キューバ危機 - ミラー・イメージングの罠

制作 : ドン・マントン 
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 76
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120047183

作品紹介・あらすじ

1962年、迫りくる全面核戦争。アメリカ・ソ連・キューバ。それぞれの立場から見た危機の原因・経過・影響。実証的な歴史叙述と鋭利な分析。最新の資料案内付き。

感想・レビュー・書評

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  • キューバ危機発生を半世紀を経た現在において総括した良書。

    学術的な書籍ではあるものの読みにくさはなく、簡潔かつ丁寧な文章で記述されており、非常に読みやすい。

    本書は以下の3点が優れており、歴史解説の良き手本と言えると考える。

    1) ソ連/キューバ/アメリカのどの国にも肩入れしない視点で記述されている事。

    2) 上記1)を含め、特にキューバ危機の背景である、キューバ/アメリカ間の軋轢の歴史を解説している事。

    3) 資料をベースにした実証的な視点で事実に基づき分析がさせている事(=分からないことは率直に分からない事として扱っている)

    以下、本書における備忘メモ

    ・危機/問題を解決するためには相互理解が重要である事。
     → それを怠ったとき、希望的観測や相手側に自分の姿を投影するミラー・イメージングに基づく間違った判断により危機が招かれうる。

    ・重要な判断をするにあたり冷静な視点で選択肢の検討/吟味を行う期間を設ける事。
     → 緊張的な状況下における即時的な判断は破滅的な結果を招く機会となりうる。

    ・巨大な組織になると末端のコントロールまでは出来ない事。
     → 特に緊張的な状況では通常では発生しない問題が起こり、それが危機的な結果をもたらしうる事。

    ・大国が小国の要求/欲望/ものの見方を無視した結果、危機を招くという教訓。
     → 弱い国であっても外部からの干渉に怒り/抵抗し、弱い国であっても大国に人的/経済的な被害を与えるくらいには強い事(ベトナム/アフガニスタン/イランの事例)
     

  • 実際の危機から半世紀以上が過ぎ、その間の資料の蓄積にも目を配りつつ、キューバ危機の概要が簡潔に、しかも肝要な事実を落とすところなく著述されている。
    単に事実を羅列しただけでなく、読み物としてもおもしろく読めるというところに、著者たちの深い研究の成果があらわれているというべきであろう。
    国際関係における危機的状況に処する際に、大切なことは相手に「共感」することだという著者たちの結論は、今日の世界の状況を考える上でも大切なことであるにちがいない。

  • サバゲーをやっていると、戦争とはいかに相手の意図を察することと、自陣内で起こる誤解を極少化するかが勝利につながることかが体感できるが、この本で語られているキューバ危機の実相と教訓もまさにそれに尽きる。相手の意図を察するについて危機の当初、ケネディもフルシチョフも社会学で言うところの"ミラー・イメージング"(自分が思っていることが相手も思っていることだろうと確信してしまうこと)に囚われており、本当の意味で"相手の立場に立った共感"を自分の中に持つことができず、意図の錯誤が互いに生じて行った。これは、危機が緊張度を増し核戦争の恐怖が二人を支配するにつれ、劇的なまでに相手への共感が増してくることになる。(あるいは本来的には二人ともそういう資質を持ったリーダーであり、当初の"怒り"がそれを歪めていた可能性もある)

    自軍内で起こる誤解と、その誤解が相互不信につながりふとしたことでキューバ危機は熱戦に結びつきかねなかったことはこの本の最終章にくどいほど事例が示されている。これは軍隊という組織の複雑さとコミュニケーションという相互作用の、その当日の情報技術の限界も含む困難さが要因となっている。これを解消するには組織をシンプルにし、コミュニケーションを円滑にすること、また、リーダーとしての情報コミュニティに対する信頼や疑いのバランスなどの資質が重要になってくる。

    この本でもうひとつ勉強になったのは、山火事の後の原野がみずみずしく再生されるが如く、キューバ危機を緊張の頂点として、それ以降、欧州ではソ連に対するイメージがよい方向に変容し、米ソ首脳もホットラインの解説や部分的核実験停止条約の締結等、デタントに向けたベクトルが加わり始めたということである。これは、米ソ両首脳がミラー・イメージングの虜とならず、互いの共感力を持って話し合いで解決したことによるポジティブな波及効果であったと筆者は論じている。

    そのほかキューバ危機の語る上での論拠となっているロバート・ケネディの「13日間」などにも最新の資料で検証を加え、彼が大統領選挙を念頭においてかなり自分の手柄にしてしまっていることなど、歴史の本質を見る上で示唆に富む話が多数あった。政治コミュニケーションを事例を持って知る上では興味深い一冊であったと思う。

  • キューバ危機について、その種がまかれたと思われる米キューバ関係にまでさかのぼって、原因、フルシチョフの狙い、いわゆるキューバ危機の13日間、その後までを記す。
    200ページ強の厚さながら、よく整理され理解が進む。
    今年、米キューバが国交回復することを思うと一層感慨深い。

  • トロロープの策
    核兵器ではなくアメリカが「攻撃的」とみなす兵器の撤去が約束されたが、ソ連は核兵器のみだと思っていた。しかしケネディが爆撃機なども含めていたことがわかり、危機が去ったと言われていたあとも難交渉が続いた。
    ジョージワシントン大学国家安全保障アーカイブが良い。

  • カストロはうっかりと意図せぬ戦争が起きてしまう危険を気にしてはいなかった。意図した戦争がいつはじまってもおかしくないと確信していたからである。

  • アメリカ、ソ連、キューバ、ぞれぞれの立場から見た「危機」の原因・経過・影響を、最新の資料と研究を用いて、簡潔・明快に記述。国際関係の理解にも資する、キューバ危機解説の決定版。

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著者プロフィール

デイヴィッド・ウェルチ(David A. Welch)ウォータールー大学(カナダ)教授、Ph.D.1960年生まれ。1983年トロント大学トリニティ・カレッジ卒業。1985年ハーヴァード大学修士課程修了。1990年ハーヴァード大学にてPh.D.を取得。ジョセフ・S・ナイの愛弟子であり、世界中で使用されている国際政治学の定番テキスト ” Understanding Global Conflict and Cooperation” (9th ed., Pearson Longman; 日本語では田中明彦・村田晃嗣訳 『国際紛争』 原書第9版として有斐閣から刊行)の共同執筆者として知られる。

「2016年 『苦渋の選択 対外政策変更に関する理論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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