女人入眼 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.81
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感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120055225

作品紹介・あらすじ

『商う狼』で新田次郎賞をはじめ数多くの文学賞を受賞。

大注目の作家が紡ぐ、知られざる鎌倉時代を生きた女性たちの物語。


「大仏は眼が入って初めて仏となるのです。男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ」

建久六年(1195年)。京の六条殿に仕える女房・周子は、宮中掌握の一手として、源頼朝と北条政子の娘・大姫を入内させるという命を受けて鎌倉へ入る。気鬱の病を抱え、繊細な心を持つ大姫と、大きな野望を抱き、それゆえ娘への強い圧力となる政子。二人のことを探る周子が辿り着いた、母子の間に横たわる悲しき過去とは――。

「鎌倉幕府最大の失策」と呼ばれる謎多き事件・大姫入内。

その背後には、政治の実権をめぐる女たちの戦いと、わかり合えない母と娘の物語があった。

感想・レビュー・書評

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  • 続けて鎌倉関連本。今回は大姫入内計画について。

    先日読んだ『修羅の都』で京での鎌倉派介入策として送り込んだ九条兼実と丹後局との政争がここでは違う形でクローズアップされた。
    最初は丹後局、九条兼実、卿局の三グループの関係が分からなかったので自分で相関図を書きながら読んだ。
    帝の寵愛を受け、男児を生むか女児を生むかでこれほど運命が変わるとは。

    主人公は丹後局の命を受け、大姫入内計画を進めるために鎌倉へ下向した女房名「衛門」こと周子(ちかこ)。
    なぜ彼女が選ばれたのかと言えば、大江広元の娘だからだ。これが史実なのかフィクションなのかは分からないが、周子が広元の娘であることはこれまでの人生においても、鎌倉での日々においても良くも悪くも影響を与える。

    この作品での大姫は『修羅の都』の大姫とはまるで違う。当初は虚ろな目をして何を考えているか分からない、かと思えば突然子供のように激高する扱いの難しい娘だ。それは義高の死による『気鬱の病』からだろうと言われているが、ここで描かれる大姫と義高の物語は現実味があって興味深かった。たった七歳で義高に愛を捧げる大姫よりはよほど理解できる。

    当初はこのミッションを成功させ、大姫入内の際には『一の女房となる』立身出世の欲を抱いていた周子だっただけに、大姫の心許ない様子に最初は戸惑い苛立つ。だがやがて彼女の心中を知ると別の想いが湧いてくる。
    周子は父・広元が京を見限り鎌倉へ行ってからは母と二人で生きてきた。学問や様々な知識を武器に己の才智で二十年の人生を『魑魅魍魎が跋扈する』京で生きてきたのだ。
    丹後局のような『強さ』こそが憧れだった彼女にとって、大姫との出会いは自分の価値観や人生観をひっくり返すものとなった。
    ただ大姫の最期は分かっているだけに、周子がその後どうなるのか、京に戻れるのかどうなのかが気になって読み進めた。

    大姫と関わるうちに見えてきたのは、北条家なしには頼朝ですら安泰でいられない鎌倉幕府の姿。頼朝・政子夫婦、政子と大姫を始めとする四人の子供たちの関係、そして鎌倉での勢力争いは実に危なっかしい。
    『鎌倉もまた都と同じく魑魅魍魎が跋扈する』場所であったことを知る周子だった。

    政子は…ただただ恐ろしい。この政子はこれまで読んできたどの作品とも違う、ダークというのとも違う、別の怖さがある政子だった。

    タイトルの『女人入眼』は九条兼実の弟で天台座主の慈円の言葉。
    『男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは女人であろうと私は思うのですよ。言うなれば、女人入眼でございます』
    『泰平の世を寿ぐ晴れやかな気持ち』で聞いてから二十数年後、それが全く違う意味になっているとは。

    丹後局が都で繰り広げた『女の戦』など愛らしいものに見える。彼女は男の戦を『碁石をまとめて碁盤の上にばらまいてしまう』と表現したが、鎌倉の戦は碁石を蹴鞠で碁盤ごと倒してしまうようなものだった。

    大姫の死の真相がどうなのかは分からない。『修羅の都』の大姫の死も驚かされたが、こちらもまた斬新で辛い話だった。周子が鎌倉でやったことは意味がないどころか苦しみを増しただけだったのか。
    周子のその後がまた興味深い。あまりにも苦すぎる鎌倉での日々を経て、丹後局とも政子とも違う強さを手に入れたということか。周子が長寿だったら鎌倉の凋落の兆しを見て留飲を下げたかも知れない。

  • 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のサイドストーリー的物語。大河ドラマを観ている人にはとても読みやすい物語になると思う。

    大河ドラマは北条義時目線。
    一方こちらは、京の六条殿に仕える女房にして鎌倉幕府の文官の長・大江広元の娘、という立場にある若い女性目線。源頼朝と北条政子の長女・大姫を入内させるという命を受けて鎌倉入りした。
    大河ドラマを観ているお陰で物語の背景や人物像も知っているため、物語にもすんなり入れた。
    宮中の情勢や鎌倉幕府、北条政子・大姫の母娘関係等、客観的に見れて読み応えもかなりある一冊だった。

    両親は当時の武家社会一の権力者。本来ならば日の本一幸せな姫のはずが、とことん悲運な大姫。
    大姫の行く末はざっくり把握していたけれど、今回は史実を曲げてもいいから大姫には平穏な幸せを掴み取ってほしい、と願いながら読み進めた。
    せめて物語の中だけでも大姫には笑顔で締め括らせてあげたかった。まるでかぐや姫のように一人旅立っていってしまった大姫のことを思うと胸が痛く切ない。

    「政に情は要らぬ」と女人たちを碁石に見立てて政を語る丹後局。
    対するは、その丹念に並べた碁石の上に蹴鞠をぶち込み京の秩序を乱そうとする北条政子。大姫に対する異常なまでの執着も痛々しい。
    そんな野望多き女たちの間で板挟みになるのは、繊細な大姫にとっては荷が重すぎる、としか言いようがなく可愛そう。
    直木賞候補作として選んだ今作。
    途中からそんなことどうでも良くなる位のめり込んで読めた。

    • しずくさん
      以前から気になっていた本です。”にょにんじゅげん”と読むのも新たに知った次第で恥ずかしい・・・。サイドストーリー本で、直木賞候補作、図書館に...
      以前から気になっていた本です。”にょにんじゅげん”と読むのも新たに知った次第で恥ずかしい・・・。サイドストーリー本で、直木賞候補作、図書館に予約を入れてあります。
      2022/07/31
    • mofuさん
      しずくさん、おはようございます♪

      表題の読み方は私もこの作品を読んで知りました(^_^;)
      大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観ているお陰で、...
      しずくさん、おはようございます♪

      表題の読み方は私もこの作品を読んで知りました(^_^;)
      大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観ているお陰で、登場人物の人間関係もすぐに分かって楽しめましたよ。
      しずくさんも図書館の順番が早めに回ってくるといいですね(*^^*)
      2022/07/31
  •  源頼朝と北条政子の娘である大姫。
     彼女の入内を巡って、京都から六条殿に仕える周子は都から鎌倉へ訪れる。
     気鬱の病を得て、人形のような大姫と入内さえすれば大姫が健やかに暮らせるようになると確信を抱く政子。
     その二人と京と鎌倉の間で揺れ動く周子の心。

     大姫は黙して何も語らず、政子は己が思いが姫の思いと確信して彼女の代弁者として鎌倉を支配する者として周子をむかえいれることになる。

     母にすべてをゆだねる大姫の本心はどこにあるのか?

     そして、すでに中宮や寵姫がいる帝の元へ入内した時に彼女は後宮で生き抜くことが出来るのかと周子は案ずるのだが……。
     
     現在、私も『鎌倉殿の13人』を見ています。

     大姫の許嫁という名前の義高は義仲が京で失脚したことで、人質の意味を失い、殺害されることは多くの方がご存じだと思います。

     その前に、彼を逃がそうと政子主導で動いたけれども、政治的な判断としては頼朝が正しいと私は思っています。わざわざ遺恨を残すものを残すことなど、自らの経験からできなかったのでしょう。(清盛の甘さが一族が滅んだきっかけの一部なのか確かだと思いますから)

     そんなことが当時七歳の大姫にわかるわけもないし、義高を慕う気持ちを捨てることが出来なかったのは当然と思います。それを案じる母である政子。

     一見、美しい母の愛情。でも、それが互いに食い違っていたならば、そこにあるのは間違いなく悲劇。

     そんな中で成長した大姫に後鳥羽帝へ入内の話が持ち上がり、入内に伴って鎌倉と縁を結ぶための周子が彼女の元へ。

     これは戦なのだと、丹後局はいい、一つのところに力があるまらないようにするための策なのだと言い切る(かっこいいなぁ)

     ただ、すでに帝には皇女と皇子が生まれている。そこへ投じる一石として選ばれたのが大姫。

     周子がこの役目を果たそうとして大姫との目通りと願うのですが、なんやかやと理由をつけられて、彼女に近づくことができない。しかも政子は入内を望みながら、それを後押ししている。

     これは……。

     周子としては仕事になりませんよね。だって、鎌倉で暮らしていた姫だとしても都や宮中のことはわからないし、わからなければ、中宮や寵愛されている女御に侮られるし、鎌倉は血なまぐさいですが、宮中は別な意味で怖い場所ですし(-"-;A ...アセアセ

     そんな中で海野という武士と親しくなった周子。彼女を彼が笑い合っている姿を見たときに人形のようだった大姫が豹変し、怒号をあげて、海野へ殴りかかる。その哀しい理由。

     そうした周子にとって辛い日々の中で、ようやく大姫と歌で心を通わせることが出来るようになるのですが、それがまた大姫を追い詰めることになってしまって(´;ω;`)ウッ…

     とにかく大姫が切ない! そして、親のいかにも子供のことをわかっているという行動がどれだけ子供を疵づけるのかと胸が痛くなるようでした。

     おそらく坂東で生まれ育った政子には宮中がどんなところか理解できていなかったと思いますし、寵を争う世界は武士の世界とは違った残酷さがあるわけなんですが、それが理解できない、わからない。

     あるのは、入内さえすれば大姫は幸せになり、健康も取り戻せるという独りよがりの気持ちなんですよね。(これは受け止め方にもよると思うので私の感想です)

     そんな中で、政治そのものが鎌倉と京に分かれてしまい、また宮中でもパワーバランスを取らないといけない状態になってしまっていて、そのための鎌倉の姫の入内が必要になってしまった。

     人は作中に出てくる碁石ではないのになとも思いつつ読んでいました。

     儚く蜻蛉のような大姫の秘めた思いや周囲に対する気持ちがわかる後半に一気に心の中を流れる感情はなんて哀しくて、愛しい子なのだろうということでした。

     そして、のちに尼将軍と呼ばれる政子の最後までぶれない姿もまたあっぱれというべきなのだろうと思ったりもしたのです。

     大河ドラマではどのように描かれるのでしょうね。結局、一気読みしてしまいました。

     それにしても女子の戦のなんと哀しきものかをこれでもかと思わせてくれる一冊でした。

  • 尼将軍政子のひととなり、当時の政略結婚が主軸であっはあったが、個人には不幸=呪いの概念がかなり浸透していて面白かった。
    政子とのコントラストをつけるためか、頼朝がだいぶ穏やかだったのは少々違和感を感じた。

  • 初読作家作、まあ、そこそこ面白かった。大変ゾッとする。ただ、前半波にのれず苦戦した。
    北条政子はもともとエキセントリックで恐怖なイメージを持っていたが、本作に描かれる政子の怖いことといったら、何度もゾッとさせられた。これは、ホラー。毒親(毒母)政子の描かれ方がほんとに恐ろしい。


    そして、大姫の最後が
    全て政子に責任が被さるように逝くところが
    結構むねがすいた。
    言葉はわるいが”ざまぁ”って感じではある(正直なところ)
    とはいえ、政子にはたとえ大姫が死をもった訴えをしたところで、
    全く理解はしていないだろうというのも窺える。
    個人的に、うちの母とまったく同じタイプなので
    身につまさるというか、トラウマが蘇りまくる。
    こういう人、
    なにをどうしても、自分の中にあるフィルターを通して理解し、
    そのフィルターに恐ろしいほどのブレがないので
    いつまでたってもどこまでたっても理解しあえることがないという。
    パレXチナとユXヤみたいな、、
    結局、
    話し合いで理解し合うことは無理な場合が多々ある。
    たとえ、家族であっても、
    どうやっても理解し合えない、ということですな。
    無駄。


    「しかし、あの御方は過たない。何故、過たないかご存知ですか」

    「過ちを認めず、誰かの責にするからです。(中略)己を責めて嘆く人の心など分からぬのです。」


    超個人的読了感→脱力感
    地雷だった、、。
    鎌倉関係は10年ぐらい前に仕事上の理由もありこってりと学習したときに、自分なりの解釈が出来上がってしまっているので、なかなかそこらへんを打ち破るのが難しい。逆に違うイメージや見解の書籍など、ギャップはとても楽しめる。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      jubeさん

      地雷を踏んだ人へのケアの無い作家はダメ(と言うコトに)
      jubeさん

      地雷を踏んだ人へのケアの無い作家はダメ(と言うコトに)
      2022/09/05
    • jubeさん
      猫丸(nyancomaru)さん
      心遣いありがとうございます。
      地雷もまた刺激、いい文章ということでしょう。
      ケア不要でございます。み...
      猫丸(nyancomaru)さん
      心遣いありがとうございます。
      地雷もまた刺激、いい文章ということでしょう。
      ケア不要でございます。みんな悩んでおおきくなるんです〜
      2022/09/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      jubeさん
      にゃ〜
      jubeさん
      にゃ〜
      2022/09/11
  • 【書評】『女人入眼』永井紗耶子著(中央公論新社・1870円)北条政子と乱世の女たち - 産経ニュース
    https://www.sankei.com/article/20220508-EA7PORXZK5IMLK4AR3GI667KEY/

    ”大姫入内”女性たちの思惑 [評]細谷正充(文芸評論家)
    <書評>女人入眼:北海道新聞 どうしん電子版
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/681173?rct=s_books

    永井紗耶子さん注目の新作「女人入眼」 “鎌倉幕府最大の失策” 大姫入内を描く – 美術展ナビ
    https://artexhibition.jp/topics/news/20220407-AEJ751191/

    三田尚弘 | オフィシャルサイト
    https://bit.ly/3GiuVkO

    女人入眼 -永井紗耶子 著|単行本|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/tanko/2022/04/005522.html

  • 平家滅亡後、京では後白河院の亡き後も力を持つ丹後局は後鳥羽帝の跡目争いの布石として、鎌倉殿の娘大姫の入内を目論む。命を受け周子は鎌倉へと向かう。北条政子の異常にも思える娘への愛。そして様々な人達の思惑が入り乱れる中、周子は大姫の心に深く入りこんでいく。


  • 先の大河ドラマ『鎌倉殿~』のサイドストーリーとして読み始めた。女人としての政という意味ではこの本を手にできたこと読めたこと、今では乗り遅れたけれど良かったと思った。あの北条政子の母親としての凄まじい意地も今更ながらに感じ入った。背筋が凍りそうなほど…。
    いつの時代にも毒親はいたんだなという思い。しかも変に権力者だったから周りの者たちの心痛が分かるだけに(大河ドラマからも)興味深く読み進められた。
    大姫の心の病は木曽の義高の死が原因で、最期は史実通りで入水自殺なのだけれど、この本で深く傷ついている大姫の様子を見たら同じ女性として可愛そうに思う。でも母親としての政子の毒具合も並行して分かってしまう…。

  • 都から鎌倉へ、政子の娘である大姫の入内教育者として使わされた周子の目から見た政治。鎌倉殿を楽しんでいる人なら絶対面白いと思います。ちなみに私は歴史オンチ&歴史小説系苦手人間なので少し読むのに苦労しましたが、最後は一気読みでした。政子恐ろしか~。
    鎌倉殿は最初の数回で断念したのですが、この小説読んでも、政子はベストキャスティングだけど、頼朝…。ドラマでも合ってないと思ったけど、やっぱり歌舞伎・能あたりの血筋の役者さんが向いてるよ。みんな、大泉洋には一目惚れしないって。芸能人としては好きだけどね~。

  • 大河ドラマで旬な、鎌倉時代の物語。
    源頼朝と北条政子の長女、大姫をとりまく壮絶なお話でした。おんな達の生き様がどれも強く逞しい。

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著者プロフィール

1977年神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経て、フリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、「絡繰り心中」で第11回小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2021年、『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』で第40回新田次郎文学賞、第10回本屋が選ぶ時代小説大賞、第3回細谷賞を受賞。他に『大奥づとめ』『福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得』『帝都東京華族少女』『横濱王』『広岡浅子という生き方』などがある。

「2023年 『とわの文様』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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