座談の思想 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037368

作品紹介・あらすじ

座談には、大切な思想が隠されている――。話し言葉の豊かさや情緒によって、座談はときに著作よりも雄弁にその人の思想の本質をあらわす。座談の場で、相手の発言に誘発され生じる着想や反発、沈黙――その一瞬に、文章にはあらわれない思想の幅や誠実さが浮かび上がる。桑原武夫、柳田国男、丸山眞男らの膨大な対話を掘り起こし、近代日本思想史を捉え直す画期的評論。

感想・レビュー・書評

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  • 対談形式の書籍を読んでも、なんとなく"横で頷いているだけ"で、頭にスッと入ってこないことが多いと思っていた。本書をどこで知ったのかは忘れたが、対談本を読みこなすヒントが得られればと読んでみた。
    まず、座談から思想を読み取る、というアイデアが面白い。これこそ、気付きそうで気付かなかった。著者によれば、論文など書かれているものより、語られたものの方が、思わぬ深い思想が表れることがあるという。語っている本人たちにも思わぬものがあることもある。
    良き座談とは、端的にいうと「誠実さとそこから生まれる相互の信頼」。本書のはじめに、アメリカ人による日本の座談の批判が載っているが、ディベート好きな人々の、論争こそに意味があるみたいな構えだと、日本人の座談は理解出来ないだろう、と感じた。論破なんか、もってのほか。
    本書はタイトル通り、日本近代思想史としても、また読み方によっては、コミュニケーション論としても読めそう。1冊で2度美味しい。これから読む対談本にも参考になりそう。

  • ふむ

  • 哲学

  • 誰かが「よい」と言っていたから図書館でリクエストをしていて、届いた時にはなにが「よい」と言われていたか忘れており、案の定、読んでもよく分からなかった…。残念。

  •  菊池寛、丸山眞男らの座談から日本の座談史を振り返りながら、座談の良さとは何かを語る。

     これはなかなか面白い試み。
     中江兆民の「三酔人経綸問答」での擬似的な座談を皮切りに、明治から昭和の実際の座談会の中の対話の抜粋を数多く載せ、座談の良さとは何か、良い座談の条件は何かを伝えていく。
     ネット社会の現在は座談にふれる機会が爆発的に増えて、この本の重要性も増していると思われる。

  • 年明けに、いちど図書館で借りたものの、ほとんど読めないままいったん返し、予約待ちをしてまた借りてきた(私の後ろにもまだ待ってる人が)。

    複数の人が寄って交わす「座談」というものは、その場を同じくする人たちの応答によって、新しいアイデアをうんだり、考え詰めて書かれた文章とは違って、その人の考えの幅や、相手に向き合う誠実さをみせてくれもする。

    そんな「座談」が、日本の近代の思想空間でどんな位置をしめてきたか、中江兆民の『三酔人経綸問答』を参照しながら、著者は「結論はなくてもいい」という、未完ゆえにこそ未来に開かれている座談の特質を示す。

    そして、『文藝春秋』の誌面で、編集者として多くの座談会を企画した菊池寛の試みから、「聞き手・司会が出席者を尊重し、かつ出席者同士が尊重する関係にあること」(p.127)が優れた座談、良い座談をうむという。

    ▼有名無名を問わず、その人物からしか聞けない言葉を引き出すこと、さらにそれらの言葉に誘発されて、座を同じくする人士から思いがけない話が聞けること──これが本来の菊池が想定する座談の在り方であった。(pp.124-125)

    本のうしろ三分の二は、「座談」というものを考えるときに、著者がはずせないと考える人たち──桑原武夫、柳田国男と石田英一郎、中野重治、丸山眞男、竹内好の姿が描かれる。私が、多少は本を読んだことのある人も含まれている。

    が、著者がいうように、「本」ではなくて、この人たちの「座談」のもようを読むと、(たとえそれが本人や編集者の校正を経て誌面に掲載されるものであっても)「座談にこそ、その人の思想の本質があらわれる」というのは確かにそうかもと思えた。

    桑原の加わった座談の「見晴らしのよさ」、桑原の持ちえた「時流から離れた視座」。決定的に異なる位置に立ちながら、双方の信頼によって思想の往還をなしえた柳田と石田。自分の感情に忠実で、しかも自分の発言について後になっても長く考え続けた中野。「対立点はあったほうがいい」と、異なる意見をまとめようとはしなかった丸山。ものごとに素早く対応するよりも、時間をかけて問題を考えようとした竹内の持続力。

    著者は、最後に結論めいたことをほんの少しだけ書いている。
    ▼本書で座談会の群像として戦後を中心に取り上げた人物は、桑原武夫をはじめ、いずれも誠実さという点については人後に落ちない人々である。そしてまた、戦前戦中戦後と座談以外の場面にあっても時流におもねらない仕事を重ねてきた人々でもある。戦後の座談会で、それが何故、優れた座談となっているかを考える時、そこに登場する人物の戦中戦後を貫く誠実さ、そして座談の中で取り結ばれる相互信頼に着目すれば、そこにひとつの基準点がみえてくるのではないか。(p.310)

    私のなかでは『三酔人経綸問答』というと、内田義彦の『作品としての社会科学』が浮かぶ。学生の頃に何度も読んだ内田本を、久しぶりにまた読みたくなった。そして、中江兆民といえば『TN君の伝記』も。

    この本に出てくるのが「おっさん」ばかりなのは、扱った時代のせいもあるのだろう。宇野千代がちらっと出てきたり、伊藤野枝についておっさんたちが語っている場面はちらっとあるが、「座談の思想」を考えるときにおばちゃんやねえちゃんたちが入ってくるのは、まだこれからなのかもしれない。

    (5/20了)

    *文中に引用されていて、読んでみたいと思った本
     『中江兆民の世界』
     『近代の超克』(これは昔買ったけど、読みきってない)
     『人間史観 桑原武夫対談集』
     『中江兆民の研究』
     『石田英一郎対談集』
     『青い月曜日』
     『民情一新』
     『丸山眞男手帖 56  「楽しき会」の記録』
     『転形期 戦後日記抄』

    *もう少し知りたい
    「白虹事件(はっこうじけん)」…1918年、大阪朝日新聞に対する言論弾圧事件。記事にあった「白虹日を貫けり」が不敬だとされたという。このとき丸山眞男の父・丸山幹治も長谷川如是閑などと共に退社。山崎ナオコーラの『昼田とハッコウ』の「白虹」は、別にこういう事件とは関係ないのかどうかと考える。

  • 鶴見太郎『座談の思想』新潮社、読了。「思想の本質は座談にあらわれる」(帯)。ソクラテスの対話がそうであったように、座談は自らが意図せぬ真実を露わにする。中江兆民から丸山眞男に至るまで、本書は座談を切り口に近代日本思想史を読み解く意欲作。http://www.shinchosha.co.jp/book/603736/

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著者プロフィール

東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了、日本学術振興会海外特別研究員(ニューヨーク大学)。専攻は歴史社会学、ロシア・東欧ユダヤ史、パレスチナ問題。著作に『ロシア・シオニズムの想像力――ユダヤ人・帝国・パレスチナ』(東京大学出版会、2012年)、「ダニエル・パスマニク――白系ロシアのシオニスト、あるいは二重ナショナリスト」『思想』(2013年、第10号)など。

「2014年 『ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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