憂き夜に花を (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120053115

作品紹介・あらすじ

「飢饉に沈む人々に元気を与えたい」。

男たちの熱い想いがあの花火大会を生んだ。



時は享保。江戸の町は飢饉に沈み、失業者、果ては餓死者までが出る始末。為政者ですら救えないこの町を、文字通り明るく照らそうとする男がいた。花火師・六代目鍵屋弥兵衛。困った人を放っておけないこの男は、江戸中の人を放っておけなかった――!

弥兵衛は自らの小さな工場に仲間を集め、ある計画を練り始める。大川(のちの隅田川)で、将軍の号令のもとに行われる「水神祭」。その場に江戸中の人を集め、一世一代の大仕掛けを披露することであった。

感想・レビュー・書評

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  • 戦国物のアンソロジーでは読んだことがある作家さん。

    隅田川花火大会の始まり、享保の大飢饉を乗り越えて江戸の人々に元気をと花火屋〈鍵屋〉が祭りで花火を打ち上げようと奔走する話。

    御公儀御用達の花火屋とは言え、決して儲けは多くない。
    現代のコロナ禍と同じで、飢饉の下では花火のような娯楽は一番に削られてしまう。しかし周囲からは御公儀御用達というだけでさぞ儲けているのだろうという穿った目で見られる。
    食べるものがない、米が高くて買えない、疫病も流行り人がどんどん死んでゆく。そんな中で人々の心はすさみ、ついに打ち壊しが起こる。

    自身の商いもままならぬ中、何とか人々の心を前向きに変えたい、江戸の街を盛り上げたい。そんな気持ちで始めた花火祭りへの道。
    様々な障害を一つ一つクリアし、飢饉ならではの花火師とは関係のない人々の力も借りて、少しずつ進んで行く。

    話としては興味深い。
    打ち上げ花火の商売が屋形船の客相手のみ、しかも当時は屋形船を出せるのは武士のみというのも知らなかったし、火事の予防から町民向けの手持ち花火も出来る場所が限られているため一般的ではなかったことも初めて知った。
    現代のような民間企業のスポンサーによる花火大会というものはなかったのだ。
    御公儀も金がない、町民も金がない、でも花火を打ち上げるのは金がかかる。
    どうやって花火を打ち上げて祭りを盛り上げるのか。そこは興味深く読んだ。

    ただ全体的に語り口が淡々としていて、メリハリが欠けていたように感じた。
    普段は穏やかな話し方の主人公・弥兵衛が感情が高ぶると江戸弁になったり、花火師たちや仲間たちもそれなりに個性はあって良い人たちなのだが、いまひとつテンポや引き込まれる部分が少なかったのが残念。
    ただ花火祭りの歴史としては面白かった。

  • 火事と喧嘩は江戸の花。じゃあ花火は?

    「浮世→憂き世→憂き夜」と遊んでいるのが面白く、一目惚れで手に取った。

    非常時の状況は違えど娯楽、エンターテイメントが真っ先に憂き目に遭うのは変わらず。人が絶望に落ちたり自暴自棄になるのも嫌でも今と重なってしまう。余談の少ないシンプルな語りだからか、人々が放つ無気力オーラがよりストレートに伝わってくる。
    生きてく中で必要な無駄もある。何としてでもみんなを奮い立たせようと奮闘する弥兵衛達にこちらも熱くなる。

    「世の中妬むしかできねえような料簡で一丁前に語ってんな、このひょうろく玉が」
    今になってもお上への不平不満が周囲や街頭インタビューで聞こえてくる中、弥兵衛の叱咤と激励は自然と刺さってくる。

    大名へ直接売りに行き、下々の者はその「おこぼれ」を見物するのが元々の花火ビジネスってのが初耳!
    「かぎや」も花火屋の屋号ってことしか知らず、隅田川花火大会の発端から掛け声に込められた想いに至るまで知らないことだらけ。今は写真や動画があるけれどその頃は絵に残すくらいしか出来なかった。でも形では残らない分、人々の記憶にはくっきり残る。
    このドラマが美談と片付けられたらそれまでだけど、今も同じ憂き世だからこそ心に迫り身に沁みるものがあった。

    やっぱり江戸の花はもう一つある。
    それも他と引けを取らず生命力に溢れていた。

  • 橋の上 玉屋玉屋の声ばかり 
    なぜに鍵屋と いわぬ情なし
    ー江戸の狂歌
    のことぐらいしか
    知りませんでした

    その「鍵屋」さんが
    大川(隅田川)の花火大会の元祖に
    なっていく そのことを題材にして
    綴られた時代小説

    物語の進展もさることながら
    おそらく「花火師」への取材もかなり入念に
    されているであろう
    その「花火作り」の描写が
    とても興味深いものでした

  • 飢饉の折、うまくいかない商売を、どうにかできないかと、足掻く花火師の話。
    本人は、今日食べるご飯もない、という所からは少し離れている。その少しの余裕が、話に余白を与え、読みやすくしているのかもしれない。
    読後感もよく、胸の熱くなる、オススメの一冊。

  • 時は享保。飢饉に沈む江戸を明るく照らそうとする男がいた。花火師・鍵屋弥兵衛。彼の熱い思いが、あの花火大会を生んだ――。

  • 主人公の口調が変わり好き、冷静沈着な人ではない。

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著者プロフィール

吉川永青
一九六八年東京都生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。二〇一〇年「我が糸は誰を操る」で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞。同作は、『戯史三國志 我が糸は誰を操る』と改題し、翌年に刊行。一二年、『戯史三國志 我が槍は覇道の翼』で吉川英治文学新人賞候補。一五年、『誉れの赤』で吉川英治文学新人賞候補。一六年、『闘鬼 斎藤一』で野村胡堂文学賞受賞。近著に『新風記 日本創生録』『乱世を看取った男 山名豊国』などがある。

「2023年 『憂き夜に花を 花火師・六代目鍵屋弥兵衛』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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