オペラの運命: 十九世紀を魅了した一夜の夢 (中公新書 1585)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121015853

作品紹介・あらすじ

オペラ-この総合芸術は特定の時代、地域、社会階層、そしてそれらが醸し出す特有の雰囲気ときわめて密接に結びついている。オペラはどのように勃興し、隆盛をきわめ、そして衰退したのか。それを解く鍵は、貴族社会の残照と市民社会の熱気とが奇跡的に融合していた十九世紀の劇場という「場」にある。本書は、あまたの作品と、その上演・受容形態をとりあげながら「オペラ的な場」の興亡をたどる野心的な試みである。

感想・レビュー・書評

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  • 絢爛豪華な劇場に人々が集うオペラ文化。その誕生から終焉までを描いた新書。200ページほどで、とっても読みやすい。作品自体の分析よりは、絶対王政、市民革命、鉄道の発達といった社会経済の変化が作品や興業のあり方に与えた影響に、力点が置かれている。音楽の社会史ということだろう。

    オペラ文化にとってかわったのは、第1次大戦を機に勢いを増す米国の大衆文化であり、とくに映画であった。はたして映画の運命やいかに。

  • 『オペラの運命』―19世紀を魅了した「一夜の夢」―                        岡田暁生著 (中公新書)

    著者にとっての狭い意味でのオペラとは、個々の具体的な作品というよりむしろ、ある特定の「場」、つまり十九世紀のパリやミュンヘンやウィーンのオペラ劇場に象徴される世界である。

    オペラの魅力にとりつかれた人なら誰でも知っているように、この芸術は特定の時代、特定の地域、特定の社会階層、そして何よりも特定の雰囲気と極めて密接に結びついている。 

    オペラ劇場は封建貴族社会と近代市民社会の出会いの場であった。そこにはいわば、最高級の料理店のごとき格式の高さと、場末の芝居小屋の熱気とが同居している。
    そして今でもパリやミラノやヴェネチアやミュンヘンやウィーンのオペラ劇場の一夜においては、宮廷文化の残照と市民社会の熱気とのこの奇跡的な融合が蘇ってくるだろう。

    著者にとっての狭い意味でのオペラとは、まずはこうした「場」であり、そしてこの「場」にいかにも似つかわしいような作品たちなのである。

    本書の中核をなすのは、あくまで18世紀末のモーツアルトから20世紀初頭のリヒャルト・ストラウス/プッチーニまでの時代である。
    この百数十年こそはオペラの黄金時代であり、オペラが最もオペラらしい時代であった。

    いまだにオペラの上演レパートリーの9割方がこの時代のものであることは偶然ではない。バロック宮廷文化の名残が新しく台頭してきた市民層と溶け合って、あの夢の舞台を作り上げたのが、フランス革命と第1次世界大戦に挟まれたこの百数十年だったのであると著者は言っている。


    読書メモ
    ○オペラのような途方もない浪費芸術が誕生するとしたら、この時代(バロック初期の1600年前後)をおいて他には不可能であったろう。

    ○オペラにおいては物語性よりスペクタクル性の方がはるかに強い。

    ○美しい詩文の抑揚を心掛け、オペラから喜劇的要素を追放した。こうして1720年ころ成立したのが「オペラ・セリア」と呼ばれるジャンルである。〈なお、喜劇的要素はオペラ・セリアから分離されて「オペラ・ブッファ」というもう一つのジャンルを形成することになる。〉  

    ○万事派手を好むこのオペラ体質の根底にあるのが、第一に浪費性、第二に儀礼性、第3に予定調和性である。こうした近代市民社会においては否定されがちな気質に共鳴することなしには、オペラに順応することは難しいだろう。 

    ○万事派手を好むこのオペラ体質の根底にあるのが、第一に浪費性、第二に儀礼性、第3に予定調和性である。こうした近代市民社会においては否定されがちなきしつにきょうめいすることなしには、オペラに順応することは難しいだろう。

  • 絶対王政の時代には王侯の浪費のバロメータであったオペラが、市民革命を経て娯楽となり芸術となり、第一次大戦後にその本来の役目を終えるまで。名曲の解説集ではなく時代時代の息遣いが感じられるような内容で読みごたえがあった。国民オペラ、あるいは異国オペラと呼ばれるジャンルの持つ非真正性というくだりには考えさせられてしまう。制作側の意図が国威発揚にせよエキゾチシズムにせよ、広く大衆に受け入れられるものを作ろうとすると出来上がるものはそれっぽい・らしいだけのいかがわしい代物だという。このことはオペラ以外の音楽ジャンルでも、あるいは現代の娯楽作品などにも同様の例が見出せる問題だと感じた。

  • ・ロココ時代の喜劇オペラ
    →ブッファとセリアの合体、「人間劇としての喜劇」(サリエリ『まず音楽、そして言葉』…『カプリッチョ 』のモデル)
    ・パリは「19世紀オペラ史の首都」
    …政権の交代とともに音楽様式が交代
    「救出オペラ」(『フィデリオ』もその影響を受ける)→ロッシーニの「他愛ない笑い」の純化による喜劇オペラ→グランドオペラ(イタリア座のオペラ通)
    ・「国民オペラ」…『魔弾の射手』(香辛料としての国民色?)→異国オペラと紙一重
    ・社交→作品鑑賞→解釈鑑賞

    • 旅人さん
      時代背景を踏まえたオペラを描いておりよく理解できる良書ですね!
      時代背景を踏まえたオペラを描いておりよく理解できる良書ですね!
      2020/12/02
  • 2021/1/26

    調べ物として参考程度にかいつまんで読むつもりが面白くて通読。

    特にセリア→オペラ・ブッファの流れを整理できたのは良かったな。国民国家成立の波に晒された後進国がこぞって国民オペラを作ったというのも頭の片隅に入れておく価値はありそう。

    これを読みながら歴史の横の繋がり(縦は当然)が重要だという揺るぎない確信を得たので、今までサボってきた歴史年表作成時始めます宣言をここに。

  • 資料ID:92182423
    請求記号:766.1||O
    オペラの勃興から衰退までを、貴族社会と市民社会が融合していた19世紀という「劇場」のなかで描いた名作。

  •  岡田暁生著『オペラの運命――十九世紀を魅了した「一夜の夢」』(中公新書)と、中野京子著『おとなのための「オペラ」入門』(講談社+α文庫)を読了。仕事でオペラの歴史を調べる必要があって、その資料として。

     音楽学者である岡田暁生の著書を読むのはこれで3冊目だが、この人はじつによい本を書く。クラシック門外漢の私が読んでもすごく面白いし、知的刺激がふんだんに得られる。
     
     サントリー学芸賞受賞作である本書もしかり。オペラに関心がなく、観に行ったことはおろかまともに聴いたことすらない私が読んでも、最初から最後までまったく退屈しなかった。大したものだ。

     オペラ史の概説書であると同時に、質の高いオペラ入門でもあり、オペラを媒介にした(17世紀以降の)ヨーロッパ史の書としても読める。

     もう一冊の『おとなのための「オペラ」入門』は、中高生向けに書かれた『オペラで楽しむ名作文学』を大人向けに書き直したもの。そうしたいきさつゆえ、『カルメン』『椿姫』などの名作オペラの原作に焦点が当てられた内容になっている。

     入門書としては悪くない本だが、『オペラの運命』の充実した内容と比べてしまうと、割りを食って見劣りがする。

  • 音楽学者の岡田暁生氏が17世紀から19世紀にかけてのオペラの歴史をまとめたもの。いわゆる有名作品の見どころや内容解説、有名な作曲家紹介ありきのオペラ史ではなく、オペラ劇場という「場」の歴史を辿ることに主眼が置かれており、当時の社会情勢や風俗などを絡めてオペラ史やオペラ作品の成り立ちが解説がされており、とても面白く読めました。モーツァルトの先見性と良くも悪くもワーグナーの影響力の大きさを再確認しました。音楽史の本ですが、広くヨーロッパ史などに興味がある人にもおすすめ出来ます。

  • 20140830読了
    オペラの成り立ち。おもしろい!蔵書。●昨年夏に読み終わった新書。レビュー書かないとと思いながらそのままになっていたらあっという間にもう翌年になってしまった。

  • とても読み応えのある好著。オペラという芸術形態を歴史的な背景のなかでとらえなおし、その社会的な役割の変遷をたどる。そもそも宮廷文化として誕生したオペラが、19世紀市民社会のなかで貴族に憧れる市民のための豪華な娯楽として黄金期を迎え、そのなかで国民オペラや異国オペラなどが誕生。やがてワーグナーが現れてオペラは娯楽でなく文化財へ。しかし第1次大戦後はそれまでの価値がすべて崩壊し、新しい試みは行われているけれどももうオペラとはいえなくなっているのではないかと。この流れが、具体例をあげつつ詳しく説明されていて説得力がある。
    オペラを芸術として礼讃するのではなく、批判的に考察しているので、時にかなり辛らつな意見も出てくるが、まさにそういう「ツッコミどころ」こそがオペラのおもしろさだと思っているので、私は楽しんで読んだ。巻末の文献の手引きもとても役立ちそう。
    でも最後のCD・LDガイドは…この本が出たのは2001年だけど、その段階でまだLDって存命だったっけか…?

    あーあと忘れてはいけないのが、どちらかといえばマイナーな存在である作曲家数名に特に光があてられていること。ケルビーニやスポンティーニは過小評価されているそうだ。そしてマイヤベーアの存在感がこの本では非常に大きい。マイヤベーア!改めて聞いてみなくてはと思った次第。

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著者プロフィール

1960年京都生まれ。京都大学人文科学研究所教授。専門は近代西洋音楽史。著書に『リヒャルト・シュトラウス 人と作品』(音楽之友社、2014)、『音楽の危機』(中公新書、2020、小林秀雄賞受賞)、『音楽の聴き方』(中公新書、2009、吉田秀和賞受賞)、『西洋音楽史』(中公新書、2005)、『オペラの運命』(中公新書、2001、サントリー学芸賞受賞)、共著に『すごいジャズには理由がある』(アルテスパブリッシング、2014)など。

「2023年 『配信芸術論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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