- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106108754
作品紹介・あらすじ
世界初の“研究”を成し遂げた男が、300年前にいた――。独自の方法論で仏典を実証的に解読。その「大乗非仏説論」を本居宣長らが絶賛、日本思想史に大きな爪痕を残した。31歳で夭折した“早すぎた天才”の思想に迫る!
感想・レビュー・書評
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かつて司馬遼太郎さんが、山片蟠桃と並んでその合理的精神を賞賛した富永仲基。とはいえ、『出定後語』という著書は受験知識で知っていても、その中身までは知らない人がほとんどでは? かくいう私もその一人。本書は、そんな知られざる天才・富永仲基の思想がコンパクトにまとめられたお得な一冊だ。
誤解を恐れずに仲基の考えをまとめるならば、ある思想や主張はどんどん上書き保存されていくというもの。そして、時代や場所が変われば語られ方も変わっていくというもの。そこから導き出されたのが、大乗仏教は釈迦が唱えたものではないとする、有名な大乗非仏説である。
これは現代の歴史学はじめ人文系学問に通じる研究姿勢である。このような進歩的な考えを、ネットもない時代の、しかも20代そこそこの若者が持ち得ていたことは、もう驚き以外の何物でもない。
仲基の早熟な天才性に圧倒される。面白い。仏典に関する知事がまるでない浅学な身で欲を言えば、一覧表示などの図表があるとありがたかった。 -
お経はお釈迦様が言った事が書いてある、そんなの誰もが常識と思っていた時代に、
なぜ彼は疑問に思ったのか?
天才の発想、そこが知りたいですね -
富永仲基は1751年に生まれ31歳で早世した大坂の町人である。家業の傍ら、父芳春が創立者の一人である懐徳堂で儒学を学び、詩文、道教、仏教、音楽など様々な分野について研究を重ねた。本書では、住職でもある著者が、主に『出定後語』『翁の文』を読み解きながら仲基の先駆的な仏典研究を紹介している。仲基の研究方法の特徴は徹底的なテキスト・クリティーク(文献批判)にあり、膨大な仏典を検証してそれらの成立過程と宗派性を明らかにしていく。その結論が、大乗仏教の経典の内容は釈迦の直説(じきせつ)ではなく後世追加されたものであるとする、いわゆる「大乗非仏説論」である。この日本(世界)初の実証的仏典研究は各界に大きな衝撃を与え、殊に仏教界からは激しい攻撃を受けることになった。この点は日本仏教が漢訳仏典に依存していたことと深い関係がある。すなわち、仏教はシルクロードが開通してようやく中国に伝来したため、「古い仏教と新しい大乗仏教群」とが一挙に流入し、「経典によって言っていることがばらばらで」「その後も、新たに生み出された大乗仏教の新顔が続々とやってき」た(佐々木閑『科学するブッダ』)。それらは全て釈迦の直説とされ、中国でも日本でも概ね大乗仏教を中心に仏典解釈の統一が図られていたのである。そこへ大乗仏教は仏説ではないと言われたのだから、仏教界の反発は想像するに難くない。もちろん仲基の研究も時代的・資料的限界はあったが、現在では彼の想定した仏典の成立過程はほぼ認められており、仏典研究も更に精緻化されているという。仲基の「天才」性もあろうが、江戸中期の町民文化のレベルの高さを窺い知ることができよう。
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専門的過ぎるところがあって正直よく理解できなかった。
それなりの知識があるのならばそれなりに楽しめたかも。
そんな思いがよぎった一冊。 -
現代的な文献批判の方法を駆使して、仏典の歴史的な形成を解明した富永仲基の思想を解説している本です。
著者は浄土真宗の僧侶ですが、仏教の研究者として近代以降の「大乗非仏説論」などの歴史的研究の諸成果に通じており、それに匹敵するような合理的な仏典解釈にいち早く取り組んだ「天才」として仲基を位置づけています。ただし、仲基を時代から隔絶した「天才」と位置づけることに対しては、宮川康子が著書『富永仲基と懐徳堂―思想史の前哨』(1998年、ぺりかん社)のなかで批判しており、慎重であるべきなのではないかという気がします。仲基の思想の独創性とされるものは、日本の近世における儒学や仏教のありかたの特殊性によって可能になっているという側面もかならず存在しているはずであり、本書はそうした思想史的な文脈に対してあまりにも無頓着であるようにも感じられます。
とはいえ、仲基の学問・思想について、手にとりやすい新書の形式で解説がおこなわれており、また『出定後語』のテクストから仲基のことばの紹介がなされている本書は、読者が仲基の思索にじっさいに触れることができるという意味でも、その意義は大きいのではないかと思います。 -
「宗教学の名著30」を読んだ時に気になっていた富永仲基
の人となり、そして残された数少ない著作について概説した
本。読もうかなと思っていた「出定後語」についてもよく
わかる内容だった。大学で学んだキリスト教聖書のテキスト
クリティークの手法を、それに先んじて大阪の町人学者が
独力で編み出していたことに驚く。そして富永の視線の先
には宗教の世俗化があったのかもしれない。
文章難しそうだし、「出定後語」はもう読まなくてもよい
かな(笑)。 -
富永仲基は仏典を詳細に検討し、「大乗非仏説論(「大乗仏教は釈迦の直説に非ず」)」を、主著『出定後語』で著し、それまでの仏教体系を根底から揺さぶりました。
世界に先駆けての仏教経典の解読です。
18世紀江戸中期の大坂に、このような天才がいたとは。
「加上」という独創的な方法論を用いた研究方法は、賞賛に値します。
本居宣長や平田篤胤、内藤湖南や山本七平らによって絶賛、再評価されるのは分かります。
31歳で夭折した、知られざる天才の生涯と思想です。 -
大乗非仏説だけの知識で読んでも、十分に天才っぷりが伝わってくる。つーか、筆者が心酔していることが伝わってくる。と、同時に「加上」という考え方の理解が深まる。とても読みやすいとは言い難い文体だが、ありあまって勉強になったので、読んでよかった。
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仏教の研究者らしいけど、書き手の熱はやはり無駄