大原孫三郎―善意と戦略の経営者 (中公新書 2196)

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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021960

作品紹介・あらすじ

「わしの目には十年先が見える」「新事業は、十人のうち二〜三人が賛成したときにはじめるべきだ、七〜八人が賛成したときには、遅すぎる」-経営者と社会事業家の二足のわらじを履き続けた大原孫三郎。クラボウやクラレなど、多くの企業の創立・発展させるとともに、町づくりに貢献。三つの研究所を設立し、総合病院や美術館をつくった。社会改良の善意をいかにして行動に移していったか、その波瀾にみちた生涯を辿る。

感想・レビュー・書評

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  •  「大原孫三郎」といえば、昭和戦前期において「異色の経営者」として、また「社会運動家」として名を轟かせた著名な人物であるので、その詳細な生き方を読めると思いワクワクしながら本書を手にとってみたが、読後はちょっとがっかりする思いを持った。
     地主の息子としての生い立ちから「倉敷紡績の経営者」としての活躍、「地域社会の改良整備」「三つの科学研究所」「芸術支援」等々、確かに「大原孫三郎」の生涯の活躍を網羅して取り上げているのだが、まるで「大原記念館」の説明資料のようでその内容に辛辣さは全くない。
     「大原孫三郎」が「倉敷紡績」において「女工哀史の世界からの脱却」を目指した企業経営は有名であるが、コストがかかるこの経営が成立した理由への考察へはあまり踏み込んでいない。
     「社会活動」においても「大原社会問題研究所」は有名であるが、治安維持法の時代にこのような活動を展開できた理由にもふれてはいない。
     戦前の政治状況において、「社会活動」を展開することはそうたやすいことではなかっただろうし、経営者として女工を優遇したり、「地域社会の改良整備」にどうやって資金面の動員ができたのかもわからない。
     本書は、「大原孫三郎」の生涯の活躍内容はそれなりに分かるが、活躍の評価面のみを追いかけているような読後感を持った。
     やはり、それなりの人物を新書で取り上げる以上、本人がつくった伝記のような平板な内容ではちょっと不満である。本書は残念な本であると思う。

  • 使命感の誕生―反抗の精神を培った十代◆家督相続と企業経営―倉敷紡績と倉敷絹織◆地域の企業経営とインフラ整備◆地域社会の改良整備―市民の生活レベル向上のために◆三つの科学研究所―社会の問題の根本的解決のために◆芸術支援―大原美術館と日本民藝館◆同時代の企業家たち―渋沢栄一と武藤山治◆晩年と有形無形の遺産

    著者:兼田麗子(1964-、下田市)

  •  先日、兼田 麗子 氏 による「大原孫三郎―善意と戦略の経営者」を読み終えました。
     私の場合、「大原孫三郎」氏と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「大原美術館」です。遥か昔、学生のころ休みで帰省した際に時折訪れていました。
     大原孫三郎関係の本としては、以前、彼の有名な言葉をそのままタイトルにした城山三郎氏による小説「わしの眼は十年先が見える」を読んだことがあります。まさにこの言葉のとおり、大原孫三郎は倉敷を中心に地方振興の観点から様々なジャンルの基幹事業を興しました。

  • 大原孫三郎の評伝であるが、ただ生涯をなぞってるだけで、浅い。

    歴史を見ることは大事であるが、紡績に限らず、親の事業を受け継ぐ他、22歳で学校を創立し校長に就任、26歳で銀行の頭取になり、などを見るに、封建主義から近代化へと進む変革期にあるこの時代の背景とこの地位にある人物からどう学ぶかは難しいところ。

    結局富める者は慈悲の心を持つ人も(確率的に)多くなるんだろうから。その一例にすぎないような気もする。

    第7章の「同時代の企業家たち」での渋沢氏らとの比較は少し興味深い。

    他は、「孫三郎はこれをやった。えらい」「あれをやった。すごい」と言うだけの本。検討や考察がもっとあればよかった。

  • 『仕事を始める時は、10人のうち2,3人が賛成するときに始めればよい。一人も賛成がいないというのは早すぎるが、5,6人も賛成するときは手遅れ。7,8人ならやらない方がよい。』
    『弱い立場にある人々の身になって考えることが必要。自分の快楽や都合の為に他者を踏みつけてはいけない』
    『少なくとも自分が金儲けのためにしている仕事は、世間の人々の利益になっているという確信をもつ』

  • 倉敷紡績が現在のクラボウ、倉敷絹織がクラレって知ってました?知ってるか(笑

    恥ずかしながら、「大原孫三郎」よく知りませんでした。

    いわゆる成功者って自分、自分じゃなく、世のため、人のために汗を流す人なんですね。

  • 倉敷という土地に密着しつつ倉敷紡績(現・クラボウ)や倉敷絹織(現・クラレ)などの企業を創立・発展させただけでなく、大原社会問題研究所などの研究所、総合病院や美術館の創設など社会事業にも尽力した経営者の評伝。

    近々、倉敷を訪ねる予定もあり、また個人的には柳宗悦との関連にも興味があり、興味深く読んだ。渋沢栄一、武藤山治との比較も面白い。CSR活動に興味ある方にも是非。

  • 大原孫三郎といえば、城山三郎『わしの眼は十年先が見える―大原孫三郎の生涯』(新潮文庫)の印象が強烈だったんで、それにかかる事実あるいは違いを確認すべく読んだ。結論からいうと、およそ違いはなく、事実であることがわかった。本書を読むと、経営者というよりも、やはり社会事業家としての功績が目立つ。有名なところでは、大原美術館、3つの研究所、倉敷中央病院の設立など。本書によると市民のための図書館の設立も目指していたみたい。「図書館設立は人物吸収の良法なり。それには先ず第一に図書を蒐集しなければならない」(1903年1月24日の日記) 結果、1921年に倉紡図書館を創設する。広範な内容をよくまとめられているけど、渋沢栄一や武藤山治との比較はいるかなぁ…。

  • 兼田麗子『大原孫三郎 善意と戦略の経営者』中公新書、読了。クラボウやクラレを創業した実業家・大原孫三郎は大原美術館や倉紡中央病院、大原社会問題研究所の創設など社会事業家の側面も併せ持つ。善意を行動に移す…企業家のフィランソロピーのよき見本といえる孫三郎に関する浩瀚な評伝だ。

    大原にとり地域貢献・社会事業は利益追求と別々のものではない。経済活動の華こそ社会事業。「人間としての倫理と,経済性や合理性の両立」を目ざした大原の実像を、エピソードと名言をからめながら、立体的に浮き彫りにする。具体的な人格向上主義をその核に置く

    著者の緻密な研究(『福祉実践にかけた先駆者たち 留岡幸助と大原孫三郎』藤原書店、『大原孫三郎の社会文化貢献』成文堂)の最新の成果が本書であり、読みやすい入門書。営利と貢献の軌跡を辿る本書は、企業の文化事業、地方の活性化等々を考えるヒントに満ちている。

  • 慈善家として興味深かった大原孫三郎について興味あったので、
    ちょうどタイムリーな一冊。
    しかし、どうも大原孫三郎の行ったことをただなぞっていく
    過去の著者がまとめたものをさらにまとめ直した感があり、がっかり。

    読み取れたことは、ただの慈善家ではないということ。
    「主張のない仕事はしない」
    「絶対に死金は使わない。一銭の支出にも『自分を活かす』ことに努めた」

    サポートした会社、個人の数がものすごい。
    私利私欲を超越した人物がいた、ということを知ることができて
    改めて好きになった。

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