNAも関係しているのかな?

    戦乱に明け暮れつつも長きにわたり帝国が存在し続けられた秘訣は、スルタン即位時にその兄弟を処刑する「兄弟殺し」の習慣、奴隷を王子の母とする習慣(王妃の一族が外戚として力をもつのを防ぐため、王妃との間には子を作らない)、君主直属の奴隷を重用する習慣(君主権力の絶対化を図るために抜擢)、諸民族・諸宗派の共存を目指した柔軟で寛容なオスマン主義の採用、等にあるという。兄弟殺しにはさすがに唖然とした。野蛮というか、血も涙もないというか。帝国も後期になると、さすがに殺さず幽閉するようになったようだが(ずっと幽閉されていたお陰で帝位を継いだ時には気が触れてしまっていたスルタンも何人か居たようだから、残酷であることには変わりないよな)。

    最後は、オスマン帝国の宗教的・民族的な寛容性が仇になり、滅亡を早めてしまったようである。著者は、「近世までの帝国の特性である柔構造が、均一かつ同質な国民国家を形成するという潮流が世界的に加速するなかで機能不全を起こした」と書いている。

    本書から、第一次世界大戦前夜のバルカン半島の不安定な状況などが分かったのは良かった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      norisukeさん
      親日国だから、勝手に親しみを抱いているのですが、モンゴルがルーツだったとは、、、
      怖い面ではブルガリア映画『略奪の...
      norisukeさん
      親日国だから、勝手に親しみを抱いているのですが、モンゴルがルーツだったとは、、、
      怖い面ではブルガリア映画『略奪の大地』を思い出していました。何処も近隣の国同士だと色々、、、
      2020/10/06
    • norisukeさん
      猫丸さん、コメントありがとうございます。
      遊牧民はユーラシア東西の交易を担って隠然たる力を持っていたともいいますし、本書を読んで、改めて中...
      猫丸さん、コメントありがとうございます。
      遊牧民はユーラシア東西の交易を担って隠然たる力を持っていたともいいますし、本書を読んで、改めて中東や中央アジアの人々の強靭さやバイタリティを感じました(残念ながら、欧米中心の現代社会とはマッチしていないようですが…)。トルコは最近ニュースになることが多いので、今後注目していきたい国の一つです。
      2020/10/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      norisukeさん
      そう言えば、EU加盟できるのかな(独り言です)
      norisukeさん
      そう言えば、EU加盟できるのかな(独り言です)
      2020/10/06
  • タイトル通り、オスマン帝国の600年史をまとめた1冊です。歴史好きの友人にオススメいただいて読了。
    「歴史を綴って意味づけていく営みの面白さ」と、「権力のコントロールの巧みさ」が興味深いと感じた1冊でした。

    前者について、卑近な例で行くと、正直自分が普段接している会社の仕事でさえ、「この部長の時はこういう方針で他部にも強く出ていて」とか「この部長の時は景気が悪かったのもあって新しいコトができなくて」みたいな振り返りすらできてない訳なのです。客観的に振り返れるほどの第三者ではない、というのはあるかもしれませんが…。
    それを、こんな何百年も前の歴史を分析して、「この時期は帝国の衰退期だと思われていたが、実際には権力構造の変革が進んだ時代で、今後の発展の礎となったと再評価されるようになった」なんて言えるのって凄いコトだなぁと。
    ひょっとすると、歴史を学ぶ効用の1つとして、歴史的な事実の連なりの中で、それに流れや意味を見出していく思考訓練になる、というのはあるのかもしれません。

    後者について、本著内でたびたび触れられ、終章でも取り上げられているように、権力構造が600年の間に移り変わっていく姿が、様々なステークホルダーの思惑も含めて描写されていて、これも面白かったです。
    特に、スルタンによる中央集権体制から、徐々に分権化が進んでいくくだりは確かにある種民主的な香りもあるなぁ…と思いました。

    ちなみに、セリム1世を指して、「冷酷王」と言うそうなんですが、振られているルビが「ヤヴズ」
    これは…!と、ちょっと中二病的なコトを思ってしまいました(笑

  • 600年のオスマン帝国史が、歴代スルタンを網羅することで伝えられる。17世紀に広げられた領土は、中東をベースにアフリカ、ヨーロッパへと拡大するが、民族、宗教の見地からして現在ではおよそありえない版図だ。その繁栄と衰退、滅亡の歴史をもっと物語的に知りたかったが、通り一遍のスルタン略伝のごときであったのは物足りない。王位継承の裏には、目潰しや処刑といった兄弟の排除、鳥籠(カフェス)制度というシステムが継続されたことに驚くが、柔軟なクルアーン解釈による「オスマン的イスラム」あっての長命帝国であったことを学ぶ。

  •  近代ヨーロッパの本を読んでると、崩壊しかけのオスマン帝国が出てくるので気になって読んでみた。

     ただ教養として軽く読むには難しかった。聴き慣れない横文字のせいかも。でも、オスマン帝国がどのような特徴を持っている国か、現在にどう根付いているのかがなんとなくわかったと思う。もうちょっと簡単な本を読んでみて再挑戦したい。

  • オスマン帝国に全く触れたことのない私にも、わかりやすく楽しく読める新書でした。でもたった300ページで600年を語るため、1ページごとの圧がすごくてもう2,3回は読まないと色々覚えられそうにないです笑。
    噂には聞いてたけど本当に兄弟殺しまくっててウワーッと思った、でも君主崩御後の跡目争いとどっちがいいかと言われると…
    他国との接地面?が広すぎて、ロシアもオーストリアもエジプトも出てくるの面白すぎですね、壮大

  • トルコもオスマン帝国もほとんど知らないよ〜な完全初心者が読んでみた。
    いやぁ、面白い!
    同名の人物が出てくるのに最初は苦戦したけど、地図や家系図、索引も活用して読み進めていけば全体的に優しく解説してあるので、難しくはなかった。

    はしがきに「時代ごとに違う国家があったよう」とある通り、区分通りの4つの時代で王権や政治体制が異なっている。それに至る経緯や事件などを流れとしてみると、なるほどなるほど…。
    様変わりしていく様子や過程も興味深い。
    たとえば、近代化に近づく政策が進められていったと思ったら、その直後に「王位を継げる唯一の男子になれば廃位されない」と古来からの「兄弟殺し」と同じ継承者の殺害が起こる。
    長く続いた王権だからこそ、こういうことも起こる。

    日本史はわりと好きだけど、世界史はさっぱりだよーな初心者当方からすると、
    「母親は奴隷出身(母親の出自が子供に影響しない)」「兄弟殺し」はビックリするものだったが、これが王位継承をスムーズにしているのは納得。
    婚姻によって母親側が権力を持つから関白だの院政だので朝廷内の権力闘争が起こるのだし、継承権が複数人にあるからゴタゴタが続く。
    後者は人道的にはよろしくないし、王位継承がスムーズにいかずに断絶する危険性もあるけど。
    こういうシステムもあった!というのは興味深かった。

  • 全編にわたり面白かった。第3章までは世界史の教科書では空白地帯になっていることも多く、毎日1ページごとに参照メモをとりながら読み進めた。

  • 巨大なイスラム文明の象徴とも言えたオスマン帝国の繁栄と衰亡の600年を日本で初めて詳細にまとめあげた上で、一般の読者にも分かるよう配慮されている貴重な一冊。カリフとスルタンと近代的立憲民主制のせめぎ合いの中で、巨大な帝国が翻弄されて滅亡していく様は、ひとときの夢のようだったモンゴル帝国のそれとは重みが違った。オスマン帝国はかつては負の遺産として封印されようとしていたが、今のエルドアン大統領の政権下で、イスラム的価値観の再評価とオスマン帝国の再評価が行われ、公的に称賛されている。カドゥザーデの時代、タンズィマートの時代を経て、エルドアン大統領により、イスラム主義のアブデュルハミト2世のような時代がまた来るのだろうか。

  • トルコドラマ「オスマン帝国外伝」「キョセム」を見て、オスマン帝国自体に興味を持ちこの本を読みました。
    帝位につかなかった兄弟は皆殺しという制度に驚いた、なんて非情な。自分が后だったら男の子は産みたくない、産んでも一人だけ、後は女の子がいい。

  • 600年にわたって一つの王朝が続いたオスマン帝国――その継続の理由が本書を読めばわかるだろう。また、多くの君侯国の中からオスマン朝が覇者となった理由も――オスマン帝国の政治史がわかりやすくまとめられている。各時代のオスマン帝国の体制の変遷や諸国との関係についての叙述、さらには現代史への言及もある。どんなに短期間の在位のスルタンにも何かしら述べられている。系図ページは何度も見返すことになるだろう。コンパクトなオスマン帝国入門書。

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著者プロフィール

九州大学大学院人文科学研究院イスラム文明学講座准教授。博士(文学)。1974年生まれ。専門はオスマン帝国史、トルコ共和国史。主著に『イスラーム世界における王朝起源論の生成と変容――古典期オスマン帝国の系譜伝承をめぐって』(刀水書房、2014年)、『オスマン帝国――繁栄と衰亡の六〇〇年史』(中公新書、2018年)、編著に『トルコ共和国 国民の創成とその変容――アタテュルクとエルドアンのはざまで』(九州大学出版会、2019年)など。

「2020年 『歴史教育の比較史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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