母親からの小包はなぜこんなにダサいのか (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120054648

作品紹介・あらすじ

昭和、平成、令和――時代は変わっても、実家から送られてくる小包の中身は変わらない!?

業者から買った野菜を「実家から」と偽る女性、父が毎年受け取っていた小包の謎、そして、母から届いた最後の荷物――。

実家から届く様々な《想い》を、是非、開封してください。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは『ダサい小包』を受け取ったことがありますか?

    『吉川さん?宅配便です』。人から人へとモノを送る手段。それが『小包』です。ダンボール箱を用意して、モノを詰めて梱包し、コンビニに持っていけば日本全国、さらには世界各地へとそんな『小包』を送ることができる今の時代。そんな『小包』を受け取ったことなどない、という人はいないと思います。私たちは手渡しという直接の手段を取らずとも、『宅配便』という手段によって『小包』を受け取ることができます。

    そんな『小包』は何かしらの目的をもって送られたものです。もちろん、今の世では通販によって自分が注文したモノを自分で受け取るという場合も多いでしょう。しかし、そうではなく、あなた以外の誰かが、あなたのために送ったものもあるはずです。そんな『小包』の中には、その人があなたのことを思い、あなたのことを考えながら、心をそんなモノに託すかのように『小包』として送る、そんな行為の先にあなたの手元に届いた『小包』だってあるはずです。

    この作品は、『宅配便です』と『小包』を受け取る主人公たちの物語。『こんなの東京にも売っている』と思いながらも中味を楽しみに取り出していく主人公たちの物語。そしてそれは、そんな一見『ダサい』モノたちの詰まる『小包』の向こうに、それを送ってくれた人の心を感じる物語です。
    
    『ついに一人暮らしがはじまる。ここ東京で』と、『高円寺の駅の前に、大きなスーツケースと一緒に降り立った』のはこの短編の主人公・吉川美羽(よしかわ みう)。そんな美羽は、『三月に上京して一ヶ月ほど』『五つ年上の兄』の章の元に居候させてもらっていました。しかし、『兄妹が一緒に住むなんて、キモい』と言われ、住みたいと以前から思ってきた高円寺にアパートを見つけました。そして、不動産屋で鍵をもらい、『これが自由の証。親と何度もケンカし、さんざん母に泣かれて手に入れたもの』と思いながらアパートへと向かう美羽は、『母は「地元岩手第一主義」の人だ』と盛岡に暮らす母のことを思い浮かべます。『東京のようなあんなごちゃごちゃしたところ…』と、東京に行くことを嫌っていた母親が引き止める中、兄の援護もあって東京の大学へと進学できた美羽。そんな母親は、入学式の日に上京してきました。『とにかく、二年だからね。二年経ったら、絶対にうちに帰ってくるのよ』と言う母親に『はいはい』と『適当に返事を』する美羽は、『絶対に岩手には帰らない』と改めて思います。そして始まった東京での一人暮らし。しかし、『まだ顔見知り以上の人』ができない状況が続く美羽。そんな中、『美枝子があなたに会いたいんだって』と、母親の友達が美羽に『入学祝いを渡したい』と言っていることを伝えられます。そして、美枝子に会った美羽は、『東京に来る時はケンカばっかり』だったという母親との確執を話題にします。『母は岩手大好きですもん』と言う美羽に、『なにそれ。小百合こそ、昔は東京大好きだったのに』と母親の過去を語る美枝子に驚きを隠せない美羽。そして、自宅アパートへと戻ってきた美羽は、『家のインターフォンが鳴った』のに気づきます。『吉川さん?宅配便です』と『大きな段ボール箱』を受け取った美羽。急いで箱を開けると、『最初に目に入ってきたのは地元の新聞「岩手日報」』でした…』と続く最初の短編〈上京物語〉。「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」という書名がプラスの感情をうたったものであることがよく分かるほっこりと気持ちが温かくなるような好編でした。
    
    六つの短編が連作短編の形式をとるこの作品。うち二つの短編に人物的な繋がりはありますが基本的にはそれぞれ異なる境遇に置かれた主人公たちのそれぞれの物語が紡がれていきます。そんな短編を連作短編としてまとめているのが、書名にもある『小包』です。六つの短編の主人公たちは物語の中でそれぞれに思いを寄せる人物から『小包』を受け取ります。そして、そのことが主人公たちに何らかの感情を生んで物語は進んでいきます。では、そんな六つの短編を 主人公と共に簡単にご紹介しましょう。

    ・〈上京物語〉: 吉川美羽、大学生。盛岡を後にし東京で一人暮らしを始めた美羽は、『これでやっと本当の何かが始まる』と感じる中に慣れない生活をスタートさせます。そんな中、上京に反対した母親から『小包』を受け取ります。

    ・〈ママはキャリアウーマン〉: 新井莉奈、専業主婦。夫の転勤でOLを辞め北海道へと移り住み『家にいられるだけで幸せ』と思う莉奈は、キャリアウーマンとして働く母親から就職を急かされます。そんな母親から『小包』が届きます。

    ・〈擬似家族〉: 石井愛華、会社員。『群馬のありんこ』から通販で群馬の野菜などを『小包』で受け取る愛華は、野々村幸多に両親に会って欲しいと言われ戸惑います。幸多を理想の男性と思うも彼に隠し続ける”ある事”に思い悩みます。

    ・〈お母さんの小包、お作りします〉: 都築さとみ、家業手伝い。『二十代後半の五年』を『男に費やし』、歳月と金を失って故郷へと戻ったさとみ。実家の母親が始めた仕事を手伝い、『小包』を送る日々の中で何かを掴んでいきます。

    ・〈北の国から〉: 内藤拓也、会社員。父が亡くなり『自分は天涯孤独の身の上になった』と、広島の実家をどうするか考える拓也は、父のアドレス帳に名のない槇恵子という北海道の女性から『小包』が毎年届いていたことに気づきます。

    ・〈最後の小包〉: 後藤弓香、会社員。『容態が急変した』という連絡を母親の再婚相手から受けた弓香は大阪から千葉へと向かいます。再婚相手をよく思わない弓香。そんな弓香が『小包』を受け取ります。

    六つの短編で『小包』の送り手とその中味、そして届くタイミングは、それぞれに異なります。しかし、そのそれぞれの『小包』は絶妙に物語を彩っていきます。『SNSで大学生らしき女性の「オカンから送られてきた小包が超ダサいから見て」という投稿を見た』ことがきっかけでこの作品を書いたとおっしゃる原田ひ香さん。そんな原田さんは『小包には米、地方の菓子、肌着などが詰め込まれており「40年ほど前、祖母から母へ送られてきた小包と中身が変わらないことに驚いた」』と続けられます。自分宛の『小包』を受け取ったことなどない、という方はいないはずです。またその一方で『小包』を誰かに送ったことがあるという方も多々いらっしゃると思います。しかし、その中味、そして『小包』を送る目的というものは千差万別です。この作品で主人公の元に届いた『小包』を送る主となるのは例えば一編目、二編目では、実の母親です。一人上京した娘のことを思い、もしくは遠くへ引っ越した娘のことを思い、『小包』を送る母親の気持ちというものには、娘のことを思いやる優しい眼差しが垣間見える、これは小説以前の自然な感情だと思います。そんな親しい関係性の中に下手な飾り気は不要です。親が子供のことを思い、『小包』に詰めていくモノたち。娘がリクエストしたものでない限り、それらは親の一方的な思いです。飾り気のないそれら箱の中味は、予期せぬものでもあると思います。「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」という書名のこの作品。『ダサい』という言葉は間違いなくマイナスの表現に属します。『ダサい』と言われて喜ぶ人などいないでしょう。しかし、母親からの愛情の詰まった『小包』をマイナスの感情で捉える人などいないはずです。そう、一見マイナスで表現される感情が実は嬉しい感情の裏返しということがこの物語には絶妙な温度感で描かれていました。それは、それぞれに描かれるすべての短編に共通したものです。『ダサい』からこそ温かい、『ダサい』からこそホッとする。その『小包』をそれぞれの思いを込めて梱包してくれた人の姿が『小包』に浮かび上がるその瞬間。六つの短編は、それぞれにそんな人の温かい心の有りようを伝えてくれたように思いました。

    『今度、小包でなんか食べるものを送ってあげるから、ちゃんと自炊して食べなさい』。親にとって子供とは幾つになっても心配の種であり続けます。今の時代、お金があれば飲食に困ることなどないはずです。しかし、それでも敢えて『小包』で送るという行為は決してなくなりません。それは、そんな親が『小包』に入れるモノを通じて、間接的にでも離れた場所にいる子供と繋がろう、自分の手で用意したモノのその先に、子供の健康を守りたい、そんな親の深い愛情の結晶が『小包』という形で現れているのかもしれません。

    『小包』というものに送り主の深い愛情がこめられていることを強く感じさせてくれたこの作品。この作品を読んで『小包』というものが持つ深い意味合いを改めて考えるきっかけとなりました。そう、読む前に書名から受けたマイナスな印象が、読後全く別物に感じられるようになった、そんな人の優しさに触れることのできた作品でした。

  • 短編集と知らずに読み始めました。なので、二話目が始まった時、全く別の話で拍子抜けしてしまいました。もっと先が読みたかったな、もっと登場人物の深いところまで読みたかったな、と。
    でも、話が変わる度に全く別人の主人公でありながら、主人公の抱えているものや環境が複雑になっていって、まるで同じ主人公がどんどん成長していっているような錯覚を起こしました。
    どのお話も親子の気持ちのすれ違いが描かれています。親の気持ちも子の気持ちも理解できて、だけど親子だからこそ捻くれてしまって素直になれないのも分かって‥‥あー、原田ひ香さん、うまいなぁと思ってしまいました。
    今朝、見た朝ドラの『カムカムエヴリバディ』が、ちょうど失恋しそうな娘に寄り添う母のシーンで、この本の影響もあってかなんだか泣けてしまった。
    母親からの小包はなぜこんなにダサいのか?それは親の愛情が、そもそもがダサいものだからなのである‥‥と思いました。

  •  「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」まさに、娘に言われているようなショッキングなタイトルです(汗)。

     しかも、心当たりがちらほらあったり…そして、母から送ってもらった小包をありがたいと思いながらも、どうしてこんなものまで…と思ってみたり!受け取る側の子どもと送る側の親の気持ち…今の私には両方わかるので、共感できました。

     皆さんがレビューしている通り、最終話の「最後の小包」にはじーんとしてしまいましたね!母は自分のことより子どものことなんですよね…。それは子どもがある程度成長しても変わらない思い…ダサい小包は、愛情のあかしです、よね!

    ※昨日、ブクログベストユーザーアワード2023が発表となってびっくり( ゚Д゚)!
    何かの間違え??と思い、何度も何度も見直しましたが…やっぱり、間違えなんじゃ…と!今日になっても信じられません(汗)。マジですか??って思いが強いです。私なんかでいいの?と恐縮してしまいますが、嬉しい気持ちもあります!ブクログを始めてから、より読書をすることが楽しみになったし、今までは手を出すことのなかったジャンルの本を読んでみるきっかけができたりしています。これからも、マイペースで読みたい本を読んでいきたいと思っています。そして、私の拙いレビューを読んでくださる方、いいねをしてくださる方、私の本棚に興味を持ってくださった方、皆さんに感謝します。読書を通じての皆さんとの交流もまた楽しみに、これからもブクログ続けていきますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

    • ちゃたさん
      かなさん、こんばんは。
      silver受賞おめでとうございます。これからもレビュー楽しみにしていますねっ!
      本書も前から気になっていていました...
      かなさん、こんばんは。
      silver受賞おめでとうございます。これからもレビュー楽しみにしていますねっ!
      本書も前から気になっていていましたので読んでみようと思います。
      ダイエットしてるときに限って美味しそうなものばかり詰めてくれる母の小包を思い出しました(もう笑うしかない)。
      2024/01/31
    • かなさん
      1Q84O1さん、おはようございます。
      そうですよ…何せ、隠れ乙女認定者なんですから(^O^)/
      って、認定したのは、私だけか(^-^;...
      1Q84O1さん、おはようございます。
      そうですよ…何せ、隠れ乙女認定者なんですから(^O^)/
      って、認定したのは、私だけか(^-^;
      でも、あとから思うと、ダサい小包だけど
      あったかい思いが伝わってくるんですよね♪

      1Q84O1さんの本棚には私が読んでいないけど
      読みたい作品もいっぱいあるんで、
      これからも期待していますよ♪
      おすすめの作品もぼちぼち読んでいきますね(*'▽')
      2024/02/01
    • かなさん
      ちゃたさん、おはようございます!
      まだ、嘘みたいと思っていますが(^-^;
      でもとっても嬉しいです!
      ありがとうございます。

      そ...
      ちゃたさん、おはようございます!
      まだ、嘘みたいと思っていますが(^-^;
      でもとっても嬉しいです!
      ありがとうございます。

      そう、私も娘に甘いものばかり送ったことがあるんです…。
      こんなにたくさん送られても、
      身体に悪そうだし、正直困る…と(-_-;)
      原田ひ香さんの作品は、何作品か読んでいるけれど
      この作品は特に読みやすいし、面白いのでお勧めします。
      最終話は泣けちゃいます…!
      ちゃたさんのレビュー、楽しみにしていますね(*'▽')
      2024/02/01
  • いつも前情報をいれないで読み始めるので
    連作短編かな?と思いながら読んでいたら
    普通に短編集でした
    (少し連作になってるものもありました)


    普通に楽しめましたが
    やはり長編が好きです。笑


    本作は母親からの小包が出てくる短編からなっています。
    どの話の親子関係も様々で
    読んでいて面白かったです


    自分も母親であり、
    娘でもあり、
    自分の親子関係をいろいろ考えさせられました


    特に自分の母親とはあまり関係がよくないのですが
    作中の

    「あんなに大きな声を出して
    反抗できる人他にいる?
    俺にだってあんなこと言わないでしょ
    たぶん唯一の存在なんだと思うよ」

    という台詞にはハッとさせられ
    何度も読み返してしまいました

  • まずタイトルにギクっとなり、胸をグサリと一突きされた気分。
    これって未来の私を予言しているのでは…とヒヤリ。

    実家から送られてくる小包。
    地域色満載のモノから、こんなのどこにだって売れてるでしょ、と思わずツッコミたくなるモノまで、実に様々なモノが小さな箱の中には詰まっている。
    時には、ひとり暮らしなんだから賞味期限の短いモノをこんなに沢山送ってこないでよ、ったく…などと文句を言ったりして。なんて罰当たりなんでしょう。
    などと他人事のように言う私も勿論その一人。
    ”小包”という、子を思う親の真心をめぐる歴史は、この先もきっと繰り返されていくのだろう。
    親の有難みを改めて思い知ることのできる短編集だった。

    第1話『上京物語』、第六話『最後の小包』が特に好き。

  • あーー、共感しかない!!笑
    母と娘の関係って、どこまでも普遍的なんだなあとちょっと安心した。私だけじゃなかった!笑

    ウザい、ダサいと思える母の存在は、実はありがたいんだなと思った。全部母なりの愛情なのである。
    普段は意地を張ってしまって絶対に素直に言えない言葉だけど、こっそりとここに綴っておく。
    いつまででも母であり、いつまででも娘なんだなと。

    そして、「田舎あるある」もたくさんあってちょっと笑った。
    玄関先にいつの間にか置かれているご近所の方からの野菜。
    地元にずっといる見た目ヤンキーの同級生。
    それらにある、強く固い結束力。
    ……わかるわぁ。笑

    「上京物語」「キャリアウーマンのママ」は私も似たような経験をしてて、本当に深く共感した。
    最後の「最後の小包」は、思わずぐっときた。

    母親は、いつまででもどこまででもやっぱり母親なのだ。


    こんなふざけたようなタイトルなのに、いい意味で裏切られた。良書。おすすめです。

  • 【書評】『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』離れていた心をつなぐ“モノ”が詰まった6つの贈り物ストーリー | LEE
    https://lee.hpplus.jp/column/2110904/

    「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」 原田ひ香(はらだ・ひか)さん:北海道新聞 どうしん電子版
    https://www.hokkaido-np.co.jp/sp/article/619533?rct=s_books

    母親からの小包はなぜこんなにダサいのか|単行本|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/tanko/2021/09/005464.html

  • 母親からのダサい小包をもらった記憶がない。
    そんな関係が持てる事、うらやましい。

    この本を読んでいる最中に
    10歳の娘が
    「ママ、大好きだよ」
    というので、ママもだよと伝えた。
    「今言ったのは大きくなったら言えなくなるかもだから」
    との事。かわいいなあ。
    娘が大きくなって遠くに行くことになったら
    「ママの小包はダサいんだよ」って笑ってほしい。

  • 母親からの小包のお話。時々ウルウルっときました。
    母親の気持ちもよくわかるし娘は息子たちの気持ちもわかりあっという間に読めちゃいました。

  • 短編小説。それぞれの話にそれぞれダサい小包が届く。タイトルからほんわかした話かと思いましたが、母親との確執など、辛い部分も多くありました。母親というのは有り難くもあり面倒臭くもあり、足枷でもありますね。娘と母親の関係って難しい。
    「最後の小包」が1番印象的で泣けました。

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著者プロフィール

1970年神奈川県生まれ。2005年『リトルプリンセス2号』で、第34回「NHK創作ラジオドラマ大賞」を受賞。07年『はじまらないティータイム』で、第31回「すばる文学賞」受賞。他の著書に、『母親ウエスタン』『復讐屋成海慶介の事件簿』『ラジオ・ガガガ』『幸福レシピ』『一橋桐子(76)の犯罪日記』『ランチ酒』「三人屋」シリーズ等がある。

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