野生化するイノベーション: 日本経済「失われた20年」を超える (新潮選書)
- 新潮社 (2019年8月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106038457
作品紹介・あらすじ
「米国のマネ」をやめて、成長を取り戻そう。「アメリカのやり方」を真似すれば、日本企業の生産性は向上するはずだ――そんな思い込みが、日本経済をますます悪化させてしまう。米・英・蘭・日で研究を重ねた経営学のトップランナーが、「野生化」という視点から、イノベーションをめぐる誤解や俗説を次々とひっくり返し、日本の成長戦略の抜本的な見直しを提言する。
感想・レビュー・書評
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イノベーション系の本を読み漁ろうとしていて、手に取った本。
「野性化」という比喩的表現が、中々面白くもあり誤解を受ける側面もありそう。
というのも、もともとイノベーションが「(野生の反意語である)飼いならされたもの」だったのかというと少し疑問。
むしろ「野性的」なと表現する方が個人的にはよいような気もする。
(確かに、ヒト・モノ・カネが日本でさらに流動化すると、
イノベーションが破壊的になり、「野性化」するという意図も分からなくはないが…。)
アメリカと日本の社会構造の違いから、両国の環境因子にそもそも違いがあって、
イノベーションの発現しやすさが異なるという著者の指摘はとても興味深かった。
単に、アメリカの猿真似だけではダメだってことでしょうか。
では、どうするの?(特に、個人や企業として、どうするの?)について、
もっと考察してくれれば、より深い本になったような気がする。
(ま、そんな公式染みた方法論はないと思うのですがね。)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者は本書で、「ヒト・モノ・カネといった経営資源の流動性が上がっていくと、イノベーションの破壊的な側面が強くなる(野生化が進む)」、そして日本でも今後イノベーションは野生化していき、飼い慣らすのが難しくなっていく、と書いている。
ここで、イノベーションの「野生化」とは、いったん生まれたら人のコントロールを越えて勝手に広がっていくことや、コントロールしようとすると弱まったり起きにくくなることや、既存の産業を破壊する破壊力を持っていることなどの、イノベーションの特質を喩えたもの。
面白かったのは、日本人ないし日本企業のイノベーション力を検証した部分。集団主義の強さや個人主義の強さでアメリカ人と日本人の間に明確な差は見られないとの研究成果が出ており、また日本人が他国の人と比べて創造性に乏しいということもないという。そんな中で日本企業が「累積的なイノベーションには長けているものの、ラディカルなイノベーションは少ないと言われる」理由は、「日本の産業の新規参入の少なさ」にあり、その原因となっているのが人の流動性の低い戦後の日本の労働環境なのだという。そもそも年功序列・終身雇用が始まったのは「第一次世界大戦と第二次世界大戦との戦間期」で、「当時、熟練した人材が足りなくなって、企業は新卒の学生を雇用し、彼らにトレーニングを施して、優秀な労働力に育てようとし」、「せっかく彼らにトレーニングを提供したとしても、一人前になった途端に転職されては、その投資が無駄になってしま」うので年功序列と終身雇用の制度や慣行が編み出され、今に続いているとのこと。要するに、日本の企業で集団主義的な意志決定や能力形成がなされがちなのは、日本人の特質によるのではなく「日本企業で働く人が直面する」日本固有の制度による、ということなのだ。
だから、日本企業の雇用慣行や労働者社会の流動性を高めれば、ラディカルなイノベーションが起きやすい状況は作り出せるのだが、流動性をあまり高めすぎてしまうと、それはそれで「累積的なイノベーションの水準を下げる」、「手近な果実」を求めて「太い幹を持つイノベーション」が育たなくなる、などの問題を生じさせてしまう。「すでにアメリカでは、最近生み出されているイノベーションの多くは、近視眼的な意志決定の結果、手近な果実を摘み取って生み出されたものではないかという懸念が出始めてい」るのだという。
なお、「アメリカが経営資源の流動性を高めてもやってこられたのは、莫大な国防予算によって基礎研究を支えてきたことや、イノベーションに代替されてしまった従業員を社内に抱える必要がないような仕組みにしてきたことに」よるのだという。戦後の日本にはない、国防関係の莫大な研究費(DARPAの研究資金)がアメリカのイノベーションを下支えしている。軍事技術の開発は無駄でないどころかイノベーションを牽引している、というのは何とも皮肉な話。
いずれも示唆に富んでいて、目から鱗の内容ばかり。イノベーションに関して日本は悲観すべきでもないが、何しろ相手は「野生」なのでその舵取は至極難しい、ということが改めて分かった。
著者は、「イノベーションは、「経済的な価値を生み出す新しいモノゴト」です。経済的な価値が高まったとしても、それで人々が幸せになるかどうかは分かりません。それでも、われわれの社会的な課題を解決するためには、ある程度の経済成長は必要だと思います。経済が成長して、人々が分け合えるパイが増えないと、パイの奪い合いが起きてしまいます。それを政治的に解決するのには、かなりの調整のコストがかかります。だからこそ、イノベーションは社会にとって必要不可欠なものなのです。」とも書いている。経済成長の必要性についても、改めて考えさせられた。 -
面白かった。専門外こそ読んで欲しい。↓も。
『父が娘に語る〜わかりやすい経済の話。』
『新・生産性立国論』
『ルワンダ中央銀行総裁日記』 -
【イノベーションとは目指すものというよりも、あくまでも課題解決の結果です。イノベーションを起こすことが目標になるということ自体、本末転倒ぎみです】(文中より引用)
すっかり巷間に定着した「イノベーション」という言葉。その光と影に焦点を当てつつ、イノベーションの生態について掘り下げた一冊です。著者は、日本人2人目となるシュンペーター賞を受賞した清水洋。
イノベーションという現象が具体的にどういうことなのかを説明するとともに、どういった影響を与えていくのかが非常にわかりやすく示された作品でした。普段何気なく使ってしまう・目にする言葉だからこそ、その実際のところを知ることは有益だなと再確認。
コダックと富士フィルムの話は目からウロコでした☆5つ -
イノベーションとは何か、イノベーションの類型、イノベーションが起こる前提となる社会制度、イノベーションの負の側面、イノベーションをマネジメントすることはできるか、日本の「失われた20年」の原因は何か、日本型経営+人材の流動性の低さとイノベーションの関係等に興味があるならとてもオススメの本
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イノベーションが自由に国境を越えていくという発想は、実に面白い。
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イノベーションの負の面まで明確明瞭に解説してくれている。読んだからと言ってイノベーションをポンポン出せるわけではないが、先々の障害や注意点まで気が回りそう。最後半の規制の話がいちばん印象的。良書。
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<目次>
はじめに 野生化するイノベーション
序章あなたがスレーターだったらなら旅立ちますか
第1章イノベーションとは何か
第2章企業家がなぜ必要なのか
第3章3つの基本ルール
第4章イノベーションをめぐるトレードオフ
第5章イノベーションはマネジメントできるか
第6章成長を停滞させた犯人な誰か
第7章日本人はイノベーションに不向きなのか
第8章閉じ込められるイノベーション
第9章野生化と手近な果実
第10章格差はイノベーションの結果なのか
終章野生化にどう向き合うか
あとがき イノベーションと幸福
p36イノベーションとは、経済的な価値を生む出す新しい
モノゴト
p82知識が、実験や観察によって生みだされるというのは
18世紀に入るまでは宗教の概念があるためふつうでは
なかった、それこそイノベーション
p127トータルエコノミーデーターベース、経済成長の要因を、
労働の投入量、資本の投入量、全要素生産性(tfp)の
3つに分けて考える、さらに労働を質と量で分ける、
(これでイノベーションが起こった状況を把握する)
p225(この本のまとめは)ヒト、モノ、カネといった
経営資源の流動性が上がっていくと、イノベーションの
破壊的な側面が強くなる(野生化)が進む
破壊したいのか、破壊されたのか、代替えされて
しまったのか、イノベーションはデジタルな技術革新にしか
いないのか。。。
野生化する、破壊するのは、経営資源の流動化にある
と書いていあるが、それに加えて情報の流動化も
イノベーションの野生化にかかせないものであろう。
情報こそ流動化しやすいので、イノベーションはもっと
野生化しやすくななるのだ。