マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」 (新潮選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106038327

感想・レビュー・書評

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  • 主にサッチャーの外交について書かれた第6章 「戦友たち」の最後の方に「1980年代、サッチャーとともに国際政治の激動を経験した指導者のほとんどは鬼籍に入り、今やその時代のことを語れるのはゴルバチョフとワレサくらいになってしまった。」と書いてあってのけぞりました。
    サッチャーと同時代に日本で長期政権を実現した中曽根元首相はまだご存命です(2018年12月現在)。
    それだけでなく、全章を通じて中曽根氏の名前が出てくるのはサミットの写真のキャプションだけです。

    日本の読者として中曽根氏とサッチャー氏の関係がどうだったのか知りたく思うのは当然ですし、中曽根政権下で若手官僚だったはずの著者にはそれが書けるはずです。
    ここまで何も書かれていないと、私怨でもあるのかと勘ぐってしまいます。また他の事柄に関しても「書かない権利」を行使しているのでは、と内容に疑念を抱いてしまいます。

    せっかく日本の読者にもわかりやすくサッチャー氏の業績を書かれているだけにもったいないと思います。

  • イギリスに住んでいて驚いたことの一つは、イギリス人は社会と公共のあらゆることをサッチャーと絡めて話そうとすることであった。(サッチャーのせいでこうなったんだ、と、たいていは悪い意味である)
    そんな具合でサッチャーについて冷静に議論するのはイギリス国内では難しいのだが、この本は大変バランスが取れていると感じた。サッチャーに対してポジティブな評価をくださない筆者だからこその「筆者が何よりも感銘を受けるのは、政治家としての知的真摯さである」の一文は重みがあった。
    強いて言えば、サッチャーとコールやミッテランといった他の政治家との関係性を男女という文脈で論じがちなのはやや気になったが、全体への評価を揺るがすものではないと思う。
    それにしても、大国が没落した後の舵取りは難しい。そんな1980年代のイギリスに現れたのがサッチャーであったが、日本はどうだろうか、とつい考えてしまう。2020年代のイギリスと日本の政治を考えるうえでもとても示唆を与えてくれる一冊だった。

  • 国立女性教育会館 女性教育情報センターOPACへ→https://winet2.nwec.go.jp/bunken/opac_link/bibid/BB11423932

  • 現駐米大使の外交官である著者によるサッチャー元英首相の評伝。思想的確信や知的真摯さなどに特徴付けられるサッチャーの政治変革におけるリーダーシップを考察。
    人間的には難ありとも思われるサッチャーだが、政治家としての資質は傑出してたと再認識した。
    「国家間の関係も結局は人間の営為であり、外交の現場で政治指導者間のケミストリーがその動向に有形、無形の影響を与え得る」という熟達の外交官である著者の経験に基づく指摘が、「ケミストリー」という表現も含めて、興味深かった。

  • 鉄の女
    このニックネームを付けたのは、ソ連なんだって。
    1976年にロンドンで行った演説でソ連を批判して、その強硬な内容をソ連赤軍の機関紙「レッド・スター」批判した論説の中で始めて使われたそうだ。
    元々、外交的には素人で外務省などのやり方とは異なり、頑固一徹に自分の主張を通そうとして結構煙たがられていたらしい。
    出来る人は、難しいことを分かり易く説明できるので、この人はダメだということ。
    専門書なら一定の基礎知識を有していることが前提なので、それをいちいち説明しないのはわかるが、これは一般書。

  • サッチャーほど毀誉褒貶の激しい首相は少ないであろう。それは、彼女が初の英国女性首相であるためではなく、その妥協を知らない交渉スタイル、そして「鉄の女」と称されるほどの強い信念を、内政、外交(軍事含む)において臆することなく発揮したことによる。

    本書において、英国の1970年代の停滞期から脱する過程、そして望まざる退陣までの動きが、英国の政治思潮や周辺諸国との歴史的経緯を都度概説を加えながら叙述されている。

    彼女の信念は「人々に(社会扶助が)全ての国家によって実施可能だという考え方を植え付ければ、人間性の最も枢要な構成要素である道徳的責任を人々から奪い取る(p.34)」という演説の一節に顕著に現れており、(彼女の信仰する)メソジストの教え、そして食料品店を営む父との”life over the shop”から体得した勤勉さが浮かび上がってくる。

    彼女は、外交や軍事を不得手としたが、フォークランド戦争を勝利に導き、また冷戦終結への端緒を開いた、優れた指導者であった。

    しかし、後年は、その妥協なき姿勢によって協力者を失い、政権を追われることとなった。

    その頃英国が抱えていた懸案の一つが、単一欧州議定書への交渉の中での欧州為替相場メカニズム(ERM)への参加であり、通貨同盟への参加への彼女の強い拒否は、英国除く欧州諸国にとって、英国を厭わしいたらしめていた。それは、単にERMのみならず、拠出金返還を強く要求していたこともあって、なお一層倦怠感を欧州に持たせてしまっていた。

    これが、今のBrexitの伏線となったかは、議論が分かれるところだが、少なくともBrexitに至る英国の欧州共同体に対するスタンスは、決して(英国除く)欧州諸国よりは冷笑的で、その理念に対する熱意にかけていたことがよく分かったのは、収穫であった。

  • ・サッチャーは1925年、キリスト教徒の父が営む食料品店で生まれ、幼い頃から店を手伝った。信仰に明け暮れる幼少時代を過ごし、彼女の政治信念の土台を築いた。

    ・1975年に保守党党首となったサッチャーは、政治と宗教の関係を明確な形で訴え始める。
    例えば、この世は個人が神の恩寵にどう応えるかで決まり、政治の重要性は神と個人の関係に比べれば二義的なもの。政治があらゆる社会問題を解決できるという考え方は幻想で、個人の神に対する責任を形骸化しかねない
    と指摘した。

    ・当時のイギリスの病弊の根底にあるのは、社会主義思想の蔓延によって、人々が国家への依存を深めたことだと考えた。
    こうした精神構造を改め、経済・社会再生のための道徳的な処方箋が、個人の経済的自由を最大化し、国家の介入を最小化する「サッチャリズム」とした。

    ・女性の地位向上には前向きだったが、「家庭における女性の伝統的な役割」を放棄したキャリア・ウーマンは嫌った。
    実際、仕事上の同僚は男性が中心で、政権にあった間、閣僚に登用された女性は1人だけ。

    ・現実主義者のサッチャーと、楽観主義者のレーガン米大統領は親密な関係を築いた。
    性格の異なる2人が親しくなれたのは、共に個人の自由の回復を目指し、共に政治的なアウトサイダーだったから。
    B級俳優から大統領となったレーガンと、食料品店の娘から女性首相となったサッチャーは、政治的道のりの厳しさについて強い共感を抱いていた。

  • ・サッチャリズムが経済政策ではなく道徳的な取組であったこと、宗教を絡めた上で個人の経済的自由の追求を肯定したこと、精神構造を変えようとしたことが新しい学び

  • 東2法経図・6F開架 289.3A/Th1t//K

  • 20世紀を代表する政治家、「鉄の女」マーガレット・サッチャー。英国初の女性首相は、なぜ彼女は閉塞感に包まれていた社会の変革に成功したのか。彼女の政治思想、選挙戦術などを解き明かす。


    第1章 カエサルのもの、神のもの
    第2章 女であること
    第3章 偶然の指導者
    第4章 戦う女王
    第5章 内なる敵
    第6章 戦友たち
    第7章 欧州の桎梏
    第8章 落日
    終章 余光

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