- Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021519
作品紹介・あらすじ
山地が七割を占め、地震や台風にしばしば見舞われる日本。この試練の多い土地に住みついた日本人は、古来、道を通し、川筋を変え、営々と自然に働きかけてきた。私たちが見る風景は、自然と人が共に造り上げたものなのだ。本書は、まず日本の国土の地形的・社会的特徴を明らかにする。さらに大震災に見舞われ、財政危機にある今、海外に伍して豊かな国土を築き上げ、日本人が再び活力を取り戻すために何が必要かを提言する。
感想・レビュー・書評
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日本の国土の特異性をもとに,古くは縄文時代から現在に至るまで,どのように国土づくりを進めてきたか,またこれからの国土づくりがどうあるべきかが書かれています.こうしたテーマに挑戦した本は少ないと思われますので,貴重な1冊だと思います.
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旧国土庁での実務経験も持つ著者が、日本の国土の特徴や課題を、縦軸(歴史)と横軸(世界との比較)の視点から分析する。
キーワードは、「国土に働きかけ、国土から恵みを返してもらう」こと。
日本には、列島の自然条件の脆弱さ(山脈や川により分断され、平野が少なく、地震や台風、豪雨に見舞われやすいことなど)や、所有権絶対の観念(公共事業に多大なコストがかかる)といった事情に由来する国土の「使いにくさ」がある。
今後は、他国との経済競争に遅れないためにも、将来世代により良いものを残すためにも、道路、港湾、空港、河川といったハード面の課題や、首都機能の分散や地域間連携といったソフト面の課題(いずれにせよ、日本は世界と比べてもまだまだ不十分である)について、国民一人一人が主体的に考えて、行動に移す必要がある。
道路をはじめとするインフラ整備が経済発展にとっていかに重要か、日本における「公共事業=無駄、悪」かのごとき言説がいかに日本と世界の実情を見ていないものかがよく分かる。
地理、歴史、政治、経済、地学、工学など、あらゆる分野が交錯する「国土学」の面白さを垣間見ることができる。 -
日本の国土の特徴が外国と比較して分析されていてよくわかった。日本は災害や平地が多いなど、国土を維持するのに費用がかかる。
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今の国土の現状を歴史上、また各国との比較の上で、素人の私にもわかりやすく解説されていました。
災害大国であるこの国で、いかにしてこの国土からの恩恵を享受しながら生きていくのかを考える作品でした。 -
カテゴリ:図書館企画展示
2016年度第9回図書館企画展示
「災害を識る」
展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。
開催期間:2017年3月1日(水) ~ 2017年4月15日(金)
開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース -
元建設官僚による本。日本の厳しい自然条件と、人の手で国土をどうやって今の姿へ作り変えてきたかが主題。国土に関するデータで気づかされる点もあるが、政策提言的なところの説得力がイマイチ。国土を中心に歴史・経済に関わることも幅広く書いているが、特に専門外のところは我田引水っぽくてチト怪しいかも。
<歴史>
最初の本格的な国土開発は古墳時代のため池造成。自然の低湿地を湿田にしていたのから、沖積平野に用水灌漑をして乾田を作るようになった。ため池は畿内、瀬戸内から全国へ広がっている。7、8世紀の歴史記述の中では、雨乞いの記述が、「洪水になるのでもう降らないで」という祈祷の記述より圧倒的に多い。
律令国家の下で、田んぼを四角く整理する条里制や、七道の開発がされた。
中世ではあまり耕地面積の拡大はなかったと考えられるが、戦国から江戸初期の100年で耕地面積は一気に3倍になった。水運(e.g.利根川経由で東北の物資を江戸へ)、治水のために主要な河川はほとんど改修された。
<自然条件>
日本の可住面積の狭さはつとに知られるところ。著者はそれにとどまらず欧州主要国と比べて色々な条件をあげる、、、
・形が歪んで複雑
・四島に分かれる
・脊梁山脈が縦貫し河川が急流
ここらへんまでは交通の阻害要因。とにかく多くの河川(低くても分水嶺とセットになる)で国土が区切られている。水かさが増えやすいので洪水も多い。
・地質が複雑で不安定
火山岩、堆積岩がモザイク模様をなし、活断層、火山の影響を受ける。御影石(神戸産)も1m立方を切り取って割れ目(節理)がないことがまずないそうだ。地殻変動の外力の影響。
・少なく狭い平野
関東平野だって河川改修をしてやっと一体で使える感じになった。
・軟弱地盤上の都市
河川が天井川(周囲より川床が高い)になっている。地下水位も高いので工事が大変。マンハッタンなんかひとつの岩の上にある。セントラルパークに露頭が顔を見せている。
・地震と津波
・豪雨
河川が急流なので水はすぐに海に流れてしまう。一人当たりダム貯水量では東京は他国の都市と比べてダントツに少ないとか。洪水と渇水に同時におびやかされる。
・台風
・日本海側の豪雪
・緑に覆われた国土
唯一のイイ話。しかし実は、古代・中世から森林破壊は起こっており。江戸時代には森林衰退が進んではげ山が多く現れた。明治中期が日本でいちばん森林が衰退した時代と言われる。終戦後になって化石燃料、化学肥料、外材の導入で森林が回復した。いまは量的には400年ぶりの豊かな森林に恵まれている。なお、マツというのは貧栄養の相で栄える樹木。荒地に最初に入っていくが、みずからの落ち葉などで下が富栄養化していくと、他の樹木との競争には弱いので取って代わられてしまう。
⇒多少重複する点もあるが、建設官僚の嘆き節&ちょっと自慢である。
<社会条件>
元来は律令体制や、幕府−大名−百姓のような土地保有の重層性があったが、明治政府の地租確保のための壬申地券を経て、諸外国に比べ、土地の保有概念が強く、公共性の概念が弱くなった。日本での所有観念の強さは土地に限らないと。城砦国家を経験して個の権利を公共の福祉に従属させる経験のある欧州との差を指摘する。
⇒やや一面的な指摘の気もするが興味深い。。。
日本の地籍は49%しか確定していない。公図は全然実態とかけ離れているものも多い。災害復興の足かせになるかも。
土地の細分保有もよろしくない。田園調布もどんどん細分化されてきている。
⇒そう言われてもねえ。
<国土作りの政策論>
役人っぽさが出て面白くない。ひとつ問題点として浮かび上がるのは、経済効果を狙って重点的な開発をするか、それとも均衡発展を目指して開発をするか。一概には言えないこともあろうと思うが、著者の立ち位置も定まらない。大きな流れとしては、需要が爆発する高度成長期には均衡発展に意味があったが、低成長・人口減の時代には、戦略を持った=捨てる所は捨てた国土設計が必要なのではないか。1980年代に出てきた東京の世界都市機能論を細川護煕が反対して葬ったというが、悔やまれることかもしれない。
日本の港湾のコンテナ取り扱い量は、釜山、上海、香港、シンガポールに見劣り。ハブの地位は完全に奪われている。ソフト面でもそれを志向していないしね、と思う。
一般政府公的固定資本形成が日本だけ急降下しているというが、急降下の結果、ようやく諸外国並みレベルになったということ。特にバブル後の公共投資でしのいでいた時期をスタートにしているのでミスリーディングでは。
EUは地域で連携して道路、鉄道の資本整備をしているというが、ゼロ年代なかばまでの話。今は相当に風向きが変わっているのではないかと思われる。
熊本と宮崎の東京への野菜出荷量の比較。これも取るに足らない葉物まで比較していてミスリーディングな表。また高速道路の有無だけが熊本優勢の原因と言えるのか?だとしても、今から宮崎に高速を通して熊本と競走させることの国民的なメリットはどこまであるのか。言い出したら切りがなくなる。世論の変化は、必要性の変化に裏打ちされている面はあるだろうと思う。それを受け止めた上で新しい絵を描けないことには、公共事業劣勢の挽回は望むべくもない。
災害に備えて首都機能の分散と言うが、漫然と分散させるって事はありえないだろう。そんな国あるのか。もしその文脈で手を打つならば京阪神への重点投資しかなかろう。
リダンダンシー(冗長性)。これもモノには程度があると思われる。1県1つの空港はいらんやろ。東日本の対応でそんなに空港を使ったのか?道路網も計画を完成させれば万単位の代替ルートができるといわれてもね。20あればよいでしょ。
道の駅。民間の発案で、1990年ごろ山口・広島でトイレ+特産品売り場の形でできた。これを建設省が受け皿になって今の形に。
既存インフラの修繕についても少しだけ触れられる。ここに大きな課題とチャンスがある気がするが。 -
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