- Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120052101
作品紹介・あらすじ
橋本治が命を賭して紡いだ長篇遺作。
愛と金、人はどちらに飢えるのか?
愛する人に裏切られた美青年・貫一の空洞が今、輝き出す――
尾崎紅葉『金色夜叉』の主人公・貫一は、愛に裏切られ、エリートの道を捨てた冷徹なる金の亡者。
貫一との生活よりも資産家の息子・富山との結婚を選んだ美也は、橋本治『黄金夜界』では、モデルの「MIA」となり、IT社長のもとに走る。
貫一は、ネットカフェ、老夫婦が営む町工場、居酒屋チェーンの仕事を転々としながら、ついには起業し「わらじメンチカツ」を出す飲食店のイケメン社長に。
美也に捨てられ、世間知らずだった男がいまや、SNSでの話題作りをしかけ、ふてぶてしく金を稼ぐ経営者に様変わりしていく姿は、紅葉が描かなかった貫一の苦しみを克明にあぶり出す。
そこへ富山との結婚生活に幻滅した美也が現れて……
感想・レビュー・書評
-
あゝ、このラストは、哀し過ぎた。。。
-
ちょうど「自転しながら公転している」を読んで、「金色夜叉」を読みたいと思ったが、文章が私には難しく、諦めたところ、たまたま読みはじめた本書が「金色夜叉」をモチーフにしていると知って驚いた。
初めはとっつきにくい印象を受けたが、途中から貫一の生き様に引き込まれ、どんどん先を読みたくなり、気がつけば読み終えてしまった。
機会があれば著者の「桃尻娘」も読んでみたいと改めて思った。
-
私、バカなんで、本は絶対に二度読まないと気が済まないというか…もう、癖になっちゃってますね。癖と言うより病気かいな思いますけど。
最近でい...私、バカなんで、本は絶対に二度読まないと気が済まないというか…もう、癖になっちゃってますね。癖と言うより病気かいな思いますけど。
最近でいえば、「正欲」朝井リョウを読んだ時は新しい文学って感じで面白かったけど、再び読んだ後、「Twitterで個性的なこと書いてバズる人がいるけど、その程度やな。日本語おかしいし。」と、お口直しにこの本を再読したら、あらら?!でした。
あと、いらん話ですが、アメリカ人の父が、来日して初めて行った本屋で買ったのが橋本治の桃尻娘で、読んだ時「日本の文学ってこんなに楽しくて面白いんだな。垢抜けてて良いじゃないか」と思ったそうで。桃尻娘、とっとけや!笑2021/06/22 -
村上春樹さんといえば、わたしも、これ読んで「ダンス・ダンス・ダンス」何故か読み返したくなりましたね
他の本では無くて、なぜか。村上春樹さんといえば、わたしも、これ読んで「ダンス・ダンス・ダンス」何故か読み返したくなりましたね
他の本では無くて、なぜか。2021/06/22 -
2021/06/22
-
-
『夜空の下を埋め尽くす光の海のような夜景の煌めきに感嘆の声を上げる人達は、闇の中にただ一つ灯る小さな明かりの存在など気にもしない』―『摩天楼』
「金色夜叉」を読んだことはない。それが作者尾崎紅葉の死によって未完となっていることも知らなかったが、奇しくもその物語を下敷きとした本作が異才の人橋本治の遺作となったことに不思議な繋がりを感じる。尾崎紅葉が日清戦争後の社会状況を背景に物語を展開したように、登場人物の名前もそのままに受け継ぐ「黄金夜界」でもまた今の世の中に即して物語は進むが、その構図は驚くほど本質的に変わっていない。自分は根本的に人の善意というものを信じるものではあるけれど、二つの物語が共通して突きつけるものは本質的な人間の欲望であり、その欲望は本質的に性悪であるように映る。
尾崎紅葉が「金色夜叉」の結末をどのように構想していたかは兎も角も、橋本治は残された物語の中に極めて現代的な人間の在り方を投影し、未完の物語の枠組みの中で結末を用意した。それは120年前の人が感じたであろう刹那ですらまどろこしいと感じてしまう現代人であるからこその選択肢。すれ違いを修復する為に掛けられる時間の長さに違いがあればこその結末だったのだろうと想像する。全て理屈で選び取ることが出来ると無意識に信じている現代人は、身体的な思考が脳の表層で展開する意識よりも多くの情報を処理し判断を下しているということに理解が及ばない。いきおい身体的思考に資する時間を用意出来ないこととなる。そこに生まれるのはまさに刹那的、詰まりは持続性を欠く判断であるように思う。
橋本治の駒場祭の有名な口上「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」が人々の記憶に留まるのは、昭和43年という文脈の中でその言葉の指し示す意味が響いたからでもあるけれど、その「音」が直接身体の真ん中に入り込んでくる感覚があるからだと思う。七五調の調子への親和性、などと理屈を捏ねても、その「響く感覚」は何も解明されることはない。理屈を超えて受け継がれている身体性の本能に橋本治はとても敏感であったのだと思う。そのことが「金色夜叉」の展開を現代という場面に移し替える時に作家の本質として浮き上がるように思う。
思えば、それは「桃尻娘」から「双調平家物語」へ繋がる流れと同じ線上に在るものなのかも知れないと、橋本治という山の裾の広がりを無視して夢想してみる。遅まきながら橋本治を読み直してみたくなる。 -
※再読しました
再読して星付け足しました
再読して、一度目で分からなかった楽しさや発見があり、橋本治さんに興味がわきました
血眼になって神保町で彼の絶版本を探しましたが、見つかったものの、あまりにも高価で泣く泣く断念!
代わりに、「いつまでも若いと思うなよ」を買って、積読中です
黄金夜叉の現代版というが…
ストーリーは、ありきたりっちゃありきたり
しかし、作者の経済や社会についての知識をフル動員したかのような描写は、やっぱ頭ええんやなと感服。
まだまだ「現役」の人で色んなことに興味を向けてたんだな。
あと登場人物が全て、とても魅力的!
イケメンのボンボン、美人のお嬢様、おばちゃん金貸し、ブラック社長…型にはまってはいるが、ステレオタイプでは決してない。
個人的に、ブラック企業社長が、ただの性悪ではないところがとても面白く、「彼は本当は良い人だった」みたいな所に落とさなかったところにも、また感服。
番外編として彼を主人公を読んでみたくなったけど、これが遺作だったとは知らず…
あと私も、ブラック企業で鬼のような社長のもとで働かされ、社長のことも「死ねやこのドアホ!!」と恨んでいたが、私の働いてたアパレル会社より飲食チェーン社長の方が、なんていうか、本当に「叩き上げ」「自分の力だけでのし上がる」感が凄くて、織田信長を尊敬していうところも、再読し、納得。
作者自身、なぜ、こんなに有り難がられているのか不思議な人物でもあるが、これを遺作と知り、好きなことを好きなだけやって死んでいったんだ、気持ちの良い人だなあ、と思ったのも、おまけで。
-
博覧強記の著者がどのような小説を書くのか気になって読んでみたが、間貫一と鴫沢美也が主人公のドタバタ劇でやや期待外れだった.美也が富山唯継と結婚したことで話が展開し、貫一が自活するストーリーが語られる.川嶋製作所の夫婦とのやり取り、鰐淵興産・狐の酒場での孤軍奮闘、さらに辞職後に開業資金のことで赤樫満枝との交渉等々.個々のエピソードは楽しめたが、結末はあっけない.
-
ふだん日本の小説は好きな作家のものばかり読んでしまう傾向にあるため、なじみのない作家の場合、文体に慣れず、距離を感じてしまい、なかなか入り込めないのが、わたしの悪い癖。これも最初はそんな感じだったのだが、なぜだかページを繰る手が止まらず、一気に読み終えてしまった。橋本治さんの小説は大昔に『桃尻娘』を読んだきりだったので、普段どんな作風なのかはわからないのだけれど、キラキラの風俗描写や劇画チックな設定、多すぎる「!」使いや視点の揺れといったものは、元ネタの『金色夜叉』を意識してのことなのだろうか。貫一が美也に捨てられ、家を出て放浪する中盤以降は、書きぶりが小説というよりテレビのドキュメント?ルポルタージュ?観てるみたいだなあと思いつつも、仕事も住居もさだまらない若者・貫一のなけなしの財布から、百円、二百円と生きるための必要経費が消えていくリアルさや、若くしてIT社長の妻となったモデルの美也が、ファストファッション全盛の業界で、30・40代向けのセレブ雑誌にしか活躍の場を見いだせず、同世代のモデルから孤立するさまとか、ねちっこい社会・風俗描写がめちゃくちゃうまくて、著者の観察の鋭さ、ただならぬ表現力に舌を巻いた。あと美也と別れた貫一がスマホを熱海の海に投げ捨てるのがなんか唐突な気がして違和感だったんだけど、終盤、ああ、そういう心理だったのか、と綺麗に納得できて、伏線すごい。そして、圧巻のラストですよ。未完の『金色夜叉』(これも大昔に読んだきり、もはや熱海の銅像程度の記憶しかない)をこう着地させたのか、と。その余韻たるや。ああ、いいものを読んだ!これは映像化されても楽しめそう。長編としては遺作ということになるのかな。惜しまれます。
-
愛より金。現実的。
一度選んだら、迷うことなく突っ走るがいい。 -
こんなに距離を置いた気持ちで物語を読んだことはないかも。「索漠」とか「空虚」という言葉が浮かび、ラストで、とんっと肩を突かれてぽっかり空いた穴に落ちたような気持ち。
貫一の人生って、なんだったんだろう。復讐を種火にして生きると、何かが焼け落ち、がらんどうになってしまうみたいだ。
そして、自分の感情さえも分析しようとする貫一の向こうに#橋本治 さんの笑う顔がのぞいて離れない物語でもあった。 -
貫一はなにもしない。なにもせず、なにも求めないーそのことが女達を惹き寄せる。求めない男の中にある「欠落」を感じて、求めない男に代わって、女達が男を求める。男の空疎は冷たく、女の空疎は熱い。
-
尾崎紅葉『金色夜叉』のリメイクだそうだが、「貫一・お宮」を知らなくても十分物語に引き込まれる。
特に、美也に捨てられ、社会の最下層に転落した貫一がどのように這い上がっていくのかをリアルに描いていて、とても読みごたえがあった。
貫一の周りに登場する女性の貸金業者の赤樫や居酒屋チェーンの社長鰐渕など、こういう人も居るかもなと思った。
美也の夫の俗物っぷりも期待どおりだが、美也本人の凡庸さ、考えのなさにも驚く。もう少し感情移入できるヒロインだったら良かったかも。
そして、結末は何とも言えない気持ちになる。何もかも消化不良に終わる。最終盤の赤樫と美也の罵りあいは非常に不自然だし、貫一のこのような最期も作者自身が納得してたのかとっても疑問です。-
初めまして
レビューから来ました
確かに、最後は物足りないし、喧嘩のところも、「え?」でしたね
これが遺作で、作者も病魔に冒されながら書いた...初めまして
レビューから来ました
確かに、最後は物足りないし、喧嘩のところも、「え?」でしたね
これが遺作で、作者も病魔に冒されながら書いたらしく、なんか書いてて疲れてきたのかなぁ…とも思いました2021/06/22
-
こんな短い感想文に、コメント頂き、ありがとうございます。ラストがあまりに悲しかったので、そのまま書いてしまいました。ほんと...
こんな短い感想文に、コメント頂き、ありがとうございます。ラストがあまりに悲しかったので、そのまま書いてしまいました。ほんとにね、救いが欲しかったです。