流人道中記(上) (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120052620

作品紹介・あらすじ

読売新聞連載で感動の声、続出。
累計100万部突破「笑い」の『一路』に続く、「涙」の道中物語。

万延元年(1860年)。姦通の罪を犯したという旗本・青山玄蕃に、奉行所は青山家の所領安堵と引き替えに切腹を言い渡す。
だがこの男の答えは一つ。
「痛えからいやだ」。
玄蕃には蝦夷松前藩への流罪判決が下り、押送人に選ばれた一九歳の見習与力・石川乙次郎とともに、奥州街道を北へと歩む。
口も態度も悪いろくでなしの玄蕃だが、道中で行き会う抜き差しならぬ事情を抱えた人々は、その優しさに満ちた機転に救われてゆく。
この男、一体何者なのか。そして男が犯した本当の罪とは?

感想・レビュー・書評

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  • 明るい罪人と暗い役人の組み合わせが、凄く面白い……。

    流人道中記 上巻
    2020.03発行。字の大きさは…小。
    旗本3250石、新番組士の青山玄蕃を蝦夷福山へ町奉行所与力見習の石川乙次郎19才が押送する物語です。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    青山は、破廉恥罪で切腹を申し渡されたのであるが、腹を切るのは痛い、切らぬという。そこで寺社奉行、勘定奉行、町奉行が話し合い、蝦夷福山の松前伊豆守へお預けとなります。その押送を与力見習の石川と同心で行う事となるが、早々千住で同心が逃げ、青山と石川の2人旅となります。

    この物語は、宿場、宿場で繰り広げられる青山のユーモラスな大人としての対応に喝采を送りますが。石川は、私が役人で、青山は罪人なのに、誰も青山の家来ぐらいにしか見られません。このちぐはぐさが物語をより一層面白くしています。

    石川は、最下層の御家人の家の次男から、急遽200石の町方与力の家に婿に入りました。それもあり奉行所内では、誰も相手にしてくれません。そんなことを考えながら暗い顔で旅をしています。

    かたや青山は、どこから見ても大身旗本のお殿様です。じつに貫禄があり、人に対する対応も流石と言ったところです。本人は、少しも暗い所がありません、明るく旅を楽しんでいます。
    そして、伊達家62万石の城下町仙台へと入って来ました。いざ下巻へ。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    【読後】
    この物語は、押送役の石川と破廉恥罪で蝦夷へお預けとなる青山の組み合わせがいいです。随所に笑いが出てきます。青山が、人情を織り交ぜて宿場、宿場で物事を楽しく、明るく、大人の対応で人情味たっぷりに解決して行きます。面白いです。下巻がどういう展開になるのか、楽しみでなりません。もしかして蝦夷へ押送しないのか?と考えるくらいです。
    2021.06.21読了

    ※流人道中記<下> 2021.06.22読了
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/412005263X#

  • タイトル通り流人を送り届ける道中物語なのだが、その設定が面白い。

    まず流人の青山玄蕃は大変な家格と身分の者らしいのだが、ある『破廉恥』な罪を犯しておきながら切腹を拒んだため、お家取り潰しに加え本人は蝦夷福山松前伊豆守預かりとなった。
    しかし青山自身は全く神妙さも深刻さもなく、まるで物見遊山にでも行くかのように晴れ晴れとしている。

    一方の押送(護送)人の町奉行所見習い与力・石川乙次郎。元は御先手組同心の次男坊だったのが与力の家に婿養子に入るという破格の出世を果たす。しかし実態は婚家にも職場にも身の置き所がなく、とはいえ実家は『貧乏に食われた』家族ばかりで戻りたいとも思わない。唯一自分を慕ってくれる妻きぬは幼すぎて夫婦というより年の離れた妹のよう。

    この流人押送という仕事、大変厄介な仕事の割には軽く見られているようだ。つまり乙次郎は皆から疎まれているがために面倒なだけの押送人を押し付けられた形のようなのだ。とは言え務めを果たさなければ乙次郎はますます身の置き所がなくなる。
    更に上司からは、もし青山が逃げ出すようなことがあれば斬り捨てて良いと言われている。とても緊張感ある押送なのだ。

    押送は松前家の者が迎えに来るという津軽三厩までだが、それでも片道一月は掛かる。なのに流人の青山を押送するのは乙次郎だけ。いや本当はもう一人同心がいたのだが、早々に逃げ出した。
    つまり乙次郎はたった一人でこんな面倒な仕事を果たさなければならなくなったのだ。

    上巻は江戸出発から仙台国分町まで。
    旅が進むに連れて次第に乙次郎の鬱屈の詳細が分かっていく。同時に青山が予想以上に大変な身分の者だったのではないかということも見えてくる。

    そのため本来なら乙次郎が青山を引っ立て連れていく形で三厩まで行かなければならないのだが、何しろ江戸を出たことさえない乙次郎、まるで青山の家臣のように付き従い進むこともある。
    いかに罪人とは言え元は大変な身分の青山に見窄らしい旅はさせられないと奉行所から預かった多額の路銀に加え青山家から託された多額の小判もあり、思いも寄らない贅沢な旅になる。時に馬を使ったり、宿は上旅籠や脇本陣なんて贅沢なところを使うことも。

    こんな不自然な状況に加え、やたらと乙次郎の事情に突っ込んでくる青山に苛立つ乙次郎だったが、次第に肩の力が抜け素直になりつつあるようだ。

    旅の途中、お尋ね者の大泥棒にその幼なじみ、賞金稼ぎが一堂に会するという偶然に居合わせる。そこを誰もが納得するように且つ傷付けずに上手く捌く青山に感心する。乙次郎ならこうは行かない。
    しかしそれを見るに更に疑問が湧く。これ程の器量があり立ち居振舞いも殿様然とした立派な男が、何故『破廉恥』な罪を犯した上にお家取り潰しという取り返しの付かない事態にまでしてしまったのか。
    時は幕末、『桜田騒動(桜田門外の変?)』の後というから時世が関係しているのか。しかし今のところ時代の変化を思わせるような危険な兆候は行く先々の状況含めて無い。

    終盤の仙台では七年も宛の無い敵討ちの旅をしている武家の男に出会う。彼の姿に自分を重ねる乙次郎だが、この敵討ちに何か動きがありそうなところで下巻に続く。

  • 「諦念」「切なさ」「哀しみ」を体現した奥深い1冊の本に出逢うことができました。
    素晴らしい作品でした。

    主人公は、貧しく、訳ありの武士家庭に育った若者 石川乙次郎。頑張り屋で努力家ではあっても、自分の出自や貧しい品性や良識に負い目を感じています。
    彼は罪人を流刑先まで送り届ける役目を仰せつかります。

    その罪人がいい!
    密通の罪により、本来の切腹を拒否した品も格も備えた旗本 青山玄蕃。「武士たるもの」のはずが何者か?
    玄蕃の流刑先 蝦夷までの2人の道中、やり取りの中に光と温かさを感じます。

    この設定がこの上なく巧い!痺れます。

    訳あって生まれ育った実家と縁遠く、婿入りさきでの幼な妻の家で生きづらさや劣等感を感じてしまう乙次郎の気持ちが素直に吐露されます。
    正直に自分の気持ちを綴る妻への手紙文には思わず涙が零れます。

    「僕」という一人称を使い、幕末の激動の時代に自分は何者なのかという自問自答を品格のある玄蕃とのやり取りの中で、繰り返す乙次郎の言葉に私自身を重ねます。

    現実の日常は、現代も理不尽に満ちており、頑張っても、我慢しても報われないことの方が多いと、年齢を重ねると気づきます。すべてが思い通りになど、なりません。

    他人を制御も支配もできないし、越えられない壁はいくつもあり、どうにもしようのないこと、やるせないことは次々を道を塞ぎます。

    そんな世知辛い現実のなか、玄蕃が紡ぐ言葉が何とも救いに満ちています。

    「ほれみろ、何をそんなに考え込むのだ。しょせん考えてわかる話じゃあるめえ。それに、もっと肝心なことだが、あんたが思うほど他人はあんたを見ちゃいねえ。あんたの話も聞いちゃいねえ。ましてあんたの気性がどうだなんて、誰も考えちゃいねえよ」

    分相応、身の程という言葉が繰り返し使われますが、温かみを感じます。
    何者かになりたくて、承認を求め「いいね」「そうだね」に奔走する時間よりも、身の程を大切にすることの意義。
    誰かと比べ卑屈になってみたり、他人や周囲からの承認評価という不確かなものに依存しすぎたりは、SNSでも花盛り。

    道中出逢う人々との出来事ややり取りの中にも1つ1つの物語が盛り込まれ、生きる醍醐味に触れた気がします。
    冒頭20頁までは辛抱ですが、我慢してよかった! 下巻も続きます。

  • 面白かった。まだ上巻ですが。下巻がとても楽しみです。姦通した旗本青山に、お家の安堵と引き換えに切腹を言い渡したものの、青山は拒否。ごてた末に、お家は断絶、三厩(みんまや)へ流罪。その押送人を申し付けられた19歳の与力石川乙次郎。非常に魅力的なお殿様”青山玄玄蕃”と、真面目に頑張りすぎる乙次郎の道中記。途中、賞金首や仇討ちなどのイベントと行き合わせてしまう、引のいい設定。上巻では、玄蕃の罪の経緯は全く語られることはないが、玄蕃という武士の持つ魅力と姦通罪&「痛えから嫌だ」という切腹拒否の理由が大変そぐわず、違和感でしかないので、裏になにがしの事情があるという事がモロわかり。自分に「僕」という人称を使う乙次郎と、黒船がすでに来航している時代設定、とても興味を持っていかれる。個人的には按摩の件がとても好きだ。メンタルにもフィジカルにも解されていく乙次郎の描写がとても良い。とにかく、途中で玄蕃を切るべきか切らざるべきか、と悶々とする姿。これは地獄です。忖度の難しさと怖さがしんしんと背中を冷やします。

  • 江戸から津軽の三厩までの、流人の押送の旅。
    押送人と流人の道中は、謎と混迷、人情が溢れていた。
    石川乙次郎は、19歳の与力見習。
    初めての旅は二月、家族の顔を見なくてすむと思ったが、
    朱引きを越えた途端に、同心の弥五郎はトンずら。
    旅の最中も、婿入りした家のこと、生家、職場等のいろいろが
    取り付くように心に絡みつき、まんじりとも出来ない。
    押送される流人は、青山玄蕃。
    同じ武士でも、遥かに格高の新御番組だ・・・元。
    姦通罪での切腹を嫌がり、永年御預りとなっての流人だ。
    乙次郎には伝法口調と自己中な態度で苛立たせるが、
    実は、大身の貫禄のある人柄と品位を備えた人物だった。
    旅の途中での出来事では、人情溢れる行いを披露し、
    優しさや温かさ、慈しみをも感じられる。
    そして、少しずつ、乙次郎の心の凝りをも解していく・・・。
    主に乙次郎の語りときぬへの手紙、出来事の登場人物たちの
    語りが中心に、旅の物語が進行します。
    身も心もガチガチで、流人の押送自体が分からぬまま、
    旅を続ける乙次郎ですが、
    玄蕃の言葉や様々な人々との出会いや出来事が、
    彼の心に良い影響を与えていきます。
    彼の成長の旅でもありますね。
    だが、まだ旅の行程は半分も行っていません。現在、仙台。
    出来事の一つの仇討ちの決着はどうなるのか?
    まだ明らかになっていない玄蕃の事。
    時勢は桜田門外の変の後という政局の変動も、この旅に
    何らかの影響を与えそうな気もするし・・・。
    本当に面白い。下巻を読むのがこれほど楽しみになるとは。

  • 上巻読了。

    大身旗本で流人の青山玄蕃と、その押送人である見習与力の石川乙次郎との道中記です。
    若く生真面目で苦労人の乙次郎(彼の一人称が“僕”というのが、幕末の若者っぽいですね)と、機知に富んでいて育ちの良さが滲み出ているにも関わらず、如何せん自由すぎる玄蕃。
    道中、玄蕃に主導権を握られがちな乙次郎が必死に虚勢をはりつつ進んでいくのですが、この二人のやりとりの中で乙次郎の抱える背景も徐々に明らかになってきたり、玄蕃の人としての魅力に触れるにつけ、いったい彼に何があったのだろうと、興味を掻き立てられます。
    そんな彼らが行く先々で出会う人々の事情が、これまた一々ドラマチックで引き込まれるのですよ。上手いですね。
    これからどんなドラマが待ち構えているのか、展開が気になるところなのですが、残念な事に下巻がまだ図書館から届いていないという(上巻返却日ギリギリまで粘ったのですが・・無念)・・。続きが読める日を心待ちにしています。

  • この語りは国宝級。名人の語り口が堪能できる道中ものの傑作。

    上下巻のうち上巻。
    蝦夷松前藩に流罪となる旗本の青山玄蕃。押送人は見習い与力の石川乙次郎。奥州街道を北へ向かう二人の珍道中。

    「一路」に続く道中もの。浅田次郎ならではな多角的な語りもあるが、多くは乙次郎のモノローグが中心。ワケありな乙次郎、玄蕃を軽蔑しつつも人柄に次第に惹かれていく。

    上巻は伊達藩の城下町仙台まで。乙次郎の成長と玄蕃の罪の事情。下巻も楽しみである。

  • 今までは読めない漢字や知らない言葉は都度調べながら読み進めていましたが、この本はそれをするとキリがないくらい分からない言葉だらけで、物語の情景もなかなか頭の中に浮かんで来ませんでした。
    特に前半はただ文字を追うような状態になってしまい、読解力のなさを痛感しました。

    同時に、個人的な好みとて、物語全体を楽しむのではなく、特定の登場人物に感情移入しながら楽しみたいタイプなので、今回はなかなか共感できる人物がおらず、十分に楽しめなかったと感じます。

    とはいえ、後半は旅で出会ったさまざまな人物とのやり取りもあり、青山玄蕃がどのような人物なのか気になるので、下巻も読み進めたいと思います。

  • はじめの50ページまでは、名前や地名や役職などの普段聞き慣れない、使わないものなので、なかなか読むエンジンがかからず、何度も読み返したりしていて、進みませんでした。
    ようやく、50ページを過ぎたあたりから、個々の人物像が見えてきて、すらすら読めるようになりました。
    本筋から離れるとまた、名前、人物の特徴、地名を覚えるのに何度も読み返したり。
    口語口調の小説ばかり読んでいたので、読み返したりしていて、ようやく読み切りました(笑)。
    流人道中記、本来だったら、そら恐ろしい罪人を目的地まで送り届けなくてはならず、殺気に満ちた展開になるところを、罪人、押送人の凸凹コンビのような、父が子に生きるために必要な物事を教えるようなストーリーに感じました。
    続きが楽しみです。

  • 流人と与力,この本来あるべき立場が氏素性年齢などあらゆることで逆転する.このちぐはぐな関係での道中が山あり山ありで行く先々で問題にぶつかる.それをまた誰にもが納得のいく形で収める青山玄蕃の懐の深さが魅力である.悩める婿養子石川乙次郎の成長も微笑ましい.しかし,青山玄蕃があまりに真っ当な人物なので本当は何をしたのかと思ってしまう.それは下巻のお楽しみかな?

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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