戦後日本経済史 (新潮選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106035968

作品紹介・あらすじ

奇跡的な高度成長を成し遂げ、石油ショックにも対応できた日本が、1990年代以降のグローバル化とITの活用に立ち遅れているのはなぜか?それは、第2次大戦中に構築された「戦時経済体制」が、現在も強固に継続しているからだ。「戦後は戦時と断絶された時代」という常識を否定し、「日本の戦後は戦時体制の上に築かれた」との新しい歴史観を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • ・仮にあなたが、高校卒の銀行員だったとしよう。出向先の地方銀行で定年を迎えようとしていた矢先に、中堅商社の社長になっている昔の上司から声がかかり、その会社に就職することができた。早朝から深夜まで粉骨砕身で働き続けたのが認められ、専務にまで取り立てられた。
    あるとき、社長が得体のしれない人物を連れてきた。会社の役員にするのだという。そして、その人物が手掛けている得体の知れない事業をあなたが担当するよう命じられた。あなたなら、それを断れるだろうか?(イトマン事件)

    ・なぜ山一だけが破綻したのか。営業特金(法人の資金を一任勘定で預かり、利回りを保証する。自由に売買できるので手数料は稼ぎ放題だった。)を行っていたのは山一だけではない。バブル崩壊によって巨額の損失が発生したことも各社共通の事情である。違ったのは、それへの対処法だ。
    原理的には、
    ①顧客先企業に損を含めて引き取ってもらう。
    ②顧客先企業に引き取ってもらうが、損失は証券会社が補てんする(法で禁じられてからは、訴訟を起こしてもらって裁判所主導で和解する形でこれを行った)。
    ③証券会社が引き取り、損失を償却する。
    ④引き取った後に簿外処理して隠蔽する。
    事が考えられる。大まかに言えば、野村証券は①を、大和と日興は②を中心として解消した。山一だけが④を選択したのである。つまり、各社とも同じ問題に直面し、山一以外の会社は何とかそれを表面化させて解消した。山一だけが、ひたすら隠蔽する事を選択したのである。これは、「経営不在」以外の何物でもない。

    ・集中排除法は当初325社を分割の対象として指定していたにも関わらず、実際に分割されたのは日本製鐵、三菱重工業、大日本麦酒、王子製紙などの10数社にとどまった。しかも、分割された企業のほとんどがその後合併して復活した。
    しばしば、「何がなされたか」より「何がなされなかったか」の方が重要である。とくに重要なのは、銀行業に対して集中排除法が適用されなかったことだ。戦後の日本の企業が、銀行を中心とした企業グループを形成したことはよく知られているが、これは、戦時中に作られた仕組みだった。また、中央省庁、マスメディア、教育制度、土地制度なども戦時体制が戦後に残った。そしてこれは戦前から継続されたものでは無い。だから高度成長は一般に信じられているように、戦後の経済民主化改革によってもたらされたのではないのだ。そしてこの戦中体制によって石油ショックへうまく対応できた(企業ごとの労組で賃金上昇圧力を抑えられた)事で、戦中体制が長く維持され、バブルで力尽きた。しかし、日本式経営と呼ばれるものの中に根強くその考えは残り、組織体は変革されていない。

  • 再読中

  • 意外なこと、知らなかったことも多く、面白く読めた。

  • 戦後に、B円が流通することを阻止した。B円はごく一部と沖縄で流通した。
    銀行に対しては、集中排除法の適用がなく、銀行を中心にした企業グループが残った。
    アメリカの猟官制の弊害を排除するため、公務員の職階性、人事院設置などが採用された。
    シャウプ勧告で直接税中心の税体系を作った。戦前は間接税を中心とするもの。シャウプ勧告より前に、40年度税制改革で法人税親切、源泉税制度ができた=戦費調達のため。

    財政投融資はうまくできている。一般会計の負担がない。国会の承認なしに融資ができる。
    高度成長は、外需依存ではなく国内市場の拡大。
    比較優位があった繊維産業ではなく、重工業に力を入れた先見の明のおかげ。耐久消費財の需要は所得弾力性が高く、お互いを高める高度成長になりやすい。繊維や食品とは違う展開になる。
    戦前の世界企業は鐘ヶ淵紡績。戦後は政府の規制と保護によって鉄鋼自動車電機が成長した。

    安保闘争、バブル、郵政民営化、はいずれも根拠なき熱狂。
    労使協調路線は日本型企業の本質。戦後の経営者は内部昇進者であり、経営者と労働者が未分離、企業内組合。
    法人税課税の退職給与引当金と社宅の建設費によって、正社員を増やすことの促進が働いた。

    戦後は、額面発行が主だった。企業は銀行にたよった。
    株式会社は利益よりも拡大を求める組織になった。
    日本列島改造論が地価上昇の原因ではない。その前から工業化と都市化により上昇していた。

    田中角栄による2兆円減税。給与所得控除を大幅に増やした。社会福祉元年。
    予算書は、対数表の次に誤植が少ない書籍。

    欧米諸国では物価スライド条項を含む賃金協定が一般的=インフレなら自動的に賃金が上昇する。不況でも同じ。これがスタグフレーション。
    日本では、企業内組合のために、不況時に賃金上昇を抑えることができた。石油ショックの時にいち早く乗り切れた一因。
    田中角栄のときの道路整備特定財源制度と給与所得控除拡大は日本経済に大きな影響があった。

    戦時経済から始まった農地解放、財閥解体、借地借家法は資産家を直撃し、平等な社会づくりに寄与した。

  • 占領期の経済政策から高度経済成長、バブル、金融機関の破綻までの戦後日本経済史を、戦時経済体制との連続性という観点から解説する本
    筆者の個人的体験なども交えられていて読みやすい

  • おもしろい。
    日本の戦後経済は終戦後に形成されたのでなく、戦時経済の延長でしかないという。大蔵省に勤務していた経歴をもつ筆者ならではの分析や意見、そして自己の体験談も踏まえた熱い一冊。
    1945年8月15日。第二次世界大戦が終わった。
    その後、10日あまりで軍需省は商工省に名を変えた。
    そして、焦土からの復興。
    日本の行動経済成長がはじまる。
    そして突然訪れた石油ショック。
    やがてバブルになり、土地は使うもの、住むものから、投機の対象になった。
    バブルが崩壊し、企業の不祥事が次々と明るみに出る。
    大蔵省のスキャンダルや、金融危機が訪れる。
    現在、バブルが懐かしいなどという人もいるが、バブルのために銀行の破綻なども起こり、そのツケは国民が支払ったのだ。
    日本の経済は戦時中の、国家のために一丸となって戦うという姿勢を崩していない。当時の体制がそのまま生き延びている。

  • 日本経済の行き詰まりが、なぜ起こっているのか。その理由として、戦時体制が戦後も継続していることを筆者は指摘する。銀行や企業の資金調達方法など、各種の問題がある。

    先進国にキャッチアップする時期は、もう終わった。生活必需品は国民に行き渡り、新たな大きな需要はない。高度経済成長期のような成長率は望めなくなった。

    しかし、全ての市場が伸びていないわけではない。AIなどの新しい市場もあれば、既存の市場に打って出るディスラプター企業もある。

    だから、個人が生きていく上では、市場をうまく選んでいくことが大事だ。

  • 1

  • 実は官民ともに第二次大戦中の挙国一致体制が温存されており、戦後(特に朝鮮戦争後)の高度経済成長は戦時体制だからこそなし得た、という著者の史観が書かれている。

    憲法や教育制度の場合は「米国に押し付けられた」という整理が納得感があるが、大蔵省や通産省の官僚は「うまいこと看板架け替えでGHQをやり過ごすことが出来た」と考えていることがわかった。また、その主張は説得力があった。

    昭和を理解するための良書。

  • たぶん5年くらい前に買った本をようやく読了。本が出たのは10年くらい前みたい。
    戦後日本の経済史を「戦時経済体制」をそのまま引き継いでいるとした本。戦時中に成長した企業が、戦時日本経済の中心となった。「戦後にできた企業はソニーとホンダだけ」。最後に、「日本は社会主義国家だ」とまで言っている。勉強になりました。

    キーワード:日本独特の大企業の資金調達=株式発行ではなく銀行融資(間接金融)、株式は銀行や一族等で保有する(資本と経営の分離/公的性格)、日本人の土地神話は株式投資する風習がなかったから(預金の投資対象が土地しかない)、株主に影響されない経営=経営者と従業員が一体で利益ではなく規模拡大をひたすら追求(従業員が出世して役員に)、経営者と従業員の一体による石油ショックからの他国に比しての早期回復→国際的な経済優位による際限なき発展への期待→バブルへ、バブルによる企業の銀行からの資金調達不要に、銀行業務の変質、含み損「隠蔽」による各破綻、戦時中に作られた統制色の強い旧日本銀行法は1998年まで存続し日本の基本的な経済法であり続けた

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著者プロフィール

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業。64年大蔵省入省。72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て2017年9月より早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問。専攻はファイナンス理論、日本経済論。ベストセラー多数。Twitterアカウント:@yukionoguchi10

「2023年 『「超」整理手帳 スケジュール・シート スタンダード2024』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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