オルガ (新潮クレスト・ブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901653

作品紹介・あらすじ

北の果てに消えた恋人へ、あなたは誰のためにそこに行くのか。女は手が届く確かな幸せを願い、男は国家の繁栄を求めて旅に出た。貧富の差や数々の苦難を乗り越え、激動の20世紀ドイツを生きた女性オルガ。彼女が言えなかった秘密、そして人生の最期にとった途方もない選択の意味が、最果ての町に眠る手紙で解き明かされる――。ひとりの女性の毅然とした生き方を描いて話題となった最新長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 愛のそばには必ず喪失があるのだろうか、と考えずにはいられなかった。そして人を存分に愛するのに、なんて人生は短いのだろうと、我が身を振り返ってしまった。人生の秋を感じさせる物語。『朗読者』も大好きだが、この作品も大好きだ。

    帝国主義のもと男たちが振りまわされる大義名分や歴史的偉業。それらは人間としてみな平等に享受すべきささやかな幸福と真反対の方向にあるのを、一人の女性オルガは見抜いている。彼女は両親、恋人、声を失う。でもとても豊かな人。
    私の祖母くらいの女の人に、きっと「オルガ」は多かっただろう。

  • 個人の葛藤と世代的トラウマが折り重なる。

    苦痛と困難の時代。

    世界大戦、戦間期、再びの大戦、戦後。

    近代から現代へ急速な変貌、それはオルガにとっても、彼女の世代にとっても苦痛と喪失を伴うものだった。

    この物語に言うべき言葉はあまり見つからない。

    喪失を乗り越えるために必死に生き、届くはずのない手紙を送るオルガ。

    歴史は語られるものであって、読み解かれるものになる。

    翻訳あとがき(松永美穂氏)の引用『「シュリンクは不愉快な問いを投げかけることを忘れない」』

    まさしく、葛藤とは直面化したくないものだ。
    しかし、その葛藤から洞察を得たいと思うのも健全な人間の文化だとも思う。

    物語の構成はゲーテの『若きウェルテルの悩み』のように、語り部が変化する。

    そして、オルガの人生の全容が明らかになる。

    葛藤への苦しい直面化のために、こうした物語が作られ、それを読む事ができることに感謝。

  • 遠く離れて時折にしか会えない人を、どうやって思い続け心を通い合わせることが出来るのだろう。そして会うことも叶わなくなった亡き人を。
    静かで強い。既読がつかなかったり返信がないだけで一喜一憂するような現代からは遠い強さ。多分、相手や相手との関係というより、自分自身の強さなのだろうな。

    オルガにも不安や悲しみや眠れない夜はたくさんあったはずで、そしてそれはその時代の女性たちには珍しいことではなかったはず、とも思う。
    我が身を問われる思い。

  • オルガというポーランド系ドイツ人女性の人生を、第一部では主人公にして物語られ、次に彼女と親しくなった「ぼく」がその後のオルガとのかかわりを描き、第三部で、オルガ自身の書簡によって彼女の心の声を聴くことができます。戻ってはこない恋人にあてた手紙を、オルガの本当の人生を垣間見るよう気持ちで、主人公と共に次々と封を切って読みました。貧しい農村の生まれでありながら、誰にも頼らず一人で生き、第二次世界大戦を得ても自分の信念を曲げずに強く生きた女性。なんて強い人なんでしょう。最後の書簡ですべての謎が解ける仕組みに引き込まれて、飽きることなく読めました。心に残る作品です。

  • 語り手の違う三章構成。第3章はずっと手紙、その中に衝撃の事実、あと本音が詰め込まれてるから注意!そして歴史は過去がどうだったかということでなく、自分たちが過去に与える形が歴史、なるほど。

  • 愛し合っても分かり合えない、分かり合えないのに愛し合っているという葛藤と戸惑い。
    過去、戦争、歴史は「ハイここまで」と区切れるものではなく、地続きであることを知ることは新しい今の発見であることを確信できる物語だった。

  • とても読みやすかった。程よいところでパラグラフが区切られ、描写が端的。心地よいリズムで読み進められる。これがシュリンクか。内容は、20世紀前半の怒涛のドイツ史に主人公女性の人生が翻弄される、というもの。ある意味でドイツ版朝ドラだ。いや、違うんだけど。でも、私にとってこの主人公女性は、朝ドラヒロインくらいの重みしか感じられなかった。作りものっぽさが拭えないというか。でも、裏テーマであるドイツ論については、考えさせられることが多かった。ドイツ自体が持つ悲劇性。ある意味で主人公はドイツだったのかも。

  • 19世期から20世紀の激動のドイツを生きたひとりの女性オルガ。
    身分や性別、戦争によって翻弄されながらも常に姿勢を正して毅然と生きる彼女の半生が淡々と語られる第一部。
    中年になった彼女が裁縫師として雇われた牧師一家の末息子「ぼく」によって、晩年のオルガについて語られる第二部。
    そして第三部は書簡小説。1913年から1971年までにオルガが書き残した手紙によって全てが明かされて行く。

    私のうすっぺらな言語能力ではこの物語の素晴らしさは到底伝えきれないから、ひとつだけ。
    気丈で、賢く、自分を貫いて生きた強いオルガが望んでいた幸せのささやかさを知って胸が苦しかった。

    堪えきれず嗚咽した箇所を、外出先で読んでいる時でなくて幸いでした。

  • 楽しみにしていた本作。

    他作にも通ずる、一人で生きざるを得なかった女性が身につけた強さ、裏にある葛藤が描かれていた。

    私のペラペラな感想なんてどうでもよいので、人類全員に読んでもらいたいと読後の余韻の中で思う。

    訳も良い。

  • 両親の死で祖母に愛なく育てられたオルガと金持ちの農場主の息子ヘルベルト.二人の友情が愛に育つ純愛と大きな物への果てしない欲望,探検,侵略,戦争.困難な時代を逞しく愛しながら生き抜いたオルガの記録.オルガの時代や流行にとらわれない真実を見つめて揺るがない生き方は素晴らしい.オルガから届くことのなかった手紙で構成された第3部によって露わになる真実に驚かされ,二人の間に流れていた珠玉の情愛に感動した.

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著者プロフィール

ベルンハルト・シュリンク(ドイツ:ベルリン・フンボルト大学教授)

「2019年 『現代ドイツ基本権〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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