密閉国家に生きる: 私たちが愛して憎んだ北朝鮮

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120042454

作品紹介・あらすじ

世界は、かの国の"普通の人々"のことを、何一つ知らなかった-一〇〇人以上の脱北者に取材を重ねてきたアメリカ人記者が、北朝鮮第三の都市・清津出身の男女六人の半生を克明に再現する。各国メディアで絶讃された話題の書。2010年の英国BBCサミュエル・ジョンソン賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 映画「ビヨンド•ユートピア」を観て「7つの名前を持つ少女」とともに読んだ本。
    こちらはロサンゼルス•タイムズのバーバラ•でミックさんがいろんな脱北者の方にインタビューした作品。北朝鮮時代の悲惨な状況が当事者からリアリティを持って伝えられているところがよかった。(日本人が想像して書く北朝鮮とは微妙な誤差が出るだろう)
    ジュンサンとミランについて二人とも違う時期に脱北したため、結ばれることはなく、祖国への思いも微妙に異なるという切なさもあったが彼らも含め脱北者や北朝鮮の一般市民の方が一日も早く人間らしい生活を送れるようになってほしいと感じた一冊。「7つの名前を持つ少女」よりもより一般の北朝鮮の一般市民の方のいろいろな生活が見えて考えさせられた。

  • ロサンゼルス・タイムスの記者が脱北者にインタビューを行い、北朝鮮の日常生活を人間的な側面から描いたもの。

    特徴的なのは、平壌からもっとも遠く見捨てられた地である「清津市」に住んでいた脱北者に絞られているということ。
    北朝鮮住民の生活は、住んでる場所や細かく分けられた階級などによってずいぶん違うため、「北朝鮮の人びと、生活」という点が見出しにくい。そこで著者は、清津市に住んでいるという点に絞り、様々な年齢、さまざまな階級の人に焦点を当てる。
    時期は金日成の死、「苦難の行軍」と呼ばれる90年代後半頃である。

    真っ暗な夜道をただ歩くだけというデートをしていた若いカップル、党への忠誠心が強く恵まれた生活をしていた女性、そんな母の娘でありながらまったく忠誠心を持っていなかった「問題児」、無償で教育を受けることができたことを感謝して忠誠を尽くしてきた女医、清津市は配給がもっとも早く止まったため盗みをしながら生きていた少年・・・・

    彼らの背景はそれぞれで、金日成の死に感じた感情や、苦難の時期の生活もバラバラだ。
    だが、そんな全ての生が清津市という1つの都市で展開されていたという点が興味深い。

    脱北にいたる過程もさまざまだが、韓国での生活もまたそれぞれだ。
    韓国で裕福な男性と結婚し、安定した生活を送っている人、韓国政府に渡された定着金を詐欺で奪われてしまう人、家族を脱北させるためのお金を準備するため借金地獄に陥る人・・・

    著者は6人の脱北者の生を丁寧に描き出す。
    単にあの北朝鮮に住む人たち、マスゲームで一糸乱れぬ動きをする不気味な人びと、ではない。恋愛をし、学び、家族や恋人を想いながら生きてきた人びと。苦難の時代に餓死する人々を横目に工夫を凝らしてなんとか生き延び、そのことに罪悪感を感じながら生きている人びと。

    等身大の「北朝鮮出身の人びと」を知ることのできる良書である。

  • 北朝鮮では買い物の必要はない。理論上は人民が必要とするものはすべて政府によって与えられるから。貨幣もまたなきに等しい。

  • 従軍慰安婦について事実であるかのような書き方があった点以外は高評価。

    崩壊する前に一度訪朝してみたい。

  • 本を読むのはわからなかったり迷ったりするときであって、そういう意味では北朝鮮の本を読む動機があまりなかった。北朝鮮=ネガティブ、で決まりだったから。でもこの本はふと読む気になって、読んで正解だった。
    インタビューに登場する脱北者たちが、死を賭して自由を求める闘士でも、政治的に北に対抗する革命者でもなく、ぼくも北朝鮮に生まれていたらそうだったかもしれない普通の人であることにショックを受けた。普通の人が逃げだす国が、どうして国として存続しているのだろう? 逃げ出せない普通の人は、今どうしているのだろう? ここからたいして離れていないところで、いま、どうしてそんなことが起きるのだろう? 足元がぐらりと傾くような、この現実。

  • 衝撃…。

  • 北朝鮮から亡命した男女6人に米国人記者がインタビューしたノンフィクション。
    いま読まれるべき本かもしれない。


    北朝鮮で暮らす普通の人たちの生活が記録されている。大変な良書。個人的には昨年度ベスト1。



    将軍様や国を妄信しつつも、段々と不信や疑問に捉われて苦悩していく過程や、子どもたちが餓死していく様、劣悪な医療現場(ビール瓶で点滴するとかね)や収容所での生活など、かなり事細かい。



    北朝鮮市民を襲う飢餓の様は壮絶だ。道端に転がる餓死死体や異様に小さい子どもたち。餓えた子どもは腹がだんだん突き出てくる。これはタンパク質の極端な欠乏が原因だ。幼子が餓死へ至る順序は読んでいられなかった。燃料不測から各自薪を幼稚園に持ってくるルールなのだが、まず割り当てられた薪を持ってこれない。次に弁当を持ってこなくなる。次に授業に参加せず休み時間はずっと寝ている。最後に何の説明もないままに学校に来なくなる。これが繰り返される餓死への順序。ある脱北者は幼稚園の先生だったが担当していた三年間で園の在籍児童50人から15人に減っていたという。この悲惨さ。
    飢餓で最初に死ぬのは男性だというから驚く。女性のほうが脂肪が多く、わずかな食料でも生き延びる。逆に健康で若い男性ほどエネルギーが必要なため飢餓の影響を受け易く早く死ぬんだって。テレビで瘦せ細った人民軍兵士を見たことがあるがそういう理由か・・・・。


    また経済的にも女性優位な側面がある。闇市場での売り手はほとんど女性である。北朝鮮人は市場を軽んじているのでそこに出かけるのは女性ばかり。男性たちは無給で国のために働くが、女性は活動範囲を広げることができ、日中の仕事からなんとか抜け出すことができる。そして女たちはどんどん稼ぐ。こういった構図は北朝鮮の家父長制を崩せていないが、女性たちは金を稼ぐことによってある程度の独立と飢えをしのぐ方法を見つけ出している。




    脱北する件なんかサスペンス小説のようでハラハラする。亡命後でもうまく自由社会に馴染めない苦労など、ほんと悲しくて読んでて切なくなる。
    脱北後、本国で自分が生き延びるために何をしたか?と自己嫌悪に陥る。罪の意識。恥辱。これらが脱北者共通の特徴である。北朝鮮からの亡命者はなかなか定着できない場合が多い。全体主義の国から脱出して自由世界で暮らし始めるのは容易ではないとのこと。
    亡命者たちは無限の選択肢にとりかこまれ、自分は誰で何をしたいのか?と再発見を迫られる。脱北して他国に亡命すればみなハッピー、などと僕らは考えがちだが、そんな単純な話ではない。



    人権蹂躙、独裁国家には吐き気しかしない。
    でも、そこに暮らす人たちは、それぞれ顔があり、個性があり、生きる営みがありそして物語がある(もちろんその物語は悲惨の一言なんだけれども)。ここが本書の醍醐味で読んでて引き込まれ、久しぶりに心動かされた。一読して欲しい。

  • 脱北者の話から、北朝鮮の生活を叙述。テンポのいい文で読み易かった。氷山の一角なのだろうけど、また違う視点から接せられてよかった。この著者の作業。

  • お恥ずかしながら国際情勢などに疎くかなり不勉強なのですが、
    そんな私でもすんなり読めました。

    読んでいて時々、私などが生まれるずっと前(戦時中)の話かな、などとタイムスリップしてしまいますが、割に最近の出来事で驚くばかり。

    90年代の飢餓のころだったか「木の皮を食べてるらしい」「(食用のため)街の犬がいなくなったらしい」などとうっすら聞いて驚いたことがありましたが、そんなの全然甘っちょろかった。

    外部の情報を遮断され、内部のねつ造された情報を信じて疑わない人々。心が痛みます。
    登場するひとりの人物が盗み聞いた国外の情報で、アメリカからの食料とエネルギー支援を断り、国家が核とミサイルを選んだのを知った時の気持ちは計り知れない。

    何よりも一日も早く、罪無い人々の飢餓がなくなりますように。
    バラバラになった家族が再び会うことができますように。

    生きる、ということが、実はとても必死でそして尊いものだと感じました。

  • 北朝鮮から逃れた六人の物語が生々しく、哀しく、そして美しく語られる。あからさまな北朝鮮批判ではなく、辛く厳しい北朝鮮での生活から逃げ出した人々の視点から見た個人的な体験が描かれている。21世紀に北朝鮮の体制が生き延びているのは著者と同様に驚くしかない。この本の登場人物たちは実は自分とそれほど変わらない年齢だ。こんな風に人生を踏みにじられたら自分は何ができただろう。

    先がないのを誰もが予想できる国家を維持している指導者たちは何を考えているんだろう。窮乏にあえぐ国民はこの本に書かれたような悲惨な状況を今もまさに経験しているだろう。

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