竜血の山 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 158
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120054921

作品紹介・あらすじ

著者史上最大のスケールで描く、圧倒的筆致の人間ドラマ――!


昭和13年、鉱山技師の那須野寿一は、北海道東部の山奥で、巨大な水銀鉱床と地図にない集落を発見する。〈フレシラ〉という名のその集落には、ある秘密を抱えた一族が暮らしていた――。

フレシラの鉱夫となった一族の青年アシヤ。寿一の息子で、水銀に魅せられた源一。太平洋戦争、朝鮮戦争特需、水俣病の公害問題……昭和の動乱に翻弄された二人の青年の、数奇で壮絶な生き様を描く!


【目 次】

第一章 赤い岩 ―昭和13年

第二章 水飲みたち ―昭和17年

第三章 不死身の鉱夫 ―昭和18年

第四章 冷たい山 ―昭和24年

第五章 ある母子 ―昭和26年

第六章 人間の血 ―昭和34年

第七章 湖底 ―昭和38年

第八章 飛ばない鳥 ―昭和39年

第九章 きらめく水のほとり ―昭和43年

感想・レビュー・書評

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  • ガツンと重い作品でした。
    面白かったです。

    時は1959年から。
    北海道のフレシラ鉱山で働く鉱夫たちの中に<水飲み>と呼ばれる、水銀に耐性を持つ血筋の者たちがいました。
    その者たちは<水飲み>故に、水銀中毒を起こす心配がなく、フレシア鉱山で優遇されて働いていました。

    その中の一人榊芦弥(さかきあしや)が主人公です。
    アシヤは<水飲み>故に妬まれ、二番堀の底に落とされますが6日後に水銀を飲みながら生還し、不死身の鉱夫と呼ばれるようになります。

    フレシア鉱山の内部抗争や家族間の諍い、人知れず殺人事件も起こります。

    戦争がなくなり、平和になり、水銀の需要もなくなり、熊本で水俣病が発症します。
    そんな斜陽産業に携わる男たちとそれを取り巻く女たち、家族、一族の物語です。
    <水飲み>は竜血の山に愛された一族。
    <水飲み>の不死身の鉱夫アシヤの生涯を描いた物語。

  • 昭和13年、北海道東部の山奥で、自然水銀の湧く巨大鉱山が発見された。
    那須野寿一は、鉱山技師として調査に入った山奥で、ひとりの少年・榊アシヤと出会う。
    その集落には、〈水飲み〉と呼ばれる水銀への耐性という特殊な体質を持つ者たちが住んでいた。

    フレシラ鉱山に住む〈水飲み〉の一族と鉱業所で働く者たちの物語だが、かなり壮大でありとても重みのある内容だった。
    水銀と共に生きる一族の繋がりの深さだけではなく、失踪や殺人、水俣の公害問題、動物実験、その中で戦争の混乱もあり、これが時代を感じるということなんだと思った。
    読み応えのある一冊だった。


  • 水銀鉱山の盛衰 特殊な一族の物語[評]池上冬樹(文芸評論家)
    <書評>竜血の山:北海道新聞 どうしん電子版
    https://www.hokkaido-np.co.jp/sp/article/653678?rct=s_books

    竜血の山|単行本|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/tanko/2022/01/005492.html

  • めちゃくちゃ面白くて一気に読みました。

    鉱山ノンフィクションのようにリアルで、血の呪い/地の呪いとも思える<水飲み>の一族は、中上健二作品の<高貴な血>を思わせる、サーガ的目線もあり。
    ラストのある種の爽快感が主人公アシヤが悩み苦しんだ果てのそれだと信じたい。

  • 水銀と聞くと、子どもの頃使っていた体温計を思い出す。うっかり落とすとガラスが割れて中の水銀がこぼれてしまう。普段見慣れている「水分」とは全く違うその銀色の塊。床の上で丸くなる銀色の塊がころころと転がるさまはとても面白く思わず手を伸ばして親に「触っちゃダメ!」と叱られた。
    それは「毒だから」と。

    地図にも載っていない集落、地元の人たちとも交わらず山の中で暮らす人々。彼らの特異な体質によって山は「東洋一の水銀鉱山」として栄える。
    戦争特需。ひっそりと自分たちの山と「やまかね」を守って生きてきた〈水飲み〉の人生を大きく変えていったそのチカラ。遅かれ早かれ彼らの暮らしは変わっていったのだろう。いつまでも世間と隔絶して生きていけるわけもなく。それでも「その時」が「今」だったのかどうか。
    敗戦と水俣病。逆風の中で新しい道を求めて多くの〈水飲み〉たちは山をおりていく。そこで生き続けようとするアシヤたち、そして水銀に魅せられ外からやってきた源一。だれの人生も何が正しかったのか、わからない。
    彼らが水銀に狂わされたのか、あるいは、彼らが水銀を狂わせたのか。
    どんよりとした血のにおいが文字の間から漂う。いや、これは血ではなく地のにおいか。あるいはみずかねのにおいか。
    読みながら少しずつ背中が丸まっていく。翻弄され続ける彼らの人生に同情さえする。けれど、このラスト。
    なんだろうこの解放感は。身体の内側にたまっていた重く鈍いものが一気に解き放たれるラスト。
    人間の内側にあるくらい闇を見つめ続ける岩井圭也の、最後に見せるカタルシス。
    言葉を無くした。読み終わって茫然とした。この一瞬のための重みに感謝した。

  • タイトルだけ見て、ついに岩井さんがファンタジーを書いたのかと狂喜したが、北海道に実在した水銀鉱山をモデルにした歴史大作だった。
    昭和13年、北海道東部の町・辺気沼近くの山麓で、辰砂(硫化水銀の塊)が発見される。派遣された調査班は、山中にひっそりと暮らす部族と出会う。彼らは先天的に水銀に対する耐性を持ち、やがて開かれた鉱山で働くことになる。その中の1人、アシヤを主人公として彼の数奇な人生を描く。
    軍事的に必要とされた水銀と、その毒性ゆえの採掘の難しさをうまく物語に取り入れている。予測不可能な展開に唸った。

  • 竜が眠るとされた山にしか
    生きられなかった男。
    護ろうとしたもの、護れなかったもの
    幸せと、そうでないもの
    特別であっても、特別でなくても
    同じ人として悩み苦しみながら
    生きていく様を見事に描き、
    著者の代表作となるだろう力作!
    原子番号80の元素「水銀」は
    その美しさとともに、
    死に至らしめる毒性をあわせ持つ。
    それはまるで生きとし生ける人と
    同じ宿命のようだ…。

     

  • 日本にはさまざま鉱山の歴史がある。時代は昭和初期から北海道東部の水銀鉱山の歴史を壮大に追った大河作品。毒性の高い水銀。水銀への耐性がある「水飲み」一族と、鉱山に魅せられた男たちの挫折と嫉妬、そして差別。時代に翻弄されていく一人の青年の壮絶な生きざまが描かれていました。

  • 昭和の水銀鉱山が舞台。ファンタジー要素がテーマに深く関わりますが、戦時中と戦後の水銀需要、水銀鉱山と水俣病など、事実も散りばめられていて不思議とリアリティのある読み心地。
    終わり方がとても美しい。好き。
    でも登場人物たちがあまり好きになれるタイプではなく星4つ。

  • 水銀にまつわる村の少年の成長の話

    芦弥の下の緩さは嫌い、妻も妾も子も誰1人幸せにならない
    性描写も少なからずあったしきもい…
    結局自分の事しか考えてなかった
    それは集落という閉塞的な空間で育ったから仕方ないのかな

    「また会えてよかった」と芦弥が忠樹に言った一言が刺さった!
    読んでて色々思う事があって泣いてしまった
    話の内容で現代人の私には…ん?って感じるところもあるけど結局こういう歴史があるから私たちは今
    幸せに暮らせるんだろうな

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著者プロフィール

いわい・けいや 小説家。1987年生まれ。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞(KADOKAWAより刊行)。著書に『文身』(祥伝社)、『水よ踊れ』(新潮社)、『この夜が明ければ』(双葉社)などがある。

「2021年 『人と数学のあいだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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