流転の子 - 最後の皇女・愛新覚羅嫮生

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120042690

作品紹介・あらすじ

父は満州国皇帝・溥儀の実弟、母は日本の候爵家令嬢。敗戦後、わずか5歳で動乱の大陸をさすらい、命からがら引き揚げてくるも-歴史的一族に生を享け、激動の日中間を生きた女性の半生を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 中国王朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀については、映画などで知ってはいましたが、その弟、溥傑やそのお嬢さんの嫮生さんについてはまったくの無知でありました。
    溥傑の妻、嫮生さんのお母さんは日本人(嵯峨家ご出身の浩さん)、最初は政略結婚だったにも関わらず、お互い信頼と深い愛情で結ばれ、二人の子どもをもうけられますが、終戦となり溥傑は戦犯として捕らえられ、五歳の嫮生さんは、日本人ではあっても気持ちは中国人という、確固たる信念を持つお母さんとともに、言い尽くせない辛酸の後、日本に引き揚げてこられたのでした。
    時代が時代なら皇女として何不自由なくぬくぬくと暮らして行けた立場の方なのに、戦争により満州国の消滅、日中断絶による家族分裂となんと数奇な運命を歩まれてきたことでしょう。
    そんな中にあっても、溥傑や母、浩は自身はいつも清貧簡素、自分より他人、そしてなにより日中友好に心を砕いてきました。
    そんな両親を見て育ってこられた嫮生さんも日中友好の架け橋となって力を尽くしておられます。
    「命さえあればよろしいのでございますよ。生きてこそ、でございます」という言葉、苦労をしてきた人の心に響く重みのある言葉であることでしょう。

  • 人格とはこういうんだな、と。

  • ラストエンペラー溥儀の弟である溥傑に嫁いだ「日本の華族であった嵯峨浩(ひろ)」と娘「愛新覚羅生嫮生」さんらが主人公。
    昭和20年8月ソ連対日参戦により溥儀らと新京から脱出。飛行機で日本亡命予定の溥儀、溥傑と離れた後、皇后婉容と共に浩、嫮生が身柄を拘束さながら満州を点々とする流転の日々が綴られています。
    【通化事件】での描写は、本の文章からも目を逸らしてしまうほどでした。
    日本人が沢山殺害されたという理由ではなく、戦争中、色んな国で色んな国の人が、命を命と思わない方法で虐殺されたのだと思うと言葉がありません。
    満州から引き揚げた後の生活、溥傑が釈放され浩が中国に帰国した後の文化革命お二人のその後と嫮生さんの「今」(西宮在住)。
    戦争、それによって翻弄された人々の話は決して、昔の話ではない。平和ぼけとも思える今の日本。歴史は「今の生活が当たり前でない」ことを知る大切な教訓を教えてくれる。
    引っ越し等で本の整理しても必ず残す本と共に、残して置きたい一冊となりました。

  • 今までは、ラストエンペラーと聞くと映画を思い出し、その方は歴史上実在した人物だけれど、どこか遠い過去の話のように感じていた。しかし、ラストエンペラーの姪にあたる愛新覚羅(福永)嫮生さんが西宮市在住と知り、一気に過去ではなく現在も続く身近な事柄に思えてきた。

    天皇家と縁戚にあたる嵯峨浩さんが、ラストエンペラー 宣統帝溥儀の弟にあたる愛新覚羅溥傑に嫁がれた。政略結婚ではあったが、二人は深い愛情で結ばれる。現存するお写真を見ても、当時にしてはめずらしく、二人腕を組んでおられるお姿は、とても微笑ましい。

    ただ、幸せだった日々もつかの間、戦後、浩さんは幼い娘の嫮生さんをつれて、中国を転々と逃げ回る。命の危険にさらされ、壮絶な逃亡の日々である。命からがら二人日本に帰国できたものの、嫮生さんがお父様と再会できたのは16年後のことである。

    激動の人生を歩まれた嫮生さんは、とても穏やかで、かつ芯の強い女性だ。ご両親の後ろ姿から、多くのことを学んだとおっしゃっているが、溥傑さんも浩さんも相当な人格者であり、周りの人から尊敬されていたと知る。戦中戦後の混乱の中で、日中友好に向けて命を捧げたご家族のことをもっともっと世間に知らしめたい気がする。

    ラストエンペラー、久しぶりに観てみようかな。

  • 書名の「流転の子」とは清の最後の皇女である
    愛新覚羅嫮生(こせい)さんのことである。
    父親はラストエンペラー溥儀の弟である溥傑、
    母親は日本の華族であった嵯峨浩(ひろ)で、何年か前に
    テレ朝のドラマで竹野内豊と常盤貴子が演じたので、
    覚えている人も多いのではないかと思う。

    私は嵯峨浩の自伝を読んでいたし、
    それを批判的に書いた入江曜子の評論も読んでいたので、
    ドラマも楽しみにしていたのだが、
    常盤貴子の下品な早口喋りとお手軽演技に腹が立って、
    あまり楽しめなかった。

    さて、この本の章立ては以下の通り。

    第一章 幻影
    第二章 流転の子
    第三章 再会
    第四章 母、妻、そして娘として
    第五章 命さえあれば

    さて、嫮生さんの姉の慧生(えいせい)さんが
    天城山で心中したというのはよく知られているが、
    嵯峨家側の見方は「ヘンな男につきまとわれた」であるし、
    そのほかは「本気で好きだったのに、母に反対された」と
    なっている。

    私はこの点はどちらでもいいのだが、
    興味深かったのは、終戦後の混乱の中国を母親と流転していたのは
    嫮生さんだけであり、慧生さんは学習院幼稚園に通うため、
    母の実家で祖父母と暮らしていたので、
    流転の経験がないということだ。

    流転が終わって、母親と嫮生さんが帰国してきたとき、
    死線を彷徨った、この2人の間は特別な愛情で結ばれ、
    それに慧生さんが疎外感を抱いていたのではないかと、
    嫮生さんは振り返っている。
    浩さんはお菓子を分けるときなど、嫮生さんに多めに分けたり
    していたらしい。

    もしかしたら、こういう積み重ねが、
    慧生さんと母親との相克に繋がっていったのではないかと思うし、
    慧生さんの中国語の猛勉強は母に認められたいという思いからの
    ような気もする。
    けれども恋愛に関しては自分の意志があった…。

    慧生さんの死後、別れ別れになっていた夫婦と嫮生さんは
    16年ぶりに中国で再会する。

    これは中国との結びつきを必死で模索した慧生さんが周恩来に
    中国語で手紙を書いたことがきっかけである。

    嫮生さんも母親と一緒に中国に渡るが、少しして日本に帰り、
    日本に帰化してしまう。

    嫮生さんは中国での流転の日々がトラウマだったのである。
    中国語も苦手だし、日本には友人も多いので、日本にしか住みたく
    なかったという述懐も興味深かった。

    中国に憧れ、5歳のときに生き別れた父親の姿を想像し、
    必死で中国語を学んだけれども、
    日本人と恋愛し、若い命を捨ててしまう慧生さんと、
    中国で死線をさまよったことで、中国に大きな恐怖感を感じ、
    「普通の生活が一番ほしかった」とする嫮生さんの生き方や価値観はとても対照的である。

    それでも、嫮生さんは中華料理の勉強をしに、
    再び両親のもとに戻ったが、やはり日本に帰国する。
    しかし、中国は文化大革命の嵐が吹き荒れ、
    9年もの間、また両親と会えなくなってしまう。

    しかし、この間、遠縁であり、
    甲南ボーイだった福永さんと結婚し、 次々と子どもに恵まれる。
    そのうちの一人が西宮の中学で常盤貴子と同級生だったという。

    そして、嫮生さんは母を亡くし、父を亡くす…。

    普通の家庭と異なり、
    家族4人揃って暮らした日々はわずかしかなく、
    歴史に翻弄された一家であると思うが、
    溥傑と浩が非常に仲が良い様子はとても微笑ましかった。
    政略結婚でも愛が生まれることがあるのだ。

    さて。我らがwwタカラヅカでも
    「紫禁城の落日」という舞台になった。
    92年から93年にかけての星組、
    日向薫&毬藻えりのサヨナラ公演である。
    この公演、溥傑ご本人が観劇されたというから驚きだ。

    そのときの主なキャストを載せておきま~す。

    愛新覚羅溥儀:日向薫
    婉容:毬藻えり
    愛新覚羅溥傑:紫苑ゆう
    愛新覚羅浩:白城あやか
    倉石信吾:麻路さき
    文繍:英りお
    吉岡中将:麻月鞠緒(専科)

  • 見事な大作。満州引き揚げ編がメインと思っていたが、読み進めるとその物語が脈々と2011年まで繋がっていくのがわかる。途切れさすまいとする多くの人々の静かな執念の息遣いが聴こえてくる。謙虚でたおやかな嫮生さんの生き様に背筋が伸びた。必読。

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