光の場、電子の海 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036224

作品紹介・あらすじ

量子場理論-それは量子力学の完成形である。物理学専攻の大学院生にとってさえ理解が容易ではないこの超難解な理論を、本書はあくまでも一般読者のために解説してみせる。20世紀の天才科学者たちは、いかにして「物質とは何か」という謎を解き明かしたのか?その思考の筋道が文系人間にも理解できる画期的な一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 「場」の理論がようやく(少し)腑に落ちた。序盤の三段跳びが難しく、理解しがたいのが残念だ。思考の軌跡をたどるのが常套手段だとしても、それは天才の発想を常人がそれなりに想像できるからであって、それを超えてしまうとお手上げ状態になってしまう。

  • https://muranaga.hatenablog.com/entry/20120723/p1

    ヒッグス粒子の発見と言っているが、実は「素粒子は粒子ではない。」というのが現代物理学の考え方である。では何なのか?「場である。」現実世界を扱う古典物理学の考え方に慣れた頭にはなかなか理解できないが、原論文から20世紀の物理学者の仮説・検証の奮闘の歴史を読み解く中で、この概念を解説する。

    量子力学から一歩進んだ量子場の理論への架け橋となる考え方を示していると言える。電子の粒子としての振舞いを扱う「粒子の量子論」が量子力学。電子の変動と光の相互作用・電磁波を場として扱う「量子場の理論」。後者が前者の上位概念となる。

    ○量子場の理論
    ・拡がりを持つもの(弦、膜、媒質など)が量子論的な振動を行うと、粒子・波動の二重性を示す現象が生じる --- これが量子場の理論の基本的な発想である。(P.158)
    ・粒子概念を捨て、場の概念を採用することによって、初めて相対論的な量子条件が得られる。(P.160)
    ・ディラックは波動関数は観測可能な物理的実体ではなく、電子の状態を規定するものとみなしていた。つまり電子という粒子の存在を理論の前提としている。これに対してパウリは「電子は場の振動が粒子のように振舞うこと」であり、主役は場であり、電子はあくまで派生物となる。(P.163-P.165)
    ・場はmc2というエネルギーのまとまりが整数個存在する状態、そこでは電子の状態は粒子の数ではなく、mc2というエネルギーのまとまりが何個あるかを意味している。(P.166)
    ・電子の実体は光と同様、「場の振動」である。光と違って「質量」を持っているため静止することが可能なので、いかにも「粒子のように振舞う」。(P.167-P.168)
    ・電子が静止できるのは質量を持つため場が振動し続けられるから。電子が完全に静止しているときには場の振動が同じになるので、どこで振動が起きているかという場所を特定することができず、電子の位置は完全に不確定になる。これが「不確定原理」の起源である。(P.166)

    ○素粒子は粒子ではない
    ・量子場の理論は量子力学に対する上位概念であり、量子力学は量子場の理論における粒子的な振舞いを粒子そのもので近似した理論に過ぎない。(P.175)
    ・この量子場の理論に基づく包括的な理論の枠組みが「標準模型」である。(P.202)
    ・量子場を伝わる波動は、電子や光子と同じくエネルギーがとびとびの値となって、あたかも空間を飛び回る粒子のように振舞う。これが「素粒子(elementary particle)」と呼ばれてきた。(P.203)
    ・素粒子はビリヤード玉のような粒子ではない。あくまで量子場が粒子のように振舞っているものである。(P.203)
    ・素粒子の種類ごとに量子場が存在しており、この場があらゆる地点で量子論的にゆらいでいる結果として、エネルギーがとびとびの値になる。こうしたとびとびのエネルギーの一つのまとまりが素粒子なのである。(P.203)

    ○標準模型
    ・ヤン=ミルズ理論に基づく素粒子の標準模型では、素粒子が変転しながら相互作用する過程を量子場概念によって統一的に扱う。(P.214)
    ・ヤン=ミルズ理論は自然界を記述する上で困難があったが、「ゲージ対称性の破れ」と「閉じ込め」により解決された。(P.216)
    ・ゲージ対称性の破れは宇宙誕生の過程でヒッグス場が宇宙全体にわたって凝結した際に、特定の方向を向いて固まってしまったことを指す。この影響を受けて多くの素粒子はその相互作用する場が偏ってしまう。陽子方向と中性子方向で振動に差が出て、両者が混じり合うことがなくなった。(P.217)
    ・一方、ゲージ対称性が破れていない場合は、ゲージ場の相互作用は狭い範囲に閉じこまれて外部から観測できなくなる。陽子・中性子・中間子は実は素粒子ではなく、ゲージ場の相互作用が閉じこまれた領域なのである。(P.218)
    ・陽子・中性子・中間子はクォークの結合したものである。ヤン=ミルズ理論で記述される相互作用は近いところで弱く、遠いところで強くなる性質があるため、クォークは距離が離れるほど強度を増していくゲージ場に周囲を覆われるになる。しかしクォークが集まるとゲージ場の相互作用が打ち消しあって力は弱まり、その結果、3つのクォークがまるでゲージ場が作る繭玉の中に閉じこまれたような状態になる。この繭玉が陽子や中性子・中間子の正体である。(P.219)

    ・重力作用以外のほとんどの物理現象は、ヤン=ミルズ理論という量子場理論で統一的に記述することが可能だと考えられている。ここに含まれるのは、クォーク場、レプトン場(電子、ニュートリノ、μ粒子などの場)、ヒッグス場、ゲージ場である。クォークとレプトンは粒子の生成消滅には反粒子がペアになることが必要であり、簡単に個数を増減することができないため、いかにも粒子のように振舞って、物質を形作る構成要素となる。(P.220)
    ・ゲージ場は大きく2種類に分かれる。一つはクォークとだけ相互作用するものでゲージ対称性は破れておらず、クォークと自分自身を繭玉に閉じ込めて外部に出さない。もう一つはクォーク・レプトン・ヒッグスいずれとも相互作用するもので、ゲージ対称性が破れているため、閉じ込めは起きない。対称性の破れに伴い、ゲージ粒子は重い粒子(Z粒子・W粒子)と質量のない粒子の2タイプに分かれるが、後者は実は光子そのものである。(P.220)

    ○量子場理論の世界像
    ・物質を単純な要素に分解・還元していくかつての理論では、空間を動き回る小さな粒子が存在し、それが互いに力を及ぼしながらくっついて物質を構成する。この機械的な世界像には、空間を満たす場が波動を伝えるというイメージが欠落している。
    ・一方、量子場理論は「空間を運動する小さな粒子」も「空虚な空間」も仮定しない。あらゆる物理現象が「場」から生起する。ニュートン力学で別個の概念として扱われていた空間-時間-物質-力が量子場という一つの概念に集約されている。(P.221-P.222)
    ・量子場の最大の特徴は、振動が起きるスペースとして、空間や時間とは別の次元を内包している点である。量子場の状態は、量子論的なq数で表される。値が確定しないq数の特性に従って、量子場は振動スペース内部に広がり、とびとびのパターンを持つ定在波となる。こうしたパターンの離散性が、量子場に粒子的な性格をもたらしている。(P.223)
    ・この振動スペースが果たして現実的なものか、それとも理論の記述に現れるだけの数学的な虚構なのかは、今の時点では何とも言えない。もし実在するとなると、われわれが3次元の空間・1次元の時間として認識しているものは、無数の次元が集まった超高次元世界である。現実の複雑さは、膨大な次元数を持つ世界のどの部分次元で生起するかに依存する。素粒子論は世界を単純な要素に還元する理論ではなく、実はまったく逆なのである。(P.224)

    <履歴>
    2008.11.27:読了
    2012.7.22:再読(メモ作成)

  • ☆シュレーディンガー方程式の導入についてわかりやすく書いてある。

  • 180818 中央図書館 ディラックとパウリの果たした役割が大きい、ということか。

  • 著者の努力と物理学に対する真摯さが伝わってきます。

  • 粒子から場の理論への発展史。それぞれの学者の思考の跡を辿りながら、その卓越性、限界を鮮やかに描いてくれている。巻末に原著論文一覧が掲げられているのが、すごい。今まで想像の域を出なかった理論物理学のあり様が初めて分かった感じがする。見通しがついたのが楽しかった。数式の意味は大学教養レベルの物理的な知識がないと何が書いてあるかすら分からないでしょうが。

  • 著者は東大で物理の博士号を取った後、非常勤講師などをしながら本を書いている方。科学哲学や科学史などで研究をしているそうである。本書は物理の専門知識のない人向けに量子場理論をわかりやすく解説することを試みたとのこと。量子力学から場の量子論、そして標準模型、超弦理論まで、歴史的経緯を細かく交え解説しています。

    量子力学史としてはおもしろかったのですが、肝心の場の量子論は難しくてなんだかよくわかりませんでした。あと、縦書きの文書に混じった数式は読みにくい!縦書きで書いて欲しかった。しかしながら、量子場の理論では、"世界の見え方は、空虚な空間内部を原子が運動するという19世紀的なものとは全く異なってくる”そうで、もっと知りたい、と非常に興味を持ちました。勉強していきたいものです。

    ”現在でも、一般の人は、19世紀的な原子論とそれほど変わらない世界像を持っているだろう”とのことですが、そのとおりでしょうね。私もそうです。さすがに電子などがボールのような単純な粒子のようなものとは思っていませんが、それでも空間の中になにかがある、というイメージを持っています。しかしながら、量子場の理論では、”空虚な空間すら前提としてない”そうです。量子場が空間的な広がりも作り出すそうです。なんだかよくわかりませんが、おもしろそうです。こういう興味を喚起する副読本、重要ですね。

  • 原子、光、波動、電子、量子場といったキーワードを追って20世紀物理学の発展を辿る。沢山の物理学者が出てくる。中でも自分はアインシュタインとシュレーディンガーが好きである。20世紀の大切な到達点である標準理論には根拠のない仮定がいくつも含まれている。究極理論の目指す場所は遥かに遠くにある。それにしても数学や物理は社会常識と時に激しく軋轢を生み、学者仲間からも攻撃され、ボルツマンのように自ら命を絶つヒトもいた。なんと過酷な稼業だろうか。紛れもなく神ではなく人間の為せる業だ。

  • 物理学者の皆さんには易しい数式なんだろうけど、サッパリ意味不明。でも、文章やイメージでガンバって現代物理学を説明してくれる大変な名著だと思う!

  • 場の量子論、というものに少しでも近づきたいと思って。求めていた理論に手が届くかもしれないと思っていたがやっぱりちょっと違っていた。量子論の本はこのほかにも何冊か読んだけれど、わかりやすさではこの本がよいかな。「高校生でもわかるシュレーディンガー方程式」は高校生だったころのワタシじゃ無理だと確信した。吉田武氏の「虚数の情緒」と言う分厚い本の最後のほうの量子論の解説もよかった。もちろん理解できたとはまったく思わないけれど。

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著者プロフィール

1956年三重県生まれ。大阪大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専攻は、素粒子論(量子色力学)。東海大学と明海大学での勤務を経て、現在、サイエンスライター。 著書に、『時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」』(講談社ブルーバックス、2020)、『量子論はなぜわかりにくいのか 「粒子と波動の二重性」の謎を解く』(技術評論社、2017)他。

「2020年 『談 no.117』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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