いじめのある世界に生きる君たちへ - いじめられっ子だった精神科医の贈る言葉
- 中央公論新社 (2016年12月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (100ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120049217
作品紹介・あらすじ
精神科医の卓越した人間論に裏づけされた「いじめ」論であり、学校関係者にも必読の書です。読むか読まないかで、いじめへの対応が変わります。深い「いじめ」論が、やさしく読める。精神医科が自身の体験をもとに綴ったバイブル。
感想・レビュー・書評
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「この本を読むと読まないとでは、いじめへの対応が違ってくる!」
構成・編集者によるあとがき~より抜粋します。
本書は、子どもたち、特にいじめられている子どもたちに読まれることを願って企画されました。「いじめ」は人間から穏やかな心、冷静に考えるゆとりを奪います。(中略)その時に、自分のなされているひどいことが、どのようにひどいことなのかを知ることは、自らの最後の尊厳を失わず、いつか守られる時まで生き延びる支えの一つになると思うのです。中井さんは「いじめのワナのような構造の、君は犠牲者であるということを話して聞かせ、その子のかかえている罪悪感や卑小感や劣等感を軽くしてゆくこと」(78ページ)を、いじめへの対策として重視されていますが、本書はその段階を担うものと言えます。(中略)
そして、本書は子どもの周りにいる親や教師をはじめとする専門家、子どもに関わる行政で働いている方々にぜひ読んでいただきたい本です。その理由は、いじめへの対応が全然違ってくるからです。(中略)
いじめが『監禁や虐待と かわることのない人間破壊のプロセス 』という理解は、「いじめはやむを得ない通過儀礼」などといった体験的な いじめ論をのりこえる力があります。
なお中井さんは本書のなかで、いじめのSOSがキャッチできる確率の低さを「太平洋の真ん中の漂流者」になぞらえて指摘しています。繰り返される大人たちへの見過ごしの箴言です。それでも私は子どもたちにSOSをだすことを呼び掛けたいと思います。SOSをキャッチする精度を上げる努力をしている心構えがある大人は、まわりのどこかにいます。
本書がいじめのある世界に居きる子どもたち、そしていじめに向き合う大人たちの手助けに少しでもなりますように。
自らの体験を分析し、「いじめの政治学」論文を執筆した、精神科医中井久夫さん。いじめられた経験をもつ人への励ましの著になると思います。小学生でも理解できる文章なので、どこの学校図書にも置いてもらえるといいなぁ…。子どもの頃に出合ってほしい!多くの方におすすめします!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とある編集者の方から「ぜひ」と勧められて手にしたのが本書。
いい本と出合うことができました。
本書はいじめられっ子だった精神科医が書いた「いじめ論」。
読む前と読んだ後では、確実にいじめに対する考え方、さらには対応が変わって来るでしょう。
いじめが、どのように人間を破壊していくか、そのプロセスが誰でも分かるように易しい言葉で書かれています(小学生でも読めるはず)。
私はその巧妙なプロセスを辿りながら、何度も戦慄しました。
本書によれば、いじめは①孤立化②無力化③透明化―というプロセスを辿って、いじめられっ子を巧みに追い詰め、人間性を破壊します。
酷いのは、いじめの被害者に「いじめられるのは自分が悪いせい」と信じ込ませてしまうことでしょう。
「いじめのない日はまるで神の恵みのようです。やがて被害者はこの恵みを、加害者からのありがたい贈り物だと感じるようになります。」
何という倒錯でしょうか。
よく、「いじめはなくならない」とか「いじめは犯罪じゃない」という言葉を耳にしますが、いじめは紛うかたなき犯罪です、なくさなければなりません。
本書にも、「いじめのかなりの部分は、学校の外で行われれば立派な犯罪です」とあります。
重く受け止めなければなりますまい。
では、いじめに大人たちはどのように対処すればいいのでしょうか。
本書には、「まずいじめられている子どもの安全の確保であり、孤立感の解消であり、二度と孤立させないという大人の責任ある保障の言葉であり、その実行である」とあるだけで、具体的な処方箋は書かれていません。
私はしかし、それこそが本書の値打ちだろうと思いました。
著者は「いじめられっ子」だっただけに、いじめに万能薬などないと分かっているのです。
安直な対策を示す類書とは一線を画していると言えましょう。
本書でいじめの構造を理解したうえで、大人たちが自ら考えてケースバイケースで対応する。
親御さんはもちろん学校の先生たちにも、ぜひ読んでほしい1冊です。 -
昔いじめを受けていた精神科医の本。
余白が多く、いわさきちひろさんの挿絵が心を落ち着かせてくれます。
いじめは立派な犯罪であること。
いじめかどうか、見分ける方法。
人には権力欲があり、家庭環境内で権力をいかに取るか学習している場合が多いこと。
いじめは孤立化→無力化→透明化と進むこと。
無理難題を課せられること。物的なことだけでなく、しゃべるな、とか。
どこかに安全確保しようということ。
簡単に読める分量の文字数なので悩んでいる人は手に取って読むことをお勧めします。厳密ではないですが、小学生で習わない漢字には初めて出てきたときにルビあるようです。単語が難しいので中学年は読みにくいかも。 -
いじめへのプロセスは分かり易く、怖い程理解出来た。
ただ気になったのが、P18『成長するにつれ、異性への情欲も出てきますが、』という所。粗探しするつもりは無いが、もし同性へ情欲を抱く子がいじめに悩んでこの本を手に取ったら疎外感を感じるのでは無いだろうか。
あと、子供が買うにしてはちょっと高い。良い本だけど、良い本だから作り方をもうちょっと考えて欲しい。図書館にあれば手に取るのかもしれないけど。 -
精神科医の筆者が書いた「いじめの政治学」という論文を小学校高学年程度で読めるように簡単に記載しなおしたもの。
簡単な言葉で非常に大事なことが述べてある。
「いじめは絶対ダメ」「いけないこと」とだけ単純に言う本ではなく、いじめる側、いじめられる側がどのようにいじめの構図にはまっていくか、その仕組みを、精神的な変化もともに仕組を解析して教えてくれる。
いじめの渦中にいるいじめ被害者が、自分に非があるように思ってしまい、どんどん萎縮していってしまうことや、加害者側が自由にふるまっているようで、意外と周りの世論のようなものを気にしながら、したたかに周りを味方に巻き込んでいることなどが、具体的に書かれている。
いじめにより、被害者は視野がどんどん狭まっていき、社会がいじめる加害者と被害者だけの関係になってしまう。その中で周りが見えなくなりどんどん悪循環になり、被害者が追い込まれてしまう。
この本はそのような状態のいじめに関わる被害者へ自分を客観的に見る視点を提供する。自分は悪くない、いじめは犯罪であるという意識を強く持つこと。を提案する。
また、いじめられる子供たちが、大人に簡単に助けを求められない事(そんなことしたら、子供の世界は崩れ去って終わってしまうこと)など、子供の社会(大人よりも厳しい無政府社会)目線からの視点が新鮮である。
筆者自体が子供時代にいじめにあっていること、様々なカウンセリングから導き出されている深い内容。また、筆者がいじめられる側の立場に真摯にたっていることが分かる。(救ってやろうという姿勢ではなく、いじめられている側に寄り添う姿勢)
いじめに関わっている人々に広く読んでもらいたい本。 -
この本を読んで、いじめというものの本質がよくわかった。中井久夫先生の「いじめの政治学」を子どもが読んでもわかるように書かれたようだが、いじめられている子どもが手にする機会はほとんどないのではないかと思われる(いわさきちひろさんの挿絵に惹かれるけど、それだけで手にはとらないと思う)。でも読むと読まないとでは全然違うと思った。できたらコミックで、もう少しやさしい言葉を使って。今苦しんでいる、いじめで辛い子ども達や、周囲の大人の目に触れることを願う。
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いじめに関する本は子供向けから大人向け、小説、教育・心理学専門書など山のようにあり、まあそれぞれためになることが書いてあるようにも思えるが、これは子どもも(小学校高学年くらいなら)読める文章で書かれている本としては、出色の本ではないか。
いじめの構造と展開が非常にクリアにまとめられており、どんないじめもこのパターンに当てはめることができる。いじめの当事者(加害者・被害者・傍観者)はそれぞれの立場で混沌とした思いを抱き、事態は複雑で、そう簡単に分析はできないと思いがちだが、こうして考えると非常にわかりやすい。「なんだ、客観的に見ればこんなことか」と。
それだけでも救われた気持ちになる気がするし、何より(ここが一番大事なことだけど)書き手に優しさと知性と人間的な大きさがあるため、分析されて、「自分は学者の研究の道具じゃない!」と感じる余地がないこと。
優しくて温かいが客観性や分析力に欠ける人、分析力があって知的だが冷たい人というのはゴマンといるが、優しさと冷静さと知性を兼ね備えている人は非常に少ない。(だからこそ優れた精神科医なのだろうが。)こんな人に話を聞いてもらえたら、と私ですら思う。
具体的な対応法が書かれているわけではないが、事態を客観視できるようになると、自ずと変わってくると思う。
いじめの渦中にある子供の手に届けばいいな、と思う。
パワハラ、モラハラについてもほぼ同じ分析ができると思うので、子どものいない大人にも読んでほしい。 -
著者自身がいじめの被害者で、長い間(本文によると高齢になるまで)その記憶に苦しめられ続けたとのこと。同様に被害に遭っている子どもたちに向ける目線はとても温かく、そして周囲の大人に向ける要望は現実的です。どんな理由があろうと、いじめられていい人などいない。当たり前のことをもう一度、心に刻みます。
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高学年の子ならきちんと考えを持って読むことができると思う。
いじめは犯罪なのだと、大人も子供もしっかり認識した方がいい。
筆者の優しさと毅然とした姿勢が伝わってくる。
いじめを「孤立化」「無力化」「透明化」に構造的に捉えていること。こうした段階への対応と見逃すことがないように、自身が気付けるように、丁寧に書かれている。幅広い読者にわかりやすいように、はっきりとした言葉を使っていること。それこそ、小学校高学年でも読めるくらいに。ミルトン・エリクソンが、弟子が子どもの患者との面談を二週間延期したことを叱って「子どもにとって二週間は永遠に等しい」と断言したエピソードを紹介していること。心理学は、いじめに対して、どこまで有効だろう。いじめられた子に見られる喪失感にグリーフセラピーなどのアプローチは、何をもたらすのだろう。ブリーフセラピーは、子どもを救えるのか。
引き出しは多い方がいいし、いじめへの感覚、いじめのない世界のためへの努力や工夫は、常に意識してし続けなければいけない。この本に出会えて良かったな。ありがとう。こどもたちだけでなく、大人にこそ読んでほしい、知ってほしい。
いじめはその時その場だけでなく生涯にわたり、そのひとに影響をあたえます。たとえば仲間はずれにされるいじめで心が傷つき、それからは友だちをつくること自体が怖くてできなくなってしまった。そんなひともいます。
権力欲
いじめが進んでいく段階を「孤立化」「無力化」「透明化」の三つの段階に分けている。
被害者は「警戒的超覚醒状態」
ぴりぴり、おどおど、きょろきょろ、
顔色が青ざめ、脂汗が出たり、
子どもの世界に大人がうっかり口をはさんではいけない
自分もいじめられて大きくなった
子どものためになるだろう
あいつに覇気がないからだ
どれも言い訳に過ぎない。 「子どもにとって二週間は永遠に等しい」ミルトン・エリクソン 「心的外傷と回復」ジュディス・ルイス・ハーマン
この本を読むか読まないかで、いじめへの対応がまったく変わってきます。
いじめの4層構造
加害者、被害者、観衆、傍観者 「いじめはいけない」というスローガンの連呼はあまりに無力。まず、大人が学ぼう。今回、心的外傷を経験させてもらい、自分のゼロ地点に立てた。水中は、苦しい、でも、それはまだこれからだ。ぼくは、これでも、人のことを思ってて、ほんとにバカなんだと思う。 -
新聞の書評で興味を持って購入。「いじめの政治学」という論文体裁の本を、子どもにも分かるように、という主旨で書き換えられたものだそう。素晴らしい名著だと思う。難しいことを分かりやすく、というのは、何より難しいことだから。
いわさきちひろさんの挿絵が優しい気持ちにさせてくれる。
誰もが持つ心理や身体と心の仕組みが、具体的、科学的な説明と共に非常に分かりやすく、みんなに分かる例を挙げて次々と説明されていく。
ある、ある、と何度も頷いてしまった。
私も、加害者だったことがある。被害者だったことがある。たぶん、この国も。かの国も。
負のスパイラルに陥って抜け出すことができなくなってしまうその仕組み、気付かれなかったり、助けを求めることさえできなかったりする心境も、自殺を引き起こす過程も、「こういう構造で起きているのだ」と解き明かしてくれる。
解き明かすことは直接の対処療法ではないけれど、自分のいる場所や苦しさ、悲しさの理由がうっすらと掴めるだけでも、大きな救いになるはず。
著者の中井久夫さんは、アメリカの精神科医 ジュディス・ルイス・ハーマンの『心的外傷と回復』の訳をした人。阪神・淡路大震災の後、心の傷によって起きる症状を研究するための翻訳だったという。PTSDの理解を進めるうち、いじめも同じ性質をもつことに気付いたのがきっかけで生まれたのが、この本。
いじめはなくならないだろう。
でも、一人で苦しむ人を減らせたら。
何が苦しく辛いのか、自分で見通すことができたら。
具体策の羅列ではないからこそ、緒を与えてくれる一冊のような気がする。