世界史の中から考える (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106005077

作品紹介・あらすじ

本書は、世界的な政治学者にして歴史家である著者が、18世紀のイギリスに、19世紀のドイツに、あるいは戦前戦中の日本に読む者を誘いつつ、卓抜なアフォリズムを交えて今日の難局をサバイバルする術を授けてくれる。

感想・レビュー・書評

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  • 高坂正堯は新潮選書に4冊の著書を残しているが、そのうち最も有名なのは『 文明が衰亡するとき 』だろう。没後20年を機に復刊された本書は高坂34歳の作品で、最も早い時期に書かれたものだが、師猪木正道をして「文字通り一気に読み通した。そしてこの書物の面白さと、密度の高さに驚くとともに、私は今さらながら高坂正堯氏の国際政治学者としての実力に舌を巻いた」と言わしめたように、既に大家の風格を備えている。

    隔離された環境下で生きてきたタスマニアの原住民が滅亡した原因は、ヨーロッパ人が持ち込んだ病原菌であるという事実から、 高坂は生体の免疫システムの微妙なバランスに着目する。「人間にとって有害なバクテリアも、より有害なバクテリアを抑制するという機能を果たしている。 だから、それらが絶滅すればさらに有力なバクテリアが人間を苦しめる・・・」これは「悪」を他の「悪」との相対的な関係性において捉えるものであり、様々な「悪」を含んだ多様性こそが「悪」への免疫力を高めるという理解へと通じる。こうした発想は高坂の文明論と国際政治論の根底にも流れている。

    高坂の国際政治学は伝統的なリアリストの系譜に連なるもので、勢力均衡を重視するが、それは単なるパワー・ポリティクスではない。単一の勢力による一元的支配の忌避、つまりは多様性の尊重なのである。高坂の父正顕は高名なカント研究者だが、高坂は世界平和を唱えたカントが決して世界国家を志向しなかったのも、国家間の競争、即ち多様性が文明の原動力であると考えていたからだと言う。外部の世界に対して自国の論理の一元的な貫徹を主張しがちなアメリカの強さが、実は内部の多様性であることも見逃さない。

    だがこうした多様性への愛は「個性の尊重」や「民族自決」といった抽象的な原理や価値観、あるいはヒューマニスティックな理想主義からくるのでは必ずしもない。多様性が「悪」への免疫力を育み、何より変化や危機への文明の対応力と耐性を高めることに高坂は注目する。その意味で高坂はやはり徹底したリアリストである。一見すると統一感を欠く雑多なオムニバス形式の書物だが、高坂の文明観、国際政治観を貫く思考スタイルが凝縮された名著である。

  •  1991〜94年発表、五百旗頭真曰く「この時代の関心を歴史という知的宝庫にいちど放り込んで、熟成の香りをただよわせて蔵出ししたようなエッセイ集」。その内容は日米欧の近代史に幅広く及び、著者の博識ぶりが分かる。
     19・20世紀の2つのドイツ統一。同年生まれの吉田茂とシュトレーゼマンの比較。蘭チューリップ・英南海会社のバブル。近代英国政治。ロンドン会議や三国干渉に見るナショナリズムの危険性と制御の必要性。

  • 多分初めて読んだと思う、この著者の本を。
    その昔、テレビでよく出ていた論客の印象がありますが、果たしてその記憶が正しいのか?定かではありませぬ。
    でも愛国心に係る自意識の重要性、どの時代、どの場所でも通じる指摘かと。肝に銘じまする。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    短めのコラムを集めたような内容だったことには驚いたが非常に読みやすかった。
    各章のテーマは世界史、日本史を中止としているだけで内容はバラバラだけど、一つ一つが様々な事を考えさせる内容となっており、大変に勉強になった。
    また、日本の初期政党政治がどのように生まれ、崩壊していったのかは現代日本でも十分に参考になるのではないだろうか。政党争いを繰り返したことで政治に無関心な人は増えたと思うが、一方で政治に過度の期待を持たずに冷静な態度で参加できるようになったかな?

  • 久しぶりにまともな歴史分析の本を読んだ。世界や日本の歴史が、結局は今までの人類のどこかで起こったことのアナロジーでしかないということがよくわかった。ただし、どのイベントのアナロジーであるかということは、結局はある程度の時間が経った後でないとわからないので、すぐに歴史が役立つかとなると少々疑問な気がする。いずれにしても著者の歴史に対する知識の深さに感銘した。

  • P54.
    陸奥宗光は日清戦争の外交を総括した「蹇蹇録」において「勝者が敗者よりもかえって危険の位置に陥いる危険があるものだ」と書いた。
    陸奥宗光は遼東半島を割譲させることに、始めから反対であったようだが、開国以来最初の戦勝に酔った日本人が過大な要求をしており、内政上の考慮で、そうなった。
    →日本はその進みうる地に進み、その止まらざるをえない所で止まった

    歴史上のバブル
    1636年 オランダチューリップバブル
    1720年 イギリス南海会社泡沫騒動
    →ウォルポール蔵相
    1873年 ドイツバブル
    →背景に1870年普仏戦争勝利、1871年ドイツ統一

  • 著者:高坂正尭(1934-1996)(こうまさ まさたか)国際政治学
    シリーズ:新潮選書
    判型 :四六判変型
    ISBN :978-4-10-600507-7
    発売日:1996/11/26

     新潮社の雑誌「FORESIGHT」(現在はWEB上)に掲載されたエッセイを収録した選書。


    【目次】
    目次 [003-006]

    (一九九一年一月)「戦後処理」の難しさ 009
    (一九九一年二月)ロシアの悲劇 014
    (一九九一年三月)独裁者の弱点 019
    (一九九一年四月)同年生まれの異なった人生 024
    (一九九一年五月)二つの統一ドイツ 029
    (一九九一年六月)混沌の世を面白く見る方法 034
    (一九九一年七月)マハンと経済学 039
    (一九九一年八月)いま再び「連邦国家論」 044
    (一九九一年九月)「田沼意次批判」考 049
    (一九九一年十月)陸奥宗光の時代と現在 054 
    (一九九一年十一月)山梨勝之進と対米交渉 060
    (一九九一年十二月)真珠湾の教訓――太平洋戦争1 065
    (一九九二年一月)ハル・ノート再考――太平洋戦争2 070
    (一九九二年二月)準決勝としての第二次大戦 075
    (一九九二年三月)先達に学ぶアメリカ研究 081
    (一九九二年十月)オランダのチューリップ投機――バブルで亡んだ国はない I  086
    (一九九二年十一月)英南海会社泡沫騒動――バブルで亡んだ国はないII 095
    (一九九二年十二月)崩壊が生んだ「名宰相」――バブルで亡んだ国はないIII 100
    (一九九三年一月)米独崩壊の違い――バブルで亡んだ国はないIV 106
    (一九九三年二月)絶対にしてはならないこと――バブルで亡んだ国はないV 111
    (一九九三年三月)大政治家というシジフォスたち――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治から I 116
    (一九九三年四月)幸運にして名誉ある革命――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治からII 121
    (一九九三年五月)野蛮な過去が生んだ議会主義――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治からIII 127
    (一九九三年六月)「利害調整政治」の効用――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治からIV 132
    (一九九三年七月)批判が育んだ議会制民主主義――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治からV 137
    (一九九三年八月)使い捨てられる英雄たち――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治からVI 142
    (一九九三年九月)「敗北」がもたらした繁栄――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治からVII 147
    (一九九三年十月)「感情革命」がもたらしたもの――政治の善し悪し・近代初期イギリスの政治からVIII 152
    (一九九四年一月)好提督・米内光政の失敗――日本政治史から考える I  157
    (一九九四年二月)山本五十六の知られざる一面――日本政治史から考えるII 162
    (一九九四年三月)ナショナリズムの必要性と危険性――日本政治史から考える III 167
    (一九九四年四月)「文明開化」という必要性――日本政治史から考える IV 173
    (一九九四年五月)「巨悪」星亨の功罪――日本政治史から考える V 178
    (一九九四年六月)「原型」としての星亨――日本政治史から考える VI 183
    (一九九四年七月)初期政党政治「失敗の原因」――日本政治史から考える VII 188
    (一九九四年八月)政友会が終焉させた政党政治――日本政治史から考える VIII 193
    (一九九四年九月)何故、日本は大敗したのか――日本政治史から考える IX 198
    (一九九四年十月)英米への反発が招いた悲劇――日本政治史から考える X 203
    (一九九四年十一月)アジア主義はなぜ生まれたか――日本政治史から考えるXI 209

  • 元京都大学教授・高坂正堯氏によるエッセイ的世界観。著者曰く「私なりの旅行記」です。
    約50年前の著作であり、その内容は現在の世界の状況とは多分に異なる部分はありますが、それでもなお、考察の鋭さになるほどと思わされる箇所も多々ありました。


    「旅行記」と言うとおり、著者が実際に世界各地で実際に見聞きした、手触りのある物事から、独自の考察を展開していくことを私は期待していました。
    しかし、惜しむらくは、その期待に沿う形式であるのは第1章「タスマニアにて」のみでした。
    それ以降の章は、筆者の知識や過去の事実を元に論が展開されることが多かったように思います。

  • オフィス樋口Booksの記事と重複しています。記事のアドレスは次の通りです。
    http://books-officehiguchi.com/archives/4063698.html

    この本の終わりにある書誌情報によれば、新潮社刊の月刊誌『Foresight』誌上に、1991年1月号から1994年11月号まで連載されたものをまとめた本である。

    本のタイトルにある通りほとんどが世界史であるが、世界史の中でも、第二次世界大戦に至る経緯、バブルというキーワードから経済史について考察することができる。中には日本史もある。「『田沼意次批判』考」では、ほとんどの読者が田沼意次=賄賂というイメージを持っていると思われるが、この本を読むと田沼意次に対する見方が変わるかもしれない。

  • ちょっと古い本ですが世界情勢の見方が
    とても勉強になりました。

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著者プロフィール

1934年(昭和9年),京都市に生まれる.京都大学法学部卒業.1960年より2年間ハーバード大学留学.法学博士.京都大学教授.専攻,国際政治学,ヨーロッパ政治史.1996年(平成8年)5月,逝去.『高坂正堯著作集』(全8巻)のほか,著書に『世界地図の中で考える』『政治的思考の復権』『近代文明への反逆』『外交感覚』『現代の国際政治』『平和と危機の構造』『高坂正堯外交評論集』『世界史の中から考える』『現代史の中で考える』などがある.

「2017年 『国際政治 恐怖と希望』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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