世界地図を読み直す:協力と均衡の地政学 (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106038402

感想・レビュー・書評

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  • まず、アカデミックな地政学の本かと言えばそうではない。
    端的に言って、知的な旅行記といった風情。
    具体的には、日本の援助機関のトップとして各国に(やや表敬気味の)出張に行ったときの楽しい思い出話である。
    著者の他の本のような骨太かつややライト寄りな論考を期待して手に取るとちょっと違うな、となるだろう。

    著者は、安倍政権の積極的平和主義構想の思想面でのリーダーのひとりでもあり、したがって日本が世界で評価されるにはこれこれだ、とか、あるいは援助を通じてこんなに評価されている、というエピソードが多い。それが悪いわけではなく、やはり誇らしいものはある。もっとも、こうした国際支援の現場のあの独特の「ノリ」を経験したことのある人なら、海外の日本人への賞賛が多分にリップサービスであることも知っているだろう。

    総じて、例えばなぜロシアと西欧はウクライナを巡ってここまで進退極まるほど対立しているのか、といった地政学的視点を学ぶ本というよりは、将来国際支援や外交、商社のようなクロスボーダービジネスに憧れる若者向けのガイドブックとして読まれるべき本かと思う。

  • JICA ウズベキスタン ザンビア ミャンマー 

  • 著者の北岡伸一さんは東京大学法学部教授、日本政府国連代表部次席代表や国際大学理事長、JICA理事長、政策研究大学院大学客員教授と歴任されており、日本の外交を最もよく知る人の一人である。
    本書は北岡さんの実際に訪れた国での経験をベースに、日本の外交がどうあるべきか、大国とどのように付き合っていくべきなのかを記述している。地政学について造詣が深いわけではない私が読んでも理解しやすく、読みやすい本である。地政学ビギナーが初めに手に取る本として、とっつきやすくていいのではないか。
    外交は二国間で語られることが多い。例えば、日米関係、日中関係、日露関係、日韓関係など。しかし本書では、外交がマルチになってきている今こそ、二国のみに注目するのではなく、その周辺国まで含めて理解することで、日本の国際的な立ち位置を見極めることが外交上重要と説く。

    本書の構成は以下の通り
     序章 自由で開かれたインド太平洋構想――日本の生命線
     第1章 ロシアとその隣国たち――独立心と思慮深さを学ぶ
      ジョージア、アルメニア、ウクライナ、トルコ、フィンランド、バルト三国
     第2章 フロンティアとしてのアフリカ――中国の影と向き合う
      ウガンダ、アルジェリア、南スーダン、エジプト、ザンビア、マラウイ
     第3章 遠くて近い中南米――絆を強化するために
      ブラジル、コロンビア
     第4章 「海洋の自由」と南太平洋――親密な関係を維持できるか
      パプア・ニューギニア、フィジー、サモア
     第5章 揺れるアジア――独裁と民主主義の狭間で
      ミャンマー、ベトナム、東ティモール、タジキスタン
     終章 世界地図の中を生きる日本人

    日本の脅威となるロシア、中国を中心に、彼らの影響力や脅威が世界でどのように効いているのかを書き出している。その上で、日本の立ち振る舞いがどうあるべか、を意見を述べている。
    著者の見識は的確で、例えば「ロシアは安全保障に敏感な国、四方から包囲されているという被害意識が強い」という認識は、ロシア隣国の国民として必ず持っておかないといけないと思う。まさにそこを見誤ってしまったのがウクライナであった(西側諸国が煽ったのもあるが)。大国と隣り合う国の安全を保つためには、相手のことを正しく理解して、逆鱗に触れない立ち回りが求められる。

    私としては、日本という資源を持たない、国土も狭い小国が生き延びていく生命線は、日本を支持してくれる国を増やすことだと思っている。日本という国を理解して友好的な関係を築いてくれる人材を世界中に作ることが、広義での安全保障につながる、という著者の意見は完全に賛同する。領土問題など、直接的な利害関係を持っている国との友好関係を作るのは絶妙な距離感が必要であるが、第三国と友好関係を作っておくことは、国際社会の中でのプレゼンスを高め、これが日本という国を守ることにつながると思う。
    日本国内では海外にお金を使いすぎ、という批判が出ることもあるが、これは保険のようなものなので、予算の中で一定の支出を国外に使うことは必須と思う。これまでに日本が築いた日本の信用を落とさないような振る舞いを今後も政府には期待したい、国民も理解すべきかと思う。

  • しばらく人気で、2種の図書館でなかな空きに出くわさなかった本。
    著者への興味から、読んでみたかったもの。
    真面目な話が、経験や史実を基にして軽めのタッチで書かれているもので、この本の雰囲気にしては、読みやすかった。

    一部、JICAの宣伝??というような面もあったが、 全体的には、複数の立場の視点から、著者が国際情勢をどう思うか、ということがまとめられていて、面白かった。
    留学生受け入れの大切さ、外交力を高めるための語学力の必要性、中南米と日本研究における学術交流の可能性、~スタンの中央アジアの国々の成り立ちが国によって実はかなり違うこと(カザフだけペルシャ系とか!)、国土が山で分断されてしまう国の統治の困難さ、などが興味深かったり、対ロシアの考え方含め、今のウクライナ情勢とほぼ同様なことがこの時点ですでに生々しく語られており、改めて、この話は今に始まったことではないのだなぁと思ったり。

    こういうのを読んでいると、ホント、組織トップというのは、ポリシーがあって「おしゃべり」が上手な人が向いているのだなぁと思う。
    私にゃ向いていない感満載。

  • 2019.07―読了

  • ▼【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 令和4年のGWに部屋にある本を全て整理することにしました、この本は読みかけの本でした。読むことでためになるポイントはあるとは思いますが、部屋の整理を優先することにしました。いずれ読む時間が取れれば嬉しく思っています。

    評価は星一つとなっておりますが、内容に問題があるのではなく、時間が取れず読了できなかったためにこの評価になっています。

    2022年5月2日作成

  • JICAの自画自賛。本当に評価されてるか甚だ疑問。

  • 平成30年間は日本停滞・衰退の時代
    GDP世界シェアは18%('94)→6%('17)
    なぜか? 世界史の視点で探求する
    1.フィンランド大国の狭間で過酷な運命を受け入れ
    '40年ソ連侵攻「冬戦争」 '41バルバロッサ作戦に追随
    '43単独不講和承認対独  '44対ソ降伏 賠償対独参戦
    マンネルハイム大統領
     余力を残して和平協定・譲歩
     余力をなくすと完全な屈服・亡国
    2.戦前日本軍の教育 視野狭窄
     軍人に社会科学的なものの見方
     視野の広い世界観
     →世界のリーダー並みの人材を育てられなかった
     ⇒これは今日的課題である
      トップリーダーの貧困
    *優れた見識の著者だが、本書は散漫の印象
     テーマが大きすぎてまとまりが弱い

  • 著者がJICA理事長としてどちらかと言うと普段からニュースで毎日聞くような国以外のところへ行き、大統領などと会談したりしたことを通じて、今後のそれらの国との交流のあり方や、振り返って日本の在り方はどうかと言うことなどを考えている。
    JICAが何をしているのかもわかる。
    支援競争や、味方を作るというよりは、支援や交流を通じて、価値観を同じくする国が、独立を守って健全に発展していくことが、長期的に日本の利益になる、だから、大国との関係だけでなく、そういうところへの目配りも忘れないようにしないといけない。

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著者プロフィール

国際協力機構(JICA)特別顧問、東京大学名誉教授、立教大学名誉教授

「2023年 『日本陸軍と大陸政策 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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