日本の選挙: 何を変えれば政治が変わるのか (中公新書 1687)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121016874

作品紹介・あらすじ

とるに足りない些末な問題と見られがちな選挙制度だが、政治全般に及ぼす影響力は決して小さくない。「選挙制度が適切なら何もかもうまくいく」という哲学者オルテガの言をまつまでもなく、選挙は民主主義をいかなる形態にも変えうる力を秘めている。小選挙区制や比例代表制の思想的バックボーンをわかりやすく紹介し、「選挙制度のデパート」と揶揄される無原則な日本の現行システムを改善するための道筋を示す。

感想・レビュー・書評

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  • 選挙の話もさることながら、選挙制度を変えることで政治も変えることができるということに気付かせてくれた。題名から「選挙の投票率とか若者の関心とかの話だろう」という印象をもたれがちかもしれないが、政治全般の入門書としてとても良い本だと感じられた。「理念なき選挙制度からの脱却」という筆者の強い思いを、熱いながらもやさしく丁寧に説明してもらえます。

  •  本書は選挙制度を扱った本ですが、おそらく政治のトピックとしては地味な印象をお感じになる方が多いのではないでしょうか。私自身そうでしたし、著者もドイツで選挙制度を本格的に研究するまではあまり興味が持てなかったそうです。

     が、本書を読んでいただければわかりますが、政治について、そして民主主義についてちゃんと考えようと思ったら、選挙制度についての理解は避けて通れません。この点、民主主義を考える上では税制についての理解が必要であるというのと非常に似ています。一見地味ですが、民主政治という制度の根幹を支えるシステムを軽視していては、まともな政治議論なんてできないんじゃないか。それくらい思わされました。

     第一章では、日本の選挙制度というのが、世界的に見たとき、良く言っていかにユーモアか、悪く言えばいかにデタラメかが説明されています。例えば、我々は投票と言えば一人一票と無条件に考えてしまいますが、大選挙区(複数人の当選者が出る選挙区)では当選者数分の投票権が与えられる方がスタンダードだったりします(完全連記制)。
     日本は「選挙制度のデパート」だそうですが、決して褒め言葉ではありません。目的も特性も効果も違う制度をごちゃ混ぜにして運用する奇々怪々な選挙制度が、日本の選挙制度です。

     第二章では、選挙制度というのが、その背後に民主主義の理想を想定して選択されるものであることが説明されます。
     よく「戦前の日本に民主主義はなかった」などという発言が見られますが、そういう世迷い言は本章を読んでからにしていただきたいものです。"民主主義がなかった"とされる戦前には、民本主義でおなじみ吉野作造が小選挙区制を、天皇機関説事件でおなじみ美濃部達吉が比例代表制を、それぞれ措定する民主主義観・政治制度を背負って論戦を繰り広げています。理念的には対極に位置する二人が合意していたのは、戦前戦後と続いてきた「中選挙区制」なる妥協のシステムは一番ダメだ、ということでした(美濃部は、政党政治を阻害する中選挙区制に反対するため、比例代表制が時期尚早だと思っていた当初は少数代表制を主張していたこともありました)。
     本書では他にミルやバジェット、シュンペーターやポパーの議論も紹介されています。これらを読んだとき、戦後日本の選挙制度についての議論がいかに退行したものに成り果てたかがわかります。

     選挙制度というのは大きく分けて、二大政党制を志向する「小選挙区制」と、少数からも代表が出せるが多党制になる「比例代表制」の二つになります。
     が、読み進めると話はそんなに単純ではありません。システムの細目をどう規定するかで選挙制度の性格は変わってきますし、国民が政党に対して密接だと比例代表制でも二大政党化する結果が出たりします(オーストリアなど)。
     システムをどう規定するかでどうとでもなるからこそ、選挙制度を通してどういう議会制民主主義体制を作るか、どういう政治システムを構築するか、その大目標が大事になってきます。そしてそれは、参議院をどうするか、地方の選挙制度とどう連動させるか、と憲法改正も含めた統治機構のグランドデザインへと話が発展します。「神は細部に宿り給う」とはよく言ったもので、選挙制度という一見地味なものを突き詰めて考えると、実はもの凄く深く壮大なものが見えてきます。

     あと、比例で復活当選が何かズルい、ゾンビみたい、というよくある疑問についても本書はサラッと答えてくれてたりして、気が抜けない本でした。

     今年中に衆議院の解散総選挙があるのは確実なので、それまでに読んでおきたい一冊です。

  • 様々な選挙制度を一般読者向けに解説した本。大衆向けだけあってシンプルで理解しやすい書き方がされており、かつ選挙制度の基礎的内容からテクニカルな内容まで網羅されていて非常に勉強になる。予想される反論などを交えながら自説を展開しているので、色んな視点を拾えるのも良い。すごい知的な文章って感じがする。

  • 選挙制度について、非常に分かりやすくまとめられている。第二章では、著名な学者の論点を基に多数代表制と比例代表制の比較検討を行っている。とりわけそれぞれの制度の理念に重点を置いて論じられていて、制度そのものというよりは、どういう理念に基づくかによって制度も代わるという印象を受けた。何より、近年の選挙制度の議論はこの理念の部分が欠落しているので、この部分を再考するにはもってこいだと思う。

  • 選挙制度は誰が当選するかを規定する要因の一つになりうる。参院選において、偶数人区では与野党が均等に分け合っていて、奇数人区でしか差がついていないという主張が面白かった。

  • 選挙制度によって何が起きるかを書いた本
    比例代表や小選挙区制についてきちんと書かれていて、著者の考えも書かれていて読みやすい。

  • 政治学を少しかじりましたが、自分の選挙制度に対する考え方が根本的に覆された感じがしました。もっと勉強して思考を深く、感情論ではない自分の意見を持ちたいです。

  • 山本健太郎著の「政界再編」を読んで、1994年に小選挙区比例代表並立制が導入されたことで政党の戦略が多く変わったことを知りましたが、本書を読んで、選挙制度によって政治が大きく変わりうるという認識をより強く持つようになりました。
    本書では、外国の選挙制度とも比較しており、日本の選挙制度がいかに稀有なもので、理念のないものだと述べています。
    参議院に対する問題意識や、サラリーマンなどの被雇用者が選挙に立候補しづらい選挙制度に対する問題意識も述べられており、選挙制度について考えるいいきっかけとなりました。
    初版は2003年ですが、2013年に補足解説が追加されており、また当時の選挙制度から大きく改革もされていないので、今読んでも十分ためになる一冊だと思います。

  • 古いけど、しっかりした本。幅広くカバーしてる感じ。

  • 90円購入2012-01-09

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著者プロフィール

東洋大学名誉教授(専攻・政治学)、日本クラウゼヴィッツ学会会員
1949年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法学研究科修了。京都産業大学専任講師、助教授、教授、東洋大学法学部教授を歴任。

「2022年 『『戦争論』クラウゼヴィッツ語録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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