仁義なき日本沈没: 東宝vs.東映の戦後サバイバル (新潮新書 459)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106104596

作品紹介・あらすじ

境界線は一九七三年。その年に公開された『仁義なき戦い』と『日本沈没』の大ヒットによって、日本映画の"戦後"は葬られ、新たな時代の幕が開いた。東宝・東映の両社は、いかにして斜陽期をサバイブしたのか。なぜ昔の日本映画にはギラギラとした活気がみちあふれていたのか-。エリートVS.梁山泊、偉大な才能の衝突、経営と現場の軋轢など、撮影所の人間模様を中心に描く、繁栄と衰亡に躍った映画人たちの熱きドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 春日太一『仁義なき日本沈没』再読

    昨年シネ・ヌーヴォで行われた「生誕百年 追悼 橋本忍映画祭』で恐らく40ン年ぶりにスクリーンで観た『日本沈没(1972)』に激しく心を揺さぶられたので『日本沈没』の製作過程を追体験したくなり本書を久しぶりに紐解く。

    全六章の内『日本沈没』そのものについて語られるのは実は第四章のみ。
    本書の主眼は東宝と東映の栄枯盛衰を俯瞰で線状に記録していく事にある。
    だからこそこの第四章における現場の声の記録が生々しくて面白い!
    特に特技監督中野昭慶(30代)が橋本忍(50代)に語る言葉のカッコ良さと言ったら‼️

    2018年3月に大盛堂書店で行われたイベント
    「これまでの全20冊の制作秘話」
    では本書の完成度に満足されていない(執筆過程を含む)趣旨の事をおっしゃっていた。

    しかし今回再読してみる東宝、東映という二大メジャーの視点からの戦後日本映画概史として結実していると感じたし、何より個人的には「東宝争議」の概略が非常に解り易く記されていた事を再発見出来たのも収穫。

    春日さんの本は時々再読しないとあかんなぁ。

  • #872「仁義なき日本沈没」
     年配の人がよく「昔の邦画は良かつた」と往年を懐かしむのですが、その昔と今の境界線はどこであらうかと著者は考へました。それは1973(昭和48)年であるとし、その年を象徴する作品が、東映の「仁義なき戦い」であり、東宝の「日本沈没」であるといふ。本書のタイトルもその二作品から採られてゐます。そこで日本映画の「戦後」が終り、新たな時代に突入したと。

     その流れを、日本を代表する映画会社である東映と東宝を比較する事で、明らかにした一冊でございます。戦前にPCL・JOスタジオ・東宝映画配給の三社と後に東京宝塚劇場が加はつて成立した東宝と、戦後に東横映画・東京映画配給・太泉映画の三社が合併してできた東映。基本的に東宝はプロモーター、東映はクリエイターといふ感じで、東宝は特に主力監督や俳優が「東宝争議」で分離した新東宝に移つてしまつた事もあり、配給網はあるものの肝心の作品が作れない時期があり、一方東映は作品を製作しても配給網に乏しく、ヒットさせる事が難しい状態でした。

     その辺の歴史をコムパクトに述べたあと、二章の「時代劇戦争」で、一時期独り勝ちした東映に対し、黒澤明の登場により息を吹き返す東宝の状況を描きます。
     そして続く第三章では、両社の舵取りを任された二人の大物について述べます。即ち岡田茂(東映)と藤本真澄(東宝)で、かなり長い章になつてゐます。大衆の欲望に忠実だつた前者と、飽くまでも家族全員で鑑賞出来る健康的な映画を目指す後者の対照を示します。ただ東宝は喜劇・文藝の藤本よりもアクション・特撮の田中友幸の方が会社のカラーをはつきり示したのではないかと存じます。

     そして第四章で、漸く1973年の「仁義」「沈没」を取り上げます。この両作品により日本映画の戦後は終焉を迎へたと著者は述べます。私見では、後に与へた影響といふ点では、「仁義なき戦い」の方がイムパクトは強かつたと思ひました。
     戦後邦画界の流れを、東映東宝の二社に絞り記述しましたが、勿論ほかに松竹大映日活があり、単純には述べられぬでせう。ただ、「昔」から「今」への変遷を示すには効果的な手法だつたかも知れません。この両社の戦後を俯瞰するには分かり易い一冊と申せませう。

  • 73年が一つの曲がり角です。確かに。

  • 1973年を「昔」と「今」の境目とさだめ、東映と東宝ふたつの映画会社がたどった栄枯盛衰を追いかける、白熱のノンフィクション。ちょうど同著者『日本の戦争映画』と併読していたのだが、随所にリンクする部分が出てきて、一緒に読めてよかったと思った。

  • ノンフィクション
    映画
    ビジネス

  • スガラジから

    mmsn01-

    【要約】


    【ノート】

  • むかしむかし映画黄金期のことでした。

    映画館の扉が閉まらないほどお客が詰めかけ、面白いように儲かった時代があったんだそうな。
    映画会社はそんな状況にあぐらをかいて大した企業努力もせず、わが世の春を謳歌していました。

    とにかく頭数だけはそろえようとザクのように同じような映画をぽこぽこ量産していたのです。
    似たようなタイトル、変わりばえしないストーリー…
    なにしろ作ってる当人たちもどれがどれだかわからなくなるほどの有り様だったと申します。

    そんな状況にお客はとうとう飽きてみんな映画館に来なくなっちまいましたとさ。ちゃん♪ちゃん♪

    とはいえ、最近の「誰が観るねん⁈」みたいなロクでもない映画よりよっぽどマシですけどね。

  • 東宝vs東映というふたつの映画会社の興亡史というより、時代vs映画だったり、ビジネスvs文化だったり、都会vs地方だったり、製作vs興行だったり、質vs量だったり、巨匠vs新人だったり、さまざまな対立が目まぐるしく攻守を変えながら展開する産業史。一方の強みが、アッと言う間に弱点となり、追いつめられた方の開き直りがアッと言うような逆転を生む、章が移るたびに状況が変化し、そして徐々に徐々に衰退していく映画産業の戦後史を一気に駆け抜ける本です。ふたつの会社、ひとつの業界の浮き沈みがこんなにも激しいのは、やはり、扱っているものがエンターテイメントであり、アートだからでしょうか?1973年公開のそれぞれのヒット作をもじった題名「仁義なき日本沈没」は「血で血を洗う抗争が、やがて日本映画を深く沈めた」という意味を表しているようにも思え、意外にピッタリ!

  • 2013年3月20日、初、並、帯無

  • 戦後の映画会をドキュメンタリータッチで描いています。知っている俳優や監督、映画のタイトルが出てきて親近感があります。

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著者プロフィール

映画史・時代劇研究家。1977年東京都生まれ。日本大学大学院博士後期課程修了。映画界を彩った俳優とスタッフたちのインタビューをライフワークにしている。著書に『時代劇聖地巡礼』(ミシマ社)、『天才 勝新太郎』(文春新書)、『ドラマ「鬼平犯科帳」ができるまで』(文春文庫)、『すべての道は役者に通ず』(小学館)、『時代劇は死なず! 完全版』(河出文庫)、『大河ドラマの黄金時代』(NHK出版新書)、『忠臣蔵入門 映像で読み解く物語の魅力』(角川新書)など多数。

「2023年 『時代劇聖地巡礼 関西ディープ編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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