- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120053504
作品紹介・あらすじ
戦争に向かう時代にあの美しい世界がなぜ生まれたのか。
芦屋、神戸、船場……蒔岡四姉妹が生きた風景が練達の筆に甦る
目次より
一 女が育てた阪神間文化
二 船場という共同体
三 モダン都市大阪の活気のなかで
四 阪神間の文化と神戸
五 モダン都市神戸と谷崎の夢
六 神戸で映画を楽しむ蒔岡姉妹
七 モダンガール四女、妙子
八 妙子の挫折と受難
九 「芸術写真」を志した板倉
十 外国人との交流と別れ
十一 東京での鶴子一家の暮らし
十二 芦屋と東京を行き来する雪子
十三 縁結びの美容師・井谷
十四 阪神大水害
十五 愛敬者、お春どんの明るさ
十六 美しき桜と蛍と雪子
十七 迫り来る戦争の影
十八 病気小説としての『細雪』
終章 戦争への道
感想・レビュー・書評
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「細雪」ファン (…という人数が、どのくらいいるか分かりませんが。東京ドームくらい埋まるのかしら…) にとっては、垂涎の一冊。
川本三郎さんらしい(あんまり読んだことないからこういう言い方は非常に失礼)、抽象的なゲージュツ論ではなく、「細雪」の具体を訪ね歩く定年間際の老刑事のようなまなざし。
「細雪」と「その時代」が、立体型クリスマスカードを開いたかのように三次元に立ち上がってくる、その興奮とわくわく感。読書の快楽。
やっぱり映画版では1983年版市川崑監督作がイチオシなんです。やっぱりアレは、映画の作り手(市川崑)が確実に「谷崎フェチ」なんですよね。ただ、そうなんだけど作家として決して負けてない、奇跡のような映画。是非あれを見てから読んでもらえれば、挫折しないかと。
高峰秀子主演の1950年版も悪くないんですが、「原作への身をよじるような愛情」は、感じられないんです。それがなければ、主役を四女の妙子に据えて、妙子の闘いの物語に改変してしまうなんて、確かに2時間で終わらなければならない映画としては頷ける改変である訳です。
それはさておき。細雪が(旧字で)再読したくなる。関西に行きたくなる。こんな一冊に新刊で巡り合うようなことは、人生もう無いのでは。多謝。 -
お春どんをコメディリリーフとして取り上げたり、細雪を病気小説として読んだりと、視点が多角的でなかなか面白かった。
関東出身の筆者ならではのやり方だと思うが、当時の阪神の事情について様々の文献を引用して考察しているのもよかった。
概して、細雪は単純なようでいて実は複雑な物語であることがよく分かる。
ただし筆者の妙子びいきと雪子嫌いがひどく、そのために取りこぼしている要素もある。
書評とは主観的なものだから致し方ないが。
一番興味深いのは、谷崎が社会情勢にある程度の関心を寄せつつ、日常を大切にする人だったという話で、これが許せない読者も多くいるのだろうが、私は大人になった今、この姿勢の立派さもよくわかる。
だからこそ細雪に惹かれるのであろう。
これが多感な学生時代に読んでいたら、憤慨していたかもしれない。 -
戦争に向かう時代にあの美しい世界がなぜ生まれたのか。芦屋、神戸、船場……蒔岡四姉妹が生きた風景が練達の筆に甦る
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過去の出来事を振り返る時、それは今の立ち位置から振り返るのであって、その時その場所で見えた景色はおそらくその振り返りとは全然違う。自分自身の経験でもそうだろうし、また、他の人が見たところからのことだとすると、想像することすら厳しすぎる。
『細雪』の時と場所はそういうものではなかったか、その本編を読んだ後で、本書を読み進みながら、またイメージを作り出していた。
明日の事はわからず、人々の暮らしは続いていく。 -
最初は丁寧に読んでいたのだが、図書館の返却期限が迫り
中盤以降は、かなりいい加減で読了。
「細雪」は暗唱できる部分もあるくらい、好き。
それだけに、著者の語るところに、納得できず、
途中で投げたきらいも・・・
当時の地図や写真など、資料が豊富で、
それだけで興奮したものの・・・
見方の違いは大きすぎて、いかんともしがたし。 -
・初出は『中央公論』2006年4月~2007年6月。書き下ろしで4章分が追加されている。「文芸評論の楽しさとは、大きな論を語るより、細かい註をつけてゆく」ことではないか、と考える著者なりの『細雪』私註というべき一冊。物語の同時代を描いた小説や当時の回想や日記といった資料がふんだんに用いられ、『細雪』の作品世界が生き生きと浮かび上がる。いくつか挿入されている作中の地図もありがたい。
・筆者の記述からは、『細雪』の脇役たちの重要性を教えられた気がする。本家の辰雄と鶴子、写真師の板倉、美容師の井谷、洋裁学校の玉置、亡命ロシア人のキリレンコ、そして女中のお春。こうした脇役たちの個性がしっかりと描き込まれることが、『細雪』の作品世界に重厚さと奥行きをもたらしている。と同時に、辰雄と妙子を除く蒔岡家の人間たちの鼻持ちならない特権意識というか、階級意識の限界もあらわになっている。著者はたびたび、作中で妙子が受ける仕打ちに憤っているが、そう考えてみれば『細雪』とは、阪神間の中産階級からみた『ブルジョアジーの秘かな愉しみ』だった、と言えるのかも知れない。 -
年齢とともに読書量が減っても,谷崎好き,細雪好きの私
はこういう本が出ると読まざるを得ないというか,読みたくなる.
著者の本を読むのは映画の本ばかり読んでいた30年くらい前以来久しぶり.
本のジャンルとしては文芸評論だろうか.しかし専門性は高くなくて,細雪のファンの人は楽しくするする読めるだろう.
そもそも細雪を好きな人は小説に派手なストーリーを求めているわけではなくて,登場人物や時々おこる小事件やイヴェントのディテールを愛でているところがあるわけで,そういう意味で,登場人物,色々な出来事をじっくり眺めるこの本は楽しくないはずがない.
著者の妙子好きは,なんだかもっともだなと思う.反動気味の私は幸子が好きでそこは好みが合わない(笑).
こういう小説は繰り返し読んでこそおもしろいし,何度読んでも飽きない.この本の著者にもシンパシーを感じどおしであった. -
荷風ほか多くの作家の生きた時代の作品と背景を評してきた川本三郎。今回のテーマは谷崎潤一郎「細雪」。東京出身者がどう関西を評するか注目。
永井荷風、向田邦子、林芙美子など作家の足跡をたどる筆者の能力が好きである。今回、氏が選んだテーマはあの「細雪」(連体詞を使えるぐらい有名だろう)。
関西には土地勘がない自分、筆者も同様で執筆しながら不安だったようである。
細雪の舞台は、長女を除き蒔岡姉妹の住む芦屋。昭和10年代の神戸、大阪と時に長女が移住する東京の渋谷界隈が描かれる。
後世の人間からはこの時代。忍び寄る戦争の影、谷崎潤一郎は時勢にそぐわないと連載を中止されたこの細雪を公表のあてもなぬ戦中に執筆し続ける。作家の脳中の美的世界。本書は登場人物のモデルとなったてをあろう人物を当時の時代背景から語っていく。
筆者としては映画臭が少なめ。名作「細雪」の脚注的な位置付けとした屈指の作品でしょう。「細雪」を再読しなくては。