- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106004018
作品紹介・あらすじ
ドストエフスキー最後の、未完の大作に秘められた謎をスリリングに解き明かす。大反響をよんだ『謎とき「罪と罰」』に続く第二弾。
感想・レビュー・書評
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翻訳家・ロシア文学研究家の江川卓さんによる「謎とき『罪と罰』」に続くドストエフスキー解説書。「謎とき」と題名にある通り、娯楽性に富んだ本で、たくさんの「なるほど」が詰まっています。
ざっとピックアップすると
-ドストエフスキーには「カラマーゾフ」という言葉を一種の普通名詞として登録しようとする意図があった。1934年に刊行されたウシャコフの『ロシア語解釈辞典』には、「カラマーゾフシチナ」という名詞が登録され、次のような語義が出ている。
「極度のモラル感の久如、無抑制の情熱にともなわれ、道徳的堕落と高揚した精神的衝動との間の不断の動揺を特徴とする、風俗的、民族的、ないし心理的現象である」
-アリョーシャはキリストに擬せられていると考えられる。エピローグの最終章で、アリョーシャの演説に立会った少年たちの数が「十二人ほど」となっていて、十二使徒との連想を誘う。また、「第二の小説」で「皇帝暗殺団」に関与するであろうアリョシャーについて、ユダの出現をさえ予定していたとも推測できる
-「悪臭」は「カラマーゾフの兄弟」の全編をつらぬくキーワードであるといえる。下僕の「スメルジャコフ」という姓は、母親の綽名である「いやな臭いのリザヴェータ」をもじって作られたものであり、スメルジャコフにはつねに「悪臭」のイメージがつきまとう。
-『カラマーゾフの兄弟』は3という数を構成原理として作られているかのような趣きがある。ミーチャがカチェリーナから猫ばばする金額は、ちょうど3,000ルーブルであり、フョードルがグルーシェンカに贈ろうとする金も、やはり3,000ルーブルである。それにも増して注目されるのは、全四部から成るこの長編が、各部それぞれ三編構成になっている点である。3と4の数は、それぞれに、「過去にいました神」、「現にいます神」、「未来に来らん神」を表わす数として、また東西南北、ないし四大元素を表わす数として古来神聖視され、いわば完全数とされてきた
-『カラマーゾフの兄弟』で20歳の青年として登場するアリョーシャは、「第二の小説」では13年後には33歳になっているはず。この年齢はドストエフスキーの理解していたキリストの没年と一致する
-筆者は「カラマーゾフ」という姓の字解きから「黒いキリスト」というイメージをそこに読みとり、アリョーシャ・カラマーゾフを「黒いキリスト」に擬した。去勢派において「白」が神聖な色であったことを考えると、スメルジャコフに「白いキリスト」という名を与えることも、充分に可能ではあるまいかと考える
などなど
たいへん面白い本ですが、やはり『カラマーゾフの兄弟』全巻を事前に読まないと、この本の面白さは伝わりません。まずは、『カラマーゾフの兄弟』に挑戦することをお勧めします。
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時間に追われる日々、どうやって大長編を読むのか問題だわ(お手軽に済ませようとする悪い癖)
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黒、罰、好色、父の死、セルビアの英雄、キリスト。カラマーゾフという名は多義的な象徴性を帯びている! 好評の『謎とき「罪と罰」』に続く第二弾。
https://www.shinchosha.co.jp/book/600401/ -
・カラマーゾフは黒く塗るの意味。それ以外にもペニスの意味も
・呼び方があなたからあんたに変わるのは、肉体関係を経ないと通常はない。なので終盤イワンとエカチェリーナは肉体関係を持っていた
・ロシア正教の鞭身派は性を禁じ半裸で手や鞭で叩き合いその恍惚で悟りを得ようとするが、それが乱交に発展するようになった。それに反対した者たちが去勢派となり、女性は乳首や乳房を切り取る。男性は睾丸を切除しそれを周囲に見せて「見よ、蛇の頭は挫かれたり、キリストはよみがえりたまえり」と宣言する -
江川卓による<カラマーゾフの兄弟>の読みの深さに、何度読んでも驚嘆する。
<カラマーゾフの兄弟>の底なしの凄まじさをこれでもかと連打してくれる。
衝撃の<謎とき罪と罰>から5年。
本書の与える衝撃は前作以上だ。
1. わたしがフョードル•カラマーゾフだ!
<カラマーゾフの兄弟>とは、ドミトーリー、イワン、アリョーシャ、そしてスメルジャコフ(下男)の四兄弟ではなく、カラマーゾフ的=ロシア的=汎人間的な人類そのものまでも含めた命名だ、と江川は指摘する。
つまり、<人類皆兄弟>、というより、<私もあなたもカラマーゾフ>ということを含意していたと言うのだ。
作中、敬虔なアリョーシャも自身がカラマーゾフであることに悩むが、悩むべきはアリョーシャだけではなく、読者である<私>だったのだ。
若い頃読んだ時は唾棄し、嫌悪した筈の、四兄弟の好色な父親フョードルに対しても、年取って読み直すと、愛おしさと哀れみを感じてしまって、たじろいだ。
つい、<私がフョードルだ!>と告白してしまいそうになったのだ。
2. カラマーゾフの登場人物
ドストエフスキーによる命名の奥深さには驚かされる。
カラマーゾフという名前に潜む意味は多義的で重層的だ。
カーラは<黒><男性器><罪>。
マーゾフは<塗る>。
つまり、カラマーゾフとは、黒塗家のことだ。
その伝でいけば、登場人物を日本名にすると、
父親のフョードル•カラマーゾフは、黒塗兵吾。
長男のドミートリー(ミーチャ)•カラマーゾフは
黒塗富雄(道夫)。
次男のイワン•カラマーゾフは、黒塗巌(いわお)。
三男のアレクセイ(アリョーシャ)•カラマーゾフ
は、黒塗有人(ありと)。
下男である私生児のスメルジャコフは、
黒塗仁尾威(におい)。
こうして、勝手に日本名を考えていると、<カラマーゾフの兄弟>の<死霊>(埴谷雄高)への影響を思わずにはいられない。
更に、ストーンズの歌う<黒く塗れ>Paint it blackは、カラマーゾフ•ソングだったのだと、納得出来る。
3. 二人のキリスト
江川によれば、多くの登場人物の中で、二人の人物が対立する人物として浮かび上がってくると言う。
それが二人のキリストだ。
普通、キリストは一人だと思う。
そこに対立する二人のキリストを配したことがドストエフスキーの天才であり、それを見抜いたのが江川卓の慧眼だ。
対立する二人のキリストとは、<黒いキリスト>と、<白いキリスト>だ。
<黒いキリスト>はアリョーシャ•カラマーゾフであり、<白いキリスト>はスメルジャコフだ。
<白いキリスト>は<黒いキリスト>を否定する。
逆もまた然り。
お互いが真のキリストで相手はアンチ•キリスト(悪魔)だと見做している。
更に、スメルジャコフには、<白いキリスト>だけではなく、<臆病なユダ>が込められていると、江川は指摘する。
キリストがユダに転換するという構図の発見は驚きだ。
ここに、キリスト(アリョーシャ) とアンチ•キリスト(イワン)の対立の構図が組み込まれて、構造は更に複雑化していく。
4. 江川卓、万歳!
本書は、ドストエフスキーが、キリスト、聖書、ロシア民話の思想とイメージを駆使して、<神の存在の謎>に挑んだことを明らかにしていく。
ドストエフスキーを日本人が読み解くには、江川のようなロシア語の達人、ロシア文化の専門家による深読みが必須なのだ。
我々は江川の業績のおかげで、ドストエフスキーの深さを知ることが出来る。
それを寿ぎたい。
<カラマーゾフの兄弟>の最後に倣えば、
<江川卓、万歳!>だ。 -
読んだあとに、細かい点からの研究が興味深いものだった。
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穿ち過ぎている。
割り切って考えれば面白いのかもしれない。 -
p.2022/4/2
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この本が出たときに一度読んでいたのですが、この度考えるところあって再読。やっぱり面白いです。
筆者の江川さんがあとがきなどで述べておられますが。世の中のインテリと言われる方々は、イワンの「大審問官」がお好きなようです。
私には大審問官はさほど面白くはないというか。一アネクドートにすぎない気がします。
私は江川さんと同じでアリョーシャ派なんです。味方が増えたようでうれしく思いました。
メモ;
フョードル
(ロシア正教?)
↓
ドミトリー
(デメテル。ギリシャ正教?)
↓
イワン(ヨハネ)
(大審問官→カトリック批判
コップを投げる→ルター派プロテスタント?
フリーメイソン?
↓
パヴェル・スメルジャコフ
(去勢派・白いキリスト)
↓
↓マリヤ・コンドラチェブナが死を伝えにくる
↓
アレクセイ
(神の人アレクセイ)←ゾシマ長老(東西分裂以前)
(黒を塗られた人) ↓
マルケル
(聖フランチェスコ) -
謎解き「罪と罰」に続き、こちらもおもしろかった。名前の意味を始め、教えてもらわないとわからないネタが満載。
あとこれは直接本書と関係ないけど、大審問官って沈黙でいう「イノウエ」なんだな。