世界は広島をどう理解しているか-原爆七五年の五五か国・地域の報道 (単行本)
- 中央公論新社 (2021年7月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120054525
作品紹介・あらすじ
何百万もの人命を救った救世主なのか、無差別に市民を殺戮した戦争犯罪なのか。五大陸、一九四紙――。広島への原爆投下をめぐる報道を精緻に分析。今なお認識・評価が対立する前例のない惨劇を世界のメディアはどう伝えているのか。
【目次】
はじめに(井上泰浩)
1章)救いなのか、大虐殺なのか――世界の原爆史観(井上泰浩)
*コラム 三人の女性被爆者――世界に届いたメッセージ
2章)アメリカ――ニューヨーク・タイムズと原爆神話の変化、根づいた人命救済(井上泰浩)
3章)イギリス、カナダ、オーストラリア――世論転換と「敵国日本」の記憶(井上泰浩)
4章)フランス――核抑止力と核兵器廃絶のはざまで(大場静枝)
5章)ドイツ、オーストリア、スイス(ドイツ語圏)――記憶の政治と原爆・原発の類似性(ウルリケ・ヴェール)
6章)スペインの回想と糾弾報道、イタリアの忘却(ハヴィエル・サウラス)
7章)中国、台湾、香港――世論と政府の核政策の反映(藤原優美)
8章)韓国――「封じ込め」対「共通の安全」における原爆史観(金栄鎬)
9章)ラテンアメリカ――非核地帯化構想と批判的報道(吉江貴文)
10章)中東アラブ――〈現代の広島〉における関心と苛立ち(田浪亜央江)
11章)ロシア、北欧、アジア、アフリカ(井上泰浩)
12章)原爆報道にみる「核のタブー」(武田悠)
13章)核兵器禁止条約と人道的・段階的アプローチ――「核被災の語り」が拓く人新世の未来(太田育子)
資料 世界の原爆報道一覧
編著者、執筆者略歴
あとがき
感想・レビュー・書評
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319.8||In
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東2法経図・6F開架:319.8A/I57s//K
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55か国・地域主要紙の2020年8月の原爆報道を分析。米であっても原爆正当化論一色ではないことが分かるが、全体として「分析」には至らず紹介に留まっている章が多い。一国内でも分断されていたり無関心だったりで、一般化できないのだろう。日本での原爆論は多様、ともあるが、それでも核兵器は悪とする共通認識があるように思う。他国の多くではそれ以上に多様なようだ。
そんな中、1966年の水爆落下事案を記憶する西や、対イラク制裁に起因する死者数や劣化ウラン弾被害と原爆を結びつける中東の報道が目新しかった。
各国報道を元に「核のタブー」論を論じる章では、核兵器への忌避感という共通点を見出そうとしている。それ自体はそうだとしても、では核兵器禁止へ、ともならないのではないか。できれば忌避すべきだか必要悪、ということもあり得るからだ。 -
広島長崎75周年へ各国新聞の報道のまとめ
平均年齢83歳の被爆者13万6682人が今も生きている。
史上3つ目の原爆
1966年 南スペインのパロマレス上空でB52と給油機KC135が空中衝突。
広島長崎の75倍の弾頭を4発、2発が落下爆発、1発は海底へ。
ソヴィエトにとって
日本へ宣戦布告したため、原爆によって降伏したとされるのは都合が悪い
アメリカにとって
ソヴィエトの参戦で、勝利の役割を果たし、中国と日本を支配させたくなかった -
『#世界は広島をどう理解しているか 原爆75年の55か国・地域の報道』
ほぼ日書評 Day458
副題にある通り、ヒロシマから75年を数える2020年8月、様々な国々(「地域」も国と考える)で、いかに報道されたかを、具体的な記事文面レベルまで落とし込んで分析した一冊。
米中韓あたりまではニュース等で見かけることも多いが、他の西欧諸国やアジアの国々、さらにはラテンアメリカや中東、アフリカで、ヒロシマ・ナガサキや原子爆弾はどこまで話題に上るのか? あくまでも個人的感想だが、75年という時を経て、さらにはCOVID-19という未曾有の危機を経験する中、ここまで多くの文字数が費やされたことには驚きを禁じ得ない。
まずは米国。原爆投下の当事者においては「終戦を早め、幾千もの命を救った」という「原爆神話」の論調は基本的に変わっていないという。
にしても「原爆」を "salvation" と表現する…のは、ショックだった。キリスト教では、罪からの救済・贖いを意味する言葉である。
自身が核保有国たるフランスでは、関連報道にかなりの紙面が割かれたが、いまひとつツッコミに欠けるイメージ。むしろ、強く感じたのは新聞という媒体の地位低下の激しさ。仏を代表する全国紙『Le Monde(ルモンド)』の発行部数は僅か40万しかない(朝日新聞の公称販売部数は475万である)。さらにドイツの高級紙は7万部である。
欧州随一の反原発国はスペイン。ゲルニカに見られる激しい地上戦の記憶に加えて、地方都市パロマレスで、米爆撃機B-52と空中給油機の衝突墜落事故で計4個の水爆落下(うち1個は海中)事故を経験したこともあり、完全に原爆=悪な論調だという。
普段は日本のことが記事になることの少ないラテンアメリカの国々でも、ヒロシマ・原爆の記事は多数掲載された。(共著者の専門言語の関係で日系移民の多いブラジルは含まないということで、やや意外だが)米国の裏庭とも称される同地域では、核戦争は我々が想像するよりも、相当に身近なものであることに加え、多くの政変や武力抗争を経験したが故にいわば地獄絵図から立ち直った被爆地の経験は一条の希望の光となるからという論説が加えられている。
さらに日常的に戦闘行為が行われ、イラク戦争では劣化ウラン弾も用いられた中東地域においては、核兵器の使用はこの傾向はさらに身近な問題と認識され、ヒロシマ・原爆という過去の出来事というよりもむしろ、イランとイスラエル間のダブルスタンダードという現代の問題と紐付けて語られる傾向が強いという。
日本を含む多くの先進国が未参加の「核兵器禁止条約(TPNW)」に変わる、国際的抑止の枠組みの早期確立が待たれるところである。
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原爆投下から七五年。広島を襲った惨劇を伝える二〇二〇年夏の各国の主要紙の論調を比較検証。海外メディアの広島認識の現在を読む。