国土と日本人 - 災害大国の生き方 (中公新書 2151)

著者 :
  • 中央公論新社
3.69
  • (11)
  • (15)
  • (23)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 170
感想 : 18
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021519

作品紹介・あらすじ

山地が七割を占め、地震や台風にしばしば見舞われる日本。この試練の多い土地に住みついた日本人は、古来、道を通し、川筋を変え、営々と自然に働きかけてきた。私たちが見る風景は、自然と人が共に造り上げたものなのだ。本書は、まず日本の国土の地形的・社会的特徴を明らかにする。さらに大震災に見舞われ、財政危機にある今、海外に伍して豊かな国土を築き上げ、日本人が再び活力を取り戻すために何が必要かを提言する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 日本の国土の特異性をもとに,古くは縄文時代から現在に至るまで,どのように国土づくりを進めてきたか,またこれからの国土づくりがどうあるべきかが書かれています.こうしたテーマに挑戦した本は少ないと思われますので,貴重な1冊だと思います.

  • 旧国土庁での実務経験も持つ著者が、日本の国土の特徴や課題を、縦軸(歴史)と横軸(世界との比較)の視点から分析する。
    キーワードは、「国土に働きかけ、国土から恵みを返してもらう」こと。

    日本には、列島の自然条件の脆弱さ(山脈や川により分断され、平野が少なく、地震や台風、豪雨に見舞われやすいことなど)や、所有権絶対の観念(公共事業に多大なコストがかかる)といった事情に由来する国土の「使いにくさ」がある。
    今後は、他国との経済競争に遅れないためにも、将来世代により良いものを残すためにも、道路、港湾、空港、河川といったハード面の課題や、首都機能の分散や地域間連携といったソフト面の課題(いずれにせよ、日本は世界と比べてもまだまだ不十分である)について、国民一人一人が主体的に考えて、行動に移す必要がある。

    道路をはじめとするインフラ整備が経済発展にとっていかに重要か、日本における「公共事業=無駄、悪」かのごとき言説がいかに日本と世界の実情を見ていないものかがよく分かる。
    地理、歴史、政治、経済、地学、工学など、あらゆる分野が交錯する「国土学」の面白さを垣間見ることができる。

  • 【内容】山地が七割を占め、地震や台風にしばしば見舞われる日本。この試練の多い土地に住みついた日本人は、古来、道を通し、川筋を変え、営々と自然に働きかけてきた。私たちが見る風景は、自然と人が共に造り上げたものなのだ。本書は、まず日本の国土の地形的・社会的特徴を明らかにする。さらに大震災に見舞われ、財政危機にある今、海外に伍して豊かな国土を築き上げ、日本人が再び活力を取り戻すために何が必要かを提言する。 (「BOOK」データベースより)

    【感想】いま、いわゆる土木行政に携わる仕事をしている。せっかくなので、その関係の本を読んでみようと手に取った。

     日本の国土形成の歴史からはじめ、日本列島の自然条件を解説している。また、これまでの国土造りを振り返り、これからの国土造りを提唱している。

     東日本大震災を契機に、この日本の国土のあり方を再検討せねばならないこの時期に、参考になる一冊であった。

     「災害大国の生き方」という副題。この日本と言う国は、災害ありきの国づくりをしなければならない。西洋とは違う。そのことを再認識した。

     その前提で、やみくもに公共事業を批判し、予算を削減を進めるだけが正解ではない。日本の再生のために、やはり社会資本整備は重要である。

     限られたお金の中で、いかにこの国のかたち、国土を形成するのか。その明確なビジョンのもと、日本の再生、再構築をはかることが求められている。

     誇りをもって仕事をしたい。 


    (P91~)日本の国土の社会条件。日本は①土地の保有概念が、所有権絶対であること。②地籍の確定が進まないこと。③土地を細分して保有していること。これらが歴史的に日本で生じた。

    (P161)「社会保障費以外の予算は次々削除」→「そこには、そもそも政府とは何をすべきなのか、現代世代は将来世代に対しどういう貢献をすべきなのか、あるいは日本は世界に対してどのような存在であることを主張し、どのような責任を果たすべきなのか」といった議論はされていない。

    (P173)「わが国の国際競争力の回復に寄与する国土造りを行うべき」

    (P210)「それぞれの地域がどのように国全体の経済成長に資するかを考えることが大切」「そのためには、競争条件を整えるための投資を、広域的な視点からある地域に重点的に行っていくことが不可欠」

    (P227)「われわれは、国土にいろいろな手段で働きかけ、その結果として国土から恵みを得ている。安全で快適で心地よい暮らしができるのも、ヒトやモノが効率的に移動できるのも、長い年月にわたり、森林を整備し、耕地を開き、治山を行い、河川を改修し、道路や港湾・空港を整備し、都市環境を整えてきたからこそ」

    (P227~)人々が「安全に快適に」暮らしていくためには、それを支える国土がしっかりと手入れされ整備されるとともに、人々の活力を引き出す、次の条件が必要。第一に「参画社会の構築」、第二に「人材活用の多様性の拡大」、第三に「次世代への貢献」

  • 日本の国土の特徴が外国と比較して分析されていてよくわかった。日本は災害や平地が多いなど、国土を維持するのに費用がかかる。

  • 『なんで家族を続けるの?』(内田也哉子 中野信子)で、

    「(日本は)豊かに見えるけれども、耕作面積は少ないし、災害にも遭いやすいし、資源も少ないし、意外と潜在的には貧しい国」という一文が気になった時に、

    「日本人って、災害大国でどうやって過ごしてきたんだっけ??」と気になって手に取った『国土と日本人』(大石久和)。

    災害をテーマとして読もうと思って開いたのですが、

    土地開発や日本人の特徴に関する面も読めて楽しかったです。

    欧米との比較で「これだけ違うんだ!」って思った…。

    弓状列島の中央を脊梁山脈が縦貫している事によるインフラ整備や気象災害対策の難しさについての話、

    欧米人が日本の川を見た時、母国とあまりに違い過ぎて「これは川ではなく滝」と言っていたという話、

    「私死んだら、私が買った愛するゴッホの絵と一緒に燃やして」とある人物が発言した事がヨーロッパに伝わった時に、《所有》と《公共使用》のどちらを優先するかという日本とヨーロッパの違いが大きく出た話、

    「必要かどうか」が問われた【一県一空港】が東日本大震災で大いに活用された話など……

    興味深い話満載でした。

    ただ、

    「なるほど!こういう事あったんだ!」っていう感動とそのインプットはあったけど、

    自分意見がなかなか出てこない…。

    まだそのレベルに至っていないという事なのか何なのか。

    とりあえず未熟人間です。


  • 今の国土の現状を歴史上、また各国との比較の上で、素人の私にもわかりやすく解説されていました。

    災害大国であるこの国で、いかにしてこの国土からの恩恵を享受しながら生きていくのかを考える作品でした。

  • 個人的には、初めのほうの日本列島の自然条件、が興味深かった。他国と比較したときの日本の特徴を知ることができたー樹木や地質、気候の多様性など。
    後半はインフラ整備など国家事業、公共事業の歴史のような説明が入っており、参考になった。

    飛行機乗った時にいつも思うけど、山の中に、都市つくった感がすごい。
    島国やから、大地の隆起した山脈でできているのが日本、というような軽い感覚で考えていたけれど、今の私たちが享受しているこのっ便利さ、人間の手で作り出してきたことを考えるとただただ圧倒される。
    これからも、地震も来るし、台風も、洪水も起こるやろ氏、それを分かって、こんなに生活圏を発展させ、ここで生きていこうとしている自分たちがいるということ、それはすべて、これまで先人たちもひっくるめてこの土地でやってきたこと、育み受け継いできた伝統とか文化とか考え方、そのすべてがなんかやっぱり自分と自分の暮らしの一部になってているということも言えるのかなと思う。
    だから、土地や環境の影響ってすごいなー。そこに生きる個々人、そして世代を超えて生きる集団とのつながり、みたいなものはかけがえのないものになるし、だからこそ、非日常、異世界に行くことがまた、新鮮であり、新しい視点をもたらす出来事にもなる。
    日本国内でも、まだまだ知らない土地や景観がたくさんあるし、もっと知りたいと思ったし、あと、この土地と環境を大事にしたいとあらためて思った。

  • カテゴリ:図書館企画展示
    2016年度第9回図書館企画展示
    「災害を識る」

    展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。

    開催期間:2017年3月1日(水) ~ 2017年4月15日(金)
    開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース

  • 元建設官僚による本。日本の厳しい自然条件と、人の手で国土をどうやって今の姿へ作り変えてきたかが主題。国土に関するデータで気づかされる点もあるが、政策提言的なところの説得力がイマイチ。国土を中心に歴史・経済に関わることも幅広く書いているが、特に専門外のところは我田引水っぽくてチト怪しいかも。

    <歴史>
    最初の本格的な国土開発は古墳時代のため池造成。自然の低湿地を湿田にしていたのから、沖積平野に用水灌漑をして乾田を作るようになった。ため池は畿内、瀬戸内から全国へ広がっている。7、8世紀の歴史記述の中では、雨乞いの記述が、「洪水になるのでもう降らないで」という祈祷の記述より圧倒的に多い。

    律令国家の下で、田んぼを四角く整理する条里制や、七道の開発がされた。

    中世ではあまり耕地面積の拡大はなかったと考えられるが、戦国から江戸初期の100年で耕地面積は一気に3倍になった。水運(e.g.利根川経由で東北の物資を江戸へ)、治水のために主要な河川はほとんど改修された。

    <自然条件>
    日本の可住面積の狭さはつとに知られるところ。著者はそれにとどまらず欧州主要国と比べて色々な条件をあげる、、、
    ・形が歪んで複雑
    ・四島に分かれる
    ・脊梁山脈が縦貫し河川が急流
     ここらへんまでは交通の阻害要因。とにかく多くの河川(低くても分水嶺とセットになる)で国土が区切られている。水かさが増えやすいので洪水も多い。
    ・地質が複雑で不安定
     火山岩、堆積岩がモザイク模様をなし、活断層、火山の影響を受ける。御影石(神戸産)も1m立方を切り取って割れ目(節理)がないことがまずないそうだ。地殻変動の外力の影響。
    ・少なく狭い平野
     関東平野だって河川改修をしてやっと一体で使える感じになった。
    ・軟弱地盤上の都市
     河川が天井川(周囲より川床が高い)になっている。地下水位も高いので工事が大変。マンハッタンなんかひとつの岩の上にある。セントラルパークに露頭が顔を見せている。
    ・地震と津波
    ・豪雨
     河川が急流なので水はすぐに海に流れてしまう。一人当たりダム貯水量では東京は他国の都市と比べてダントツに少ないとか。洪水と渇水に同時におびやかされる。
    ・台風
    ・日本海側の豪雪
    ・緑に覆われた国土
     唯一のイイ話。しかし実は、古代・中世から森林破壊は起こっており。江戸時代には森林衰退が進んではげ山が多く現れた。明治中期が日本でいちばん森林が衰退した時代と言われる。終戦後になって化石燃料、化学肥料、外材の導入で森林が回復した。いまは量的には400年ぶりの豊かな森林に恵まれている。なお、マツというのは貧栄養の相で栄える樹木。荒地に最初に入っていくが、みずからの落ち葉などで下が富栄養化していくと、他の樹木との競争には弱いので取って代わられてしまう。

    ⇒多少重複する点もあるが、建設官僚の嘆き節&ちょっと自慢である。

    <社会条件>
    元来は律令体制や、幕府−大名−百姓のような土地保有の重層性があったが、明治政府の地租確保のための壬申地券を経て、諸外国に比べ、土地の保有概念が強く、公共性の概念が弱くなった。日本での所有観念の強さは土地に限らないと。城砦国家を経験して個の権利を公共の福祉に従属させる経験のある欧州との差を指摘する。
    ⇒やや一面的な指摘の気もするが興味深い。。。

    日本の地籍は49%しか確定していない。公図は全然実態とかけ離れているものも多い。災害復興の足かせになるかも。

    土地の細分保有もよろしくない。田園調布もどんどん細分化されてきている。
    ⇒そう言われてもねえ。

    <国土作りの政策論>
    役人っぽさが出て面白くない。ひとつ問題点として浮かび上がるのは、経済効果を狙って重点的な開発をするか、それとも均衡発展を目指して開発をするか。一概には言えないこともあろうと思うが、著者の立ち位置も定まらない。大きな流れとしては、需要が爆発する高度成長期には均衡発展に意味があったが、低成長・人口減の時代には、戦略を持った=捨てる所は捨てた国土設計が必要なのではないか。1980年代に出てきた東京の世界都市機能論を細川護煕が反対して葬ったというが、悔やまれることかもしれない。

    日本の港湾のコンテナ取り扱い量は、釜山、上海、香港、シンガポールに見劣り。ハブの地位は完全に奪われている。ソフト面でもそれを志向していないしね、と思う。

    一般政府公的固定資本形成が日本だけ急降下しているというが、急降下の結果、ようやく諸外国並みレベルになったということ。特にバブル後の公共投資でしのいでいた時期をスタートにしているのでミスリーディングでは。

    EUは地域で連携して道路、鉄道の資本整備をしているというが、ゼロ年代なかばまでの話。今は相当に風向きが変わっているのではないかと思われる。

    熊本と宮崎の東京への野菜出荷量の比較。これも取るに足らない葉物まで比較していてミスリーディングな表。また高速道路の有無だけが熊本優勢の原因と言えるのか?だとしても、今から宮崎に高速を通して熊本と競走させることの国民的なメリットはどこまであるのか。言い出したら切りがなくなる。世論の変化は、必要性の変化に裏打ちされている面はあるだろうと思う。それを受け止めた上で新しい絵を描けないことには、公共事業劣勢の挽回は望むべくもない。

    災害に備えて首都機能の分散と言うが、漫然と分散させるって事はありえないだろう。そんな国あるのか。もしその文脈で手を打つならば京阪神への重点投資しかなかろう。

    リダンダンシー(冗長性)。これもモノには程度があると思われる。1県1つの空港はいらんやろ。東日本の対応でそんなに空港を使ったのか?道路網も計画を完成させれば万単位の代替ルートができるといわれてもね。20あればよいでしょ。

    道の駅。民間の発案で、1990年ごろ山口・広島でトイレ+特産品売り場の形でできた。これを建設省が受け皿になって今の形に。

    既存インフラの修繕についても少しだけ触れられる。ここに大きな課題とチャンスがある気がするが。

  • 【配架場所】 図・3F文庫新書(中公新書 2151) 
    【請求記号】 080||CH||2151

    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/book/140414

全18件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

大石久和(おおいし ひさかず)
1945年岡山県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、建設省(現国土交通省で道路局長などを歴任。退官後、全日本建設技術協会会長、土木学会会長、日本道路協会会長等を務める。国土に働きかけるインフラ整備とその恩恵の体系哲学である「国土学」を提唱。著書に「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「国土と日本人 災害大国の生き方」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)など。

「2021年 『国土学が解き明かす日本の再興』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大石久和の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×