中野京子の西洋奇譚 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120053306

作品紹介・あらすじ

箒にまたがり飛翔する魔女、笛吹き男に連れられ姿を消したハーメルンの子供たち、暗殺された二人の米大統領の驚愕すべき共通点、悪魔に憑かれたルーダンの修道女、冷戦下のソ連で学生達を襲った凄惨な未解決事件、蛙の雨、ドッペルゲンガー、犬の自殺橋etc.



事件や伝承に隠された、最も恐ろしい真実とは?

稀代の語り手中野京子が贈る、21の「怖い話」。




目次


ハーメルンの笛吹き男/マンドラゴラ/ジェヴォーダンの獣/幽霊城/さまよえるオランダ人/大海難事故/ゴーレム/ブロッケン山の魔女集会/蛙の雨/ドラキュラ/犬の自殺/ホワイトハウスの幽霊/エクソシスト/貴種流離譚/デンマークの白婦人/ドッペルゲンガー/コティングリー事件/十字路/斬られた首/ファウスト伝説/ディアトロフ事件

感想・レビュー・書評

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  • 西洋絵画を紹介しながらヨーロッパの歴史を解説してきた
    中野京子さんにしては珍しく、絵が少なめ
    お話し中心の本。

    もともと聞いたことのある「ハーメルンの笛吹き男」「ゴーレム」などのように、フィクションだかわからない話を詳しく解説してくれるのも面白かったけど、
    私は本当の話の方が好き。

    リンカーンとケネディの奇妙な一致点を扱った
    「ホワイトハウスの幽霊」や
    論理的思考のもとに数々の難事件を解決したコナンドイル(実際には小説内のホームズ)が請け負った
    「コティングリー事件」などが面白かったぁ。

  • 西洋の不思議な話や謎の出来事・・・ハーメルンの笛吹き男で
    始まり、ディアトロフ事件で終わる、全21話を語る、怖い話。
    ハーメルンの笛吹き男 マンドラゴラ ジェヴォーダンの獣
    幽霊城 さまよえるオランダ人 ドッペルゲンガー ゴーレム
    ブロッケン山の魔女集会 蛙の雨 ドラキュラ 犬の自殺
    ホワイトハウスの幽霊 エクソシスト 貴種流離譚
    デンマークの白婦人 大海難事故 コティングリー事件
    十字路 斬られた首 ファウスト伝説 ディアトロフ事件
    カラーとモノクロの画像、有り。
    不思議、謎、未解決な、おどろおどろしい西洋奇譚。
    ほとんどが知ってる話でしたが、簡潔な文章で著者の考察もあり、
    楽しく、サラッと読めました。奇譚入門書な感じ。
    全くの謎から、人為的何かを感じられる話まで、様々。
    西洋という場の、歴史や宗教、土壌、文化や民俗、
    幽霊は日本との違いまで、語られていて面白かったです。
    リンカーンとケネディの不思議な類似は驚きだったし、
    貴種流離譚は、鉄仮面やカスパー・ハウザーの他にも
    あるのだなぁと、調べてみたくなりました。
    興味を持ったら、何れも研究書とかいろいろあるので、
    そちらにあたってみるのが良いですね。しかし、
    文中に書名は出てくるけど、まとまった参考文献が無いのが残念。

  • 西洋の不思議な話を集めたもの。21話からなる。

    ハーメルンの笛吹き男、消えた子供達が史実であったことは興味深い。本当になぜ、消えてしまったのだろう。グリム童話で読んだことがあるが、「人を騙してはいけない」という教訓を述べるものだと思っていた。もちろん、そういう側面も童話にはあるのだと思うのだけれど、史実であるなら、何故それが起こったのか、は知りたくなるもの。あしべゆうほが絵を描いている「悪魔の花嫁」にハーメルンの笛吹き男の話があった。ネズミに襲われるラストが怖くて怖くて、今でも絵が頭に浮かぶ。

    マンドラゴラ、子供はハリー・ポッターでマンドレイクと覚えていた。私は「エコエコアザラク」で覚えていた。うーん、時代の違い。犬が抜くことも知っていたけれど中野京子さんの「可哀そうなワンちゃん……。」には激しく同意。

    ブロッケン山の魔女集会、の章にはゴヤの絵「魔女たちの集会」、ファレロ「魔女の旅立ち」が紹介されている。どちらも素敵だが、より肉感的なファレロの絵は大丈夫なのかな、と思った。ともにスペイン人なので、異端審問とかの心配をしてしまう。ヴァルプルギスの夜、子供の頃、子供向けの「ファウスト」を読んだことがあったのだけれど、ヴァルプルギスの夜についての記述の記憶はない。

    蛙の雨、ファフロツキーズ、SEKAI NO OWARIの歌詞でこの言い方を知った。現象自体は知っていたが、蛙だけでなく、オタマジャクシ、魚もあったと思う。この章の始めに書かれている、子供の自殺に母親が手を貸してしまった事態のほうが、確率としては低すぎるくらいのように思う。

    犬の自殺、この話は初めて聞いた。犬が飛び降りたがる橋の話は聞いたことがあるのだが、まあ人を飛び降りたがらせる橋や駅や崖があるとしか、思えないようなことは聞いたことがあるので、さほど不思議には思わなかった。しかし獣医は人間相手の医者よりも5倍も自殺者が多い、というのは初めて聞いた話だった。

    ホワイトハウスの幽霊、この話も聞いたことがある。偶然の一致というのは凄いもので、数字の遊びみたいなものかもしれないけれど、確かにこんな偶然はなかなかないだろうなあ、とは思う。

    貴種流離譚、ディカプリオ主演の「仮面の男」も見に行ったし、遙か昔にデュマの「鉄仮面」も読んだことがあったので、その話だと思ったが、他にもいろいろ出てきたのが面白かった。アレクサンドル1世の話はとても面白い。日本でも明智光秀は生きていて天海になった、とか、源義経は生きていてジンギスカンになった、などがある。やはりそのような話はロマンがあるのだろうか。

    ディアトロフ事件、こちらも有名な話。実際に何が起きたのか、今は調べる術もなく、想像することしか出来ないけれど、こんなに想像を掻き立てる話もなかなかない。私は自然発生的なものだと思っている(雪崩や超低周波も自然発生だし)。人間は何でも出来るようになったかのように見えるが、まだまだ不可思議なことは残っているように感じる。

  • 著者を見て、美術と絡めた内容を期待していただけにちょっと残念…
    恐ろしさより、歴史の裏話としては面白い。

  • 人が奇譚を好むのは、本能ではないかと思う。科学や合理性で説明できない不思議な出来事は、危険への回避として、知っておきたいと思うからだ。そういう話は、細く長く語り継がれる。

    『中野京子の西洋奇譚』は、その名の通り、西洋の歴史や芸術に詳しい中野京子が、西洋の歴史奇譚を絵画などを交えながら紹介する随筆集。

    印象に残った話を、ここでいくつか取り上げよう。
    「ハーメルンの笛吹き男」
    時代:1284年
    場所:ドイツのハーメルン市
    内容:ネズミの大群を処理する代わりに、市から報酬をもらう約束をした男がいた。男はネズミを追い出すが、市は約束の金額を出し渋り、男を町から追い出す。その年の6月26日、男は再び現れ、130人の子どもたちを連れてどこかへ行ってしまった話。消えた子どもたちが戻ってくることはなかった。

    左が笛吹き男、真ん中下にハーメルン市、右上に笛を吹きながら子どもたちを山へ連れていく様子が描かれている。

    「マンドラゴラ」
    時代:紀元前14世紀頃〜
    場所:地中海沿岸から中国西部にかけて
    内容:マンドラゴラ(マンドレイク)は有毒植物。食べると死に至る場合がある一方、麻薬剤や鎮痛・鎮静剤としての効果もある。ハリーポッターにも登場している。鉢から引き抜くと、甲高く耳障りな悲鳴を上げる植物を覚えていらっしゃる方も多いのではないか。この悲鳴を聞くと悶え死ぬとも言われている・・・

    「ブロッケン山の魔女集団」
    時代:16世紀頃?
    場所:ドイツ中央部
    内容:年間平均260日は霧に包まれ、降雨量が多く、強風が吹き荒れる山、ブロッケン山。ここでは、山頂付近で、七色の光の輪の中に巨大な黒い妖怪が現れるという噂が立っていた。16世紀から17世紀にかけては魔女狩り最盛期。次第に、ブロッケン山の怪奇現象と、毎年4月30日の日没から5月1日未明にかけて、魔女たちが宴を催すという伝説の「ヴァルプルギスの夜(魔女の夜)」が結びつけられた。ゲーテの『ファウスト第一部』には、ファウストがブロッケン山のヴァルプルギスの宴に参加するシーンが描写されている。
    現在、怪異の謎はすでに解明され、「ブロッケン現象」という科学用語で説明されている。

    「ドラキュラ」
    時代:15世紀
    場所:ルーマニア
    内容:モデルは「ドラキュラ公」と呼ばれるワラキア公国の君主ヴラド3世(1431〜1476)とだが、その頃はまだドラキュラは吸血鬼と結びついていなかった。ヴラド3世は捕虜の死体を串刺しにする残酷な君主だった。作家ブラム・ストーカーが『吸血鬼ドラキュラ』を書くにあたり、吸血鬼とドラキュラを紐付けた。そしてドラキュラのイメージは映画化によって全世界に広まっていった。

    「貴種流離譚」
    時代:17世紀以降
    場所:世界中
    内容:「貴種流離譚」とは、「説話の一類型。若い神や英雄が他郷をさまよいさまざまな試練を克服し、その結果、神や尊い存在となったとするもの」(大辞林)で、民俗学者の折口信夫が命名した。17世紀後半のフランスでは、太陽王ルイ14世の指示で34年間幽閉されていたが、丁重に扱われ、衣食や楽器が与えられ、医師の診察も受けられたが、人前では仮面ないし絹のヴェールを強要されていた人物がいた。ルイ14生の双子の片割れ?異父兄?腹違いの兄?未だ謎に包まれたままである。
    1825年には、ロシアの皇帝アレクサンドロス1世が旅先で47歳で亡くなった。11年後、60歳くらいの不審な男が発見された。過去を覚えておらず、旅券もなし、背中には鞭で打たれた跡。シベリアに追放されたその老人は、豊富な知識と賢明さから周りの尊敬を集め、生前のアレクサンドロス1世のようにフランス語も話せた。皇帝を知っている兵士が一見したところ「皇帝で間違いない」とのことだったが、老人は、覚えていない、そっとしておいてほしい、と・・・。彼は死ぬまで自分がアレクサンドロス1世であることに肯定も否定もしなかった。
    1828年には、南ドイツでカスパー・ハウザーという名の少年が発見された。学者や医者や宗教家が研究し明らかにしたところによると、どうやら、長い間、地下牢に閉じ込められ、他人と接触せずに育った少年らしい。彼は、暗闇で物が見え、色も識別でき、鏡に映る像を実物と間違え、窓の外の風景を三次元と捉えられず、音や匂いに敏感だった。その後、支援者に引き取られ、教育を施され、知能は上がる。ある日、彼は何者かに襲われる。二度目の襲撃で、生命を落とす。実は、隣国のバーデン大公国では、カスパーと同じ年に生まれた赤ちゃんが夭折している。実は、誰かの命令で死んだ赤ちゃんとすり替えられ、育てられた少年がカスパーだったのでは・・・という説がある。権力争いに巻き込まれたわけだ。そして何か理由があって、カスパーを隣国に解き放たったのではないかと。

    「コティングリー事件」
    時代:1917年
    場所:イギリス北部
    内容:写真に映った妖精を、シャーロック・ホームズシリーズの生みの親、アーサー・コナン・ドイルが信じてしまった話。彼の父や叔父は妖精画家であり、また、純粋無垢な心をもっている者は妖精が見えると信じていたドイルは、子どもが撮った妖精の写真を「本物だ」と言い、1922年には『妖精物語 実在する妖精世界』という書物まで著している。この結末は、ぜひ本書を読んでほしい。なんとも微笑ましいエピソードである。

    「ディアトロフ事件」
    時代:1959年
    場所:ソ連(現ロシア)
    内容:正直、これが一番怖かった。まだ世の中の人々にとって記憶に新しい、猟奇的な事件である。2月1日、9人の男女大学生と30代の元軍人の計10人が、地元で「死に山」と呼ばれている山に一泊する(大学生1人は体調不良のため同行せず)。彼らと連絡が取れなくなったため、2月下旬に山に捜索隊が入る。そこで、空っぽだが内部から切り裂かれているテントが発見される。そして、数百メートルから一キロ半離れた先で次々と遺体が発見される。打撲、火傷、頭蓋骨骨折、放射能の被爆、舌がないなど、無惨な姿で・・・。この話はドニー・アイカーが『死に山』というタイトルで小説化し、2018年に邦訳されている。

    古くからある慣習や風俗、信仰、伝説など、その地域に住む者の間で伝承されていたものを集めた奇譚集は、平凡な日常を大いに刺激してくれることでしょう。

    p42
    日本人とイギリス人は幽霊好きで知られる。
    ただし日本では夏の風物詩(?)なのに、イギリスではもっぱら冬が幽霊の活動期だ。また自分用の住居が幽霊物件の場合も反応ははっきり異なり、積極的に購入したがる日本人は稀なのに、イギリスの場合、幽霊屋敷は-無関係な生者には祟らないと信じられているからか-評価ポイントが上がって価格も高くなるという。

    p58
    ルドルフ2世は政務には全く無関心で弟にまかせきり、結婚もせず、世継ぎをもつ気もなく、高等遊民として金にあかした道楽-芸術品収集とオカルト好み-を生涯追求した(さすがに晩年は蟄居させられるが)。プラハが「魔都」と呼ばれるようになったのも、ルドルフ2世が国内外からおおぜいの錬金術師、占星術師、魔術師、呪術師などを宮廷へ招聘して厚遇したからだ。

    p62
    日本とドイツの面積はほぼ同じだが、可住地は前者約30パーセントに対して、後者約70パーセント。ドイツがいかに平坦な国か、よくわかる。

    p66
    「ブロッケン現象」という科学用語ができるまで、人々はこれを「ブロッケンの妖怪」と呼んでいた。
    こうした怪異の発生するブロッケン山は、いつしか伝説の「ヴァルプルギスの夜」(またの名を「魔女の夜」)と結びついてゆく。4月30日の日没から5月1日未明にかけて、各地の魔女たちがブロッケン山に集まり、宴を催すというのだ。
    これはゲーテの『ファウスト第一部』(1808年)に生き生きと描写されたことで、一躍、世界中に知られるようになった。ファウストが悪魔メフィストフェレスの案内で、ブロッケン山のヴァルプルギスの宴に参加するというシーンだ。老若男女問わず(魔女には男もいる)、また貴賎も問わぬ魔女どもや妖精・妖怪・霊たちが集い、祭りはたけなわ。
    ファウストも浮かれて美しい娘と踊るが、途中で彼女の口から赤いネズミが飛び出し、すっかり興醒めするのだった。

  • 「ハーメルンの笛吹き男」や「エクソシスト」、「ディアトロフ遭難事件」など、ネットや書籍で散々触れているオカルティックなテーマが盛りだくさんだったので、私自身も「中野先生の文章で復習すっか!」みたいな軽い気持ちで読みましたが、モチーフとして描かれた絵画による彩り、同じ内容でも語り手が違うだけで初めて知る話のように興味深く感じられました。なかには今まで知らなかった情報も含まれていたりと、復習どころか、新鮮な気持ちでわくわくして読むことが出来ました

  • ふむ

  • 海の向こうの話は大前提が理解しにくいので、ピンと来ない話も多かったな。
    文字は追ってるのに、宗教の肌感がわかんないから全然理解できないやつばかり。魔女裁判とか意味わからんだろ、、、
    女の不気味さ(などとオジサンが仕立て上げて語ってきたと思われるもの)、とかは「コレを輸入しちゃったか、アチャー」という最悪な気持ちになる。

  • 「怖い絵」で有名な中野京子さんが西洋の伝承・伝説を解説する本。

    雑誌の連載をまとめたものらしく、一つ一つのトピックは短く読みやすい。最初の「ハーメルンの笛吹き男」がかなり詳細に語られていて感心したが、トピック毎の文量が結構違って読み進めるともう少し深く掘り下げて欲しいな…というようなものもあった。

    創作のネタになりそうなものを手軽にたくさん知れたのは大きかった。

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著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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