通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • / ISBN・EAN: 9784121023896

感想・レビュー・書評

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  • 古代以来の通貨の歴史を俯瞰している。かつては輸入銭に依存していた時代もあったなど、紆余曲折が面白い。

  • 政府と中央銀行が独占的に通貨を発行するようになったの,本当にわりと最近

  • 私は、物々交換が通貨に転じる歴史的過程が理解できていない。なぜ魚と米の交換の仲介として「きれいな貝殻」(や「貴金属」)を使うことが人々に是認されて、しかもそれが後に硬貨に替わるのかが、どうしても理解できない。そこで本書を入手。

    正直に言って、本書を読んでも、よくわからなかった。本書が力作なのだろうことは、わからないなりにも、わかった。

  • TH3a

  • 古代から現代日本にかけての日本の貨幣史を述べたのが本書である。冒頭で、貨幣の定義として経済学の教科書でお馴染みの「交換手段」、「価値尺度」、「価値貯蔵手段」に加えて、債務決済や贈与、納税など社会的義務に基づく「支払手段」が挙げられている。(P.4)

    天武朝の時代に、日本最古の国産銅銭である富本銭が鋳造された。富本銭発行の目的の一つとして、藤原京建設のための物質購入と労賃の支払が挙げられている。つまり「国家支払手段」として発行された。上に挙げた貨幣の定義の「支払手段」である。奈良時代に発行された皇朝十二銭の多くがそうした「国家支払手段」として発行された。古代朝廷の通貨政策は「総じて、朝廷が財政支出した銭の受領を人々に強制する政策である。国家支払手段の機能を朝廷は期待しており、一般的な交換手段の機能を第一の目的とはしていない」 (P.15)と述べられている。古代朝廷による銭の還流政策の失敗、材料の銅不足、そして何よりは古代朝廷の建設事業の中止による国家支払手段の喪失を持って、貨幣発行は停止してしまった。

    十二世紀から十六世紀にかけての中世では、中国から渡来銭が大量に日本に流入した。到来の波は南宋、金、元からの三つの大きな波があり、いずれも歴代王朝が銭の使用禁止、紙幣政策の採用によって、大陸から押し出される形で日本に中国銭が渡来した。古代における国家支払手段としての銭とは違い、勝手に社会で渡来銭が自律的に流通したのが中世の特徴である。(P.28-P.45)

    中世全般にかけて、民間の貨幣需要に対して渡来銭による貨幣供給が不足気味だった。その不足を補うために、私鋳銭の製造や割符や祠堂銭預状といった紙媒体の紙幣普及、さらに紙さえ使わない口頭による信用取引が誕生した。中世の大きな特徴として、支払決済時に特定の銭の受取りを拒否する撰銭があり、中世では撰銭が頻発していた。人々の撰銭に対して、戦国大名は撰銭令を出して撰銭行為をやめさせようとした。本書では、信長による撰銭令が大きく取り扱われており、撰銭令を出したにも関わらず、人々は信長が禁止した米の通貨利用をやめなかった。(P.74~P.78) 信長、そして後を継いだ豊臣秀吉は、ビタ(はたかけ(端が破損)、ひらめ(無文銭)、ころ(加治木銭)、へいら(仕上がりが粗末な銭)を除いた特定の低品質銭以外すべて)を基準銭として流通させて撰銭による銭の階層化を平準化させる政策を採った。しかし、これはビタを基準銭とする社会慣行の後追いである。(P.79~P.84) このように時の権力が銭の社会慣行を追認するというのは、日本の貨幣史に多く見られた現象である。

    豊臣政権後に、家康によって、江戸幕府が開幕。江戸幕府は金貨、銀貨、銭を製造して三貨制度が成立する。製造年代を見ると、1601年に慶長金、慶長銀の製造開始、1636年に庶民が使う寛永通宝が製造を開始する。寛永通宝発行の前年に参勤交代が開始しており、参勤交代時の宿場での両替のための寛永通貨発行、つまり武士階層のための交通対策であったと述べられている。金貨・銀貨の発行先行は主に「財政需要に基づくものであり、庶民の通貨需要は後回しであった」(P.93)と述べられている。

    国内の鉱山資源の枯渇、海外貿易による貨幣流出(金貨・銀貨・銅銭そのものが「商品」として輸出されていた)と幕府財政赤字化により、綱吉政権下で荻原重秀が主導して貨幣の改鋳が行なわれる。元禄の貨幣改鋳である。萩原による元禄の貨幣改鋳は、通貨流通量を増やすのが主目的だったとリフレ派の学者、エコノミストによって唱えられているが、やはり出目(通貨発行益、マネタリ―・シニョリッジ)獲得による財政ファイナンスが主目的で、通貨流通量の増大策は副次的なものだったと個人的には思う。筆者によれば、「この後も幕府の通貨政策の基本路線は江戸に住む将軍や大名の財政対策であり、彼らの利害に基づく。庶民の保護という発想はなく、あったとしても二次的だった。」(P.123) との事だ。綱吉政権下での貨幣改鋳はその後の金貨・銀貨の名目貨幣化の先駆けになった。

    荻原重秀失脚後の新井白石による「反動」政策を除いて、その後の幕府の貨幣改鋳では貨幣の質は落とし続けられた。徳川吉宗による享保の改革後期での貨幣改鋳を経て、田沼意次が政治を主導した田沼時代に至る。田沼意次、勘定奉行の川井久敬の主導によって、1772年(明和九年)に明和二朱銀が作られる。明和二朱銀には「これ八枚を小判一枚に兌換する」という表記があり、1/8両=金貨二朱に相当する計数貨幣である。銀製だが金貨の単位を持つ計数貨幣を、金貨単位計数銀貨と呼んでいる。(P.139) 明和二朱銀は普及して成功だった。田沼の通貨政策は、明和二朱銀という金貨単位計算銀貨の普及により、金貨が実質的に一元化して、(疑似)金本位制に近づいたと本書では大きく評価されている。(P.109) 田沼意次失脚後に松平忠邦の天保の改革を経て、十一代将軍家斉の下で、1818年に水野忠成が老中に就任した。忠成は田沼派の系譜に当る。忠成は発行益獲得による財政補填のために、貨幣を改鋳して多くの種類の貨幣を製造させた。本書では、田沼意次についで水野忠成が大きく評価されている。「これら通貨が供給されたことが、近代に向けて庶民経済が発展する契機となった。通貨供給による幕府の財政収入(発行益)増加→財政支出増加→通貨供給量増加→物価上昇→商品(農産加工品)生産増加→国民一人あたりの所得増加というプロセスが発生したからである」(P.152) このサイクルがうまく回ったことで、経済は成長して化生文化が栄えたとされている。

    1853年にペリーが来航、1858年に日米修好条約調印により、自由貿易が開始される。開国前の幕府の対外通貨交渉の失敗により、多くの金貨が海外に流出して、それが倒幕の遠因になった(例えば、佐藤雅美『大君の通貨』など)と以前は考えられていたが、最近の研究だと、金貨流出は、従来の研究の推定より少ないと考えられているようだ。(P.174) 幕府崩壊後に明治政府が成立、日本銀行成立前の太政官金札発行といった過渡期を経て、1882年に日本銀行が成立。1897年に日清戦争後の賠償「金」により日本は金本位制へ移行する。その後に、太平洋戦争、高度成長を経て現代にいたるというのが大まかな流れだ。

    全体的な感想としては、専門が中世史、近世史の先生なので、中世・近世に多くの記述が割かれている。明治時代以降の描写は駆け足気味。一層のこと、明治時代で記述を切ってしまっても良かったのではと思うところがある。内容が詰め込み過ぎなのが気になった。前に読んだ東野浩之『貨幣の日本史』の方が記述はあっさりしているかな。初めて貨幣史の本を読む人はあちらの方がいいかもしれない。内容はしっかりしたもので手堅い記述となっている。参考文献が8ページに及び、そこはとても誠実である。より学びたい人はここから多くの書籍に触れられるだろう。某経済評論家が「経済で学ぶ日本史」と称して五冊を抱き合わせ販売しているが、そんなものを読んで時間を空費するよりは、本書を読んで参考文献に当るのが遥かに賢明であろう。本書は、貨幣史への最初のステップとして激しくお薦めです。

    評点 8点 / 10点

  • 通貨をキーワードに日本史を通読する作品。
    民間の動きを時の政権が追随するというのは、一貫しているようだ。そこにダイナミズムが生まれるのだろう。

  • NHK Eテレで毎週木曜日23時〜放送しているスーパープレゼンテーション

    URLはこちら http://www.nhk.or.jp/superpresentation/pastprogram/170202.html 『2017年2月2日の放送では、「お金の未来」 』 : というテーマで仮想通貨が紹介されました。
    『 「プログラム可能な通貨」は、お金を「民主化」します。そして、いろいろなことが私たちの想像を超える変化を遂げるでしょう。』

    TEDプレゼンターは、MITメディアラボで仮想通貨の技術や応用法を研究する「デジタル通貨イニシアチブ」研究部長を務める、ネハ・ナルラ氏。
     → URLはこちら https://www.ted.com/talks/neha_narula_the_future_of_money?language=ja 『ネーハ・ナルラ:貨幣の未来 』 : 

    この番組を見て、お金のことが 気になり始めました。
    まずは、歴史から。

    この本は 面白いです。知らなかったこと、考えもしなかったこと。ほかの人にも教えたい! (*^_^*)♪

    2017/02/13  予約 2/15 借りる。2/16 読み始める。8/22 4章途中までで、読み終わる。

    通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)

    内容と目次・著者は

    内容 :
    無文銀銭が初めて登場した7世紀から現在まで、通貨をめぐる歴史はエピソードに事欠かない。
    通貨政策に大きな影響を与えてきた庶民の事情にも着目しながら、その歩みをたどる。
    今も昔も私たちを悩ませる、お金をめぐる通史。

    目次 :

    第1章 銭の登場―古代~中世
     (都の建設のために 外国銭の奔流、国産銭の復活)

    第2章 三貨制度の形成―戦国~江戸前期
     (シルバーラッシュの中の信長・秀吉 江戸開幕、通貨の「天下統一」)

    第3章 江戸の財政再建と通貨政策―江戸中期~後期
     (改革政治家たちの悪戦苦闘 開港前夜の経済成長と小額通貨)

    第4章 円の時代へ―幕末維新~現代
     (通貨近代化の試行錯誤 帝国の通貨と戦後)

    著者 : 高木 久史
    1973年大阪府生まれ。博士(学術、神戸大学)。安田女子大学文学部准教授。
    著書に「日本中世貨幣史論」がある。
     

  •  日本の通貨の歴史を概括した本。予想外の話題が登場し、びっくりするほど面白かった。
     なお、電子マネーについての解説は分量が少な目。

    【書誌情報】
    初版刊行日 2016/8/19
    判型 新書判
    ページ数 272ページ
    定価 本体840円(税別)
    ISBN 978-4-12-102389-6
    http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/08/102389.html


    【目次】
    まえがき [i-iii]
    目次 [iv-vii]
    凡例 [viii]

    第1章 銭の登場 〈古代~中世〉 003
    1 都の建設のために 003
      通貨とは何か  金・銀・銅の特性  初の金属通貨、無文銀銭  最古の国産銅貨、富本銭  和同開珎の目論見  和同開珎は債務証書?  奈良時代の皇朝銭  平安京建設と銭不足  都市民の生活のため  銭の発行停止  米や布の再浮上  中世の兆し――輸入銭と切符系文書  金と銀
    2 外国銭の奔流、国産銭の復活 028
      南宋からの波  積極的な清盛  朝廷と鎌倉幕府の銭使用禁止  金からの波  元からの波  民間の模造銭と後醍醐天皇の計画  僧侶の夢日記  銭の密貿易輸入量の実情  一枚一文、九七枚一〇〇文   撰銭と階層化  撰銭令の再登場  紙幣の端緒、割符  祠堂銭預状  中世の北海道と沖縄

    第2章 三貨制度の形成 〈戦国~江戸前期〉 061
    1 シルバーラッシュの中の信長・秀吉 061
      模造銭生産の拡大  無文銭と銭の輸出  大判・小判のプロトタイプ  石見銀山の世界史的意義  国内での銀貨使用  近世的政策の始まり  信長、最初の通貨政策  減価銭が基準銭に、基準銭が計算貨幣に  ビタの基準銭化  秀吉の継承と転換 金・銀統制と朝鮮出兵  家康の金貨
    2 江戸開幕、通貨の「天下統一」 089
      慶長金銀  領国貨幣  金・銀・ビタの比価を法定  ビタの後継者、寛永通宝  家綱政権の管理強化  金貨・銀貨の輸出  銭の輸出  日本初の紙幣、山田羽書  藩札の登場  綱吉期の金貨・銀貨改定  荻原銭と紙幣禁止

    第3章 江戸の財政再建と通貨政策 〈江戸中期~後期〉 125
    1 改革政治家たちの悪戦苦闘 125
      家宣期の規格改定  新井白石のデフレ政策  吉宗の政策継承  増量路線へ転換  寛永通宝鉄銭  田沼政権、定量銀貨の挫折  明和二朱銀の意義  寛永通宝四文黄銅銭の普及  生き残った藩札と私札  銭匁札  松平定信と長谷川平蔵
    2 開港前夜の経済成長と小額通貨 150
      水野忠成の積極財政 発行益依存の強まり  通貨の天保改革  藩札・私札の全盛  近世の北海道と沖縄

    第4章 円の時代へ 〈幕末維新~現代〉 165
    1 通貨近代化の試行錯誤 165
      日米修好通商条約と通貨交渉  金貨流出のメカニズム  したたかな通貨外交  万延金と経済混乱  銭不足対策  新政府を悩ませた悪贗貨  太政官金札・民部省金札  為替会社紙幣  円・十進法・金本位制  新貨条例  幕府通貨の退場  藩札処分  「紙幣専用ノ時世」  国立銀行開業  紙幣安問題  日本銀行と兌換銀行券  金本位制再び  幕末維新期の北海道と沖縄
    2 帝国の通貨と戦後 211
      円系通貨の帝国主義的拡大  南樺太・南洋群島  関東州·満鉄付属地  第一次世界大戦と関東大震災  金輸出禁止、解禁、再禁止  通貨素材の迷走  占領地通貨  戦後のインフレ  高度成長による高額化  「通貨の戦後」の終わり  戦後の沖縄

    おわりに――これからの通貨(二〇一六年 六月 高木久史) [239-243]
    主要参考文献 [244-252]
    本書に登場する主な通貨 [253-258]
    図版出典一覧 [258]



    【抜き書き】
    ――――――――――――
       凡例
    (1) 暦年につき、本書では西暦のみ示す。ただし、太陽暦を採用した一八七三年(明治六年)まで、西暦と和暦には1ヵ月程度のずれが生じている(和暦の方が遅い)。なお行論上必要に応じて日本年号を併記する場合がある。

    (2) 本書で登場する通貨・重量の主な単位は次の通りである。
     (銭) 一貫文[かんもん]=一〇〇〇文  一疋[ひき]=一〇文
     (金) 一両=四分=一六朱=四・四匁 一六・五グラム  *一六世紀以降 
     (銀) 一匁=一〇分[ふん*]=三・七五グラム  一貫=一〇〇〇匁  一両=四・三匁 
      *厳密には、促音(っ)・撥音(ん)に続くときは「ぷん」となる 
     (金・銀) 一枚=一〇両
     なお一匁=三・七五グラムという定義は一八九一年に公布された度量衡法による。これは前近代の実態と必ずしも一致しないが、本書では便宜上、現在の定義による。

    (3) 通貨の写真はおおむね原寸大になるように掲載した。紙面の都合で原寸から大幅に縮小したものは、キャプションに(縮小)と付した。

    (4) 旧字体の記録につき、本書では新字体で統一して表記する
    ――――――――――――

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    貨幣と関連した制作などの歴史を新説を抑えつつ解説している。この本を読んで分かったことは現代日本の貨幣制度になるまでには様々なことがあったのだということだ。
    一方で改めて貨幣は十分な流通量と市場で信頼されているなら、米や布といったものでも十分に貨幣になるのだということがよく理解できた。
    また、江戸幕府が自らの利益のために貨幣改鋳を繰り返したことがよくわかり楽しかった。

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著者プロフィール

1973年、大阪府に生まれる。神戸大学大学院文化学研究科修了。博士(学術)。専門は日本中世・近世史。越前町織田文化歴史館学芸員、安田女子大学准教授などを経て、現在、大阪経済大学教授、同大学日本経済史研究所所長。主な書著に、『通貨の日本史 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで』(中公新書)、『撰銭とビター文の戦国史』(平凡社)、『近世の開幕と貨幣統合』(思文閣出版)など。

「2023年 『戦国日本の生態系 庶民の生存戦略を復元する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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