気候変動とエネルギー問題 - CO2温暖化論争を超えて (中公新書 2120)
- 中央公論新社 (2011年7月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021205
作品紹介・あらすじ
地球温暖化の議論をリードしてきたIPCCがスキャンダルに揺れている。温暖化を印象付けるためのデータ操作や、不都合な報告の黙殺など、あるまじき行為が明るみに出た。本書では、気候変動の真因を最新の知見から解説、さらに化石燃料を温存する上で必要な、バイオマス、核融合など代替エネルギー技術の最前線を紹介する。震災復興が急がれる今、莫大な国費を根拠薄弱なCO2削減策のために浪費することは許されない。
感想・レビュー・書評
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2009年、ICPPによる気候変動の資料ねつ造事件、いわゆるクライメートゲート事件から、世界的に「地球温暖化脅威論」への懐疑の眼が広がり始めたのだが、日本のメディアではなぜかほとんどこの事実を取り上げない。そのため、世論としては未だにCO2削減という言葉が呪文のように残っている。
それでも民主党政権のこの体たらくと京都議定書を批准できないことが確実な昨今、「チームマイナス6%」という合い言葉はいつのまにかフェードアウトしているが。。。
ともあれ、先の東日本大震災で福島原発の事故があってから、この温暖化問題は、エネルギー問題へとすりかわった感がある。
自分は環境至上主義に全面賛同するつもりはないのだが、本書はメディアに踊らされずに、地球が、そして日本が直面している現実を考えるには十分な良書であると思う。
少なくとも自分は、世界情勢の駆け引き・政策といった物差しで環境問題すらも扱われてしまうことに、非常に恐ろしさを感じる。
ポスト京都議定書などという滑稽な取り組みを進める前に、もう一度その辺を「ちゃんと」考えてほしいものだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
519-F
閲覧新書 -
クライメートゲート事件で煽っているところ以外は、丸山茂徳先生と同じくスベンスマルク効果のほうが、二酸化炭素よりも気候変動のドライバーとして大きいという主張。スベンスマルク効果とは、宇宙線量の増減→雲の量の増減→太陽光の反射の増減が、気候に影響しているという仮説。宇宙線量の増減は、大気中の炭素同位体の量に影響するので、千年杉の年輪を調べれば、その年輪の時期と炭素同位体の量に相関関係があることが調べられるという研究を引用している点も、丸山先生と同じ。
二酸化炭素濃度と気温の相関よりも、宇宙線量(の目安になる炭素同位体の量)と気温の相関の方が、高い相関性が見られるから、二酸化炭素よりも宇宙線量のほうが相関性が高いのだという結論の導き方も、丸山先生と同じ。
しかし、その根拠資料の引用の仕方が、それぞれ違う目的の数値データのつまみ食いではないのだろうか。だとしたら、バカを騙す温暖化懐疑論ビジネス学者の武田邦彦と同じ論法だ。 -
理系的部分はむずかしくて歯が立たなかったけど、二酸化炭素主因論は、見事に論破されている。
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力作。
2011年7月発行の本ですので「今さら」なのですが、恥ずかしながらこの本に書かれていることをきちんと認識していませんでした。
もしもまだ
・地球は温暖化している
・その理由は主にCO2の排出増加による温室効果だ
という認識をお持ちの方がいらしたら、必読です。
「京都議定書」を批准しないアメリカはけしからん、という辺りで私の認識は止まってしまっていました。10年、少なく言っても5年は世界の認識の趨勢から取り残されていたようです、私。(恥) -
人為的起源による二酸化炭素は地球温暖化には寄与していない。
地球温暖化の原因は、我々の産業活動による二酸化炭素排出量の増加によるものであるという言説を当たり前のものにしていたため、頭を殴られたような衝撃を受けた。
確かに、二酸化炭素による温室効果は存在するものの、地球システムによる氷期間氷期の繰り返しのメカニズムに比べたら微々たるものであるとのこと。
現に、人為的起源による大気中の二酸化炭素濃度は増加傾向にあるものの、2000年代以降温度上昇は横ばい、あるいは寒冷化へと向かいつつある。
IPCC報告書は気候変動、地球温暖化におけるバイブルのようなものと考えていたが、クライメートゲート事件により権威の失墜が著しいと聞いて落胆もした。
人為的起源による二酸化炭素濃度の変動よりも、天の川銀河系内における太陽系の占める位置に起因する宇宙線量の変化が気候変動をもたらすという言説のダイナミックさ、明快さには目から鱗が落ちる思いだった。
勿論、並行して地球温暖化の是非を学ぶ必要はあるが、気候変動を学ぼうとするものにとって必読の一冊であるように思う。 -
誰もが賛同しそうな「地球温暖化防止」キャンペーン。実は、不適切なデータ処理に基づくものだという。
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
気候変動学のこれからのバイブルとなるであろう一冊。同テーマを扱った広瀬氏の「二酸化炭素温暖仮説の崩壊」に比べて、水蒸気の温暖化への寄与率についてあまり深く立ち入ってないように感じたが、化石燃料に代わる新エネルギーとして慣性核融合のいまを原理まで分かりやすく書かれている。もちろん、エネルギー効率を最大化するコジェネから気候変動の本質まで正確な情報をもとに分かりやすく伝えてくれている。
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本のタイトルも副題も穏やかだが、著者はCO2による温暖化原因論を切って捨て、排出削減政策に真っ向から反対している。地球温暖化防止のキャンペーンは、チェルノブイリの事故によって高まった反原発の世論を抑え込むために編み出されたという見解まで示している(p.161)。これらの見解への賛否を差し置いても、本の役割がテーマに関する情報を広く豊富に提供し、わかりやすく整理して説明することであるとすれば、深く頭を下げたいと思うほどの力作。
序章ではクライメート・ゲート事件について説明している。スキャンダルをどう考えるかは信頼の問題だが、科学的証拠では脅威論を支持していないことは重要だろう。気候変動に関する近年の研究の歴史の解説にもなっている。
第1章の気候変動の要因では、ミランコヴィッチ・サイクルによる太陽エネルギーの変動が小さいこと、CO2濃度の変化が気温の変化より遅れていること、太陽活動(黒点周期の長さ)と宇宙線強度の間に相関がみられ、低層雲を変化させることによって気温に影響を与えていることが説明されている。さらに、銀河系の構造や太陽系の運動と宇宙線強度の関係についても触れているが、この点については「まだ広く認められていない」とのこと。
元々、IPCCの第4次報告で用いられたモデルには疑問を持っていた。この本を読んで、宇宙線による雲生成のメカニズムが明らかにされつつある印象を受けたため、CO2原因論に対する懐疑的立場に大きく動いた。とはいえ、CO2の温室効果が否定されているわけではないし、不確実なものに対する予防的措置をとる必要があるかどうかや、対費用効果の観点ともあわせて考え直すことが妥当なのだろう。
あとがきにて、著者は気候変動やエネルギー問題の専門家ではないと自ら認めている。それにもかかわらずこの本を書いたのは、専門家が特定の立場に立つと批判を聴く耳を持たなくなるためであり、専門家以外の意見が必要だからと記している。専門以外の原典をあたる苦労が並大抵ではないことが容易に想像されることともあわせて、著者の科学者としての真摯な姿勢をうかがわせる。おすすめ。
クライメート・ゲート事件
・20世紀が過去1000年間で最も高温だったとは言えない。中世の高温気に熱暴走が起こらなかったなら、脅威論は薄れる。
・この数年のヒマラヤ氷河の多くは成長するか変化なしで、後退の速度も小さくなっている。
・温暖化によってハリケーンの発生頻度が高くなるという主張は完全に否定されている。
気候変動の歴史
・氷期と間氷期の気温差は、南極で約10℃、中緯度で5℃程度、赤道付近で2〜3℃と推定されている。
・280万年前から気温の変動が激しくなって氷期と間氷期が約4万年周期となり、100万年前から変動がさらに大きくなって10万年周期になった。
・南極氷床は約3500万年前から、北半球の氷床は約700万年前から。
・海洋底コアの酸素同位体データの1.5億年前、3億年前、4.5億年前の極大は、地質学で推定された氷河期にほぼ対応している。
・氷期と間氷期の気温差は毎回ほとんど同じだが、その要因となっているメカニズムはわかっていない(p.145)
気候変動の要因
・太陽の黒点数が多いときは周期が短くなる。黒点数の周期の長さと気温の相関は高い。
・二酸化炭素濃度の年変化も氷期と間氷期の変化も、気温の変化より遅れて起きている。二酸化炭素とメタンの濃度が同様の変化をしていることも、気温が共通の原因であることを示している。
・新生代のスパンでは、二酸化炭素は2400万年前からほぼ一定だが、気温は大きく低下している。
・宇宙線の強度のうち40%が太陽活動の影響を受ける。宇宙線は低層雲量を変化させ、2%変化すると気温は0.4度変化する(スヴェンスマーク)
・太陽の磁場は11年周期ごとに反転するため、太陽と地球の間の磁場は22年周期で変動する。過去1200年の宇宙線強度(樹木の14C)と平均気温(氷床の18O)は22年周期で変動している(宮原)
・銀河系の渦状腕の中では超新星爆発に遭遇する確率が大きいため、そこを太陽系が横切る度に宇宙線強度は高くなる。鉄隕石のカリウム同位体の調査によると、宇宙線強度は1.4億年の周期で極大になっており、古気候とよく対応する(シャヴィヴ)。20〜24億年前の全地球凍結は、銀河系内の星生成が盛んだったミニ・バーストの時期に一致する(ド・ラ・フェンテ・マルコス)
・太陽系は銀河系の公転面を6400万年の周期で上下に振動している。太陽系が銀河系の公転面から銀河系の進行方向に最も離れたときに生物の絶滅が起きている。銀河系の外から来る宇宙線が最も強くなるためと考えられる(ギース、ヘルゼル)
・エアロゾルに含まれる硫酸の源は、植物プランクトンから放出される硫化ジメチル(DSM:CH3-S-CH3)で、地上の硫黄循環の30%を担っている。エアロゾル粒子の核形成から水滴の成長メカニズムの結論が得られたのは2000年を過ぎたころ。宇宙線によって小さな水のクラスター形成が促進されることが発表されたのは2007年。
・水滴の核生成を促進する別の物質として、イソプレシンが発見されている。イソプレシンは陸上の植物からも、海中の植物プランクトンからも放出されている。
気候変動の予測
・この数十年間の太陽活動の活発化によって宇宙線が11%減少し、雲量は8.6%減少しており、実際の温度上昇がほぼ説明できる(スヴェンスマーク)
・シャヴィヴは過去100年間の気温上昇のうち、0.47℃が宇宙線、0.14℃がCO2によるものとしている。赤祖父は6分の5が自然変動、6分の1がCO2によるものと結論している。
・氷床コア中の10Beから読みとった宇宙線強度の変化によると、太陽活動は2300年、980年、207年、90年の周期で変動している(アブリュー)
・CO2濃度が高くなることによって、アマゾンの熱帯雨林のバイオマスは毎年0.6%、アメリカの森林は0.8%増えている(p.175)
エネルギー問題
・日本の一次エネルギー消費量をすべて太陽電池でまかなうには、国土の10%の面積が必要。
・世界のエネルギー消費量は、植物が生産するエネルギー量の7分の1〜6分の1。現在利用されいるのは7%。
・陸上穀物の200倍のエネルギーを生産できる微細藻類が発見されている。
・メタンハイドレートは深部地下生物圏のメタン生成菌が発生したメタンが水と反応して作られたもので、含まれる炭素量は大気中のCO2の16倍(p.249) -
2009年11月、イギリスのイーストアングリア大学気候研究所がハッキングされ、13年にわたる交信記録とデータが流失した。この結果、二酸化炭素(CO2)による地球温暖化の危機を訴えて世界を動かしてきたIPCCの報告書が、多分に捏造されたものであったことが知られることとなった。
この事件を序章に置く本書の主旨は明快で、地球温暖化とCO2の増加に因果関係はないということだ。ではなぜ、地球は温暖化傾向が続き、世界規模での気候異変が起こるのか。この問いに応えるため、著者は気候変動の歴史や要因、これまでの科学的な研究方法までを多数のデータを用いて説明するのだが、これが抜群に面白い。
先の問いへの著者の答えは、「地球は宇宙につながっている」から。地球温暖化を考える上で、当たり前だが新しい視点を提示しており、その姿勢は後半のエネルギー問題へも引き継がれていく。