中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで (中公新書)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025067

作品紹介・あらすじ

世界第2位のGDPを誇る経済大国、中国。世界経済への影響力も増すばかりだ。だが、その実態は分かりづらく、時事的な状況や論者の立ち位置により、「脅威論」から「崩壊論」まで評価が割れている。本書は、「中国の経済統計は信用できるか」「なぜ不動産バブルは生じるのか」「一党独裁体制の下でイノベーションは生じるのか」など、中国経済が直面する重要課題について分析。中国経済の本質をつかむことを目指す。表面的な変化に流されない、腰の据わった中国経済論の登場。

感想・レビュー・書評

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  • とかく実態が掴みにくく、極端な議論を生みがちな現代中国経済について、経済統計の信頼性、過剰債務や不動産投資といった金融システムのはらむ安定性、格差の問題、国有企業のガバナンス、技術開発や起業、そして一帯一路を含む地域経済における周辺国との関係性といった、幅広い観点から整理してくれる本。

    現代中国経済に関するバランスの取れた見方を提供してくれる、非常によい本であると感じた。

    中国経済の分かりにくさの要因は、中国独自の制度や歴史的経緯などが生み出していると思われる。一方、中国経済であっても、グローバル経済の一部として組み込まれており、全く異質かつ独立した経済圏があるというものではない。

    従って、中国経済の不確実性や不透明性を極端に強調した見方は、正確さを欠いていると言えそうである。そうではなく、中国独自の制度や背景を念頭に置きつつも、実態を冷静に見つめることが大切であると感じた。

    例えば中国経済の金融面での安定性については、地方政府の過剰債務や不動産バブルがある程度懸念されるのは事実であるが、そのような状態は世界各国でこれまでにもみられたことであり、適切な金融政策が取られていれば、中国だけが特に不安定性を抱えているわけではない。むしろ、中国においては、ドルとの連動性の高い為替が金融政策の足かせとなっていることが、リスク要因であり、その動向こそ注視すべきものであると述べられている。

    また、イノベーションとの関係では、中国は知的財産権が確立していないと言われることが多い。確かに
    「山寨携帯」などと呼ばれるコピー商品に近いものが多く作られていることも事実であるが、同時に、欧米よりもより大規模かつダイナミックなオープンソースによるものづくりが展開してるのもまた、中国である。

    そのような環境は、知的財産権保護だけでは達成できない、スピード感と多様性のあるイノベーションを生む可能性もある。

    こういった多面的な中国の見方を提供してくれることで、脅威論とも崩壊論とも一定の距離を置きながら、中国の本質的な変化や可能性を考える視点を身に付けることができる本だった。

  • 中国経済に対しては著者のスタンスによって脅威論から崩壊論まで大きく論調が分かれますが、この本は「中国の経済統計は信頼できるか」「不動産バブルを止められるか」「人民元の国際化は経済にどんな影響を及ぼすのか」「共産党体制での成長は持続可能か」など、近年の中国経済が直面しているいくつかの重要な課題について、経済学の標準的な理論とそれを前提とした実証研究の結果を踏まえてできるだけニュ一卜ラルに分析しています。
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  •  中国のGDP統計は信頼できるのか?との疑問が出された時、私たちは確かにその疑問に囚われてしまう。それは私たちの中国に対する政治外交のいきさつからネガティブに評価する不信感がそのようにさせているのではないか?著者は中国のGDPがでたらめではなく、精度の誤差があるにしても間違いなく世界2位の経済大国であることを確認させるだけではなく、遅くとも2030年代頃には米国を抜いて世界1位になることも確実だという。中国の国際特許出願数が世界一になっているなど、既にハイテク分野でも日本を上回りつつある実態を解説する。このような強大な隣国にどのように付き合っていくのかが、日本の課題になっているのだ!

  • 無関心ではいられない中国経済の動向をネタに、経済学の様々な道具を紹介しつつ使ってみせる。経済学初学者のための良書だと思う。デット・デフレーション、リフレ政策、金融政策・通貨価値・対外資本取引のトリレンマ、資本の過剰蓄積、ユーロ圏の罠、ルイスの転換点、ゾンビ企業、深圳のエコシステム(産業生態系)、囚人のジレンマと報復・評判・分断、アリババの仲介システム、ハイエクの自生的秩序、等々の概念が具体的な事例に即して語られており勉強になった。また中国政府の様々な経済政策の変遷を、それぞれコンパクトにまとめて説明してくれているのもありがたい。中国経済にについてよりフラットな見方ができるようになった気がする。

  • 中国経済について興味を持っている人であれば断片的には聞いたことがあるであろう情報を一冊にまとめたという感じで、大学の授業でいうと理論的に整理された学問を学ぶというよりは、教養段階として様々なトピックを学ぶと行った趣の一冊。

    「中国すごい論」を語る人も、「中国ダメ論」を嘯く人も、どちらも本書を読むことはないだろうけど、そういった人たちこそ本書を読むべきであるし、本書を正しく理解できた人はそういった両極端な意見を冷静にやり過ごすことができるようになるだろう。

  • 現代中国経済の概観。標準的な解説で安心感はあるがやや面白みにかけた。地方財政の問題、融資平台と呼ばれるシャドーバンキングを通じた地方政府の資金調達方法は知らなかったので勉強になった。
    時折、経済学の基本概念を解説している。教科書としても使いたいのだろうか、解説が少し冗長になっている。

  • 中国経済を解説した本は、経済分析というより、著者が書きたいように、望むように礼賛論から懐疑論まで様々。
    そうした中、本書は何が信頼できて、どこが不透明なのかを丁寧に解説しており、安心感があった。
    それでもGDPの信頼性、金融リスクなどは、やはり統計の限界もあるからか、概ね大丈夫という程度に留まっており、隔靴掻痒の感は否めない。
    むしろ、後半の農民工や国有企業改革などのセミマクロの分析の方が事例や事実関係も具体的でよかった。

  •  専門的な記述になり過ぎることはなく、同時に農民工や格差といった社会問題にも触れており、中国経済にあまり予備知識がなくても読めた。
     現在の中国は「資本過剰経済」であり、「一帯一路」はそれと関連する資本輸出型の構想。ただし全体を統括する組織などがあるわけでなく、既存のものを繋ぎ合わせた「星座」に近いこと。統計に表れる収入格差以上の資本格差や「灰色収入」の存在。都市化政策の方向が不透明なことから、土地を手放しても都市戸籍を望む農村戸籍者はわずか10%であること。国有企業がゆっくりと「退場」できるか、又は合併によりますます大型化するか。
     テクノロジー進歩によりある面では日本よりずっと進んだ状況と、労働環境は古く、法の支配のような近代的制度・価値観が広まらない状況。これらが併存する現在の中国を端的に表す、「まだらな発展」との表現が印象的だった。
     また、中国のような体制下で、IT分野を中心になぜ新しい製品やサービスが次々と生まれるのか漠然と不思議に思っていた。本書では、知的財産権に関するある種の「緩さ」、権力が定めるルールの「裏をかく」インフォーマル性と多様性を体制が許容し利用もする、「権威主義な政府と非民主的な社会と自由闊達な民間経済とのある種の共犯関係」という表現が新鮮だった。

  • 中国の公式統計から民間企業、労働環境など、知らないことが多く書かれていて勉強になった。

  • 序章 中国の経済統計は信頼できるか
    第1章 金融リスクを乗り越えられるか
    第2章 不動産バブルを止められるのか
    第3章 経済格差のゆくえ
    第4章 農民工はどこへ行くのか―知られざる中国の労働問題
    第5章 国有企業改革のゆくえ―「ゾンビ企業」は淘汰されるのか
    第6章 共産党体制での成長は持続可能か―制度とイノベーション
    終章 国際社会のなかの中国と日中経済関係

    著者:梶谷懐(1970-、大阪府、経済学)

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著者プロフィール

梶谷懐1970年生まれ。神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国経済。神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学)。博士課程在籍中に中国人民大学に留学(財政金融学院)。神戸学院大学経済学部准教授などを経て、現職。著書に『「壁と卵」の現代中国論』(人文書院)、『現代中国の財政金融システム』(名古屋大学出版会、第29回大平正芳記念賞)、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』(太田出版)、『日本と中国経済』(ちくま新書)、『中国経済講義』(中公新書)。共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)など。

「2023年 『所有とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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